「米中対立下の世界での日韓関係の意味を考える」をメインテーマとした「第9回日韓未来対話」は10月2日、東京都内の国際文化会館で開幕しました。
政府間外交の一歩、半歩先で解決に向けた環境を整えるのが民間対話の使命
日本側から主催者挨拶に登壇した工藤泰志(言論NPO代表)はまず、日韓両国で新しい政治リーダーの誕生を間近に控える中で開催される今回の「日韓未来対話」は、「新しい日韓関係のきっかけになる。むしろそうしなければならない」と強い意気込みを語りました。
その上で工藤は、9月28日に公表した「第9回日韓共同世論調査」の結果では、依然として相手国への感情は悪いものの、改善に向けて注目すべき点があると指摘。米中対立下の国際的環境の変化を受けて、共に米国との同盟国であり、民主主義という価値観を共有する日韓両国が、対中認識などで足並みを揃えようとしていること。また、若い世代を中心に生活や文化でつながる新たな潮流が見られることなどを紹介しつつ、「協力の土台は着々と広がっている。今回の世論調査の結果は、私たちに未来に向けて動くためにも、今ある困難を乗り越える覚悟を迫っている」と語りました。
そして工藤は、「米中対立下の世界の中での日韓関係の意味を考える」を全体テーマに設定したのはまさにそのためだとしつつ、「政府間外交の一歩、半歩先に出てその解決に向けての環境を整え、道筋を見つけること」という民間対話の使命を強調し、居並ぶ両国のパネリストに「覚悟」を求めました。
従来のような未来志向の発想ではなく、大局的で新しい発想から協力を模索すべき
韓国側主催者挨拶として孫洌氏(東アジア研究院院長)は、対立点が拡大を続ける日韓関係の状況を国交正常化以降初めての事態だとしつつ、コロナ禍の中、貿易やワクチンで両国が協力していれば大きな成果が得られていたはずだとし、対立の不利益は国民に直接的な打撃となると指摘。やはり、日韓関係の改善は不可欠であると語りました。
また、深刻化する米中対立とその行方は、日韓両国の未来にとっての不確実性を高めているとし、「両国には対立している余裕などない」と断じました。
さらに孫洌氏は、今回の世論調査結果では、韓国国民が対中国や安全保障面で日本との協力を求めるサインを送っていることが如実に表れていると分析。ポストコロナと米中対立下の新しい日韓関係においては、従来のような未来志向の発想では不十分であり、より大局的で、より新しい発想が必要だと指摘。そうした見地からの協力を模索すべきと語りました。
「第9回日韓未来対話」での議論に大きな期待
続く祝辞では、まず日本政府を代表して實生泰介氏(外務省アジア大洋州局参事官)が登壇。その中で、厳しい日韓関係の現状に懸念を示すとともに、とりわけ日本企業に賠償を命じた元徴用工訴訟を巡り、韓国地裁が同社の資産売却を原告に命じ、現金化に向けた手続きが一歩進んだことを「放置できない問題」と指摘。
それでも両国には抱える共通課題も多く、それは政府間でも認識を共有しているとも語り、先月の国連総会の際に行われた外相会談でも幅広い分野で協力できるようにすべく、外交当局間の協議や意思疎通を加速していくことで一致したことはその表れであるとしました。その上で、両国のオピニオンリーダーが集い、そうした協力に向けたアイデアを出し合う今回の「日韓未来対話」の議論に期待を寄せました。
韓国政府を代表して祝辞を述べた崔鍾建氏(韓国外交部第一次官)は、地理的・歴史的・社会的に最も近く密接な関係にある日韓両国が、未来志向の関係を発展させていくためには、両国民間の相互理解と信頼が支えとなるとしつつ、コロナ禍の中でもオンラインでの交流や、相互に相手国のポップカルチャーを楽しむことによって、国民間はつながっていた、とこの一年間を振り返りました。
その反面、政府間関係は依然として冷え込んだままだったとし、日本側の輸出規制措置を批判するとともに、慰安婦問題・元徴用工問題においては被害者中心の原則からの解決に向けた方策を探るべきと語りました。
最後に崔鍾建氏は、1998年の日韓共同宣言などに言及しつつ、両国間、さらには世界の課題解決に向けて同じ目標を共有し、協力することが未来志向の関係につながるとし、今日の対話でもそうした観点からの議論が展開されることに期待を寄せました。