言論NPOは10月2日(土)、「第9回日韓未来対話」を開催しました。セッション1につづいて、「中国に日韓はどう対応するべきか」と題して、セッション2の議論が行われました。
まず、日本側司会の国際交流基金顧問で駐韓大使も務めた小倉和夫氏が三つの論点を掲げました。冒頭、近年の「米中対立」と言われる現状に触れて「本当に対立しているのか。半分は国内向けの演出ではないか」との一つの見方を示し、日韓両国パネリストの事実認識を確認する必要があると述べました。さらに「朝鮮半島問題を抜きに対中関係を語れない」として北朝鮮問題にどう向き合うかと問題提起しました。続けて、日韓両国の揺れ動く世論を踏まえて「中国に対する国民感情をどう考えるか」と述べ、議論はスタートしました。
日韓両国は相互協力に努めて関係性を整理せよ
日本側の問題提起者として日本総合研究所国際戦略研究所理事長の田中均氏から日韓両国の共通項について、最初に発言がありました。今後30~40年を見据えると「米中対立は基本的事項になる」との認識を示した上で、「日韓両国が内輪揉めするよりも、相互協力に努めて関係性を整理することが重要」との認識が示されました。第一に日韓両国が中国に向き合うにあたって共通項があること。第二に、「米中対立」が将来的にどうなるのかアセスメントをしたい。第三に、日韓が具体的にどのような協力をすべきか──という三点について問題整理をしました。
田中氏は第一の論点について「日韓両国の立ち位置はほぼアイデンティカルだと思う」との見解を示しました。具体的には、アジア・太平洋地域における中国が覇権を確立することを防ぎたいということ。さらに、日韓それぞれが中国と極めて深い相互依存関係にあることから、将来的な繁栄のためには関係を維持したいということ。この二点を前提に考察した場合、日韓は中国との歴史的背景を異にするものの、日米安全保障条約や韓米相互安全保障条約を重視し、米中の軍事的対立を緩和する方向を求める点で一致していると指摘しました。その上で、米中関係は今後先鋭化してゆくとの見通しを語りました。米国の相対的な力が衰える一方で、習近平国家主席が推し進める「共同富裕」という新たな社会主義体制、資本主義による中国化が近隣地域においても一層進展するという見方です。これに対して米国が英国、オーストラリアと新しい安全保障の枠組み「AUKUS」を創設し、中国との「対峙」を明々白々にしたことは得策ではないとの考えを強調しました。同時に、中国経済における「規制」と「拡大」という、相反する方針の行方に注目する必要があるとした上で、今後30年間に中国による台湾の軍事支配化の可能性もあると指摘しました。こうした環境下において、日韓は朝鮮半島の非核化に向けて、中国に協力を求めるなどすれば、良好な米中関係に結びつくとの認識を強調しました。
「中国の脅威」......日韓で受けとめ方に違いあり
韓国側の問題提起者として発言した東アジア研究院国家安全保障研究センター所長を務める全在晟(チョン・チェソン)ソウル大学政治外交学部教授は、今回の調査において両国民の約七割が「軍事的脅威を感じる国がある」と回答した点を中心に問題提起をしました。全氏は「日韓間の軍事的脅威がすぐに起きるわけではない」と指摘した上で、中国を軍事的脅威と見る回答が増加していることについて、現実的な脅威なのか、単なる認識の上なのか区別する必要があると強調しました。日本の場合、中国との間に尖閣諸島や台湾、東シナ海ガス田問題などを抱えており、韓国との間で"脅威"の内容が同一なのか、改めて検討する必要があるとの考えを示しました。また、「北朝鮮を脅威と見るか」については低下傾向にあったものの、今夏以降、再び北朝鮮によるミサイル発射などが続いており、「世論の認識が変化する可能性がある」と指摘しました。韓国内では中国への脅威が前年の調査に比べて17ポイント増加していることにも注目に値するとの認識を示しました。米中関係については、韓日両世論とも「原因は中国にある」と見ているものの、「米国に責任がある」とする見方は韓国世論に多い点にも着目しました。また、東アジアにおける韓国の将来的な方向に関して、韓国世論の2割が「日米の側に立つ」と考えているのに対し、日本世論では「韓国は日米から離反し、中国側に立つ」と疑念を抱く層が若干いると指摘しました。さらに北朝鮮が核廃絶をしない場合において、日韓の核武装の是非に関しては、両国に明確な違いがあると指摘しました。具体的には、米国の核の傘に頼る日本に対し、韓国側は独自の核武装が必要とする世論が強い点に注目する必要があると述べました。
これについて司会者の小倉氏は、「『中国の脅威』と言うけれども、日韓で受けとめ方に違いがある論点は重要」と問題提起を歓迎しました。
続いて、小泉純一郎内閣時代の外務大臣で、現在は武蔵野大学国際総合研究所フェローを務める川口順子氏は「日韓両国は非常に似た国である。守るべき共通の価値・利益を持っている。だからこそ米国と同盟を結んでいる」と指摘した上で、「本来ならばもっと協力の余地がある」と述べ、両国関係に改善の余地があるとの認識を示しました。外交・軍事に経済を加味した「安全保障の総合化」の観点から今後、経済先進国である両国が求められる役割は一層増すとの持論を展開しました。さらに歴史認識問題に拘泥することなく、新しい国際関係を念頭に、次代の日韓関係を構築しなければならないと主張しました。
韓国前国防部政策室長の柳済昇(リュウ・ジェスン)陸軍中将は、韓日の現在と将来に関して言及がありました。今年が中朝友好協力及び相互援助条約締結から60周年に当たることを踏まえて、中国と北朝鮮の軍事関係は密接な状況にあると指摘しました。その上で「核を保有して自信に満ちた北朝鮮が、中国の立場を一つの安全弁にして軍事的冒険をしようとするスタンスを維持している」点に注視する必要があると強調しました。一方で、韓日の軍事協力は著しく停滞しているとし、実務者レベルも機能していないと指摘しました。こうした状況を改善し、互恵的な関係に戻すためにも「戦闘や作戦分野において肩を並べるような関係に引き上げるための勇気が必要だ」と訴えました。その方策として「政治リーダーシップは未来志向を模索する成熟さを示す必要があり、歴史認識と軍事協力は切り離す必要がある」などと強調しました。さらに北朝鮮の核脅威は実存するものであり、日米韓豪の非核機関を設置することを提案しました。
この提案を受けて司会の小倉氏は「日韓安保協力、日韓防衛協力、日韓軍事協力──どの日本語を使うか、なかなか難しい問題が存在している」と指摘しつつ、北朝鮮問題だけでなく、対中関係やアジア太平洋全体を念頭に置くのかなど政策の理念が問われると問題提起しました。
「日本は半島統一問題にもっと関心を」
慶應義塾大学名誉教授の小此木政夫氏は「米中対立そのものはこれから長期にわたって展開される地政学的な体制競争」と定義しながらも、朝鮮半島を巡る米中対立は「体制競争ではない」と指摘しました。さらに、体制と体制の戦略的競争と、朝鮮半島を巡る米中関係は分けて考察すべきだと述べました。続けて「アントニー・ブリンケン米国務長官は米中の基本的利害が対峙する問題について、朝鮮半島と、新疆ウイグルや香港、台湾の扱いは違うと認識している。むしろアフガニスタンやイラン、気象変動と同じく、米中はそこで錯綜している。つまり一致する点もあれば、しない点もある。中国も同盟国・北朝鮮と、パートナーである韓国を、同時に抱えている。南北を同一の視野に収めながら均衡を維持して米国と対峙している」と現状を分析した上で、中国は①半島の平和と安定、②非核化、③対話と協議による解決という北朝鮮三原則を常に示していると述べました。さらに日本が朝鮮半島の統一問題に対して「無関心」であることや、日韓両国の対北朝鮮政策の乖離が日韓関係に大きな影を落としているのではないか、と強く指摘しました。
小倉氏は「米中関係は経済関係だけが注目されるが、米国のアジアに対する安全保障のコミットメントを強化する側面もある」と述べ、本質の見極めが重要であると述べました。
東アジア研究院理事長の河英善(ハ・ヨンソン)ソウル大学名誉教授は、日韓両国が米中の戦略的競争に対してどう対応すべきか、という論点について言及しました。第一に、安全保障平和協力レベルでの協力。第二に、経済技術競争における協力。第三に、価値規範と生態系の共生における協力──これらの点において日韓がいかに協力してゆくかが重要であると主張しました。具体的には、対北朝鮮問題を巡る日米韓と中朝の2トラックによる外交交渉の再検証が必要であると述べました。台湾問題については、米中の衝突を避けるために、日韓が緊密に連携して融和に向けて補完するべきだとの認識を示しました。経済技術やネットワークビジネスについては「相互依存性が避けられないため、激しい対立に走ることはない。日米韓が緊密に連携することによって、中国のネットワークとどのような接点を見出せるのか、もっと検討すべきである」と持論を展開しました。また、文化や生態系などへの協力が未来志向によって「アジア人」「地球人」として複層的な思考で取り組むことが重要であると主張しました。
関係改善を急ぎ、地域の相互依存関係の安定につなげよ
青山学院大学国際政治経済学部教授の古城佳子氏は経済的な側面から発言しました。アジア太平洋地域については「長く経済的相互依存関係は安定要因となっていたが、米中間の対立が深まることによって、逆に不安定要因になっている。中国が相互依存関係を『強制力』に変えようとすることによって、リスク化している。こうした考え方が今回の世論調査に反映しているのではないか」と指摘しました。また、日韓経済協力に関して重要となる国について「韓国側は『日本が重要』と考えているのに対し、日本側の調査は『現状をどうとらえていいのか分からない』ということを示している」と分析しました。さらに「自国の将来にとって必要かどうか」との設問についても言及し、「韓国側が日本を必要としている意見が10ポイント以上増加しているのに対して、日本側は逆に減っている。韓国はより日本に期待している。これは中国への依存度が高いことへの反映ではないか」との見解を示しました。さらに日本人の半数、韓国人の6割が「政府間関係の改善」を求めている点については「相互依存関係を、強制力に変えるような政策がとられると、民間は致し方なくなる。地域的な枠組みとしてRCEP(包括的経済連携協定)が結ばれたけれども、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)がこの地域の相互依存関係を安定させるためにも、韓国も(加盟を)考えてもらえたらいいのではないか。Quad(日米豪印戦略対話)で持続可能な開発を推進することが決まった。質の高いインフラ投資をうたっている点でも日韓が何か協力できる可能性があるのではないか」と述べました。
ジャーナリズム関係者として韓国『中央日報』巡回特派員の金玄基(キム・ヒョンギ)氏は個人的に注目している点について発言しました。「日米韓の軍事協力を強めるべきか」という設問について、韓国側は「協力を強化すべきだ」と答えた割合が6割を超えたのに対し、日本側では35%に過ぎなかったことに着目。金氏は「北朝鮮という現実的脅威の要因を意識する韓国側では、より高く数値が出るのは当然だ。私は、日本社会に韓国への不信が根付いていることが関係していると考える。韓国が中国側に立つであろうという考え方も影響しているのではないか。ただ、一般の韓国国民の態度は韓国政府と違って、中国に対しては、非友好的に考えている。今後の日韓間を考える上で重要な変数になる」という分析を披露しました。新しい自民党総裁に就任した岸田文雄元外務大臣が次の総理大臣に指名される見通しとなったことについては「岸田氏が敵基地攻撃能力を踏まえる必要性や台湾・香港・新疆ウイグルについても言及していたことが印象的だった。日韓間においても歴史認識問題だけでなく、経済分野から人口問題に至るまで日本がさまざまな観点において後退したことが、韓日関係に影響を与えているのではないか」と指摘しました。
この発言を受けて、司会の小倉氏は「国の本当の力がどこにあるのか、難しい問題だ。軍事力や経済力であると思いがちだが、実は民主社会であることが一番の国力ではないか」と話を引きとりました。