10月25日に開幕した「第17回東京-北京フォーラム」。同日、最後に行われた国際協調分科会では、「コロナ後の世界と国際協調の修復で日中はどう貢献するか」をテーマに議論が行われ、気候変動問題やアジア圏における経済連携など、地球規模的な課題に対して、日中間で協力していく必要性や、国際的なルールや共通の基盤が必要との認識で一致しました。
司会は、日本側は神子田章博(NHK解説主幹)、中国側は高洪(中華日本学会会長、第13回全国政治協商会議委員)が務めました。
まず、分科会の前半では、国際的な課題の一つである気候変動問題について議論が行われました。
日中両国は気候変動問題での目標や政策の方向性に違いはないが、関心の高さや解決すべき課題が異なる
元国家気候変動対応戦略研究・国際協力センター主任の李俊峰氏は、気候変動問題において日中の協力の余地が大きいことを指摘。日中両国の協力の下、世界最大級の太陽光発電施設をアブダビに建設した実績を挙げながら、日中双方の優位性を活かすことの重要性について語りました。とりわけ日本の技術力と中国の資金力を活用し、様々な意見の食い違いをわきに置いて共通の目標に向かうことが大切だ、との見方を示しました。
これに対して国際金融情報センター理事長の玉木林太郎氏は、日中間で基本的な目標や政策の方向性に違いはないとしつつも、両国内での気候変動問題に対する関心の高さや解決すべき課題が異なることを指摘。日本は過去に公害問題を乗り越えた歴史があるため、近年になって新たに現れた気候変動問題がまだ国民一般の間で大きな関心事となっておらず、水質汚染や大気汚染と併せて気候変動問題に取り組んでいる中国とは状況が異なると語りました。
続いて清華大学気候変動・持続可能発展研究院院長補佐の楊秀氏は、気候変動問題に対する中国政府の取り組みを紹介しつつ、日中の目指す方向性が大枠で同じであると、玉木氏の見方に同意しました。さらに楊氏は、気候変動問題は人類共通の課題であるために食い違いよりも共通認識の方が大きいと指摘し、これを活かした協力の重要性を強調。国際協力の具体案として、多国間の技術協力プラットフォームの創設やモデル事業の展開などを提案しました。
最後に株式会社大和総研理事長の中曽宏氏は、炭素価格が高くなれば設備投資が促され、ファイナンスの必要性が高まると説明しつつ、グリーンファイナンスの重要性を強調しました。産業構造が多様なアジア太平洋地域では低炭素化に時間がかかる分野も存在するため、カーボンニュートラルへの移行期に対応したファイナンスも必要となることを指摘。日本は豊富な家計資産や環境技術を活用しながら、こうした資金ニーズを満たすための努力や協力をしていくべきであると語りました。
以上の問題提起を踏まえ、パネリストによるディスカッションが行われました。
気候変動問題は、地球環境と人間の経済成長システムの衝突の結果であり、今後は生体文明や循環経済、消費理念の向上を目指すべき
中国公共外交協会副会長の胡正躍氏は、日中両国は自国のみならずアジア全体のことを考えながら、どのように協力していくかが重要であり、そのためには取り組むべき課題は山積していると指摘しました。
これに対し、地球環境ファシリティ前CEOの石井菜穂子氏は、経済成長システムの変革が日中のみならず世界全体で共通のテーマであると語りました。地球環境システムと人間の経済成長システムが衝突しているために気候変動問題が起きていると指摘した上で、生態文明や循環経済を目指すべきであると強調。経済成長システムを地球のキャパシティに収まるものとするべく、自然資本の値付けの仕方や新しいルール作り、ペナルティの設定などが重要であるとも語りました。
これを受けて中国世界貿易機関研究会副会長の霍建国氏は、技術投資による汚染の削減に加え、消費理念の向上も必要であると述べました。消費面においても低炭素を掲げることで、社会全体で気候変動問題に取り組んでいく必要性を強調しました。
中国社会科学院近代史研究所研究員の汪婉氏は、日本はCO2を大量排出する段階を過ぎて技術革新の段階に入っており、新興国ではCO2の削減に対する圧力が異なると語り、気候変動問題のもたらす影響が国によって異なる点を指摘しました。一方で、サプライチェーンの安定や経済の安定的発展、中国の人々の生活レベルを維持することとカーボンニュートラルは相反しないとも語り、二者択一ではない方法を模索することの必要性を示しました。
続いて行われた国際協調分科会の後半では、前半で示された課題を念頭に置き、世界の経済発展のために日中がどのように協力すればよいのかについて議論が行われました。
世界経済の発展のために、日中間でどのような協力が可能か
まず、石井菜穂子氏は、今後の課題はグローバルな共通の資産である気候システム、生物多様性を守っていくためには、国際的なルールとペナルティの策定が必要であると指摘しました。その方策として、自然資本に値付けを行い、輸出入を始めとする経済取引に組み込んでいく必要があるとしました。
神子田章博氏は、かつて世界的な課題に対しては、G7が主導して解決に取り組んできたが、現在では新たな国際協調の枠組みが必要であると指摘。一方で、米国を中心に中国をサプライチェーンから排除しようとする動きがあることや、中国国内での統制強化に懸念を表明。中国と米国・日本といった国々の間に国際ルールに関する共通の基盤を築くことが肝要だと語りました。
胡氏は、コロナ禍において国際関係が希薄になる中でも、日中を中心にアジア地域で連携する必要があると述べました。国際的な連携の維持のみならず、ASEANにおける経済活動の再開やワクチン接種のサポート、日中韓3カ国のFTAの締結、各国におけるRCEPの国内手続きの推進などの点で日中が協力することの重要性を強調しました。またSDGsを達成するために、アジアだけでなく世界にも目を向ける必要があると語りました。
続けて霍氏は、日中間の貿易や投資が大きなポテンシャルを秘めており、現在は好機に恵まれた状況であると指摘。コロナ禍で港湾の混乱や商品の高騰に見舞われている欧米に比べて日中が受けた影響は小さく、日本のハイテク分野における優位性を活かしながら協力を進めることで、より盤石なサプライチェーンを構築できると述べました。また日中の連携においては、ルールのドッキングや制度面の調和が重要であるとも語りました。
汪氏もこれに賛同する形で、日本の対中投資、対中輸出、中国での売上など、どれをとっても関係性は深化していると述べました。グローバル化がもはや不可逆なものとなっていることから、国際的な経済協力が重要であると指摘しました。これを受け、玉木氏は政策協調できた例としてG7を挙げたうえで、感染症やテクノロジーの進歩といったマネジメントの難しい問題を抱えている現代は教科書のない課題に直面していると指摘。各国が課題解決に向けたアイデアを共有することの重要性を強調しました。
その後も活発な議論が行われ、分科会は終了しました。
【国際協調分科会】
テーマ:「コロナ後の世界と国際協調の修復で日中はどう貢献するか」
【日本側司会】
神子田 章博(NHK解説主幹)
【パネリスト】
石井 菜穂子(元地球環境ファシリティ事務局長、東京大学未来ビジョン研究センター教授、グローバル・コモンズ・センター・ダイレクター)
玉木 林太郎(国際金融情報センター理事長、元経済協力開発機構(OECD)事務次長)
中曽 宏(大和総研理事長、前日本銀行副総裁)
【中国側司会】
高 洪(中華日本学会会長、第13回全国政治協商会議委員)
【パネリスト】
霍 建国(中国世界貿易機関(WTO)研究会副会長)
李 俊峰(国立気候変動戦略研究および国際協力センター元所長)
汪 婉(中国社会科学アカデミー近代史研究所研究員、北京大学国際戦略研究所所長)
胡正曜(中国公共外交協会副会長、中国宋慶齢基金会副主席)
楊秀(清華大学気候変動・持続可能発展研究院院長補佐、研究部主任)