10月25日に開幕した「第17回東京-北京フォーラム」の全てのプログラムの締めくくりとなる全体会議が26日午後、開催されました。
まず中国国家改革発展委員会の蘇偉副秘書長が「中国経済の現状」について講演しました。言論NPO代表の工藤泰志が、「中国の経済政策がわかりにくい」と中国側に説明を求めたため、実現した講演です。
中国の安定的経済発展に自信
蘇偉氏は、習近平主席の指導の下、経済の発展向上に取り組み、科学的なマクロ政策を実施し、中国のGDPは昨年比で伸びており、経済成長に自信を見せました。さらに、1~9月期の中国の新規雇用者は1045万人となり、失業者も減少するなど、経済のファンダメンタルは有効的、と数々の数字を挙げながら中国経済の健全さをアピール。また、海外からの渡航者の制限などでコロナ禍を局地的に抑えこみ、一進一退ながらも、治療薬の開発やワクチンの追加接種など対策をしっかりとっている、と語る蘇偉氏でした。
農業の供給面でも安定的に成長、また、ハイテク関連も20%以上の成長で、飲食店や個人の消費総額も増加しており、中でもネット小売りは市場をけん引し、スピーディーな成長を実現している、と自信を見せていました。その一方で、各国の相互信頼に関して消極的な言動が見られるようになり、経済貿易面での妨害要素となっている、との見方を示し、中日両国が互いに信頼醸成に向けて努力し、経済界が理性的に働きかけるように協力していきたい、と抱負を語りました。
他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる
続いて駐中国の垂秀夫大使は、中国大使として赴任した1年を振り返り、歩みは順調ではなかったと強調。コロナ禍により、人の往来が無くなったことで、中国との間で意思疎通ができず、両国民の感情の悪化を増長させ、負のスパイラルとなったと語りました。一方で、岸田首相と習近平主席との電話会談で、今後も協力していくことで一致し、来年の国交正常化50年に向けて、首脳間で協力できたのは良いスタートだった、と述べました。垂氏は「しかし」と言葉を続けます。だからといって日中の懸念が一気に解決したのではなく、本質的には変化してない。重要なのは、中国としっかり対話を重ねて協力していくことあり、建設的な関係を築くには一体、何をすればいいのか。他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられるという言葉がある通り、我々も未来志向であるべきだが、過去からも学ぶことはできる、と語る垂大使は過去を振り返ります。さらに、日中の国交正常化は田中角栄元首相だからこそできた。国内で反対の声がある中で、共同声明にまで臨んだのは見事なリーダーシップで戦略的発想だった、と語りました。その上で、今の日中関係は、協力できる分野で利益を拡大していく時代であり、互いに引っ越し出来ない隣国である以上、率直に対話を重ねていく必要性を強調しました。
加えて、日本と中国の国交正常化の共同声明は、中国国内のプレッシャーを受け、中国のトップは大変だっただろうとした上で、互いの立場を認め合い、妥協点を見つけていく。"他人の利益も考えなければならない"という当時の周恩来首相の精神と信念があり到達することができたと振り返り、歴史でもわかるように、時間がかかっても相互理解を推進していくべきだと指摘する垂氏です。
さらに言論NPOが10月20日公表した17回目の世論調査や内閣府の世論調査結果を挙げながら、中国に好感度を持つ日本人は、少ない割合でも18~22歳の若者の35%は、中国に親しみを持っていると述べ、「日本と中国の未来を担うのは若者であり、青少年交流が重要になる。相互に理解し、国民感情の数字に一喜一憂せず、若者同士で協力していくべきだ」と、日中の未来を双方の若者たちに託して挨拶を締めました。
歴史こそ教科書
次に孔絃佑・駐日大使は、「新型コロナのパンデミックは緩和し、世界経済は回復の傾向にある一方で、覇権主義が横行、台頭し、気候変動、北朝鮮の課題もある。国際社会の不安は高まり、複雑な状況の中で新たな岐路に立たされている」との見解を述べました。そこで過去を総括し、いかにして新時代に見合う世界を構築していくか、新しいビジョンを築いていく必要性を強調する孔絃佑大使。
歴史は教科書であり、その歴史を基に、中日関係をより安定し、長期的に発展させることが重要であり、歴史的葛藤と成功経験は、イデオロギーの相違を乗り越え、友好・協力をすることができると指摘しました。一方で、そこには様々な紆余曲折があり、教訓としては、未だ存在する対立を適切にントロールし、一線を越えないこと、悪いことを理解して、衝突しないようにすることを挙げて、新時代の中日関係を推進する貴重な財産だと語りました。さらに、日中関係にはチャンスと挑戦が存在しているとし、新しい中日関係を構築し、この地域の安定を守り、発展を促し、地政学的衝突を避けることは共通項であり、世界経済の回復のチャンスをつかみ、win-winの関係を構築していこう、と日本側に呼びかけました。
そのためには、中日両国が相互理解を促進し、互いに脅威とはならないことを実行すること、政治的安全保障を補強し、ポストコロナにおいて協力のポテンシャル・原動力を開放すること、貿易環境を整えて、サプライチェーンを築いていき、より幅広い環境を推進していくことが必要だと提案するのでした。
講演と大使の挨拶を終え各分科会から議論の報告がなされた後、中国側を代表して「東京-北京フォーラム」の中国側共催者の中国外文局副局長の高岸明氏より、今回の議論を踏まえて作成された共同声明が読み上げられました。(共同声明の全文はこちら)
「民間の取り組みが勢いを失うことは致命的」との言葉こそ、我々の強い覚悟
その後、閉会の挨拶にたった言論NPO代表の工藤はまず、これまでのフォーラムで共同声明をまとめるには、かなりの時間を要し、難航してきたと振り返りつつ、今回の声明づくりは中国側と真剣な議論を行いつつも、笑顔で取りまとめることができたと語りました。その上で、自衛艦隊司令官を務めた香田洋二氏のアドバイスもあり今回の共同声明に盛り込んだ、「民間の取り組みが勢いを失うことは致命的」との言葉こそ、私たちの強い覚悟であり、こうした覚悟の下、米中対立が深刻化し、日中間で対話が無くなる中でも、日中国交正常化から50年を迎える来年に向けて民間での議論が始まったことが重要だと指摘しました。(挨拶全文はこちら)
加えて、今回のフォーラム開催にあたったパネリストや、日中両国の事務局、さらに開催にあたり支援いただいた企業や、寄付に応じていただいた個人の方たちにお礼を述べ、17回目のフォーラムを締めくくりました。