この「アジア平和会議」の第2セッションでは、「北東アジアの安全保障リスクをどう管理するか」をテーマに、主催者の言論NPOの工藤の他、米国、中国、韓国の3氏が、北東アジアの平和と安定で、今、我々にどのような努力が問われているのか、問題提起を行いました。
主催者である言論NPOの工藤泰志がこれまでの2回の会議で合意されたことや浮かび上がった課題を確認しながら、米中対立に起因して北東アジアで様々なリスクが顕在化し、安全保障環境が最悪になりつつある状況を指摘し、「この地域を分断するのではなく、包摂的なルールに基づいた平和秩序を目指すというアジア平和会議が当初から掲げている原点ともいうべき目標を、私たちは今でも合意しているのか」と切り出しました。
この主催者側からの問題提起を受けて、米国からダニエル・ラッセル元東アジア・太平洋担当国国務次官補、中国は人民解放軍系のシンクタンク・中国国際戦略研究基金会副理事長の楊超英氏、韓国からはホ・テグン元韓国軍准将の3氏が発言に立ち、その後、議論が行われました。
ラッセル氏は、工藤が提起した内容に賛同する姿勢を示しながらも、「その前に一歩下がれば、現状を不満に思う中国の存在があり、中国の行動に不満を強める米国との摩擦が急増している。工藤さんが提起した目標がなぜ、この北東アジアで実現できないのか、その出発点に戻って議論を始めるべきだと」と提案しました。
これに対し、中国の楊超英氏は、北東アジアで起こっている全ての緊張は、当事者関係の信頼関係の欠如が背景にあると語り、米中関係の戦略的な安定性の構築を期待しつつ、「自国の政党政治にハイジャックされるのではなく、お互いに対話を行い、この地域の共通利益のために努力を払うこと、さらに戦争を防止するメカニズムを検討すべき」だと訴えました。
また、韓国のホ・テグン氏は、「北東アジアで多国間の枠組みを議論することは大事だが、その前に困難に陥っている米中、日中、日韓の二国間の関係の改善に力を入れるべき。現状のように対外関係を内政に利用し、ナショナリズムを煽ることは事態を難しくする」と語りました。また、この地域の平和と安定のためには、この地域で守るべき原則や軍事衝突を避けるためのルールを共有化するための努力は必要と提起しました。
ウクライナへのロシアへの軍事侵攻に関する中国の姿勢には質問も
その後の議論では3つの問題を巡って議論が進みました。
一つは、米中の信頼醸成の構築についてです。米ソの冷戦の際にもお互いは、事故防止協定を締結するなどの信頼醸成の措置を取りましたが、現在、米中間の危機管理のメカニズムは機能しておらず、その修正と新しい措置は可能なのか、どのようなメカニズムが必要なのか、ということです。
二つ目はまず、どんな紛争も平和的に解決するために、武力を使わない、力による現状変更はしない、という根本的な価値観はこの北東アジアでも共有されているのか、ということです。
ウクライナでのロシアの行動は、力による現状変更ですが、これに対する中国の姿勢がはっきりとしないということがこの日の会議では何度も議論になりました。
ロシア軍がウクライナの国境周辺に集結している最中に、北京を訪問したプーチン氏に、中国の指導者は支持を表明し、ロシアはその後、軍事侵攻をしている、ということも米国側から問われました。会場で提起されたのは、領土の主権に拘る中国はどうしてロシアの軍事侵攻に伴う主権の侵害に対して自らの姿勢を明確にしないのか、との疑問です。
最後は、台湾海峡の軍事衝突を防止する仕組みはできないのか、という点です。これに対する出席者全員の危機感は高く、対話を迅速に始めるべきとの多くの議論がありました。
この第二セッションには、第一セッションに参加した4カ国の18氏に、今回問題提起したダニエル・ラッセル氏、日本からは河野克俊(前統合幕僚長)の2氏が加わり、20氏での議論になりました。議論の部分はチャタムハウスルールに基づく、発言者を特定しない形での公開となります。