「これまでのアジア戦略会議の議論を総括する」

2005年12月21日

ここで、アジア戦略会議が行ってきた議論形成を簡単に振り返ってみます。

そこでは、戦略形成の方法論として、次の5つのステップを踏んだ議論形成を行ってきています。

ステップ1:
日本を取り巻く世界の中長期的な潮流の把握(→その中で日本に問われているものは何か)

ステップ2:
日本の強さ、弱さの客観的、分析的把握(→日本のパワーアセスメント、日本自らが捉えている「日本の強さ」とは何か)

ステップ3:
日本のアイデンティティー願望と主要な潮流とのギャップの特定(→ステップ1、ステップ2を踏まえ、日本がアスピレーションを持って追求することができる自らの「限りなく理想に近く、現実的な」アイデンティティーとは何か)

ステップ4:
日本の強さの徹底活用によってギャップを埋める選択肢の抽出

ステップ5:
日本の永続的優位確立の視点からの選択肢の評価と最適案の決定


 このアジア戦略会議では、2002年においてはステップ1の議論を進め、2003年3月の言論NPOの国際シンポジウムでは、世界の中長期的な潮流に係る有識者アンケートなども踏まえ、日本に問われている課題を踏まえ、「新開国宣言」を内外に発し、アジアを始めとする世界にとって「魅力的な日本」を創出すべきことを提唱しました。

 そして、2003年には次のステップ2の議論が進められ、日本の各分野の「先進度」、「強靭性」、「影響力」の強さ弱さを徹底分析し、これを踏まえ、2004年の国際シンポジウムでは、「日本のパワーアセスメント」として、強さ弱さの軸と戦略的重要度の軸による日本の「戦略マップ」を公開しました。これに、言論NPOが実施した有識者アンケート調査に基づく戦略マップを組み合わせることによって、私たちは、日本の「圧倒的に強い」、かつ「戦略的に重要度の高い」分野は、経済の強靭性、科学技術の先進度、大衆文化の影響力、それに環境分野であるという仮説に到達しました。

 さらに、2004年は、上記のステップ1及びステップ2の議論をステップ3の議論へとつなげるべく、時間軸を2030年の将来に設定し、2030年に向けた世界やアジアの潮流と、そこにおける日本の可能性について議論形成を図りました。そこでは、日本のパワーアセスメントの議論から見出された日本の強さの背景にあるものが、2030年の将来においても維持されているのか、維持するためには何が必要なのかという視点から分野別に議論が重ねられました。

 言論NPOは、それに基づいて、2005年2月の国際シンポジウムにおいて、21世紀の国際秩序と日本の取り得る選択肢や、2030年の将来のアジア像とアジアにおいて日本が提唱し得る価値などについて、内外の有識者の参加を得て議論を行い、これを発信するとともに、日本の将来の可能性に向けた選択肢を提示し、これを政党にぶつける形で日本の将来選択への国民合意の形成を図る議論を開始しました。


私たちが提案した日本の将来戦略の仮説とは


 こうした議論のプロセスから導かれた一つの仮説は、日本がアスピレーションを抱いて追求する「限りなく理想に近く、かつ現実的な」アイデンティテイーは、「課題先進国」から「課題解決先進国」を目指す「世界のソウト・リーダー」であるということでした。

 これを基本理念として、言論NPOが提起したのは、将来のアジアの中で捉えた日本の全体システムの「設計思想」は、次の3つの基軸からデザインすることができるということでした。それは、

①世界の中長期的な潮流という基軸→アジアにおける「知」の創出のプラットフォーム、
②日本に問われている課題という基軸→高齢化社会の運営モデルの構築と開かれた国、
③日本の強さの活用という基軸→課題解決能力を知的価値の創出力と影響力へ、という軸です。

 すなわち、日本は、今や、超高齢化社会への移行など、今後世界が共通して直面していく人類未踏の先進課題に世界に先駆けて直面する「課題先進国」となっており、その状況を受け止め、これをチャンスとして活かしつつ課題解決のソウト・リーダーを目指し、そこに日本の強さを活用する。日本が「知」の創出の核としてアジアに創出、提唱する価値として、当面、日本にとって最も可能性のある価値は、人類共通の課題の解決による人類社会の持続可能性の確保であり、それをソウト・リーダーを目指すことによって達成すべきである。そのために、質が高く層の厚い日本の「中間層」や「巨大マーケット」、科学技術や環境分野に見られる「知力」などの日本の潜在パワーを活用し、世界から参考にされるモデルを提示するとともに、それをアジアにおける「知的価値」の創出力と国際ネットワーク力へと高め、世界の中での新たな存在感を構築すべきである。それは、覇権大国として「知」を押し付けるという意味でのリーダーではなく、日本自らがアジアの活力や知恵を惹きつけ、「知」を創出するプラットフォームになるという国家像を目指すことによって達成すべきである。

 これが、アジア戦略会議のこれまでの議論が到達した仮説であり、言論NPOは、一つの論理体系としての「ソウト・リーダー」などを含め、こうした仮説を2005年2月の国際シンポジウムで提唱しました。
 この方法論に従えば、今後の議論は、この仮説と現実との間にあるギャップを特定し、日本の強さの徹底活用によってギャップを埋める選択肢を抽出してステップ4へと進み、日本の具体的な戦略上の選択肢を議論することがテーマだということになります。しかし、今回の会議では、その前に、まず、上記の仮説について、その後の日中間での議論や、日本を巡る国際情勢の展開、あるいは日本の強さについての足元での状況変化なども踏まえつつ再検討し、これによって、既に得られている仮説をさらに深化させバージョンアップすることから議論を再スタートし、発展させていくことが合意されました。
 
 前述の戦略形成のステップは固定的なものではなく、常にステップ相互間でのフィードバックを行いながらそれぞれのステップで得られた仮説を検証していくプロセスを通じて、議論を大きく展開していくことが望まれます。例えば、大衆文化の影響力や環境分野などについても、日本の現状は、その圧倒的な強さを誇れる状況ではなくなっているという指摘もあります。そうであるとすれば、その背景にある日本の強さ弱さの本質的な変化について、再度、検証を加え、日本のパワーアセスメントを不断に見直していかなければなりません。また、2030年の中国などアジアの将来像についても、さらに議論を進め、世界の中長期的な潮流をより深く把握する作業も必要です。

 加えて、今回の会議では、アジア戦略会議として、より具体的な政策分野に踏み込んだ戦略形成の議論へと進んでいくことも合意されました。今後は、例えば日本の外交政策に対しても、その都度、政策提言や見解を表明し、これを発信していくことも、この会議の役割であるということになりました。
 アジア戦略会議は、このような点も踏まえながら、今後、「アジアにおける日本の将来像」の議論形成を基軸としつつ、日本の国家戦略について多様な議論展開を図り、これをより強力に発信してまいります。既に、それに向けたメンバーの拡充も図っており、当面、今後1年間においては、少なくとも月1度の頻度で会議を開催し、外部からも各分野の論者を招いて議論を行い、メンバーも拡充して発信力を強化していきます。そして、来年の12月には公開で国際シンポジウムを開催し、できれば、政策提言として中間的なとりまとめを行い、政治や政府にも提案していくことを目指します。これらも今回の会議で合意された内容です。

※次回のアジア戦略会議は、年明けの1月20日に開催する予定です。 

 ここでは、アジア戦略会議が行ってきた議論形成を簡単に振り返ってみます。戦略形成の方法論として、次の5つのステップを踏んだ議論形成を行ってきています。