「世界の平和と国際協調の修復に向けた日中両国の責任」をメインテーマとした「第18回東京―北京フォーラム」は12月7日、東京と北京の会場をオンラインで結んで開幕しました。まず行われた開幕式には両国の要人が相次いで登壇しました。
建設的かつ安定的な日中関係の構築に向けて、国民間の交流が不可欠
日本側の政府挨拶に登壇した外務大臣の林芳正氏は、国交正常化以降の50年間の日中関係を「政治、経済、文化、人的交流等の幅広い分野で着実に進歩を遂げた」と振り返りましたが、同時に「多くの課題や懸案にも直面している」とも指摘。その上で、「地域と国際社会の平和と繁栄にとって共に重要な責任を有する大国」である日中両国は、課題や懸案があるからこそ率直な対話を重ね、国際的課題には共に責任ある大国として行動し、共通の諸課題について協力する「建設的かつ安定的な日中関係」の構築という共通の方向性を、双方の努力で加速していくことが重要であると語りました。
最後に林外相は、「建設的かつ安定的な日中関係」の実現のためには国民間の交流が不可欠との認識を示し、「新型コロナで激減してしまった両国間の国民交流をしっかりと戻していく必要がある。先般の日中首脳会談でも、両国の未来を担う青少年を含む国民交流を共に再活性化させていくことで一致したところだ」としつつ、日中間最大の民間対話である本フォーラムの役割にも大きな期待を寄せました。
「力よりも理」「暴力よりも国連憲章」こそ大事で、そのために日中両国には大きな責任がある
中国側の政府挨拶に登壇した国務委員兼外交部長の王毅氏はまず、11月の日中首脳会談では、両首脳が日中関係の重要性を再確認するとともに、新時代の日中関係を目指すことで一致したことを踏まえながら、今年の国交正常化50周年、来年の日中平和友好条約45周年というこの2つの節目の年に、「両国は日中関係の初心に帰るべき」と切り出しました。
王毅外相はさらに、日中共同声明が発表された後に当時の周恩来首相が「言必信、行必果」(言は必ず信あり、行いは必ず果たす)という題辞を田中角栄首相に贈り、これを受けた田中首相が「信為万事之本」(信は万事のもと)と返したことを振り返りながら、信頼のためには約束を守る必要があり、その約束は4つの政治文書に具体化されていると指摘。今後も互いにとっての脅威とならないことや経済的にWin―Winの関係を続けていくべきとしつつ、米中対立を念頭に「一方の陣営に与してゼロサムゲームの罠に陥らないように」したり、香港や台湾、ウイグル問題などでの日本側からの干渉を戒めました。
また王毅外相は、多国間主義と国際秩序が大きな挑戦を受けている現在は百年の一度の大変革期にあるとの認識を示した上で、こうした難局の中では力よりも「理」、暴力よりも国連憲章を核心とする国際関係の基本準則こそが大事だと強調し、これを守るために日中両国には大きな責任があると説きました。
最後に王毅外相は、10月に行われた共産党大会の政治報告では、「周辺国家との友好、相互信頼と利益融合」を追求するとしていることに言及しつつ、改めて次の50年に向けた日中協力を呼びかけました。
米中対立のどちらに与する議論ではなく、胸襟を開いた本音の対話を
日本側の主催者挨拶には、「東京―北京フォーラム」実行委員長の武藤敏郎氏(大和総研名誉理事、元東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会事務総長)が登壇。ロシアのウクライナ侵攻により世界情勢は不安定化し、世界経済にも分断化の傾向が強まっていること、アジア地域においても台湾海峡問題など不安や緊張の高まりがあること、そして対面ではおよそ三年ぶりとなる11月の日中首脳会談の直後のタイミングであることなどを挙げながら、武藤氏は今回のフォーラムが「特に重要な意味を持っている」と強調しました。
さらに、国連を含めた国際ルールに基づき、国際協調による世界の平和秩序の確立を目指すべきだとの認識を示した武藤氏は、今回のメインテーマ「世界の平和と国際協調の修復に向けた日中両国の責任」についても、依然として続く米中対立という構図の中でどちらかに与して議論するべきではなく、「両国の有識者が胸襟を開いて本音で対話をすることによって、世界とアジアの平和と安全のために何ができるのか、ともに考えていこうではないか」と呼びかけました。
安定的な日中関係の土台になるのは民間交流
中国側の主催者挨拶に登壇した杜占元氏(中国国際伝播集団総裁、中国翻訳協会会長)は、世界第二、第三の経済大国である日中両国が協力関係を深めていくことは、激動し、不確実性が増している世界情勢の中では、単なる二国間関係の発展にとどまらず、世界全体の平和と発展を促進するために不可欠であるとし、両国の大国としての国際的責任を強調。
同時に国交正常化50周年を踏まえて、「孔子曰く、四〇にして惑わず、五〇にして天命を知るというが、両国にとって不惑というのは、歴史的偏見を捨て、政治の目先の利益にこだわらず、利害の違いを直視し、干渉を排除した上で、Win-Winのチャンスを掴むことだ。そして天命を知ることは、世界・時代・歴史の変化といった大勢を理解した上で、世代の友好を受け継ぎ、両国の発展を促し、世界の平和を守り、人類の幸せを増進する責任と使命を共有することだ」と語りました。
その上で杜占元氏は、具体的な協力のメニューとして、「デジタルエコノミー、グリーン発展、ヘルスケア、産業・サプライチェーンの安定化・円滑化」など様々なものがあるとしつつ、そのためにもより安定的な日中関係が必要であり、その土台となるのはやはり民間交流、とりわけ青少年交流であると主張。また、18年間にわたって両国関係の健全な発展のために尽力してきたハイレベルかつ大規模な民間交流のプラットフォームである本フォーラムの議論の展開にも期待を寄せました。
新たな時代の、新たな日中関係構築への歩みを
続いて、基調講演が行われました。まず日本側基調講演には、「東京―北京フォーラム」最高顧問の福田康夫氏(元内閣総理大臣)が登壇。その冒頭、「世界は、混迷の度合いをますます深め、対立と分断に向かっており憂慮に堪えない」と切り出した福田氏は、その理由を「現在われわれが享受している平和と繁栄、それをもたらした戦後国際秩序が動揺を来たし、崩壊しかねない状況になっているからだ」と指摘。その上で福田氏は、習近平主席の「人類運命共同体の構築」、自身の父・福田赳夫元首相の「世界は共同体である」といった発言に触れながら、「私が(首相在任時の)2008年の日中共同声明において戦略的互恵関係を打ち出したのも、このような考えに沿うものと考えたからだ」と振り返りつつ、日中両国に協働して現行国際秩序を改善し強化する具体的作業に着手することを要望。「そうすればその先に、アジアの伝統的価値観が色濃くにじむ、人類運命共同体の姿が浮かび上がってくることだろう」と期待を寄せました。
福田氏は、対立を緩和し、分断を回避することは、そう簡単なことではなく、手間もかかるとしつつ、現在の国際社会には懸命の努力が不足していると苦言を呈するとともに、政治指導者たちにも大局的判断と懸命な行動を強く求めました。とりわけ、ロシアのウクライナ侵攻や台湾海峡における緊張の高まりにおいては、こうした視点からの外交努力が圧倒的に不足しているとの見方を示した福田氏は、対話の強力な推進が不可欠と主張。また日本外交と台湾問題については、「1つの中国」政策を堅持しつつ、米中との対話を進めながら、緊張緩和の道を探ることを日本外交の中心的課題とすべきと強調しました。
また福田氏は、経済のグローバリゼーションについても言及。経済安全保障が重視されるようになったからといって世界経済が分断されてよいという理由にはならず、マイナス要因を極小化する新しいプロセス管理を開発する必要があるとしてきしました。
福田氏は最後に、気候変動問題や核不拡散など他にも課題が山積みである中、やはり日中協力は不可欠と改めて強調。国交正常化以降の50年間に思いを致しながら、「新たな時代の新たな日中関係の構築への歩みを進めてもらいたい。世界の中に日中を置き、両国国民が正面から向き合い、手を握り合う関係を作りあげるべきではないか」とし、講演を締めくくりました。
青年交流を含めた民間交流を推進し、友好の基盤を固めることが重要
中国側からは孫業礼氏(中国共産党中央委員会宣伝部副部長)が登壇しました。そこではまず、世界が激動する新たな変革の時期に入る中、日中関係も重要な歴史的節目を迎えているとの認識を示しつつ、こうした難局の中で健全かつ安定した発展を推進する上での大きな助けになるのは、「この国交正常化50周年来の経験と知恵」であるとし、これを真剣に考え総括し吸収することが大事だと主張。その上で自身の分析として、「国交回復の初心を振り返り平和友好の正しい方向を把握すること」、「経済協力を深化させ互恵・Win-Winの利益の繋がりを緊密にすること」、「人的文化交流を推進し両国の民意基盤をうち固めること」、「協調と協力を強化し世界の繁栄と安定した発展を促進すること」といった四点のポイントを提示しました。
また孫業礼氏は、民間が果たすべき役割についても言及。まず、両国の国民が日中関係についての正しい認識を得る上でのメディアの役割の重要性を指摘し、この分野での日中協力の深化を求めました。
次に、本フォーラムに多くのシンクタンクが関係していることを踏まえ、シンクタンクの役割について言及。国交正常化50周年の今年は、両国のシンクタンクや専門家、学者はシンポジウムや対話など多くの交流活動を行い、良い結果を得たと評価しつつ、今後もシンクタンク間の共同研究や定期的な交流を行うことを通じて、日中関係の発展を促進するための助言や、対立や課題を解決するために知恵を出すこと、さらには世論を導く役割を果たすことにも期待を寄せました。
続いて、青年交流を推進し友好の基盤を固めることの重要性を指摘した孫業礼氏は最後に、中国国務院新聞弁公室としても今後もこうした多面的な民間の交流へのサポートを続けていくと意気込みを語りました。
開幕式の後、パネルディスカッションに入りました。