民間の場で紛争を回避し、将来の平和につながるための対話の場に~「アジア平和会議2023」公開フォーラム開幕式報告~

2023年7月19日


 内閣官房副長官の木原誠二です。この度は、日本政府を代表して、「アジア平和会議」の参加者の皆様にメッセージをお届けできることを嬉しく思います。

日本の安全保障政策の転換・外交的取組の重要性

 ロシアのウクライナ侵略により、私たちは、平和を守るという、最も根源的な課題を突きつけられています。日本は、この暴挙が始まった直後から、「今日(きょう)のウクライナは明日(あす)の東アジアかもしれない」という強い問題意識を繰り返し訴えてきました。この力による一方的な現状変更の試みを許せば、アジアを始め他の地域でも同様の行動を許容することになってしまう。我々は、平和、そして法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜かなければならない。そうした考えから、日本は、従来の対露政策を大転換し、先陣を切って、ウクライナへの支援に踏み切りました。また、今年、我が国が主催したG7広島サミットでは、G7の揺るぎない結束を確認するとともに、インド、ブラジル、インドネシア、ベトナムといった、いわゆるグローバル・サウスを含む招待国及びウクライナとの間で、主権、領土一体性の尊重といった国連憲章の原則を守るべきこと、世界のどこであっても力による一方的な現状変更の試みを許してはならないこと、などについて認識を共有することができました。


 昨年末に行った、新たな国家安全保障戦略を含む三文書の策定を始めとする安全保障政策の大転換も、同じ問題意識に基づくものです。岸田政権は、国民の命と平和な暮らしを守り抜くため、防衛力の抜本的強化を決定しました。ここで強調したいことは、我が国の防衛力の抜本的強化は、国際法の範囲内で、専守防衛の下で行うものであって、他国に脅威を与えるような軍事大国になることは目指していない、ということです。

 その上で、国家安保戦略にも明記されたとおり、我が国の平和と繁栄、自由で開かれた国際秩序の強化のために、まず優先されるべきは、積極的な外交の展開です。そして、自分の国は自分で守り抜ける防衛力を持つことは、そのような外交の地歩を固めるものとなると考えています。我が国は、長年にわたり、国際社会の平和と安定、繁栄のための外交活動や国際協力を行ってきました。その伝統と経験に基づき、今後も、多くの国と信頼関係を築き、他国との共存共栄のための国際協力を展開していく考えです。


米・韓・中との外交的な取組

 また、現下の厳しく複雑な安全保障環境において、不測の事態を回避するには、絶えず意思疎通を図ることが不可欠です。


 例えば、中国との間では、「建設的かつ安定的な日中関係」の構築に向けて、昨年11月の日中首脳会談に続き、今年4月には林大臣が日本の外務大臣として約3年ぶりに訪中し、外相会談を行いました。安全保障分野でも、日中安保対話や日中高級事務レベル海洋協議といった対話が積み重ねられています。防衛当局間においても、海空連絡メカニズムの下でのホットラインの運用が本年5月に開始されました。

 重要な隣国である韓国との間では、12年ぶりとなる首脳同士のシャトル外交を再開し、G7広島サミット及びNATO首脳会合の機会を合わせ、4か月で4回の首脳会談を行いました。岸田総理と尹大統領の信頼関係の下で、安全保障対話の再開や経済安保協議の開催を始め、多岐にわたる分野において両政府間の対話と協力が活性化しています。

 そしてもちろん、日本にとって唯一の同盟国である米国とは、首脳を含むあらゆるレベルで緊密な意思疎通がなされています。日米首脳会談を始め、様々な機会に、日本の防衛に対する米国のコミットメントを確認するとともに、「自由で開かれたインド太平洋」の実現への強いコミットメントを改めて強調し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を強化するということを確認しています。

 このように、日本政府は、各国との対話を重視し、意思疎通や信頼醸成を図っていく考えです。これらの政府間のやり取りに加えて、皆様のような外交・安全保障の専門家による率直な意見交換が行われることで、我々の関係は一層深みを増し、強靱性を増していくことでしょう。

アジア地域の重要性

 アジア地域は、ポスト冷戦時代の世界の成長エンジンです。我々は、地域、ひいては国際社会の平和と繁栄にとって重要な責任を有していることを忘れてはなりません。この地域が世界の主役へと飛躍する、その土台となったのが、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序でした。国家間の紛争が、領域をめぐるものであれ、経済的利益をめぐるものであれ、力ではなく法やルールによって解決される。この秩序によって、公平性、透明性、予見可能性が保証されてきました。法の下では、大国も小国も平等であり、その中で我々は、アジアの独自の強みである、多様性と成長を両立させるための努力を積み重ね、今日(こんにち)の繁栄を築いてきたのです。

 しかしながら、国際社会で起こっている大きなパワーバランスの変化により、国家が再び激しく競争を繰り広げ、国際社会は、協調と分断が複雑に絡み合う時代に入ってきています。日本が提唱した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」は、放置すれば分断と対立に向かいかねない国際社会を、協調に導くための指針となる考え方です。価値観を一方的に押しつけない、特定の国を排除しない、陣営作りをしない、といった考え方を皆で共有し、実践していくことが重要です。

 近年、ともすると、自由主義 対 権威主義、あるいは、先進国 対 途上国といった二項対立構造を強調し、世界の分断をあおるような言説、行動も見受けられます。しかし、日本は、今後取るべきアプローチは、各国の歴史的・文化的多様性を尊重した「対話によるルール作り」であり、各国間の「イコールパートナーシップ」であると考えています。地政学的な競争に陥ることなく、法の支配の下で、多様な国家が共存共栄していくことが、我々の目指すべき世界の在り方ではないでしょうか。


 今回の「アジア平和会議」での皆様の闊達な議論が、地域及び世界の平和を守り抜き、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するための大きな一歩となることを願って、私からの挨拶とさせていただきます。
御静聴ありがとうございました。

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