民間の場で紛争を回避し、将来の平和につながるための対話の場に~「アジア平和会議2023」公開フォーラム開幕式報告~

2023年7月19日

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 7月18日に「アジア平和会議2023」は、7月19日午後から公開セッションを行いました。それに先立ち、政府挨拶に木原誠二・内閣官房副長官が登壇。岸田文雄・内閣総理大臣の中東歴訪に随行しているため、ビデオメッセージでの登壇となった木原氏はその冒頭、日本の安全保障政策の転換と外交的取り組みの重要性について発言しました。


平和、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守ることが重要

 木原氏は、「ロシアのウクライナ侵略により、私たちは、平和を守るという、最も根源的な課題を突きつけられている」とした上で、「この力による一方的な現状変更の試みを許せば、アジアを始め他の地域でも同様の行動を許容することになってしまう。我々は、平和、そして法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜かなければならない」と問題提起。対露政策の大転換や、G7広島サミットにおけるグローバル・サウス諸国及びウクライナとの連携、さらには昨年末に行った、新たな国家安全保障戦略を含む三文書の策定を始めとする安全保障政策の大転換も、こうした同じ問題意識に基づくものであると説明しました。

 一方で木原氏は、日本の防衛力の抜本的強化は、「他国に脅威を与えるような軍事大国になることは目指していない」ことを強調。「国家安保戦略にも明記されたとおり、我が国の平和と繁栄、自由で開かれた国際秩序の強化のために、まず優先されるべきは、積極的な外交の展開だ」としつつ、米韓両国だけでなく、中国とも対話を積み重ねていく外交方針を示しました。

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各国の歴史的・文化的多様性を尊重した共存共栄していくことが我々の目指すべき世界

 最後に木原氏は、アジア地域についても発言。ポスト冷戦時代の世界の成長エンジンであるアジア地域が「世界の主役へと飛躍する、その土台となったのが、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序だ」「法の下では、大国も小国も平等であり、その中で我々は、アジアの独自の強みである、多様性と成長を両立させるための努力を積み重ね、今日の繁栄を築いてきた」と指摘。しかしその上で、「国際社会で起こっている大きなパワーバランスの変化により、国家が再び激しく競争を繰り広げ、国際社会は、協調と分断が複雑に絡み合う時代に入ってきている」「近年、ともすると、自由主義対権威主義、あるいは、先進国対途上国といった二項対立構造を強調し、世界の分断をあおるような言説、行動も見受けられる」と現状に対して強い懸念を示しました。

 こうした中で今後取るべきアプローチは、「各国の歴史的・文化的多様性を尊重した『対話によるルール作り』であり、各国間の『イコールパートナーシップ』である。地政学的な競争に陥ることなく、法の支配の下で、多様な国家が共存共栄していくことが、我々の目指すべき世界の在り方ではないか」と日本の方針を示しつつ、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」も、放置すれば分断と対立に向かいかねない国際社会を、協調に導くための指針となる考え方なのだと語りました。


 その上で、今回の「アジア平和会議」での議論が、「地域及び世界の平和を守り抜き、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するための大きな一歩となること」に期待余を寄せ、政府挨拶を締めくくりました。

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世界情勢が不安定さを増す中で、大国関係をどのように管理し、
紛争回避のためにどのような協力が可能か、もう一度原点に戻る必要がある

 続いて、開会挨拶に言論NPO代表の工藤泰志が登壇しました。その中で工藤は、「この北東アジアには、多くのホットスポットがあり、そこでの行動や事故が、取り返しのつかない紛争の引き金を引きかねない、世界でも最も危険な地域の一つだ」とした上で、「それにもかかわらず、紛争を回避するための危機管理の仕組み、ガードレールがこの地域で機能していない。周辺国間の多国間の政府間の対話も存在していない。しかも、大国間の対立で緊張が年々高まっている」と問題提起。こうした懸念がある中で、「まず民間の場で、紛争を回避し、将来の平和につながるための対話を動かそう」という意識で4年前に「アジア平和会議」を創設したと切り出しました。

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 工藤はその上で、4年間で米中対立の深刻化が進み、さらにロシアのウクライナ侵略などによって、地域の安全保障環境はさらに変わったと指摘。情勢が不安定さを増す中で、「大国間関係をどのように管理するのか。紛争の回避のためにどのような協力が可能なのか。もう一度原点に立ち返らなければならない」とし、今回の対話の全体テーマを「北東アジアの紛争回避のために、どのような努力が必要か」に設定したと説明しました。
工藤はさらに、前日に公表したばかりの「北東アジアの平和を脅かす10のリスク2023」について改めて説明。こうした分析結果や、最近の外交・安全保障の動向を踏まえた議論を展開したいと意気込みを語りつつ、「アジア平和会議2023」の開会を宣言しました。


 その後、公開フォーラムのセッション1、セッション2の議論に移りました。

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