開幕式に引き続いて、第1セッション「2023年、最も深刻な北東アジアの安全保障リスクは『北朝鮮』と『米中対立』」が行われました。司会は言論NPO代表の工藤泰志が務めました。
「安全保障のジレンマ」に陥っている米中両国。構造的に両国の戦略・国益が相反する以上、関係改善は困難。「アジア平和会議」も米中協力のための提言を出すべき
その冒頭、日米中韓4カ国のパネリストから問題提起が行われました。最初に米国を代表して登壇したのは、元国務次官補で、現在はアジア・ソサエティ政策研究所副所長を務めるダニエル・ラッセル氏です。ラッセル氏はまず、現下のリスクとして①ホットスポットをめぐるリスク(北朝鮮・台湾・東南シナ海など)、②国境を越えた、非伝統的安全保障のリスク(サイバー、AIなど先端技術、気候変動など)、③中国の台頭に起因するリスクの三点を提示。その上で、「北東アジアの平和を脅かす10のリスク2023」で3位となった「米中対立の深刻化」について問題提起を行いました。
ラッセル氏は、現在の米中両国は「安全保障のジレンマ」に陥っていると分析。互いに相手を脅威に感じ、敵対意識が高まっていく悪循環に陥っているとし、こうした状況の中では偶発的な衝突も起きかねないにもかかわらず、対話もしていないために危機管理もできないと指摘。とりわけ台湾のリスク度はどんどん高まるとともに、米中協力ができないために北朝鮮のリスクも高まっていると強く懸念しました。
ラッセル氏は、米中両国は短期的なトレンドとしては、対話を模索しているなど事態のエスカレートを防ごうとしているものの、そもそも構造的な問題として両国の戦略や地経学上の国益同士が相反しているとその根本的な困難を指摘。軍事や技術面では競争が過熱し、対話がないどころか「力任せに相手を非難するレトリックの応酬が、政府高官間で行われている有様だ」と関係改善には程遠い状況を嘆きました。
ラッセル氏はその上で、ロシアのウクライナ侵略が長引く中で、食糧・エネルギー・気候変動など大国間の協力が不可欠の課題が山積みの中で、両国が協力できない状況自体がまさしくリスクだと主張。両国がグローバルな責任を果たすためにはどうすればいいのか、模索しなければならないとし、この「アジア平和会議」も積極的な提言を打ち出すべきと訴えました。
イデオロギー対立も具体化した米中関係の改善は悲観的。「機会の窓」は選挙までの数カ月しか開いておらず、対話を急ぐべき。日中対話も重要