10月18日に開幕した言論NPOと中国国際伝播集団が主催する「第19回東京―北京フォーラム」。翌日の10月19日は、中国・北京国際飯店で活発な対話が行われました。コロナ禍を経て、4年ぶりの対面での開催となった今回のフォーラムでは、「アジアの安定と世界の平和協調に向けた日中両国の責任~日中平和友好条約45周年に考える~」を全体テーマとし、日中両国を代表する識者が議論を交わします。
19日午前の全体会議では、まず開幕式が行われました。司会は中国国際伝播集団副総裁兼総編集長の高岸明氏が務めました。
日中関係が困難な状況だからこそ45年前の条約締結時の原点に立ち戻るべき
まず中国側の政府挨拶として王毅・国務委員兼外交部長がビデオメッセージを寄せました。王毅外相は、45年前の両国の政治指導者たちは、高度な戦略的知恵と強固な政治的意志でもって永続的な日中関係の構築に挑んだと回顧。「日中共同声明によって両国間に『吊り橋』が架けられ、日中平和友好条約によって『鉄橋』が造られた」という当時の福田赳夫首相の言葉を引用しながら、「この条約の中核となる内容は依然として厳守すべき重要なものであり、現代的な意義も大きい。日中協力には大きな可能性があり、平和友好協力こそが唯一の道だ」と語りました。
その一方で王毅外相は、日中関係の現状は極めて厳しいとの見方を提示。「歴史問題や台湾問題で共通認識に達したからこそ日中関係はこれまで発展してきた。しかし、日本の認識は後退している。国家安全保障戦略では中国の動向を『これまでにない最大の戦略的な挑戦』と位置づけ、台湾問題で度々一線を越えて内政干渉し、両国関係の政治的基礎を損なっている」と強く批判。
また、日本が進める経済安全保障の強化に対しても、「中国経済の発展可能性は依然大きく、日中の開放的な協力は日本にとっても大きな利益となるものだ。デカップリングにつながりかねないような経済安保は慎むべきであり、win-win関係の構築こそが最大の安全保障だと心得るべきだ」と苦言。さらに、福島第一原子力発電所の処理水海洋放出についても、「国内外の不安と反対の声に誠実に対応せずに進めた」などと日本に対する批判を重ねました。
その上で王毅外相は、こうした困難な状況だからこそ45年前、条約締結時の原点に立ち戻るべきだとし、誠意を込めた付き合いと対話によって信頼を構築し、新時代の日中関係構築に向けた努力が必要であると指摘。今月閉幕したばかりの杭州アジア競技大会では多くの民間交流が生まれたことを挙げつつ、「人的交流を再開し、国民感情を改善し、民意の土台を堅固なものにしていくべきだ」と主張。また、世界が大変革にある中、イデオロギーに基づく陣営対立に陥ることなく、多国間主義と開かれた地域主義を守るためには日中協力は不可欠であると改めて強調しつつ、「そこで有識者の果たす役割は大きい。知恵と提言を出してほしい」とこの「東京―北京フォーラム」に大きな期待を寄せました。
日中平和友好条約に新たな息吹をもたらす原動力となるフォーラムに
日本側政府挨拶としてビデオメッセージを寄せたのは上川陽子外務大臣です。その冒頭、今年が日中平和友好条約締結45周年の節目の年であると切り出した上川外相は、「先人達が両国間の恒久的な平和友好関係を発展させることを誓った、この条約を土台として、両国国民は約半世紀にわたり、政治、経済、社会、文化等の幅広い分野及びあらゆる層で、交流と協力を着実に深化させ、友情と信頼を育んできた。そして、これからもさらなる発展の可能性を有している」と指摘。
その一方で、「現在、日中両国が直面する課題や懸案も少なくない」としましたが、「このようなときこそ問題に正面から向き合い、率直な対話を重ねていくことが、両国首脳で一致している『建設的かつ安定的な日中関係』の構築につながるものと確信している」と語りました。
上川外相は最後に、今回のフォーラムに集った両国の有識者の英智と、活発な議論の展開に「日中平和友好条約に新たな息吹をもたらし、日中両国の未来を切り開く原動力となっていただければ」と期待を寄せ、挨拶を締めくくりました。(上川外務大臣のビデオメッセージはこちら)