10月19日午後、「日中平和友好条約をいかに再出発させるか」を全体テーマとした政治・外交分科会が行われました。日本側司会を工藤泰志(言論NPO代表)が、中国側司会を楊伯江氏(中国社会科学院日本研究所所長、中華日本学会常務副会長)がそれぞれ務めました。
現在の国際情勢についての認識の共有と、あるべき国際秩序について、相互の理解を深めることは45年前と同様に不可欠
前半のセッションでは、「日中平和友好条約の総括と今日的な意義」について議論を交わしました。日本側一人目の問題提起を行ったのは、小倉和夫氏(元駐フランス大使、元駐韓国大使、国際交流基金元理事長)です。日中国交正常化交渉時の外務省の中国課首席事務官だった小倉氏は、「平和友好条約の今日的意義を理解するためには、条約の原点を改めて想起する必要がある」と指摘。その条約の原点とは、1972年の国交正常化にあるとした小倉氏は、「この正常化では、過去の歪みを正し、未来への道しるべを掲げ、行うべきことを定めた」とした上で、「行うべきことの一つは四つの実務協定の締結(1970年代前半)、もう一つは平和友好条約の締結(1978年)だった」と回顧。
条約の締結に時間がかかった理由として小倉氏は、国際情勢についての認識及び国際秩序のあり方について、両国が共通の認識に到達するまでに時間がかかったからであると解説。そうした中で条約締結を後押しした要因としては、(1)中国における四つの近代化路線の定着、(2)米中関係の改善、(3)中ソ関係の冷却化(同盟条約の破棄)、(4)日本における三木武夫内閣から福田赳夫内閣への政権交代、(5)日中両国における国民感情の安定化、といったものがあったと語りました。
小倉氏は、平和友好条約の今日的意義を考えるにあたっても、現在の国際情勢についての認識の共有と、あり得べき国際秩序について、日中それぞれの見解に対する相互の理解を深めることは、45年前と同様に不可欠であると主張。そのためには、「条約第二条の覇権条項についての考え方をめぐっては考え方の意見調整」と「国民感情の安定化のための国民交流促進」が必要であるとしました。
また、この「交流」に関しては、(1)ハイレベルの政治外交責任者の対話、(2)有識者及び青年層双方における、少子高齢化や環境など両国共通課題の解決のための知的対話の充実、(3)双方の伝統文化を含む文化交流の促進、といった多面的・多層的なものが必要であると指摘。その上で小倉氏は、こうしたことによって、「日中関係をいわば世界化し、協力すべき分野を拡大していく。同時に、両国の国民に『山川異域、風月同天』の精神を深め、親近感を醸成することが重要だ」とし、問題提起を結びました。