北朝鮮の非核化で日米韓は戦略を固め、中国と話し合うべき局面 ―「アジア平和会議2024」(日韓対話)報告

2024年7月18日

第2セッション
「北朝鮮の非核化はもう難しいのか、非核化を進める戦略はあり得るのか」


北朝鮮が非核化を自発的に行わない以上、強制するような三つのアプローチが必要

c1.jpg 文聖黙氏(元韓国陸軍准将、韓国国家戦略研究院統一戦略センター長)は過去何度も非核化を約束しながらすべて反故にされ、中国とロシアが味方し、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会の専門家パネルが活動停止に追い込まれた今となってはもはや北朝鮮の自発的な非核化は困難であると断言。「しかし、だからといって諦めることはできない。北朝鮮がすでに核を保有してしまっている以上、非核化よりもこれ以上核を増やさないようにすることが現実的な代替案ではないかという声が出ているが、これは決して受け入れられない」とした上で、「自発的に非核化を行わない以上、非核化を強制するような戦略を選択するしかない」として三つのアプローチを提示しました。

 第一には、「核を持っていても決して使用できないように、強力な抑止及び報復能力を備えていく必要がある」と主張。米韓ワシントン宣言に基づいて新設した「米韓核協議グループ(NCG)」を積極的に稼働させ、米韓一体型拡大抑止の信頼性と実効性を高めていく必要があると語りました。同時に、日米韓安全保障協力の強化や国連軍司令部の活性化措置についても言及、「それでも北朝鮮が非核化を拒否する場合、韓国と日本も核武装をするしかないという点を強調することも一つの選択肢となる」と踏み込みました。

 第二に、「北朝鮮が核を保有することで得られる利益よりも支払わなければならない代償が到底耐えられないように大きくなるような、可能な限りの代案を講じる必要がある」と語り、抜け穴だらけとなった国連安保理決議に基づく各種制裁を強化していくとともに、「一方的に北朝鮮の味方をして違法行為を放置している中国とロシアにも国連安保理常任理事国としての責務を果たすよう促し、引き続き北朝鮮の味方をするのであれば、必ずその対価を支払うような環境を作っていかなければならない」と訴えました。

 最後の三点目として文聖黙氏は、「北朝鮮の核問題を最も根本的に解決する方法は、韓国が主導する自由統一を実現することだ」と主張。昨年、米国・キャンプ・デービッドで行われた日米韓首脳会談では、日米首脳も韓国による統一を支持していると指摘、統一韓国が達成されるよう、日米両国を含む国際社会に対して支持と支援を求めました。


体制維持目的の北朝鮮に交渉による放棄の公算はなく、北朝鮮を抑え込む努力が必要

香田1.jpg 香田洋二氏(元自衛艦隊司令官)は、北朝鮮の国家目標を「金一族による国家統治体制の維持」であるとした上で、それを達成するための軍事戦略が①対米核抑止、②第2次朝鮮戦争の際の米韓連合軍の撃破能力の保持、であると解説。①については、主要手段は「核弾頭搭載ICBMによる米本土主要都市壊滅手段の保持」であるが、それができない場合の 副次手段が「核弾頭搭載SLBMによる東京とソウルの壊滅手段の保持」であると語りました。②については、「短中距離ミサイルとロケット兵器の集中攻撃による対米韓合同軍第一撃能力の確保」としつつ、「戦況が最悪の場合、戦術核兵器の使用もある」との見方を示しました。

 北朝鮮の核・ミサイル能力の現状について香田氏は、核戦力とICBMについては「概ね戦力化が完了している」と分析しましたが、上記①の目標を達成し得るものかどうかという点では未確認の状況であるとしました。SLBMについても、概ね戦力化は完了しているものの、それを搭載する潜水艦兵力については整備未了であるとしましたが、中距離ミサイル・ロケットについては、すでに韓国全土を攻撃可能な状況にあると説明しました。

 次に香田氏は、6月に「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した北朝鮮とロシアの関係について発言。北朝鮮から見れば、中国は友邦ではあるものの核開発に厳しく干渉してくる厄介な存在でもあるのに対して、ロシアは現状「国益が相互補完的に一致している」と指摘。もっとも、例えば朝鮮半島有事が起きた場合、ロシアからの「物理的な軍事力による大規模支援は困難という限界もある」との見方も示しつつ、露朝関係を「課題評価も過小評価もすべきではない」と評しました。

 最後に北朝鮮の非核化については、体制生き残りのための不可欠である以上、交渉による放棄の公算はないと指摘。現実的オプションとしては、北朝鮮を暴発させない努力が必要としつつ、文聖黙氏が述べた「韓国主導の自由統一」は外交交渉における着眼点になると語りました。


抑止と防御を高めるだけではなく、非核化外交も含めた3Dを推進する必要がある

kim.jpg 金炯辰氏(元韓国国家安保室第二次長)は、北朝鮮の核・ミサイル能力の現状について、米国のArms Control Associationの推計を引用する形で「50発の核弾頭を既に組み立てており、さらに70から90発の核兵器を製造できる核分裂物質を保有している」と解説。弾道ミサイルの発射実験も繰り返しており、その能力の高度化も進んでいるとしました。

 核実験については、七回目の実験を実施していないのは緊急の必要性がないからに過ぎず、いつでも実験可能なように準備は完了していると指摘。また、寧辺にある建設中の実験用軽水炉が臨界に達した兆候があるとしつつ、核兵器の原料となるプルトニウムの製造能力が高まることは、金正恩総書記が示した「核弾頭の保有量を幾何級数的に増やす」という方針に合致していると語りました。

 ロシアと締結した「包括的戦略パートナーシップ条約」については「有事の際自動軍事介入条項」が復活し、北朝鮮とロシアの協力を「悪魔の取引」との評価を紹介しつつ、ロシアの技術協力によって「北朝鮮の長距離核攻撃能力は閾値を超えることができるようになる可能性がある」と懸念を示しました。

 韓国との関係については、金正恩総書記が「北南関係は同族関係ではない」と宣言し、"敵対国"と位置づけたことや、「戦争という言葉はすでに我々には抽象的な概念ではなく、現実的な実体として迫っている」と発言したことを紹介。一方の韓国も7月11日、韓国の尹錫悦大統領がバイデン米大統領とともに「朝鮮半島核抑止・核作戦指針に関する共同声明」を採択するなど、対北抑止力・防御力の向上に注力していると語りました。

 こうした現状認識を踏まえた上で金炯辰氏は、「北朝鮮が核兵器とミサイルを増やし続ける中では、抑止と防御を高めるだけでは根本的な解決にはならない」と主張。経済の苦境が増す中で、北朝鮮側も制裁緩和は望んでおり、米大統領選を機に交渉再開の雰囲気が醸成される可能性はあると予測。抑止(deterrence)、防御(defense)、だけではなく、非核化外交(denuclearization diplomacy)も含めた" 3D"を推進・発展させる必要とし、「友を近くに置け。しかし、敵はもっと近くに置け」という映画「ゴッドファーザー」の格言を引用しながら冒頭発言を締めくくりました。


外交、経済、軍事戦略を含む包括アプローチが必要。中国引き込みでは日中韓対話に期待

onoda.jpg 小野田治氏(日本安全保障戦略研究所上席研究員、元航空自衛隊教育集団司令官・空将)は、北朝鮮の核・ミサイル能力の向上とその脅威の高まりを強調する一方で、2021年1月の第8回朝鮮労働党大会で発表された兵器開発の5カ年計画には、「軍事偵察衛星の運用」「原子力潜水艦と水中発射核戦略兵器の保有」が含まれているものの、最近の度重なる衛星打ち上げの失敗に見られる通り、「これらの課題はいずれも北朝鮮独自の技術では実現が難しい」と分析しました。

 もっとも、ウクライナ戦争での北朝鮮からの支援が欲しいロシアと、ロシアのロケット技術、核兵器技術、宇宙関連技術などを求めている北朝鮮の利害が一致した結果が、「包括的戦略パートナーシップ条約」であるとし、今後は「北朝鮮の能力が短期間で飛躍的に進展することを想定しておかなければならない」と強く懸念しました。

 小野田氏はこうしたロシアとの関係強化が進む中では、「北朝鮮に核兵器を放棄させ朝鮮半島を非核化することは極めて困難であると言わざるを得ない」としつつ、朝鮮半島の非核化を諦め、北朝鮮に対する核抑止に舵を切るという戦略転換に対しては、「北朝鮮の核兵器による安全保障戦略を追認するとともに、NPT体制を自ら放棄することを意味する」と否定的な見方を示しました。

 北朝鮮の核兵器戦略に対抗するには、外交、経済、軍事戦略を含む多面的なアプローチが必要であるとした上で、三つの課題を提示。第一に、「国際的な制裁と経済的圧力を強化する体制の再構築」を挙げ、中国とロシアという大きな制裁の隙間を埋めていくと同時に、ランサムウェアと仮想通貨を活用したサイバー犯罪による資金獲得を阻止するために、現状の多国間協力による態勢を再検討する必要があるとの認識を示しました。

 第二に、「防衛力と抑止力の強化を急ぐこと」を挙げた小野田氏は、とりわけ日米韓が連携した監視体制とミサイル防衛システムの整備は急務であるとしました。新たな日米韓共同訓練「フリーダム・エッジ」については歓迎しつつ、「それぞれの軍事リソースをどのように役割づけて活用していくのか、さらなる議論が必要だ」と課題も口にしました。

 最後の三点目として小野田氏は、「北朝鮮をはじめ、中国、ロシアを含めて、外交的な関与と交渉を継続して追求する必要がある」と発言。特に、中国の役割の重要性を強調しましたが、「朝鮮半島非核化のために中国がこれまで全力を尽くしてきたとは言い難い」とも指摘。その上で、「最近の露朝の接近は中国を神経質にさせているが、かといって近年の米中関係の悪化の状況から、中国が米国との関係を改善させようと考えているとは思えない。日中韓対話に一定の役割を期待することはできないだろうか」と提言しました。

 小野田氏は発言の最後に、日韓の核保有も含めた核抑止について問題提起。すでに米韓の間では、昨年のワシントン宣言に基づき、抑止の信頼性を高めるアクションが取られていますが、「日米の間では拡大核抑止協議が閣僚レベルに格上げされることになったものの、国民的な議論はあまり広がっていない」と指摘。「日韓両国ともにNPT体制に深くコミットしている一方で、北朝鮮だけでなく、中国の核兵器増強の現状に対して米国の拡大抑止の信頼性をどう高めていくべきか」が今後の日韓両国にとっての重要な課題になるとしました。


 冒頭発言の後、ディスカッションに入りました。

 議論では、外交の重要性を指摘する意見が相次ぎました。日本側の出席者は北朝鮮を「通常の合理的な抑止論が通じない国」と評した上で、「軍事的な圧力が必要であることは間違いないが、今はそればかりが前面に出てきてしまっている」と苦言を呈し、「可能性がゼロでない限り、外交的な解決を追求すべきだ」と主張しました。この外交交渉にあたっては、これまで解決につながらなかったことの反省から、方法の改善に向けた提案が各氏から寄せられました。

 特に、「即時に核兵器を廃棄させるというのは現実的ではない」という観点から、「時間を与えることに我々はそろそろ寛容になる必要がある」など、「猶予」については複数の出席者が言及。また、手段の多様化によって「外交当局にフレキシビリティを与える」ことの必要性を指摘する意見や、米国政権が代わる度に方針が変わったという一貫性・継続性の欠如に対する反省も相次ぎました。

 さらに、外交にあたっては、日米韓だけで動くのではなく、中国を巻き込んでいくことの必要性を指摘する声や、トランプ政権発足に備えて日韓が連携して米国に関与し続けることの重要性を説く意見も第1セッションと同様に多く寄せられました。

 一方で、北朝鮮が核放棄をしなかった場合の自国の核武装については、積極的な韓国世論と否定的な日本世論の温度差が浮き彫りとなる場面も見られました。

 議論を受けて最後に司会を務めた工藤は、「非常に重要な論点が提起された。抑止は非常に重要だが、それはあくまでも手段であって目的ではない。北朝鮮の非核化に向けた戦略を描くために日米韓が知恵を出し尽くさなければならない段階に来ていると感じた。米国と中国も交えてまた議論したい」と9月の「アジア平和会議」へ向けた意気込みを語りました。


 今回の会議を踏まえて、言論NPOでは9月3日(火)・4日(水)に「アジア平和会議2024」を開催いたします。開催概要の公表と、参加募集は7月23日(火)を予定しています。皆様のご参加をお待ちしています。
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