日米同盟の積極的再定義が必要な局面に ~「日米対話」公開セッション報告~

2024年9月03日

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 9月3日(金)午後、午前中に行われた「日米対話」非公開セッションに引き続き、公開セッション「アメリカ大統領選と北東アジアの日米安全保障協力」が行われました。

 開会に先立ち、言論NPO代表の工藤泰志が開会挨拶に登壇しました。その中で工藤は、「同盟関係にある日本と米国が、緊張が続くこの北東アジアの平和と安定を維持するために協力して、この地域のリスクをどのように管理するか、それを話し合うものだ」と今回の対話の趣旨を説明。同時に、「日米がこのタイミングで話し合うもう一つの大きな意味は、日米、両国の指導者が揃って退陣することが決まったことだ」と時宜に適ったテーマであることを強調。「日本側から見ると、米国大統領選挙の結果に大きな懸念がある。今回の専門家アンケートや過去の世論調査でも日本や韓国の中でそうした意識が見られる」「逆に、米国側から見ても、日本の次の首相がこの地域の安全保障にどれくらい関心があるのか、または能力があるか、気になるところだろう」とし、両国の指導者交代が、この北東アジアや世界での日米協力にどのような影響をもたらすか、議論をしていきたいと意気込みを語りました。

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日米同盟や北東アジア安保は大統領選の争点にはならないが、新政権発足後の"試練"には備える必要がある

 開会挨拶に引き続いて、いよいよセッションが始まりました。司会は工藤が務めました。

 米国から最初に冒頭発言を行ったのは、ゲイリー・ラフヘッド氏(第29代アメリカ海軍作戦部長)です。オンラインで登壇したラフヘッド氏はまず、米国の大統領選挙の特色として、外交・安全保障政策は大きな争点とならず、なったとしてもウクライナとガザ、中国をめぐる技術と貿易問題に集中することを解説。「日米同盟や北東アジアの安全保障問題について、詳細に触れられなくとも心配する必要はない」としましたが、その一方で懸念も指摘。「歴史を振り返ってみると、米国の歴代新政権は発足後一年以内に国際的な試練を課されてきた。現在の紛争地域でもそれが起こると思っておいた方がよい」と忠告。「2025 年が明ける頃は、両国でリーダー交代の初期段階にあるという事実は、この地域での試練の可能性を高める」としつつ、その試練をもたらすであろう「中国と北朝鮮とのエスカレーション管理の道筋とプロセスが不十分」である現状を懸念。前回大統領選のように米国内で選挙結果をめぐって大混乱するような事態になれば、「それを敵対者は我々を試す絶好の機会と見做すかもしれない」とも語りました。

 ラフヘッド氏は、日米同盟については議論されるのは選挙後になるとしつつ、この同盟の現状はバイデン、岸田両首脳の尽力によって極めて良いものであると評価。障害となる中国と北朝鮮はこの同盟の消滅を望んでいるが、「彼らが消滅を望めば望むほどそれは我々の同盟を強固なものにするだろう」と自信を滲ませつつ、自衛隊と米軍の指揮統制の連携を強化するため、在日米軍に新たに発足させる「統合軍司令部」を真に機能し得るものにしたり、防衛装備品などの共同開発・生産で連携を強化したりすることができれば、さらにより良い結果を得られると語りました。

 ラフヘッド氏は最後に、地域の平和と安定のためには、物流・サプライチェーンの安定なども取り組むべき重要課題であると指摘。「日米関係は良い状況にあるが、やるべきことは常にあり、それをやり遂げなければならない」と深夜の米国から呼びかけました。

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難題を抱える統合軍司令部。政府は理念だけで動かずに現場の声を聴け

 日本から最初に冒頭発言を行ったのは、香田洋二氏(元自衛艦隊司令官)です。その中で香田氏はまず、1960年の日米安保条約の改定以降の日米同盟の歩みは世界に誇れるものであったと振り返りつつ、現在は「危機も生じている」と問題提起。

 「日米は何を共通の価値として今後も同盟を維持していくか。それは民主主義や自由だ。しかし、長年日本にとっての模範であった米国の民主主義は崩れてきているのではないか。それは日本から見たら不安だ」とし、米大統領選に伴う混乱と民主主義と自由の後退が同盟国に及ぼす負の影響を憂慮しました。

 香田氏はさらに、日米同盟をめぐる具体的な課題についても提示。統合軍司令部について、「いつでも戦争ができる米軍とそうではない自衛隊の歩調を合わせる司令部として機能させるのは極めて難しい。それにもかかわらず、東京の政治の理念だけが先行して、現場では何ら手を打たれていない」と厳しく指摘。日米だけでなく、日米韓の連携ともなればさらに難易度は上がるとしつつ、精緻な調整を求めるとともに、「政府は現場の声を聴け」と力強く訴えました。

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