北東アジアの現状は「新冷戦」ではないが、危機は山積しており、「熱戦」にしないための努力は不可欠第1セッション「北東アジアは『新冷戦』に向かっているのか」報告

2024年9月04日

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 9月3日から2日間にわたって開催されている「アジア平和会議」。2日目の9月4日(水)午後に開催された公開フォーラムの開会式に続き、宮本雄二氏(元駐中国大使)の司会進行による第1セッション「北東アジアは『新冷戦』に向かっているのか」が行われました。最初に、日米中韓4カ国の代表者による冒頭発言が行われました。


現在の状況は、「新冷戦」ではなく、「新しいグレート・ゲーム」

 米国からオンラインで登壇したのはゲイリー・ラフヘッド氏(第29代アメリカ海軍作戦部長)です。ラフヘッド氏はまず、「新冷戦」という言葉について、現在の状況とかつての冷戦構造の間には様々な異なる点があることを例示しながら否定的な見方を示しつつ、「私は数年来、現代の状況と私たちが直面している課題は、旧帝国の動揺の結果であると考えてきた。『新冷戦』ではなく、『新しいグレート・ゲーム』という表現の方がより正確だ」と発言。もっとも、中央アジアの覇権を巡るイギリス帝国とロシア帝国の敵対関係・戦略的抗争であった前回のグレート・ゲームの特徴をすべて備えたものではなく、「むしろユーラシアの旧帝国が米国とともに混在しているものだと考えている」との見方を示しました。

 その上でラフヘッド氏は、現在のこの競争は単なる軍事的競争ではなく、技術の競争という面も大きいと分析。自由民主主義国の間では今後もイノベーションが急速に進んでいく一方で、非自由民主主義国のそれは「それほど劇的には進まない」と予測。遅れを取っているプレーヤーの一つがまさにロシアであり、「ウクライナ侵攻は、モスクワが軍事面でも技術面でも他国に追いつけていないことを浮き彫りにした。古いやり方や古い製品に執着し、エネルギー収入のみで維持・抑制されているロシアは、今や不利な立場にある。若い世代の戦闘死者数が異常に多く、以前からロシアからの頭脳流出は明らかであり、ロシアの将来に悪影響を及ぼしている。確かに、ロシアには並外れた破壊力を構築し、提供する能力が残っているが、新しい技術時代に国民に繁栄をもたらす能力と構造は過去のものとなった」などと酷評。北朝鮮との関係強化もロシアの悲惨な運命を変えることはないと断じました。

ゲイリー・ラフヘッド氏.jpg


 続いてラフヘッド氏は、北東アジアの安全保障環境について予測。歴史を振り返ってみると、米国の歴代新政権は発足後一年以内に国際的な試練を課されてきたことを振り返りながら、「日本でも新指導部が発足する2025年、挑発的な出来事が起こることは間違いない」と警告。しかしその一方で、「それでも、米国の政治がいかに混乱しているように見えても、挑発された時の米国の結束を過小評価したり、中東や欧州の情勢変化に気を取られてこの北東アジア地域への関心や重要性認識が薄れたり縮小したりすることを願うのは賢明ではないだろう」と"ゲーム"の相手方を見やりながら指摘。その根拠として、日米同盟やAUKUSの展開が極めて盤石であり、それは今後も変わることはないと強調。米大統領選の結果によってもこの流れは変わらないとの見方を示しつつ、これらの盤石な同盟の展開と「露朝の協定のどちらにより将来性があるのか。考えるまでもない。今回のこの対話の事前資料で"中露朝"という括り方があることに気づいたが、私が北京の高官だったら他の二カ国について心許なく思うだろう」と語りました。

 その中国についてラフヘッド氏は、対中強硬は米国では超党派の合意となっているために米中対立は続くとし、貿易、技術、台湾、南シナ海がその主な舞台になると指摘。国内経済に不安を抱える中国が、対立に深入りすることは良くない将来につながると釘を刺す一方で、「中国は米国よりもユーラシアのグレート・ゲームに深く関わっている。中央アジアの古いグレート・ゲームの競技場は、モスクワと北京の両国から再び注目されている」と分析。ここにイランが加わることを懸念しつつ、自由民主主義陣営への加勢としてはインドのQUADにおける役割に期待を寄せました。

 ラフヘッド氏は最後に、「変化する地球、困難な人口動態、変革的で破壊的なテクノロジーという新たな結果的要因を加えると、この地域は新たな冷戦ではなく、複雑なグレート・ゲームの初期段階にある」と再度強調しながら冒頭発言を締めくくりました。

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