「第5回アジア平和会議」は9月3日から2日間にわたって東京で行われ、日本、中国、韓国、米国の4カ国の外交や安全保障の専門家、政府OBなど15氏が出席、この北東アジアの現在の安全保障リスクを分析すると同時に、地域の平和に向けてどのような努力が必要か、率直かつ踏み込んだ対話を行った。
今回の対話で、全体テーマに選んだのが「平和への覚悟」である。
私たちが事前に行った4カ国の専門家161名の評価では、北東アジアが「新しい冷戦の状況に今後入る可能性がある」との見方が多くなり、この地域の対立構造がリスクとして、浮かび上がっている。朝鮮半島では核開発を進め、周辺に挑発を繰り返す北朝鮮とウクライナで国際法違反の侵略を行うロシアが軍事協定を結び、この北東アジアやその周辺でも、中国と米国を中心とした同盟国との間で、軍事拡大と対立が恒常化している。
こうした状況にどう向き合うのか、それが今回の会議に問われた課題である。
この北東アジア周辺には、世界でも有数の危険な多くのホットスポットが存在する。朝鮮半島や台湾海峡、尖閣諸島、周辺に目を転じると南シナ海でも衝突に至りかねない緊張状態が続いている。
ところが、紛争の回避、さらには解決を話し合う4カ国の場は存在せず、また地域全体に合意された行動の規範もない。
大国間の緊張は高まり、平和の未来が見えない地域なのである。
今回の会議で考えたのは、力による抑止を目指すことがこの地域の最終目標なのか、ということである。力による抑止は手段にはなりえても唯一の手段になり得ず、それだけでは現状維持を超えて双方の軍事拡大と対立を止めることはできない。手段として、この地域が求める紛争の解決や安定を実現するためのゴールではないのである。
では、何が今、この地域に必要なのか。紛争のリスクを管理し、共通の課題で力を合わせる努力ではないか、それが、わたしたちの結論である。今回の会議で、今年、最大リスクと評価した「朝鮮半島」の議論に多くの時間を割いたのはそのためである。
今回、議長メッセージという形で、会議で話し合った主要な論点と提案を公表するのは、対立構造にあるこの地域で平和に向かうもう一つの道と、この4カ国会議の今後のビジョンを提起したいと考えたからだ。
もちろん、それぞれの専門家に様々な言い分があり、その認識はかなりの開きがある。しかし、対立構造が深まり、リスクが拡大しかねない局面だからこそ、平和の基本に戻らなくては、と私たちは考えた。
4年前、私たちは日米中韓という、これまでにはない4カ国の会議を立ち上げた。民間の舞台でも主要な関係国が、率直に話し合う場がこの地域の未来に不可欠だと考えたからだ。
今回の会議で問われたのが、この「4カ国」の今日的な意味である。
まさに今、核の威嚇と使用の危険性がこの地域に増している中で、4カ国の役割と重要性はこれまでにも増して増大している。
この4カ国が協力して課題解決の先頭に立つことができるとすれば、この地域の未来に決定的な影響を及ぼすだろう。
そのための努力が今、問われているのである。
今回の4カ国のアンケートで中国の専門家が、五番目のリスクに「北東アジアの全体の安全保障問題を話し合う政府間の枠組みがないこと」を挙げたことも、その努力の一例である。
私たちにはこの4カ国会議を将来、政府関係者も参加できる仕組みに発展させたいと考えている。そして将来はこの地域に関わる多くの国の政府や団体も参加する場を作ることが、私たちの希望である。
こうした信頼醸成の仕組みの土台作りに貢献するのが、この「アジア平和会議」と4カ国の専門家に問われた役割だと考える。今後も努力を重ね、その責任を果たしたい、それが、私たちの「平和の覚悟」なのである。
「アジア平和会議」