言論NPO代表 工藤泰志
今回、言論NPOと中国国際伝播集団が行った20回目の日中共同世論調査は、分断と対立が進む世界の現状やウクライナ、北朝鮮、国連などの多くの分野での中国国民の認識を明らかにすることに成功している。
中国国民の半数近くは、世界の緊張の原因を「核保有国で、国連安保理の常任理事国でもある国が他国を侵略し、かつ核使用の威嚇を行うなど、これまで考えられなかった事態を世界が止められないこと」と回答し、ウクライナへのロシアの侵略行為は「国連憲章や国際法に違反する行為」だと判断する人は7割にもなっている。
今回、初めて中国が応じた北朝鮮の核開発に関する設問では、中国国民の7割近くが非核化は困難だと考えているが、半数近くは「それでも努力は継続すべき」だと判断している。
こうした世界に存在する多くの困難な課題において、日中両国民は認識を共有し、これからの世界では国際協調こそが大事だという点も両国で最も多い回答となっている。
今回の日中世論調査で明らかになったもう一つの大きな特徴は、日中両国民に世界が直面する課題に対して意識の共有が見られた反面、中国国民の対日意識がこの一年で大きく、しかも全面的に悪化したことである。
これまでの調査では、日本国民の中国への感情悪化がより目立っていたが、今回の調査では中国国民の日本への好感度が著しく悪化しただけではなく、日中関係への期待や経済も含めたあらゆる分野での日中協力への中国国民の支持が劇的に後退しており、これまでの20年間の調査で経験したことがない亀裂が国民意識に見え始めている。
日中関係はこれまで何度も困難に直面したが、それでも両国民には隣国意識や長い歴史の交流を経て特別の信頼があり、日中関係は重要だと考える両国民はこの20年間、一度も6割を切ったことはない。それが今回、中国国民では昨年の60.1%から26.3%にまで落ち込んでおり、6割を大幅に切っている。
中国国民の視野に広がる日本の姿は、政府間の対話や国民レベルの交流の遅れ、一部政治家などの発言も影響し、再び「軍国主義」や「覇権主義」に戻りつつある。
今年11月に行われた日中首脳会談では、世界の共通利益のためにお互いの違いを乗り越えて協力するという、戦略的互恵関係の包括的な推進で再度合意している。
今回の調査結果は、それを支える国民間の信頼の基盤を失い始めていることを浮き彫りにしている。
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