12月3日に開幕した「第20回東京-北京フォーラム」(主催:言論NPO、中国国際伝播集団主催)は翌4日、東京・芝公園のザ・プリンス パークタワー東京で始まりました。
コロナ禍を経て、東京では6年ぶりの対面開催となった今回のフォーラムは5日まで、「多国間協力に基づく世界秩序と平和の修復に向けた日中協力」を全体テーマとし、日中両国を代表する各界の有識者が議論を交わします。
4日午前の全体会議では冒頭、開幕式が行われ、司会は言論NPO代表の工藤泰志が務めました。
国際社会に責任を有する日中両国が、しっかり議論し、相互理解を一層深めることが重要
まず日本政府を代表として岩屋毅外相が登壇し、本フォーラムが20年にわたって「言論のプラットフォーム」を担っていることに対して謝意を表明しました。その上で日中両国がこの間、さまざまな問題に直面しながらも関係発展に努めてきたことに言及して「両国は地域や世界に対しても大きな責任を有している。日中関係の建設的かつ安定的な発展は多くの国々や人々が望んでいる」と指摘しました。同時に、10月の外相就任直後に中国外交トップの王毅・共産党中央政治局委員兼外交部長と電話協議を行ったことに触れて「両国民に『日中関係が発展して良かった』と実感してもらえるように、外相同士でしっかりと意思疎通していこうと確認したところだ」と振り返りました。
さらに石破茂首相と李強首相、習近平国家主席による先の日中首脳会談で「戦略的互恵関係の包括的推進」と「建設的かつ安定的な関係」を構築するという方向性を再確認したことに言及して、「あらゆるレベルで幅広い分野における意思疎通を強化していく」と強調しました。同時に中国政府が最近発表した短期ビザ免除措置が再開した話題について「日中関係のニュースにも前向きなものが少しずつ増え、両国関係は再び前に進み始めた」と歓迎した上で、自らの早期訪中の意思を重ねて表明。続けて「懸案解消と協力拡大に向けてしっかりと議論し、適切な時期に王毅外相を日本にお迎えしたい」と述べ、協力・連携の方策の具体化に向けて議論を加速する考えを示しました。
さらに混迷を深めるウクライナ戦争や中東情勢に対処するために国連安全保障理事会をいかに機能させるかなど、グローバル・ガバナンスの強化を念頭に「国際社会に責任を有する日中両国が、しっかり議論することが重要だ。『日中共同世論調査』の結果を見ても、相互理解を一層深めることの重要性を改めて感じている。本日も率直に意見を交わし、実り多い成果が得られることを期待している」と述べ、本フォーラムの成功と発展に大きな期待感を表明しました。
日本や重要なパートナーであり、互いに脅威とならない重要な共通認識を実践に移すことを期待
中国側の政府挨拶として王毅外交部長(外相)がビデオメッセージを寄せました。王毅外相は冒頭、本フォーラムが中日関係の発展を推進する上で「大きな役割を果たしてきた。特に逆境においても、国交正常化の諸原則を守り、友好の信念を固め、国民の相互理解の増進に粘り強く取り組んできた」ことを高く評価しました。
その上で、中日両国がアジアと世界の中で重要な国であるとの認識を示し「正しい方向に進む中日関係は地域と世界の平和と発展にとても重要だ」と指摘しました。さらに11月の日中首脳会談で確認された四つの政治文書(「日中共同声明」1972年、「日中平和友好条約」1978年、「日中共同宣言」1998年、「日中共同声明」2008年)に従って「中日の戦略的互恵関係を包括的に推進し、時代の要求にふさわしい、建設的で安定的な両国関係の構築に取り組むことに一致した」ことに言及。さらに「両国の指導者の重要な共通認識を指針として、正しい道に沿って共通認識を醸成して行動することに重きを置き、共に両国関係の長期的で安定した発展を推し進めていくべきだ」と呼び掛けました。
加えて王毅外相は「中国は常に日本を重要な協力パートナーと見なしており、日本側も中国の発展を客観的かつ理性的にとらえ、互いに脅威とならない重要な共通認識を実践に移すことを期待する」と述べ、日本側の出方を注視する考えを表明しました。
また、岩屋外相の早期訪中に関しても「歓迎する」と語り、自らも「適切な時期に訪問し、両国指導者の共通認識を実行し、二国間関係の発展を推進するため共に努力したい」との意向を明らかにしました。
一方、四つの政治文書を改めて引きながら「あいまいにしたり、後戻りしたり、ましてや破壊したりしてはならない。歴史問題や台湾問題はデリケートで重要だ。両国の交流と協力のベースラインと良識に関わってくる。真に歴史を鑑としてこそ、初めて未来を切り開くことができる」と釘を刺しました。同時に来年の抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年を念頭に「日本は改めて歴史や道義、時代の問いに直面することになる。過去の過ちから教訓と学びを得て平和的発展を続ける決心を再び示して、隣人として正しい道を改めて悟りを開くよう願っているし、できるものだと信じている」と強調しました
本フォーラムの全体テーマ「多国間協力に基づく世界秩序と平和の修復に向けた中日協力」についても「両国の当然の責任だ。一国主義の台頭、保護主義の蔓延を前に、中日双方はアジアの団結と協力を共に守り、域外勢力による対立と対抗の挑発を防がなければならない」などと主張。対立を深める米国を念頭に牽制しつつ、「真の多国間主義と開放的な地域主義を提唱実践し、世界の平和発展・繁栄にエネルギーを与えていくべきだ」と訴えました。同時に本フォーラムの開催意義に関して「率直な交流で共通認識を醸成し、アドバイスを提供してもらい、新時代の要求にふさわしい中日関係の構築に貢献するよう期待している」と述べ、挨拶を結びました。
日中間の危機を解決するためには政治指導者の大局的判断が必要であると同時に、若い世代の交流が極めて重要
続いて基調講演が行われました。日本側基調講演は、「東京-北京フォーラム」最高顧問の福田康夫元首相(都合により、宮本雄二・実行委副委員長〔宮本アジア研究所代表、元駐中国大使〕が代読)が、中国側からは莫高義・国務院新聞弁公室主任がそれぞれ登壇しました。
福田元首相の基調講演では冒頭、「『継続は力なり』と言うが、この20年の歳月を経て、今や誰もが認める日中間の民間ハイレベルの、貴重な対話の場に成長した。日中の参加者の間にしっかりとした信頼関係が育まれたからではないか」と、本フォーラムの継続性を高く評価しました。同時に「そこから見えてくるのは、日中関係は大変大事であり、建設的で協力的な関係を築かなければならない、という信念を共有して、信頼関係ができあがったものだ」と述べました。
続けてこの20年間の国際情勢を踏まえて「最大の変化が中国の台頭だ。世界大国となった中国の存在、言動の一つ一つが世界全体に大きな影響を及ぼすようになったが、この新しい現実に日中双方が上手に適応しているようには見受けられない」と指摘。同時に「中国の台頭という現実の中で、世界の平和と発展という共通の課題をいかに実現するか、全世界の英知が問われている」と主張しました。さらに先の米大統領選で「再選」を果たしたトランプ前大統領が主張する「排外的な一国主義や保護主義傾向」などに言及して、「世界の対立と緊張を緩和し、分断を回避し、協調と協力の平和な世界をつくる国際的な努力が今ほど強く求められている時はない」と訴えました。その上で、11月のG20首脳会議において習近平主席が国連憲章の根本理念と原則を基礎とする国際規範を守ることなどを表明したことに対し「心から歓迎する」と述べると同時に、石破茂首相との日中首脳会談において、「戦略的互恵関係の包括的推進」を再確認したことを評価しました。
一方で、日中間には「対話の危機、相互理解・信頼の危機に直面している」と懸念を表明し、危機を解決するためには「政治指導者の大局的判断が必要である」と指摘。続けて「今日、国民同士の直接交流の重要性はさらに高まっている。若い世代の交流が極めて重要であり、首脳会談において青年交流の強化を再度合意してほしい」と要請、そのためにも本フォーラムの議論の成功が鍵を握るとの認識を表明しました。
日中両国はパートナーであり、脅威にならないとした政治的共通認識を行動に反映することが重要
続いて登壇した莫高義・国務院新聞弁公室主任は、20年の節目を迎えた本フォーラムの開催意義について「中日友好の発展を推進する上で重要な役割を果たしてきた」と大いに評価し、各界の参加者らの労をねぎらいました。その上で、混迷を深める国際・地域情勢に触れて「両国首脳の重要な共通認識を着実に実行し、四つの政治文書で定められた原則と方向性に基づいて各レベルでの交流を強化し、相互信頼を深めて、着実に中日関係を長期的に発展させるべきだ」と訴えました。
また、中国の故事「遠くの親類よりも近くの他人」を引きながら「中日は一衣帯水の隣国であり、文化のつながりが深く、古くから交流が続いてきた」と指摘し、両国民が助け合ってきた歴史的経過を振り返りました。同時に実情に見合った発展を遂げた「中国式現代化」について説明した上で「改革開放と革新を原動力とした『中国式原動力』は、日本にとっても大きなチャンスになる。改革は私たちの党が人民を率いて行う、新しい偉大なもので、世界的に目を見張るほどの中国の奇跡を生み出した」と自賛しました。続けて中国の平和的な改革開放と成長によって「日本が"現代化"を実施するプロセスにおいて、産業政策や企業の技術革新、教育改革、社会保障制度の構築などで多くの経験が、私たちに学ぶべき価値があるものだ」などと主張しました。
さらに中日関係のありようについても「アジアの重要な国だ。戦略的な自主性を堅持し、隣国と友好的に付き合い、互いに協力パートナーとして脅威にならないとした政治的共通認識を、政策の実際の行動に反映させなければならない。各分野の交流と協力に新たなエネルギーを注入し、地域の平和と安定の維持に力を注いでゆく必要がある」と語りました。
マスメディアの関係性についても両国の友好発展と交流促進に不可欠だとの認識を示した上で、「和合」という共通の文化理念を強調。「和を以て貴しとなす、ことを熟知している。双方が青少年、シンクタンク、地方など多面的な交流を深化させ、来年の大阪万博の機会を活用して、国民により多くの交流をさせたい」と訴えました。
「小異を捨てて大同につく」精神に基づき、次の10年の対話に期待
基調講演に続き、日本側主催者挨拶として、本フォーラム日本側実行委員長の武藤敏郎・元日銀副総裁(2020東京五輪・パラリンピック組織委員会事務総長)が登壇しました。2005年の第1回フォーラムが北京で開催されて以降の20年間について「日中関係は山あり谷ありの厳しい状況が続いたが、一回も休むことなく対話を継続できたのは日中間の相互信頼にあることは疑いがない」と指摘しました。今回八つの分科会で議論を予定することに関して「日中双方のハイレベルの有識者による対話が実り多いものになることを期待したい」と呼びかけました。
その一方で、最新の日中共同世論調査で判明した「悪化」傾向にある日中間の国民感情に対して「相互の対話を続けてきた本フォーラムにとっては『残念な現実』と言わなければならない。我々はその原因について謙虚に、本音で話し合い、決してあきらめることなく相互理解を深める努力をしていく必要がある」と強調。さらに「対話」を10年間継続させることで合意を見た点について「日中双方が関係改善・発展のために、このフォーラムが極めて大事だという共通認識に基づくものだ」と述べ、「次の10年」がより効果的な対話を促すものになることを要請。日中最大の民間外交の立場から「小異を捨てて大同につく」精神に基づき、改めて「両国民レベルの相互理解を促進するために努力をする」決意を表明しました。
次の10年、中日関係が発展し、世界の平和と繁栄に大きく貢献できるよう力強く推進していく
同じく挨拶に立った中国側主催者の杜占元・中国国際伝播集団総裁は、本フォーラムが20年の歴史を数えるに至ったことについて「中国では20歳を『弱冠』、日本では『成人』と呼ぶが、まさにそのような節目を迎えた」と述べ、困難な状況にあった当時の中日関係を打開し、民間の交流と友好を深める使命を担ってきたことを評価しました。同時に本フォーラムの内容や形式が充実してきたことに触れて「現在では中日両国で最も影響力のある民間外交プラットフォームとして注目を集めている」と指摘し、世代を越えた友好・協力関係の構築と信頼醸成の重要性を説きました。
さらに「新たな10年の発展」に向けて、①時流に合わせた議題設定と戦略的な高みへの到達」、②革新と創造性を促し、多様な力を結集し、・協力の深化、③未来に向けて若者の参加、交流拡大──の3点の項目を提案。「新たな時代の到来を迎え、中日関係が安定して永続的に発展し、世界の平和と繁栄に大きく貢献できるよう力強く推進していこう」と訴えました。
これまでの延長ではない、新たな次の10年の対話に向けて合意
開幕式に続いて、2024年以降の「次なる10年」も「対話」を継続することを確認する調印式が行われ、総合司会は言論NPO国際部長の西村友穂が担当しました。
立会人各3人(日本側:武藤氏、宮本氏、山口廣秀・元日銀副総裁、中国側:莫高義氏、程永華・元駐日大使、呉江浩・駐日大使)が見守る中、日本側主催者の言論NPO代表の工藤と、中国側主催者の杜占元・中国国際伝播集団総裁が調印。「真新しい10年の幕開け」(杜占元氏)を祝い、「これまでの延長ではない新たな対話」(工藤)にすることを誓って固い握手を交わすと、会場から大きな拍手が送られました。