「第20回東京-北京フォーラム」は、両国間で「東京宣言」に合意し閉幕 ― 2日目全体会議 報告

2024年12月05日

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 12月3日開幕した「第20回東京―北京フォーラム」。議論2日目の12月5日は、午前の分科会に続いて、午後から全体会議が行われました。その冒頭、日中両国の大使が挨拶に登壇しました。


問われているのは"真の多国間主義"の実践。日中両国の協力は十分に可能

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 中国の呉江浩・駐日本国特命全権大使は、11月の日中首脳会談の中で、習近平主席は中日両国ともにアジアと世界の重要な国であり両国関係は二国間の枠組みを超えた重要な意義があると強調し、石破茂首相も日中両国が地域の平和と繁栄に対して重要な責任があると表明したことを紹介。「両国が多国間の協力を強化し、国際秩序をともに維持し、様々なグローバルな挑戦に協力して対応すべきということは、両国の指導者が繰り返して確認してきた重要な共通認識でもあり、戦略的互恵関係に内包されている意味でもある」としつつ、「多国間協力に基づく世界秩序と平和の修復に向けた日中協力」という今回のフォーラムのテーマはまさにその趣旨に合致したものとして高く評価しました。

 その上で呉大使は、両国の協力強化を進めていく上で必要なことについて発言。まず大前提として、国民世論を前向きなものにすることと同時に、政府間関係の改善と発展が不可欠との認識を示した上で、そのためには「両国の指導者の共通認識を速やかに実行に移すことが大事だ」と指摘。四つの政治的文書の各原則を厳守するとともに、「歴史問題や台湾問題など両国関係の政治的土台に関わる重大な問題において約束を守り、信用を重んじる必要がある」と日本側に要求。同時に、「政治的な相互信頼を深め、互恵的な協力を深化し、民間交流を強化し、中日関係の長期的健全で安定した発展を推進していくべきだ」と呼びかけました。

 その上で、「肝心なことは真の多国間主義の実践だ」とした呉大使は、両国はともに国連中心の国際システムを支持していること、多国間主義をサポートしていること、自由貿易を提唱していること、地域協力を重視していること、そしてルールの維持をサポートしている国だと共通項の多さを指摘。原則や理念に対する認識が完全に一致しているわけではないものの、日中協力の土台は十分に整っているとの認識を示しました。

 呉大使は、中国は「世界には一つのルールと秩序しか存在しない。それはつまり、国際法を基礎とした国際秩序、国連憲章の諸原則を土台とする国際ルールであるということだ」としつつ、それは決して「少数の国が主導し、少数の国の意思のみを反映し、少数の国の利益のためだけにあるような秩序とルールではない」と強調。ウクライナ、中東、朝鮮半島、強権政治の横行、覇権主義の台頭、関税戦争の勃発、エネルギ・食糧安全保障、人工知能といった、世界に存在している様々な課題や懸念を矢継ぎ早に列挙しながら、「日本、そして全ての国とともに真の多国間主義を実践していく。グローバルガバナンスをより公正で合理的な方向に向けて発展させていきたい」などとしながら、「人類運命共同体」の構築に向けた協力を呼びかけました。


民間交流、そして"学び合い"が日中関係の基礎となる

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 日本の金杉憲治・駐中華人民共和国特命全権大使は、ビデオメッセージを寄せました。金杉大使は、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢をはじめとして「国際社会の多くの地域で混沌とした状況が生じている」とした一方で、アジア地域、特に東アジアは、「様々な課題はあれども、全体として見れば平和と安定、そして経済的繁栄を享受している」と評価。その上で、「こうした状況を次世代に必ずや受け継いでいかなければならない。そのためには、日中両国が緊密に意思疎通を図り、二国間関係をできる限り安定させる努力が欠かせない」と訴えました。

 日中両国の首脳もそれをよく理解しているからこそ、11月に首脳会談が実現したとの認識を示しつつ、そこで再確認された戦略的互恵関係について「一言で言えば、日中間の様々な懸案は適切に管理して、それが両国関係の大局に悪影響を与えることを避けつつ、共通する課題についての協力を深化させることである」と解説。同時に、「これを一つひとつ具体的案件で実現していくことが私達外交官の仕事だ。日中関係が発展して良かったと両国民が実感できるような具体的成果を積み上げていきたい」と意気込みを語りました。

 金杉大使はさらに、個人のあり方についても言及。「日中関係のために、私達が個々人としてもできることは何か。それはお互いがよりバランスの取れた形で相手の現状を理解する努力だ。日本人であれ、中国の方であれ、我々は他者のプリズムではなく、自らの視点で相手を理解する勇気を持たなければならない」と指摘しつつ、中国について悪いニュースばかりが大きく取り上げられる傾向がある中で、「実際に中国に来て、現場を見て、そして関係者と意見交換することが重要」だと説くとともに、11月30日から日本に対する査証免除を中国側が再開したことは、日中間の交流を後押しする重要な契機であると歓迎しました。

 その後も重ねて民間交流、とりわけ若い世代の交流の重要性を説いた金杉大使は最後に、「学び合い」の重要性についても発言。かつて弘法大師・空海は海を越えて中国で密教を学んだものの、その本場中国ではその後密教は廃れてしまったと解説しつつ、「空海の教えが今も息づく高野山大学には、十名近い中国人留学生が在籍している」ことを紹介。「平安時代に日本に伝えられた密教の教えが、タイムカプセルのように今なお息づいていること自体が奇跡のようだ。そして、それを日中両国の学生がともに学んでいる。これ自体が時空を超えた学び合いであり、日中間の重層性を体現している」とした上で、20回を迎えた本対話での真剣な議論もお互いの学び合いの重要性を示していると評価しました。


「次の10年」に向けて視線をさらに世界へ

 その後、各分科会報告を経て、川島真氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)の司会進行の下、工藤泰志(言論NPO代表)と高岸明氏(中国外文局総編集長)による「次期10年座談会」が行われました。

 そこではまず、20年前に反日デモが激化する中国を訪問した工藤が、当時の国務院新聞弁公室主任で、本フォーラムの生みの親の一人である趙啓正氏と出会い、「センチメンタルな感情にもとづく世論を、課題解決の意志を持つ声である輿論に変えなければ、このまま日中対立が続いていってしまう」という危機感を共有したことから始まった本フォーラムの歴史が詳細に語られました。

 20年間で9つのコンセンサスを得て、「日中最高の公共外交プラットフォーム」と世界で評されるようになった本フォーラムですが、工藤と高岸明氏は口々にその苦難の歴史を語り、中でも尖閣国有化の翌年、日中平和友好条約締結35周年である2013年には最大の危機を迎えたと回顧。初の開催延期に追い込まれた中でも、「志を共にする人々が常に一緒だったから乗り越えられた。政府の行動に左右されても政府にぶつかり、そこを切り抜ける経験ができた」としつつ、そうした強い意志が歴史的な日中民間合意「不戦の誓い」に結実したと工藤は振り返りました。

 続いて川島氏から「次の10年」について問われた工藤は、戦争や気候変動など課題が山積みであるにもかかわらず、世界で国際協力が後退している現状を強く懸念しつつ、単なる日中二国間だけではなく、世界に視線を向けることが重要であるとし、そうした意識のある新しい人材、とりわけ若い世代を取り込んでいきたいと語りました。

 高岸明氏も、日中二国間から地域、そして世界に視野を広げ続けてきたのがこの20年間の本フォーラムだったと振り返りながらこれに賛同。「戦略的にテーマ設定をデザインし直し、重要な国際課題解決に乗り出していく」と意気込みを語りつつ、「そのためにはフォーラムのブランドを高めて、政策への影響力を高めていく必要がある」と課題を口にしました。

 最後に、日中両国の市民に対するメッセージを求められた工藤は、「歴史が動く中で責任を持った議論を展開していく。これからも対話を見守り、力を貸してほしい」と呼びかけ、座談会を締めくくりました。

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 最後に、工藤から「東京宣言」が発表されました。「多国間主義に伴う世界秩序と平和の修復」を全体テーマとし、日中両国がアジアや世界の未来に向けた協力に一歩踏み出す舞台となった節目の第20回「東京―北京フォーラム」はこれで全日程を終了しました。

 「次の10年」の第一歩となる第21回フォーラムは中国・北京で開催の予定です。詳細が決まり次第、言論NPOで随時お知らせいたします。