今回のフォーラムでは、特別分科会が二つ設けられました。その一つ目では、「世界の紛争解決と平和構築に日中はどう取り組むのか」をテーマに議論が行われました。日本側司会は工藤泰志(言論NPO代表)が、中国側司会は楊伯江氏(中国社会科学院日本研究所所長、中国日本協会常務副会長)がそれぞれ務めました。
その冒頭、工藤は「現在、世界では50以上の紛争があり、特にウクライナやガザではその解決がいずれも難しい局面になっている。国連の安保理も機能を失い、世界が協力して紛争を止めることができていない」と現状認識を示した上で、今回の「日中共同世論調査」結果を紹介。「私が注目したのは『世界の紛争や緊張の原因はどこにあるのか』という設問だ。最も多い回答が『核保有国で、国連安保理の常任理事国でもある国が他国を侵略し、かつ核使用の威嚇を行うなど、これまで考えられなかった事態を世界が止められないこと』で、次に多い回答が『世界の平和を維持するために国連が全く機能していないこと』という点で日中両国民は一致している。では、両国の専門家の皆さんはどう考えているのか」と問いかけ、議論がスタートしました。
西欧発ではない新しい概念が出てくる。不確実性の高まる世界の中で日本は何をすべきか
最初に問題提起が行われました。日本側から登壇したのは西正典氏(日本生命保険相互会社特別顧問、元防衛事務次官)です。西氏はまず、西欧・米国と中国の間に横たわる概念のギャップについて言及。西欧で紡がれてきた国民国家の歴史には明快に「国境」と「民族」という概念があるのとは対照的に、中国ではこの二つは希薄であるとし、特に国境については「中華の恩恵に浴しているのはどこまでか、というグラデーションはあっても国境という明快な線は存在してこなかった」との見方を示しました。
そして、「では、なぜ国境という概念が現在の世界で流通しているのかと言えば、それは西欧が長い間国際政治のイニシアチブを取っており、それを妥当なものだとしていたからに過ぎない」としつつ、「西欧のイニシアチブが弱まってきたので、新しい概念が出てくる」と予想。同時に、「ただし、これから出てくるであろう新しい概念がどういうものになるのか、それについてはまだ何の答えもない」として、世界の不確実性がより一層高まるとの見方を示しました。
西氏はさらに、こうした西欧発のロジックを支えてきた米国も、既にニクソン政権期にはその擁護者としての地位から降り始めていたとしつつ、第二次トランプ政権になって完全に手を引いてしまうことを懸念しました。
その上で西氏は、日本が考えなければならないことについても問題提起。「地政学的な位置を考えると、日本は非常に重要なゲートキーパーだ。このゲートが大陸に向かって開くのか、それとも海洋に向かって開くのかによって覇権の存在が変わる」「現在日本に駐留している米軍は、インド太平洋全体の戦略予備軍となる。仮に日本がその駐留を拒否した場合には米国の世界覇権は成り立たない。逆に米国の方から撤退に向けた何らかのアクションが出た時に、日米安保を必須のものとしている我々日本はどうするのか。これについての答えもまだない」などとして、東アジアにおける平和を維持する上での課題を提示しました。
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