2006.5.19開催 アジア戦略会議 / テーマ「日韓関係」
パク・チョルヒ氏 発言要旨(会員限定)

2006年5月22日

 小泉政治は革命的だった。経世会的な政治をひっくり返し、役人中心の調整型政治から官邸が引っ張る政治へ、組織中心の選挙から大衆中心のそれへ、公共事業型国家から新自由主義へ、通商国家から安全保障を中心とする普通の国家へと、日本を変革した。

 しかし、外交面では、従来のアジアとのバランスという軸から、よりアメリカに近づき、かつての「脱亜入欧」というよりも、「通米入亜」、つまり、アジアに入るためにアメリカと付き合っているという路線を採り、それが負の遺産になっている。国内政治での得点をアジア外交で失っているといえよう。

 それは今の韓国も同じで、ノムヒョン大統領と小泉首相はやり方が同じであり、政治的に双子ともいえる。アジアは自主外交と言いながらアメリカに近づき、外交は外務省ではなく青瓦台が引っ張り、人の意見を聞かないという点でも、一般大衆へのメッセージを大事にする点でも、彼は小泉総理に似ている。

 ただ、日本と韓国は協力しなければならない共通点がいくつかある。例えば、民主主義、市場経済、市民の人権を大事にする点などは共通点であるし、一般市民の交流は、島の領有権の問題とは無関係に自由で気楽な形で深まっている。政治家や役人のレベルでギクシャクしているのであり、両国関係は、かつての逆三角形(上部のエリート層による政治経済優先の交流)から、三角形(底辺に行くほど幅広い)、すなわち、政治家の付き合いが減る代わりに一般市民の交流が拡大するという形になっている。こちらの方が安定する。

 今、日本と韓国との間には、(1)過去の歴史の扱い方、(2)北朝鮮を見る目、という2つの側面で問題がある。この2つについて、両国の見方が異なっているという問題である。

 まず、(1)の面については、日本も韓国も両国とも、それぞれ、次のような問題がある。

日本側については、
①第一に、インセンシティビティーの問題、つまり、あまり細かいことは考えずに物事をやってしまうという問題である。靖国参拝問題については、それが過去の歴史問題と何の関係があるのかというような発言がどうして出るのか。センシティブな問題をインセンシティブに扱っている。
②第二に、ケアレスミスである。独島の問題も、過去の歴史問題となぜ結びついているのかといった発言が見られるが、島根県が2005年に独島100周年を行なったことは、その100年前の1905年が日本の植民地化が朝鮮で始まった年であることから、独島を過去の問題と結びつける連想を韓国側に生んでしまった。これはまさに島根県のミスであった。この問題はこうした日本側の不注意にも責任がある。
③第三に、インコンヒアランスである。日本は村山談話を含め、何度も「謝罪」していると言うが、同時に、色々なところから問題発言が相次いで出ている。デュアルメッセージが同時に出ており、いったいどちらが本当なのか、理解しがたい。

韓国側については、
①第一に、日本をきちんと評価していないという問題がある。戦前と戦後を分けて考えていない。
②第二に、日本を過大解釈している。独島の問題も、日本の海保の動きの背後に大きな陰謀があると解釈している。日本は一枚岩で、何事も大きな陰謀の一環だとみてしまう。
③第三に、韓国側に非常に大きな被害者意識がある。

 次に、(2)の北朝鮮の問題については、日本は韓国が宥和政策をとっているとみて、苛立っているし、韓国は日本が北朝鮮の軍事力を過大評価しているとみて、日本のやり方に苛立っている。日本は、韓国とは逆に、北朝鮮をどうしようもない国だと見ており、見方がぶつかり合っている。北朝鮮の真実は、両国の見方の中間にあるのではないか。

 日本と韓国は、中長期的に戦略を共有すべきである。それは、北朝鮮に対して、民主主義と市場経済を拡散することである。北朝鮮は中国に従属してもよい、核がなくなれば親中政権が継続してもよいとの見方があるが、北朝鮮にはマーケットの影響力があまりに不足している。そこに、日本と韓国がどう入るのかを考えるべきなのである。日本と韓国とで戦略を共有すれば色々とできることがあるはずであり、日本にはそのようなアジア戦略、北朝鮮戦略があるのかが問われている。

 では、日本と韓国は何をすべきか。第一に、お互いに刺激しないことである。最近では、日本が韓国を刺激し、韓国が過剰反応するという悪循環が見られる。第二に、うまく管理することである。根本的な解決は困難だとしても、問題を管理して封じ込めることは可能だろう。第三に、問題の不拡散の約束、ルール作りである。現状では、問題が広がっても、誰も止めていない。

 そのために、日本と韓国は何を合意すべきかというのは抽象的な話にみえるかも知れないが、戦略とはそのようなものではないか。どのようなやり方で、どのような目標をもってやっていくのかという点こそが重要なのである。[以上、パク氏のスピーチの概要]

  このあと、メンバーとの議論の中で、パク氏は次のように述べました。


 韓国の歴史観は、日本と中国との狭間で自国はいつもやられている、というところから脱しきれていない。しかし、北朝鮮については何とか対処できるという自信を持つようになっている。戦争をしても勝つだろうと思っている。日本は韓国にとって、いつも大きな山だった。1950年~2000年の間が、韓国にとって中国の存在感が薄かったという意味で、最も幸せな時代だった。しかし、現在では、90年代に急ピッチで伸びた中国をどうするかが、韓国では大きな問題になっている。韓国は、中国は韓国を馬鹿にしていると思っており、日本と中国との間で挟まれ、その地政学的な位置も含めて、自国はいつまで生き残れるのかという気持ちを抱いている。

 他方、ある程度豊かになり、民主主義もある程度達成した韓国のこれからの課題は先進国化である。国民が一丸になって、という時代ではなくなってきた。今までに比べ、韓国はかなり落ち着いてきたといえるし、国民もグローバル化、多様化が進んでいるが、役人、学者、ジャーナリズムのグローバル化が最も進んでいない。

 日本で今、最も重要なのは、大衆民主主義の時代にあって世論が極端なナショナリズムに流れないようにするためにも、各界の有識者がきちんとした議論をし、それをアジアなどに発信する(言論NPOのような)場を構築することである。