そもそも「戦略」とは、①悪いことが起こることを防ぐ、②良いことが起こることを促進する、という二面から考えるべきものである。
①については、最悪の事態を想定し、起きないようにするにはどうするか、起きたときにはどうするかを考えることが要諦であり、日本にとって最悪の事態とは、やはり、日本が核攻撃をされることである。日本の周辺には、ロシア、北朝鮮、中国...と核兵器保有国が多数存在し、核を持たない日本は自らの力だけでは核抑止ができないことが基本になる。
この点で、日本はアメリカの核の傘の下にあるため、中国などが日本に核攻撃をしないことが当然視されてきた。核抑止力は依然として世界の安全保障の重要な要素であり、日本にとっては、アメリカの核抑止力の信頼性を低下させることが最も良くないことである。通常兵器だけの世界であれば、日米安保体制がなくても日本は独自に色々なことができるが、それでも、日本が独自にやるのは困難が伴う。中国と日本の戦闘機の配備状況をみても、日本だけで対中優位を維持することは大変であり、通常兵器の世界でも日本はアメリカと結ぶのが有利である。
さらに、最近のテロリストなどの新たな21世紀型の安全保障上の脅威に対しては、日米安保だけでは万全ではなく、もう少し色々なことをしなければならなくなっている。
戦略のもう一つの②の側面については、外交、経済、科学技術など、様々な手段を駆使してこれに当たることになる。その際、国際環境として日本にとって今よりもずっと良い状態とは、日本周辺地域が現在の西ヨーロッパのようになることである。では、どのようにすれば西ヨーロッパのようになるのかを考えることが戦略となる。そのためには、少なくとも、この地域全体の生活水準が高くなり、自由や民主主義といった価値観を共有するようになることが必要である。東アジアの現実はそれからは遠いが、北朝鮮を除けば経済の相互依存関係が強まっているので難しいことではない。特に、中国沿海部の経済成長を中国全体の変化につなげていくことが重要である。
日本にとって望ましいのは、これを進める上で日本がそれなりの役割を果たすことであり、そのプロセスで、それは日本人の暮らし向きの向上や自尊心にもつながっていく。
言論NPOが行なったパワーアセスメントは大変包括的なものと評価でき、その指標を作ること自体が日本のそれなりのソフトパワーにつながる。しかし、難しいのは、本当に「パワー」という現象があったかどうかは事後的にしか分からないということだ。果たしてアメリカが中東に対するパワーがあったのかどうか、フセイン体制の打倒についてはあったが、民主政権樹立についてはなかった。何についてどこまでパワーがあったかは、最終局面に至るまで評価できない。但し、ある程度の包括的な指標があれば、それに基づくレピュテーション(名声)があるので、相手国が言うことを聞いてくれるというパワーにはなる。
アジアの20数カ国について世論調査を行なった「アジア・バロメーター」では、日本はアジアの多くの国から好感を持たれており、「自国に悪い影響」と言っている人があまりいないのが顕著である。但し、隣の韓国、中国では、「悪い影響」が非常に多いのが特徴だ。これに対して、アメリカがアジア各国に与える影響は、「良い影響」との回答があまり多くなく、「悪い影響」が非常に多い。中国は、日本ほど良くないが、アメリカほど悪くない。
ここから出てくる論点は、評判が良いことが「影響力が高い」とみてよいのかどうかである。この結果から、アジアにおける日本の影響力はアメリカより大きいとは直ちにはいえないだろう。影響力とは良い悪いの感じ方ではなく、最後に本当に言うことをきかせられるかどうかであり、その点にはここからは分からない。勿論、日本は良い印象を与えているからよいのだという考え方もあろうが、その場合も、韓国、中国が悪いということをどう考えるべきか。やはり、日本のすぐ隣でこうした印象が支配しているということは、考えなければならない点であろう。
いずれにしても、世界中でこうした世論調査を継続していくことには大きな意味があり、日本はもっと、こうしたソフトパワーの面にお金を使うべきである。言論NPOが実施している日中での同時世論調査も非常に重要な意味がある。