分科会 【中日関係とアジアの未来 】 議事録(会員限定)

2007年8月28日

※「議事録」は現地での速記録を基に作成したものです。
正確性を期し、後日再整備いたしますので、それまではあくまでご参考程度にお止めいただきますようお願い申し上げます。

周牧之 現在の構想ではこの北京-東京フォーラムを10年連続で開催する予定でいます。この3回にわたる東アジアフォーラムが開催された3年において日中関係は改善し、既に氷は融けました。この日中関係改善に北京-東京フォーラムは大きな貢献を果たしました。昨年のフォーラムの席上で安倍総理(当時、官房長官)は日中関係改善に向けた意欲を表明したのです。これがこのフォーラムの背景です。本日午後、呉建民さんが言ったように、日中関係は日中だけでなくアジア、世界にとって重要です。日中関係改善を推進し、新しい戦略的互恵関係に向けて努力するという流れにおいて、今我々がやっていることはそのプロセスにおける積み重ねです。このフォーラムで我々が成功すれば、日中関係が今後発展していく上で大きな基礎を提供することになるのです。


まず分科会のゲストを紹介します。日本側は駐中国特命全権大使宮本雄二先生、岡田克也民主党副代表、竹下亘先生、この方はあの竹下登先生の弟様でいらっしゃり、中国との関係は大変深いです。上田勇先生、松本健一先生。中国側は午前中の全体会議でもスピーチをされていた趙啓正先生、全国人民代表大会外事委員会副主任王英凡先生、外交学院院長呉建民先生、続いて北京大学の先生ですね、賈慶国先生。次いで、各ゲストの先生方より本フォーラム開催の意義についてお話頂きましょう。


まず私から。アジアの発展は大きな分業、大きな交流を基盤にしてできたものです。世界のメディアの大半はアジアは世界の工場だと位置づけていますが、アジアには様々な問題があります。また、アジア諸国内の関係には様々なハードルがあり、歴史問題など、新しい問題を解決する解決メカニズムの未整備などの問題があります。アジアのメカニズムは大交流の時代に追いついていません。ですから、このフォーラムは前回よりアジアの未来という分科会を設け、各界のリーダーが集まり議論することで、一緒にアジアの未来を考え、理念を共有し、問題点の探索、問題解決のメカニズムに関する議論を行うというのが分科会の趣旨です。

進め方については、国分先生と2人で進行役を務めます。まず、お一人ずつお話を伺い、その後インタラクティブな意見交換を行いたいと思います。

それでは国分先生どうぞ。


国分良成 皆さんこんにちは、私は国分良成です。中国の発展を私は大変うれしく思っております。私は10年前に北京大学で3ヶ月間客員教授を務めており、北京大学OBといえるかもしれません。北京大学の発展はこの10年間に、30年ないし40年もたったように、非常に変化が大きい、速い。これは大変うれしい。過去において日中関係には様々な問題がありましたが、今は解決しています。今は日中間は調和ある関係にあり、この後はこの調和ある関係について議論します。まずはじめに、日中側それぞれ問題提起を7,8分くらいでお願いします。中国側は趙啓正先生にお願いします。日本側は岡田先生にお願いします。


趙啓正 最初の発言者として呼び水的な話をしなければなりません。午前の基調講演後に日本の人と意見交換したのですが、アジアの問題について語る際には往々にしてEUと比較されがちです。比較して初めて問題の所在が突き止められる。ただし、この時気をつけねばならないのは、ヨーロッパとアジアの違いについて気をつける必要があるということです。アジアは一人当たりGDPは世界の中でとても小さく、また富のほとんどは日本に集中しており、ヨーロッパよりははるかに格差が大きいのです。格差が大きければ大きいほど、共通理念を見つけるのに困難があります。


もっとも、アジアにはAU(Asian Union)こそありませんが、域内貿易額はEUやNAFTAと同じくらいに達しており、地域の統合は未完成だが、域内貿易は好ましい状況にあると言えます。


その上で、中日関係については、全体のアジアの枠組みの中での重要性について話し合う必要があるでしょう。アジア各国が考えねばならない問題があります。なぜ協力しなければならないのでしょうか。またどのような共通の価値観を持っているのでしょうか。アジアは全面的な価値観を共有することはできないが、中国の言葉で「小異を捨てて大同を取る」という言葉がありますように、これになるべく近い形でアジアの理念がすべての国に共有されなければいけないと思うのです。こうした事を踏まえて、協力する上では自国の利益だけでなく、共通のコンセンサスを得られるよう努力すべきなのです。アジア全体が共有する目標でなければならないのです。


この際に、このフォーラムの参加者としてはアジアにおける日中関係の重要性を考えるべきです。インドなど地理的に近い類似の国を無視してはいけません。その他の国を排斥してはいけません。これらの多様な個性を持つ国々との間で理念を共有できるよう努力していかねばなりません。


ヨーロッパは、第二次大戦後にこうしたことを考え始めました。60年代には自分たちをヨーロッパ人というようになりました。また経済についていえば、ヨーロッパでは国をまたがる大型プロジェクトがあります。例えばエアバス。日本訪問時に三菱グループとの会合で申し上げたのは、アジアにもヨーロッパに追いついてアジア版エアバスができないかということです。上海は80年代に民間航空機の試作に成功しましたが、それをビジネス化することはコスト面の考え方から事業化できませんでした。もしもここで日本と協力できたらよかったのにと思ったのです。あの頃から既に15年が経ち、感無量です。こうした分野を含めて、今後は日中が意見を出し合ってともに発展していく。今回のフォーラムはこういう目的に資するような形で、若者へ広く開放された集まりにしていきたいです。


岡田克也 皆さんこんにちは、岡田克也です。今日は中国の次の世代を担う皆さんと率直な意見交換ができればいいなと思っています。私は中国の若い世代の考えを知りたくて来ました。年齢が違えばコミュニケーションは難しいですが、国が違えばなおさらでしょうが、今日はそれを敢えて承知で交流したいです。


まずナショナリズムについてですが、私が民主党の代表をしていた2005年に中国各地で若い人が中心になって反日デモが起きました。日本にも反中的な考え方をする人はいますが、あの時中国で起きたのは現実に意思を持って日本の大使館や領事館に行動したのであって、それに大きなショックを受けたのです。狭い排他的なナショナリズムを卒業しないとアジアの未来はないと思ったのです。

2番目は、戦後日本の果たしてきた役割について皆さんがどう考えているのかということについて。戦争の反省に立って、日本は60年間平和国家を目指して頑張ってきました。自衛隊が海外に武器を使ったことは一度もない。戦争の反省に立って、日本はアジアの民主国家の先頭を走り、その経済的発展をODAとしてアジアへの援助に向けてきた。その発展はアジア全体のために使われた。中国に対しても天安門事件の後各国が経済制裁をする中、日本は一番に援助を再開した。

3番目は都市と農村といった格差の問題について。日本国内にも格差問題はあり、それは政治テーマになっている。我々からみて中国は日本よりも格差があるように見えます。


ここからは各パネリストに5分ずつお話を伺いたいと思います。


王英凡 私は、北京-東京フォーラムには二回目の出席です。このようなフォーラムを開催し、このようなテーマを持ち続けることの意味と狙いは、中日関係の地域の協力における重要性によるものだと思います。なぜ「地域」という言葉を使ったかというと、前回の東京フォーラムで言ったように、中日関係の重要性は、アジア地域に限定されず、それを越えて世界に影響を及ぼすからです。中日関係の地域協力に与える影響と考えています。ひとつは平和、ひとつは社会発展安全保障だと思います。この2つの大きな面において中日関係を広げていく時にどのような影響があるのでしょうか。換言すれば、中国と日本のアジアの発展にどういう役割を果たせるでしょうか。現在日本中国双方はともに戦略的互恵関係に向けて努力するといいますが、もし大きな進展があれば自然とこの2国のみならず地域全体、世界全体の平和と発展のために貢献できるでしょう。


キーとなるのは中日の戦略的互恵関係は本当に安定的に発展できるかということ。これまでフォーラムが3回開催されましたが今後も発展していくでしょう。明日この戦略的互恵関係について述べたいと思います。現在既に良い基盤(日中関係の問題ゆえに政冷経熱の時代あり)、良い環境があります。互恵がないと経済貿易関係が発展しません。日中貿易は相当な規模になり、アジア経済に貢献しています。平和と安全保障の面からでも、我々の周りの朝鮮半島の核問題の現況は比較的好ましいのです。うまくいけばこの問題をきっかけに我々が北東アジアの平和メカニズムが構築できるかもしれません。このテーマは六者会議の作業部会にも含まれています。


安全保障分野以外の分野においても、東アジアをさらに広げた問題については、シーレーン問題、反テロ問題、海賊問題、疫病の拡散防止等といった安全保障分野における共通認識は割と多く、効果的な協力が現在行われている。地域への貢献も大きい。マイナス要因は、安全保障分野において互いに信用できないこと、疑心暗鬼であることが挙げられます。


今回はインタラクティブ重視ですね。岡田さんからの質問もありました。日本の若者のナショナリズムへの関わり方には注目しています。私は東北部出身です。対日関係において非常に狭いナショナリズムを煽り立てることは非常に優しいのです。数百万人をいっぺんに動員可能です。その典型例は、先のアジアカップが挙げられます。でも、中国は狭い民族主義は絶対にやりません。もしそれをやろうとしたら現在のような関係は存在しなかったでしょう。


戦後の日本の役割についてですが、温家宝総理の国会講演において取り上げられていたように、この問題については多くの交流をしなければなりません。交流すれば認識を正しくし、親しみやすくなります。


宮本 数点意見を述べさせて頂きます。それぞれの国家が何のために存在するかということについて考えてほしいのです。個人的な結論は、その国家はそこで暮らす国民が自分で充実した生活を行えるような外的条件を整えていることが国家の使命だと思うのです。そういう条件を作りあえるよう国家が協力し合うのがあるべき国家間関係だと思います。日中間には多くの潜在的。顕在的問題があります。忘れてはならないのは1978年の平和友好条約で互いに覇権を求めないと確認しあっていることです。


ヨーロッパとアジアは交流の歴史も違います。アジアでは大規模な人の交流は最近始まったばかりです。文化の交流は多様性を残しながら違うもの同士が磨きあっていくという意味ではアジアの方がヨーロッパより良い条件を整えているかもしれません。しかし、アジアの現実を前にすればやれることからやってアジアの現実を進めていくやり方しかないかもしれないのです。


繁栄するASEAN+3を   するためにも、どういう意味で日中、日中韓、日中韓+アセアンの協力ができるか。それは一歩一歩やるしかないというのが実感です。


二点ほど見解を。趙啓正先生から問題提起があったのですから。

1.アジア人はなぜ協力しなければならないか。1997年に起こったアジア金融危機から今年で10周年。当時私はジュネーブにいましたが、多くの人の予測では数週間で2兆ドルのアジアの富が消えてしまったと言われています。当時多くの人はアジアの将来を悲観的に考えました。復興には10年、20年かかるといわれたが、10年後の今日、アジアは世界経済においてもっと活力と希望に満ちた地域になり、キッシンジャーがいうように「世界の重心」が大西洋から太平洋に移りつつあるように言えます。まず、アジア通貨危機から何を学んだのか。それは3つあると思います。第一に、アジアの人は自助努力で自分を助けなければなりません。外部世界の処方箋はうまくいきませんでした。第二に、東アジアの協力はこの危機の中で発足しました。協力は遅れていましたが、この10年間ASEAN+3協力はかなり発展しました。域内貿易額は既に55%になり、EUに比べて9%しか低くなく、NAFTAより10%多いのです。各レベルの会合は55にのぼります。第三に、東アジアの協力はアジア経済発展に非常に大きな役割を果たしています。それぞれの強みが発揮されているので、現在のアジアの将来性が世界に認められているのです。


なぜ我々がこのような大進歩を遂げたのでしょうか。理由3つあります。第一に、東アジアはASEANが主導したのです。なぜASEANか?ASEANは東アジアにおいて最初に地域協力を始めて40年になりますので、ASEANに主導させることは賢明な決議ができることになります。ASEANに主導権を握らせることはみんなにハッピーなのです。他の国に持たせれば不愉快に思う国がいるかもしれません。中国は興味がありません。鄧小平の政治遺産に「主導権を争うな」があります。ASEANに主導してもらいたい。第二に、協力する中で注目を共通点に集中し、相違にそれを向けなかったこと。国際関係の重要原則に中国は早くから気づいていました。和を求めて相違を残していき、相互利益が拡大していきました。第三に、開かれた地域主義を志向したからです。EU発展と比べて東アジアはEUよりもオープンで、これは東アジアの強みです。アメリカは懸念しているのですが、1997年当時のASEAN+3の対米貿易は4300億ドルで今は8000億ドルと、アメリカの利益は拡大されました。東アジア共同体を作るには閉鎖的なやり方ではだめです。以上からアジア危機10周年に歴史を振り返ることは非常に有益です。


竹下亘 20世紀は戦争の世紀だと言われてきました。その意味では21世紀は確実にアジアの世紀です。21世紀は中国の世紀だと皆さんは思うかもしれませんが。先生方のご指摘の中にあったように、そのための大条件の一つは平和であり続けるということ。一つは東アジアの安定をどう確保していくか。もう一つはアジアと拠点とするテロリスト達、テロとの戦いにアジアがどれだけ真剣に立ち向かっていくかということ、これらはアジアの世紀を作るに当たって非常に大切な要素だと考えています。一番強調したいのは21世紀は「環境の世紀」であるという点です。過去100年間、地球の平均気温は摂氏0.6度上昇。その結果、北京の郊外数キロまで砂漠化が進みました。このままのペースでCO2ガスが増えていくと、次の世紀には摂氏4-6度気温が上昇すると予測されています。これは多くのアジアの国々にとっては人間の生存が厳しくなることを意味します。この環境の世紀をどう作り上げていくか?特にアジアの中で人口の一番多い中国と、これから多くなるであろうインドといった国々の間で環境への取り組みを危機感を持ってできるかだと思います。それができなければ人類の生存に関わる議論がもっと真剣に行われていかねばならないと思います。日本の経験は豊富です。こうした、例えば水質問題、大気汚染、SOxを取り除く分野では協力の余地があります。


環境問題、環境の世紀というのも、もはや日本だけでは何も解決しません、中国だけでも同じです。世界中が力を合わせて取り組む必要があるのです。過去「政冷経熱」といわれた時代がありました。対立と抗争の中では何も生まれません。対話と協調の中で初めて物事が進むのです。日中で見ても、体で感じる温度が違ってきました。皮膚感覚での感じ方が「対話と協調」と「対立と抗争」の一番の違いであると思います。これからも「対話と協調」を積み重ねることによって21世紀を平和な時代、アジアの時代、環境の世紀にしていかねばならないと思っています。


賈慶国 私の見解は、中日関係発展のためには、まず心理の状態を調整しなければならないというものです。もっと前向きにせねばなりません。第一に、相手の立場に立って物事を考えるようにする。中国の古い人は他人の心をもって自分のことを考えました。第二に、相手の言行を正しく解読しなければなりません。プラスの面からそれを捉えることができれば、双方の関係は維持しやすくなります。絶えず効果的かつ対等なコミュニケーションを図ることです。相手の言動を理解できない、納得できない時に、平等な姿勢でコミュニケーションをすれば矛盾は誤解によるものだということが判ります。お互いのロジックはコミュニケーションを通じて初めて解るのです。そして4つめ、こういう流れを促進するよう前向きにやっていく必要がある。両国の根本的な国益から出発して推進していく必要がある。この4つは中日間の関係をマネージする場合に適用されることだと思います。


中国の台頭問題については、脅威の角度からもチャンスの角度からも捉えることができます。もし脅威として捉えたら、これに対する対策・発言は対立・対抗を招いてしまいますが、もしチャンスだと思えば、自分の対策・言動などは好ましい方向に作用すると思います。


エネルギー問題についても、日中の重要な衝突の火種になりかねません。ともにエネルギー需要大国です。中国の需要は高まっていますので、相手の国の立場に立って考えれば、相手のニーズ、エネルギー安全保障への懸念を理解できます。そして建設的に向こうの言動を解読すれば、その言動の意図や背景を理解できます。この際に効果的にコミュニケーションをすることができれば、解決方策について検討することができます。検討を重ねれば、エネルギー問題は日中衝突の火種になることを避けられ、協力のチャンスになると思えます。中日米3者で協力できたら、世界のエネルギー価格を安定させることができます。一部エネルギー供給国家によって操られることが防げます。消費大国中日米が協力すればエネルギー、シーレーンの安全を確保できます。エネルギー安定供給に資するでしょう。もし協力を推進し、省エネ、代替エネルギーなどにおいて協力を推進し、新技術を開発できれば、両国の関係は強化され、弱まることはありません。物事をどの角度から捉えどう処理するかは重要です。これは、場合によっては衝突を選ぶか協力を選ぶかの非常に重要な要素になるかもしれません。個人の希望としては、二つの国が積極的・建設的な気持ちの状態を持って既存の問題に対処し、両国の関係が持続的に発展していくことを望んでいます。


上田勇 上田勇でございます。私の所属している公明党は、連立内閣の構成党として、安倍内閣をサポートする立場であります。

公明党は日中関係に関して、積極的に取り組んできました。党の創設者である池田大作氏も日中国交正常化前から、周恩来総理と会っていました。

経済や文化などの面で交流が深まり、人の行き来も増えました。この両国関係の発展は目覚しいものがあるというふうに、考えております。日本と中国との関係が安定して持続していくことがなければ、アジアの発展も繁栄もないと思います。東アジア地域、世界の成長のエンジンといわれてますけれども、その中で日中の関係が改善させていければと思います。

一つは、日中間で青少年の交流をもっと深めていかなければいけません。二つ目は、メディアの相互理解も重要な要素であります。日中、お互いを補完し合える関係でより地域に貢献できる関係を構築できればと思います。日本は環境の面において、中国は企業家精神がアジアの人脈、ネットワークという面において、優れているのではないでしょうか。

三つ目は、両国の内政における共通の問題に協力して取り組むことが重要ではないかと思います。日本は少子高齢化になっています。中国においても遠からず、それが課題になることは間違いないでしょう。今後、アジアを見渡したときに生じる共通の問題もあります。同じ認識を持つということです。


松本 松本健一と申します。私が去年のフォーラムでもお話をしました。そのときは、歴史問題の部会に加わっておりました。現在の町村外相や安倍総理など、そのときの参加者が今回の組閣の中心になっています。


21世紀がアジアの世紀だといわれるようになったのは、1990年頃であります。1994年に執筆した私の論文のタイトルは、「アジアの世紀はまだ来ない」でした。通貨危機の三年前でしたが、当時はアジアの経済の足腰の弱さや開発独裁などと欧米から指摘される不自由さもありました。アジアの通貨というものは、一気に通貨危機に陥るであろうと指摘しました。アジアコモンファンドという案も、アメリカ抜きのオーダーは許さないというアメリカの主張によって潰されました。アジアに共通の枠組みを作らねばならないという認識が生まれてきました。私は、アジアコモンハウスを提唱しますが、後ほど説明します。


ナショナル・アイデンティティという観点から言えば、世界の中でどのような国として生き残っていくか、という問題です。ハンチントンの『文明の衝突』にもあるように、外に敵を作れば国民は一体化できます。江沢民のやり方でもありました。また、靖国は心の問題だから外の人にとやかく言われたくないというのも同じです。そういうことが世界各地で起きております。私はこのような現象を「ハンチントンの罠」と呼んでおります。

ナショナリズム体質を解決する方法を考えていかねばならないと考えております。ナショナルアイデンティティでなく、アジアアイデンティティを持つべきです。金融危機のとき、IMFが出した処方箋でアジアはひどい目に遭いました。アジアではアジアの特性をふまえ、アジア通貨基金を作っておけばよいのです。

2月にトルコに行ったときに、中央アジアの学生が私に質問しました。「日本に外交戦略はあるのか。アメリカに追随しているだけではないのか」というものでした。フランシス・フクヤマがいうように、民主化というものが最高の価値であるとするならば、軍事力による強制を伴ってもかまわないというのがアメリカの戦略でしょう。日本の戦略はその全く逆で、経済が発達すると、その結果として民主化が行われるというものです。国民の平和や安全を守るならば、結果として民主化が起こる、香港、台湾、シンガポールそしてその後、マレーシアもそうなりました。現実の紛争や対立を具体的に考える常設機関として、私は「アジアコモンハウス」を考えます。かつてマハティール首相や中曽根首相などもこのような常設機関を考案しました。

1908年、亜州和親会という組織がつくられました。中国人やインド人も加わっておりました。そのときには、単に親しくするのではなく、共にアイデンティティを共有しようということを目的としておりました。そのような問題意識をもって、私は「アジアコモンハウス」を提唱したいと思います。


国分 ここまでで全てのパネリストの発言が行われました。休憩時間はとりません。ここからは、周さんに引き継ぎたいと思います。


周  このセッションは大変厳しいものがあります。このフォーラムで最も重要なのは、アジアの未来を学生諸君と議論することであります。これからは、学生の皆さんからの質問で、ゲストの考え方を引き出していただきたいと思います。鋭い質問をお待ちしております。曖昧な質問は避け、明確な質問を簡潔にお願いします。どうぞ。

人民大学の学生 岡田先生に質問します。最初にナショナリズムについての話がありましたが、中国は政府にかなりの力があり、コントロールすることができます。日本政府はそれを抑え込む力がありますか。


岡田 日本は自由な社会です。政府がナショナリズムを押さえ込むというのは、ムリがあります。2004年の反日デモが起きたとき、当時の小泉首相と党首会談を行い、話し合いました。政治家が冷静でなければならない。しかし、ナショナリズムを煽る政治家が一部にいたのも事実です。政府は強制する力はありません。間違いだと気づけるように、冷静な議論をしていかなければならないと思います。

中国民族大学金融学科の学生 岡田先生、一つ目は中日関係について、二つ目は竹下先生に対して、台湾問題についてです。


岡田 質問の趣旨が分かりませんでしたので、適当な答えができるかわかりません。歴史問題に関して、申し訳ないという気持ちもあります。しかし、あまり一方的に言われすぎると、反発したくなることもあるかと思います。それが三年前に見られた現象ではないか、と思います。


竹下 一つ目の質問に対してお答えしますと、お互いが声高に批判しあわないことが両国にとってよいのではないかということを学んだと思います。二つ目の質問に関して、台湾と国交は結んでおりません。ただ考えてほしいのは、鳥インフルエンザのような問題が発生したときには、国交があるなしは関係ありません。そういった問題に関して、台湾も国際社会に関わるべきであると思います。


外交学院の学生 松本さんへの質問です。安倍総理は、民主国家を中心とするアジア大国を望んでいると。このような考えがどのように世界に影響するでしょうか。


松本 歴史問題にまず触れておきますと、日本の若者は、70年前の戦争はアメリカと戦い、負けたと思っています。中国の人には不愉快かもしれませんが、中国に負けたという認識がないのです。あの戦争には、アメリカとの帝国主義戦争と、中国との帝国主義的な侵略戦争という二つの側面がありました。後者が薄れつつあることを認識しなければなりません。日本の文明の中には、インドから影響を受けたものもあります。日本では、1000年前、世界はインド、中国、日本でできていると認識していたのです。


宮本 イデオロギーに関してお答えしますと、日本と中国がどういう原理原則かというと、両国間の友好条約の中には、明確にイデオロギーについては入っていないということです。


周  中国側のパネリストはいかがでしょうか。


趙  学生の質問は非常によかったと思います。日本と台湾の関係に関する問題もありました。台湾問題については、鳥インフルエンザのような問題は重要ではありません。台湾は主権国家と認めてはいけません。日米安保の周辺事態法で対話重視が明記されたことは中国にとって不快なことなのです。


王  学生の質問は現在の国際情勢・中日関係に注目している上でのものだと思います。日本の政治家は、中日関係を発展させたとき、共通の価値観に基づく必要がありません。この数日の中国の世論はよく考えるに値します。日本の新聞にもコメントします。安倍総理はインドを訪問した際、「自由と繁栄の弧」という価値外交の概念に基づいています。


岡田 インドでの総理の発言ですが、私の理解では、民主主義国であるアメリカ、オーストラリア、インド、日本が協力しなければならないということを言っております。それ自体は間違っているとは思いませんが、それが中国をけん制する意図をもったものであれば、それは間違っていると思います。


呉  価値観の問題ですが、王氏の発言に賛同します。
中日両国は若者の交流が重要です。二国間の交流を強化し、政治家の目は遠いところまで行き届いていなければなりません。


宮本 日本の政府が世論をコントロールすることができないという話がありましたが、それはそのとおりです。逆にそのことは日本の強さでもあります。小泉前首相の靖国参拝が問題になったとき、書店には、たくさんの靖国関係の本が並びました。私はそのほとんどを読んで、靖国問題について大変詳しくなりました。そのようにして問題が起こると、長い時間の世論の議論を経て、多様な意見が出てくる、賢くなるのです。


周  白さんに、お願いしたいと思います。


白  日本の方々に謝ります。天津についてから、寄り道をしてしまいました。


今年は、特別な年であります。政治を議論することは、意義深いものです。中日間での国民感情を正しく見ていないのです。私たちは敵ではなく、正常な国家同士であります。問題にあまりに敏感になりすぎず、広い気持ちで普通の人と同じようにお付き合いしなければなりません。最終的には、はれものと同じような気持ちをもつことができるでしょう(?)。安倍総理の「自由と繁栄の弧」というような実現性のないものは、あまり気にしなくてもいいと思います。


北京大学国際関係学院の学生 王さんに質問します。多くの中国の学生が理解しない、安保理入りに関して納得していませんが、そのことについてどのように思いますか。


王  安保理入りの問題は、非常に重要なものであると思います。第一段階は既に過ぎ去った段階で、日本の安保理入りが安保理全体の問題として認識されました。私が思うのは、日本はたくさんのことをやらなければなりません。中国の政治家や国民は、日本の常任理事国入りによって国際社会に貢献できると思えば、賛成するでしょう。ただ、当時は中日関係が冷え込んでいることもあり、日本がそのような役割を果たせないと思ったのではないでしょうか。


岡田 当時私は中国の王毅駐日大使と話をしました。中国が日本の常任理事国入りに賛成できないのは分かるが、なぜそれほど反対するのか。これは大きくて難しい問題です。そのような中国の態度が日本人を傷つけた、と述べたことがあります。是非、中国の皆さんが安保理入りに賛成してくれれば、日本人の中国に対する見方も変わる、と思います。


中国人民大学の人 政治家のお三方に質問したいのは、各党において対中政策の見方にどのような違いがあるのか、お聞きしたいと思います。


竹下 基本的に、大きな違いはないと思います。政党間の違いはないと思います。共産党と社民党以外は、大きな差がないと思います。日中の関係をよくしようとする兄、竹下登を見てきました。そういう人物が日中に少しでもいれば、三年前の悲劇は防げたのではないかと思います。


上田 政党の中にもいろいろ多様性はありますが、出された政策に関しては大差ないと思います。世論が厳しいときに、いかにそれを立て直していくか、ということが政党に課せられた役割ではないかと思います。


岡田 私も基本的には同じですね。政治家個人個人で違いはありますが、政党で見たときはかなり共通していると思います。全体としてみれば、大きな差があるとは思いません。


周  では、国分先生に補足をお願いしたいと思います。


国分 日本が一番大事なテーマは何なのか、という問いから、いろんな意見が出てくるのではないかと思います。

法学院の学生 宮本先生、全体的にはいい方向に向かっているとありましたが、日本の同級生は中国をよく知らないと思います。日本の青少年が、より中国について理解を深めるにはどうしたらいいと思いますか。


宮本 日中関係が極端によくなることはないと思います。クラスの一番の生徒と二番目の生徒が仲良くできないことと同じことです。しかし、日中間のあらゆる問題が、日中間の正しい方向は友好であることを示しています。青年交流については、昨年、中国から日本に2000人の高校生が、日本から中国に1000人の高校生が両国政府によって招待され、交流活動を行っています。マスコミ・知的コミュニティの世界も、相手国に対して積極的に正しい情報を伝えなければいけないと思っております。

周  中国日報社のウェブからの質問。趙先生、両国のマスメディアは両国を報道する上で、間違っていることがありますか。


趙  日本の新聞の対中姿勢はよく分かっています。一部は穏やか、一部は過激です。ある新聞社で、中国は国家当局が管理している、という報道もありました。中国の対日報道に関しては、事実に基づいています。日本の対中ODAに関して、中国の光明日報では一面に載っていました。そのことは、日本に十分に伝わっておりません。


私が新聞弁公室の主任であったとき、一番よく会っていたのは日本のメディアです。

外交学院の日本語専攻の学生呉さん 私個人の理解では、開かれたというのは、____、どのように境界線をつくればよいでしょうか。松本さん、____(打ち損じ)。岡田さん、貧富の格差問題について、よろしくお願いいたします。


呉  10プラス3で、合同声明を発表しました。東アジア共同体を遠い目標にするというものです。地域的な境界線は必要です。私たちは、EUに加わることはできません。我々は、開かれた地域主義を主張しますといいましたが、外部に開かれた姿勢を貫かねばなりません。我々は世界各国と協力します。東アジア協力に携わっていますが、大変よい雰囲気にあります。押し付けることはしません。一つのCは、コンセンサス。これは重要です。二つ目のCは、コンサルテーション=協議。座って議論する。三つ目のCは、協力する。快適な雰囲気を築けます。Oはオープンです。東アジアは10年で深い協力が形成されつつあります。


松本 ありがとうございます。亜州和親会と東アジア共同体の違いに関しては、亜州和親会の当時は独立国家はほとんどありませんでした。民族の独立、というナショナリズムの強い国家が集まっていたということがいえると思います。ナショナリズムが様々にコンフリクトしたときに解決する場、アジアの未来を考える場がありません。むしろ唯一この北京東京フォーラムだけが、アジアの未来を考える議論をしています。国際機関は、すべてヨーロッパ諸国が作ったものであります。そうではなく、アジアで解決できる場というものを構築しなければならないと思います。


対外経済貿易大学の学生 松本先生、近年来、日本の製品に問題が起きていますが、どのような経緯で起きてますでしょうか。


周  大変ミクロな問題ですが。。。


趙  日本製品に親しみを持っているということではないでしょうか。あえて企業名をあげてませんでしょうし。

松本 中国だけで起こっているわけではなく、世界中で起こっております。中国の製品と同じように、グローバル化した世界においては、その製品に部分的に諸国の原料等が入ってきます。経済問題は、グローバル・エコノミーの問題となってきています。グローバル経済というもの自体がいいのか、という問題に直面します。


白  ドイツのメルケル首相がアジアに来ます。もし中国に問題がなければ、日本とともに世界の経済大国隣国になります。私が強調したいのは、恋人になれるかは別として、誠実にならなければいけないと思います。中国の日本に対する影響、日本の中国に対する影響は、ますます大きくなってくると思います。中日両国には、「理性」が必要です。ここから若者は、未来を築いていかねば、中国も大国にはなれないと思います。


人民大学の院生 一つ目は、松本先生、中国の公使が「円が正しければ、元が正しくない」とおっしゃりました。岡田さんは、中国に対する侵略は間違っていたとおっしゃっていました。松本さんは、60年前の戦争について、日本の青年はどういう認識を持っていますでしょうか。アジアコモンハウスのような提案がある中で、今のアジア共同体に関して日本は外交上、どういう修正をしなければならないと思いますでしょうか。


松本 現在の青少年は、日中戦争に関して、自分の痛みとして感じていないと思います。私は米軍基地のそばで育ちましたが、いまの日本の平和や富はアメリカによってもたらされた、という教育の問題があると思います。歴史問題について、自分たちの痛みとして感じていないために、中国から言われると感情的に反応してしまうのではないかと思います。


岡田 被害を受けたものと被害を与えたものの違いがあると思います。被害を受けた立場の人たちのことをしっかりと考えねばならないと思います。ただし何回も繰り返して言われると、自尊心を傷つけられたと感じ、感情的な反発になるのです。


周  


趙  中日間だけでなく、フロア=大学生との接触がありました。壇上の皆さまとの対話は、将来につながる???


宮本 学生と対話する機会をいただいて、大変ありがとうございます。客観・公正に相手を見る。相手の立場に立って考えるということが重要だと思います。中国の人の痛みを理解する際、70年前、河北省の農村にいたら、どうだったろうということを感じております。


国分 ひ弱な側面が存在するということであります。今後、いかに戦略的互恵関係を固めることができるか、ということが重要ではないかと思います。日中共通の利益を明確にすることです。お互いがどのような国になろうとしているかが明確にならない限り、不信感は増していきます。自分をどのように説明するかということが、重要であります。日本も中国も多くの問題を抱えております。民主党が本当に勝ったのかというと、そう言い切れるかは分かりません。中国もこれだけ多くのチャレンジをしています。五輪もあります。中国は日本にはない問題も克服しなければなりません。アジア共通の利益が存在します。そこには、共通の価値も伴います。人類が培ってきた価値というのは、日本も中国も似た部分があります。平和共存をどう作るか、内政不干渉をどう守るか。人類が作り上げた価値を大事にしなければなりません。中国ももちろん、人権などの問題をどう克服するか、それを議論する方向性が大事であると思うわけです。そして協力の余地は無限に存在すると申し上げたいと思います。


また、国家のビジョンをアジアという枠組みの中で、どのように構築するかということであります。この地域の中で日中がうまくやらなければ、すべてうまくいかないことは、歴史が教えてくれる通りです。
30年前、私の学生時代、ヨーロッパは統合できるか、という議論の結論は「できない」となりました。様々な国家の利害関係を克服することはできないというものでしたが、現在そういう側面が存在することも事実です。中国と日本がどういうふうに共通の課題を克服するか、という大きな問題が存在します。


この中で、日本語を勉強している人はいますか?(数人)英語をある程度しゃべれる人は?(半分以上?)是非、日本語を勉強してください。(賈さんに向かって)日本語を勉強したくなりましたよね?(答え)「行。」

ご清聴ありがとうございました。


白  国分先生は中国語がうまい。


周  新しい特徴として、アジアの交流が深まりつつあります。これは今日生まれたものではありません。これまでの数百年間、アジアにヨーロッパ人が入ってきたことで、アジア間の交流が少なかったという側面があります。宮本大使が述べられたように、私たちは心の準備がまだできていないかもしれません。


二点目は、積極的に質問したバイタリティ。北京大学の開放性を証明しているのではないか、と思いました。

周  結 ChinaDailyを代表しまして、本日の模様はインターネット版に掲載されますので、是非ご確認いただければと思います。