分科会 【 中日の経済交流と利益互恵 】 議事録(会員限定)

2007年8月28日

※「議事録」は現地での速記録を基に作成したものです。
正確性を期し、後日再整備いたしますので、それまではあくまでご参考程度にお止めいただきますようお願い申し上げます。

小林: (問題提起)現在の日本経済は少しスローダウン、株が下がったり上がったりしている。年間見通しではどのシンクタンクも概ね2%成長を予測、中長期的には安定。アメリカ、中国経済に支えられている面が強い。アメリカの状況が日本経済の将来について危機感を与える。中国については楽観的な見方。国内問題については、企業の設備投資は意欲的、家計にはかげり。自民党の参議院議員選挙敗北について、地方経済への配慮が足りなかったとあるように、地方経済が日本経済において重要な問題となっている。新内閣には増田前岩手県知事が起用された。自民党が地方経済に力を入れるという意思の表れか?最大の課題は人口問題。出生率の低下、労働人口の量的減少。質的にも問題があり、教育の点で、創造力を強化していかなければならないが、現在、日本の教育がそれに合っているとは思えない。技術者が減っている。このような問題について、対策の具体的方向がはっきりしていない。地方の活性化の問題は、長期的にも非常に大きな問題。

アジアとの関係について、2つある。1つは、日本にとって、アジアにとって、中国の調和ある発展をどのように実現するのかが最大の問題。中国に対する脅威心を持つ人々がいるのはしかたがない。しかし中国の調和ある発展について、日本の協力できることは何かが重要。環境問題について、日本がどれだけ協力できるのか、具体的な技術移転が必要。中国の社会、経済のよい環境をより早く実現することが日本の利益にも合致する。もう1つは、新アジア主義の中での民間主導の問題、つまり官民の役割分担をどう進めていくか。日本はかつて、政官財がブラックボックスの中で経済を主導してきた。透明性の欠如が問題。日本の民主導を今の中国にあてはめることには疑問。かつての日本の官民の協力体制を参考にすればよいのではないか。この2つが中国の調和ある発展のために重要なポイント。


周:  中国経済の過熱が指摘されるが、この過熱の定義がはっきりしない。10%の成長率、近年は11~12%の成長率になると予想。どの産出にも投入の代価がある。代価の大きさのため停滞もありうる。環境、開発に対する投入もある。消費者物価指数が上がっているが、これは警戒すべき問題。成長のために支払った代価は大きすぎるのではないか。成長の条件は3つ。改革解放以来10%前後を保っている。これには3つの原因がある。1つは、過去の時代から残った計画経済の要素、成長率の低さ、賃金の低さ、公務員賃金の低さ、安い労働力が経済発展の1つの要素。7,8年前はもっと安い賃金だった。2つめは体制の要素。改革解放により、中国の制度的資本(国営企業?)が後退したことにより、経済効率を高めることができた。3つめは、中国人の素質が改革解放の中で変わったこと。解放により、安い労働力で生産した商品が国際マーケットで競争力を持つようになった。Made in Chinaの製品が世界に輸出されている。知財、品質の問題等いろいろあるが、20年のスパンで中国経済をみた場合、プラスの意味が大きい。中国の中でグローバル化が展開。日本、東南アジアから部品を輸入し、中国で組み立て、欧米に輸出している。

問題は、改革解放はまだ途中段階にあることである。様々な領域の改革を進めていくべきである。この点につき日本の経験を参考にしたい。特に土地価格が急騰している。地価の高騰をいかに解決したのか、日本から学びたい。土地は国家のものである。農民の土地は直接マーケットに入れることはできないが、国家が買い取ることができる。これも地価の高騰に関係がある。工業のコストも上がる。もう1つの問題は工業発展による環境の破壊、資源の配置の矛盾である。経済集中の問題について、日本の経験を学びたい。日本の東京への経済集中は近年さらに加速している。この経験を参考にしたい。中国は山地が多く、平野が少ない。経済効率面でのコストが非常に高い。3つめは、中国経済と世界経済との関係。世界の鉱石価格に中国の原料需要の増加が影響を与えている。日本はどのような方法で鉱石を大量に輸入しつつ、価格に影響を与えなかったのか、その経験を学びたい。鉱石の価格が上がると、工業コストも上がることを意味する。日本はオーストラリアの鉱山に融資していたが、それが鉱石価格の抑制に好影響を与えるのか。


深川: 中国経済の持続可能性については世界の問題になっている。むしろ小さい国への影響が大きい。環境分野における日中の協力はもはや最大課題。アジアゲートウェイはこれについて矛盾する考えではない。アジアゲートウェイとは、安倍首相のもと、日本がアジアと一体化するなかで成長を実現しようとする考え方。日本の成長戦略を大きく転換している。貿易依存度はかつて中国の半分くらい。内需中心。しかし、今後、日本も内需には期待できない。ここ数年貿易依存度が上がってきている。良くなっているのは都市経済のみ、地方には利益が行きわたっていない。これに対応するのが政治的要請。地方を支えるのは農業。土木需要は予算の都合により期待できない。教育をもう一度改革し、意欲のある人が上昇できる制度を樹立していく必要あり。

製造業はグローバル化が進んでいる。日本語に守られてきた産業の生産性を上げる必要。医療、金融、航空サービス等である。アジアオープンスカイを打ち出したが、需要のあるところに自由に航空会社が入れるようにする。国際空港の解放。アジアゲートウェイの2つめは、通関手続きの電子化。その他の規制もなくす。これは非常に先が長い。貿易統計は各国コーディネーションが難しい。あとは世界の優れた人材の招致。いかに沢山の外国人に日本で気持ちよく働いてもらえるかが取り組むべき問題。大学の留学生政策。奨学金に対する不満も多い。効率化すべき。金融の問題。東京市場の開放。ロンドンでできないことを東京で。最後に、日本はわかりにくい国であり、もっと情報発信すべきだ。文化をもっと輸出できる国になりたい。漫画は専門職でないので長期ビザがなかなか出ない。環境問題は日本にとっても影響のある問題。中国の優秀な人にもっと日本へ来てもらい、環境管理も含めセットでやってもらう。

これらの構想がすべて具体的政策になるかは別として、予算はついている。なるべく持続可能なやり方で進めていく。日本がFTAができない理由は、農業が最大。農民の70%が60歳以上。30年後、反対する人はいなくなる。その際にいかに安定的に農産品を供給するかが課題。日本の農家の経営システム、ブランド的な農業のやり方を中国から人を呼んで一緒にやっていくべきではないか。経済分野は共存共栄がかなり可能。一番の問題は、安全保障の専門家と折り合いをつけることである。


張: 中国の労働コストが急速に上がっている。それにどう対応すべきか、日本の意見を聞きたい。労働力の減少について日本の対応についても勉強したい。日中は地理的にも近く、経済も互恵関係にある。補完関係からみると、日本の政府、民間のFTAに対する見方について日本の意見を聞きたい。FTAが完成すれば、お互いの補完関係がさらに進展すると思われる。


王:  中日経済はお互いにウィンウィンである。地域協力の中で役割を果たせないならば、両国にとってマイナスになるだろう。お互いアジアの経済発展のために責任を果たすべき。中国が日本から学ぶべきところが大きい。環境問題は中国の経済発展のネックになっている。資産のバブルを避けるという点でも日本は経験が大きい。失われた10年とあるが、これは一つの教訓。中国の現状は日本の当時に非常に似ている。北京の不動産の値上がりは、日本の当時と似ている。中国の株価が上がっている。工商銀行、建設銀行は世界でも大型上場企業。中国政府の大型企業を育成するとの戦略は成功しているが、現状は長続きしない。当時の日本の大型企業は今、全ていなくなっている。トヨタは現在世界トップ企業だが、これはトヨタ自身の努力によるもので、政府によるものではない。中国は資本輸入国だが、少しずつ資本輸出国になっている。中国は日本と同じ道を歩みつつあり、日本から学ぶべき部分は多い。中国は勉強の態度をもつべき。


下村: 中国の人々が懸念していることについて共通項があると思った。日本の過去の成功、失敗について学ぶという点が先ほど指摘されたが、日本も戦後全て裸の状態で、がむしゃらに働き、高度経済成長をもたらした。これは今の中国との共通点。日本も経済発展の過程で、環境問題(水俣病など)に直面してきた。中国がただ生存のためにここまでやってきたことを批判したくないが、中国と日本の決定的違いは人口の違い。日本の公害問題は国内問題だったが、中国の環境問題のインパクトはすごいもの。経済成長の爆発力が大きい反面、マイナスの要素の規模も大きい。自分たちの存在がどれだけ世界に対し、良い影響とマイナスの影響を与えうるか、自国の存在の意味をもう少し自覚していただきたい。

80年代の日本経済は好調、アメリカは低調、日本はその頃不遜になっていて、多くの政治家はアメリカに学ぶものはないと豪語していたのを記憶している。そのときの経験から、私は中国もいつか同じようなバブル崩壊がくるかもしれないと考えている。もう1つは、成長した時代の違い。経済同友会の中で、世界における日本の使命についての委員長をかつて務めていた。日本が今後世界の中でどのような国をめざすかを考える委員会であり、中国も当然委員会の中で重要な議題だった。私達があげた基本理念は、共生ではなく、共進、つまりお互い影響しながら共に進歩していくという考えに基づき、今後の日本は行動していかなければならないと考えた。これは中国のみならずアジアとの共進。

日本の役割は2つ。1つは、世界の平和の創出、もう1つは繁栄。具体的には東アジア共同体、あるいはアジア共同体、共通通貨など。さらに重要なことはその手段。手段はソフトパワー。具体的にはアニメ、漫画のみならずもっと広くとらえている。世界一の長寿国として、医療、食生活、環境技術等、脅威をあたえないパワーのことである。ジョセフ・ナイによると、相手を魅了する力によって自分のやりたいことを実現していくパワーのことである。


安斎: このフォーラムはまさにソフトパワー。進化論によると、生き残った種は最も強く、頭のいい、環境に適応した種である。


木村: 日中ともに経済発展にとり貿易が重要。決定的違いは、中国は直接投資を積極的に受け入れてきたこと。資源搾取型直接投資などではなく、外に開かれた直接投資をフルに活用して発展してきた。中国はグローバル化に適応した経済モデルを展開してきた。一番大事なのは、工程間分業。もっと細かい生産過程に分割した分業。1つは地理的に違うところにある。企業間関係、他企業にアウトソーシングする。これが同時に起きている。アメリカとメキシコの関係等。企業間関係のところが発達しているのが東アジアの特徴。サービスリンク、コーディネーションコストが低くなければならない。輸送、ロジスティック産業の発達が大きく影響している。

都市、地方の経済格差。都市の混雑、地価の高騰、賃金の上昇等がみられるが、集積にはプラス、マイナスあり。プラスは他企業と近いこと。マイナスは混雑。これは地方へ経済活動が移転するインセンティブになりうる。地方の経済成長は、分散する力をいかにつかまえるかが決定的ポイント。中くらいの地方都市の成長率はどこよりも高い。安い労働力を使うシステムも重要。タイ、ラオスの国境では、ラオス側には少ししか工場がない。それは輸送に平均11日かかるため。中国の沿岸部がだんだんこみあってくるし、労働力もあがる。でもなぜ地方にいかないか。それはロジスティック整備の問題。ビジネスモデルの変化。70年代半ばまで垂直投入型の大企業、例えばIBMが主流。別のビジネスモデルは、得意な分野に集中し、あとは他企業に任せる。上流、下流を分割して他企業とシェアする。強い企業は昔とは違うイメージ。労働コストが上昇し、競争力が低下すると別のことをしなければならない。日本の製造業の中で、海外子会社を増やすことにより国内雇用が減った企業があるかについて調査をしたところ、海外子会社が増えた企業は国内雇用も増えている。


安斎: 分業が進めば進むほど、各国の経済は発展する。


進:  戦後日本は馬車馬のごとく働いた。自分達の世代はまだそのイメージが強い。今の中国のような超高度成長の時代にANAに入社。自分が社会で働いた42年間はかなりやりがいのある時代だった。インフレはあったが、デフレには慣れてなかった。ANAは長い間、日本国内だけを飛ぶ企業だったが、20数年前から国際線をはじめた。その頃、NYやワシントンDCに勤務。国際線勤務は従業員に対しても大きな影響を与えた。今ある路線の上に乗っていれば居心地がいいという状況の中で、日本は曲がり角を通り過ぎながらなかなか曲がれなかった。ANAは国際線がずっと赤字、トヨタの人と相談したところ、トヨタも同じような経験をした、あのとき止めてしまえば今のトヨタはないというアドバイスを受けた。数年前、Visit Japanをはじめた。日本人は沢山、海外旅行するが、日本には海外から旅行客を受け入れる基盤がなかったという問題意識から始まった。今ではかなりの予算で、世界中でキャンペーンをしている。

中国と日本を代表する都市で、日本企業が大きな投資をしているのは上海であり、東京と上海を最短距離で結びたいという話をしてきた。韓国の航空会社と話をし、ソウルの金浦空港と羽田を結ぶことによりかなり便利になった。日本という島国にとり、東京と各アジアの都市を最短距離で結ぶことは経済に大きな影響がある。航空協定についても見直すべき。規制を緩和していかなければならない。今の協定ではユニットが決まっており、日中間全体で飛ばせる便数に制限があるため、航空会社は収入のいい都市に飛ばしたいと考え、4割が上海、残りが地方都市ということになる。今お願いしているのは、ユニットに関わらず、来てもらいたい都市は両国の航空会社が自由に飛ばせる制度をつくること。日中関係は世界中が注目している大切な関係。経済の交流が政治を圧倒できるようにするには、航空の整備が非常に重要だと考えている。


安斎: 日本の発展は中国の発展、中国の発展は日本の発展であるのが共通の認識。しかし色々なリスクを抱えている。一辺倒の成長ではだめである。環境問題など、リスクはある。所得の再分配をすすめると財政の負担になる。社会保障の拡大も財政の負担になる。三農問題も財政負担になる。税金をどこから捻出するか。少子高齢化、生産人口の減少。日本は一時より300万人減った、アルコール消費、ランドセル消費も減り続けている。中国も10数年後同じ状況になるであろう。日中はお互いのためにできることは何かを考え続けなければならない。企業、人材、技術の向上のために両国で協力できることがあるはず。深センの軽工業、上海の電子工業、渤海の重化学工業、これは内需を向いている。中国から観光客が増え始めている。日本には30万人の中国人が住んでいる。観光客の増加は景気の下支えになる。必ず補完関係は達成可能。環境は民衆パワーが大切。


張:  国の経済を企画するのは難しいこと。互恵、交流にしても政府が決定するのは不可能。マーケットに頼るしかない。個人的な考えでは、中日の相互的発展は貿易の自由化を推進するしかない。中日両国、韓国を含め、自由貿易圏を実現できればそのパワーは非常に大きい。中国の日本に対する依存も大きくなる。日本にとって中国はかけがえのないパートナーである。中国にとって日本は非常に大きなパートナーであるが、かけがえのないものとは言いがたい。韓国、EUとの関係の発展は日本との間でも実現できるはずのものであった。ここに質問がある。日本は地震や台風など自然災害の大きい国だが、大手企業が海外に本社を設けるというのはどういう潮流なのか?中国に本社を設ける場合、どのような問題点、利点があるのか。中国の内モンゴルの一人あたりGDPは6600ドル、中国全体を見ると、西部に移転する趨勢が見える。航空路線の面でも西部の未来は明るいと思う。


小林: 大手の企業で日本以外に本社を置く場合は圧倒的に少ない。ソニーの盛田さんが、日本の法人税が高いので海外に移転したいと言っていたが、未だ日本にあり。今後はそれにこだわらない企業も出てくるのではないか。当社の国際事業本部は上海にある。もしこれを別会社にすれば上海が本社となる。現地における労働力の供給、家族を連れて行くインフラの面、相手の国のビジネス環境にもよる。今のところは北京、上海に限られるかと思う。今日の大きなテーマはウィンウィンだと思う。中国が抱えている環境問題、資源問題は、日本も以前はかなり非難されたが、日本はそもそも資源がないので、資源確保についてより意識が強かった。具体的なプロジェクト化ができないか。国連によるグローバルコンパクトがある。これは世界の発展に調和的な企業の発展のあり方を模索するもの。これに参加する中国企業は日本企業よりも多い。それならば、日中間でも資源に関する具体的プロジェクトを進めることができるはずだ。


周:  日本の法人税がそれほど高いのであれば、海外に移転すべきであろう。税率の高低はいろいろな影響があるが、圧力が大きければ税率も合理的になるのではないか。中国における外資企業の法人税は15%、国内企業は特区において35%で非常に高い。外資企業も同じ税率にすると外資は来ないと思う。国内企業も税率を15%にすべきと提案したが、合理的な税率でなければ企業が逃げてしまう。私は中国政府も国家間の競争に入ってほしいと思っている。


小林: 日本の法人税は昔より下がっているが、いまだに世界と比べると高い。


王:  本社をどこに設けるかは政府間の競争のほか、労働力と資本の流通にもよる。国家間のFTAの話し合いにもよる。日本は最近安倍総理がインド訪問のときにFTAを早めると話した。ASEAN+3などがあるが、中国とインドのFTAは遠い未来の話だと思う。中国とインドの相互補完は進んでいるが。中国と日本の全面的FTAがあり得るかについて聞きたい。


小林: あり得ると思う。大企業の方がpro、中小企業が慎重だというのが一般論としては間違いない。農業以外にも問題はあるが、やはり日本の農業政策、農業従事者の意識も変わってきているので、その方向には進んでいる。日本が取り残されるという感覚があり、これが後押ししている。


安斎: 国有企業の改革なくしてFTAの話はないと考えるが?


周:  国有企業の国民に対する利益もあるが、FTAは既得利益にもたらす影響もある。解放するとさらに強い相手が入ってきて、シェアも元のレベルを維持できない。一般的にいえば、政府が守る企業であれば、国有企業は国の一部なので、解放には抵抗がある。FTAは既得利益を克服する過程である。中国全体で見ると、解放全体については20年間の経験をみれば利益をもたらす。自由貿易を試すということが重要。既得利益からの妨害を克服しながらFTAを実現すべき。


木村: 国際通商政策を理解していないのは日本と中国が2大国。アメリカとオーストラリア、韓国とアメリカのFTAはモノの分野について例外品目はきわめて少ない。97%-100%に達している。我々の地域で進んでいる国はどんどん他の国とFTAを結んでいる。WTOが今後の国際通商政策を先導していくとは思えない。FTAがどんどんネットワーク化してできてくる。ASEANと韓国は主要貿易相手国とすべてFTAを結ぶ政策をとっている。東アジア、大洋州で起こっている現象が今後の経済のあり方の雛形になっている。日本は農業を守っても効率悪い。日本は農業解放ができないとオーストラリアとのFTAはまとまらない。妥結できた場合、農業のかなりコアな部分を開放するので、アメリカ、EU、中国と交渉できるはず。モノの部分がクリアされれば他の分野でもできるはず。ASEAN-中国のFTAはゆっくりしたプロセス、かつ例外品目も多い。これは他の地域のFTAと質が違う。中国と日本がイニシアティブをとるべき。中国の関税率は9%くらい。関税により自国産業を守るのはオールドファッション。お互い農業分野をクリーンにすれば、もっとFTAは進むはず。日中のFTA交渉がはじまらないのはおかしいと思う。


下村: 本社を外国に移す日本企業は少ない。日本は景気回復をしてきたが、それは大企業のみに恩恵が行っており、中小企業、地方には恩恵が十分行っていない。今の日本の現状としては、大企業が法人税を下げろと要求するのは、ビジネスリーダーとして、日本の国際的競争力のためだが、一般の人は大企業が優遇されるのみで、中小企業と地方には恩恵が来ないと見ている。日本の場合は選挙があるので、有権者の意見が政策決定プロセスに反映されるため、外からみるとイライラする部分はあるかもしれない。木村先生のFTAについての意見も、学者としては理論が通っているが、日本の食料自給率は40%で、先進国の中で最低。食料が外交カードとして使われるとどうするかという意見は国内で結構大きい。


周:  経済から見れば、日本の食料が国際価格を大きく超えるのは、日本国民にとってもマイナスとなるはず。


下村: 農業政策は自民党の政策的失敗とみている。


周:  WTO加入前、中国では色々な議論があった。農業人口の失業問題など。今年加入5周年となるが、農民の自由をもたらした。農民はいつまでも農民である必要はない。中国では人口で7割を占めるほどの農民を必要としているわけではない。これは計画経済の結果だ。自由経済になると農業人口の移動が可能となる。今Made in Chinaの商品は出稼ぎの農民によりできたもの。今から振り返るとWTOが農業人口の利益をおかすという意見はもうない。WTO加入は農村人口の収入を高めた。


安斎: 三農問題もこのように自然に解決するということか。


周:  三農問題は権利の問題。今までの流動を妨げる政策に関係がある。今までの計画経済は農業人口の流動を妨げていた。中国では歴史的に形成されてきた農村の問題は一足跳びで解決できないことは100も承知。自由貿易を促進するのは正しい方向。これにより三農問題も解決するのではないか。


木村: 三農問題は貿易収入とは関係ない。人がもっと移動できるようにならなければならない。そうでなければ経済活動が移動できるようにならなければならない。上海から北へ行くたびにどんどん不便になっていく。インフラ以外にも、人の考え方が障害。経済活動が奥に入っていけないのはそれが理由。これは中国は変えることができるはず。受け皿がしっかりしていれば経済の移動は可能。日本の場合、工場は地方に一旦移転したが、その後、直接、東南アジアに移転してしまった。日本の地方労働力は都市労働力につられて高くなっている。地方自治体の政策もきわめて重要。


張:  FTA推進における日本政府の政策についての最大の批判は何か。


安斎: 食料安保のような話だ。その結果日本の農業はだめになってしまう。非常時の食料確保が困難になるのではないかという考えだ。


下村: 中国はいろいろ食料を日本に輸出しているが、中国はいずれ食料輸入国になる。その他の輸出国が食料を武器にした場合、どうなるのかと考える日本人は多い。


木村: ;少量の安定供給については、国内で供給するのは非効率的。日本はカロリーベースで60%を輸入している。日本は何を恐れているのか。食料の危機とは、災害、テロリストで交通が麻痺するなどであり、日本は様々な国から輸入すればいいことだ。


張:  私は食料安全保障について理解しがたい。食料は2年間の貯蓄があれば戦争が起こっても生産ができる。


周:  中国国内でも食料自給率について心配する議論がある。この心配は最終的に既得利益の階層が持っている。この既得利益を守るために補助などをもらっている。自由貿易は信用できないという見方もある。しかし経験から見れば、戦争の場合でもお金さえあれば食料貿易は活動している。この問題はゆっくり解決しなければいけない。中国のような人口が大きく、土地が少ない国についてはどのように競争すればいいのか。よりいっそう知的集積につとめなければならない。


安斎: 周さんの考えは中国の知識層の考え。これは国内でどれだけの力を持つのか。


周:  これは重要な問題である。重要なのはこの考え方が正しいかどうかである。


木村: 日本の農業保護のやり方は合理的でない。日本は本当に土地がないのか。耕作されていない土地が地方にはごろごろある。農水省の改革は方向として間違ってないが遅い。日本経済にとって農業があるかないかで何の影響もない。しかし農業政策により日本の産業政策がめちゃくちゃになっている。


張:  日本の農業は経済というより政治に関係があることが分かった。農業の次は金融だが、日本政府として、金融開放、AMFについてどう考えるか。


安斎: アジア通貨危機のときに日本の責任者だった。アジア中央銀行総裁を集めていろんな議論をしていた。基本的には、これだけグローバル化が進んでくると、カネの出入りを自由にすると、為替レートも金利も思い通りにコントロールできなくなる。一つしか選択できない。あの時、みんな為替レートを変えたくないと言っていた。自分の通貨を買い、外貨準備を放出する。日本銀行は無限に出せる自国通貨を放出してドルを買っていた。しかし他の国は自国の通貨を買い、外貨を放出しており、負けるに決まっている。そこでAMFの構想ができ、国同士が信頼を高め、お互いの通貨を交換する。無限の放出できる通貨を出す。日本と中国はそうしている。こういう輪を広げていけばアタックされることはなくなる。自国の通貨価値を高める。この論理から離れて行動するのは難しい。


張:  中国には内需の問題がある。中国はなぜ輸出がふえるのか。それは国内で売れないからだ。国外のために生産していると言える。中国の輸出率はGDPの30数%を占めている。貯蓄率が高い等のデータは疑わしい。GDPは低く計算されていると思われる。統計が正確になされていない。労働市場、農村から出てきた保母さんなどの統計は取りづらい。隠したり、偽造報告したりしている。


安斎: 日本のGDPもフロート制に移行したとき、各国の批判をあびていた。中国の物価統計は正確ではないかと思う。

中国側の参加者に聞きたい。先ほど触れられたのは全てモノの交流だが、中国の人的市場は100%外資に開放されていない。人的資源はやや鎖国的傾向がある。社会主義とも関係がある。人材と経済の関係について、人材の役割は非常に大きい。人材派遣の際、言葉の問題がある。言葉により人材交流が妨げられるのは残念である。中国人は欧米に行きたがる。中国人が日本に行く場合、語学学校で勉強するのみで、殆どは欧米に行く。


張:  中国の人材の流動問題は外国政府の制度問題であると考える。北京大学卒業生は外資企業に就職している。


小林: 日本も外資の割合をどれほどにするかはずっと議論されてきた問題。100%はNO、マジョリティーはしぶしぶという状況だったが、20年ほどまえから100%OKになった。中国もそのうち100%OKになるだろう。しかし人材市場はデリケート。日本の労働人口は将来減少するので、その部分をどう補うかを議論しているが、非熟練労働力は未だに慎重。日本は同質社会に慣れており、外国人と一緒に生活し、働くのが苦手。これは意図的なものではない。しかしいつまでもそういうわけにはいかない。日本は特に研究機関で世界に通用するトップの人材が来るようなものを設立しようと今やっと議論しているところ。流れとしては、今後より多くの人が日本に入ってきて、差別されているという意識をもたれずに仕事をしてもらう環境が整備されるべき。


進:  ANAが国際線に参入したとき、サッチャー首相の話を何度も聞いた。イギリスでは工業系の学校に行きたがる人は少なく、それがイギリス衰退の大きな原因だといっていた。日本もまさにその状況である。日本はもっと技術者を招聘してはどうだとか、日本とはまた違った考え方が流入し、それがよい結果を生み出すのではないかと私は以前提案したが、そうすれば日本が日本でなくなるという意見もあった。しかし日本は今までのような同質社会ではやっていけなくなるだろう。


張:  バブル経済崩壊には何か兆しがあるのか?中国のバブル経済についてどう考えるか。


周:  バブル経済についての明確な定義はないだろう。はっきりしているのは、すべての価格低下は通貨と関係がある。通貨を出しすぎれば経済に影響がある。バブル対処策は通貨の管理策を見なければならない。中国人は好奇心を持っており、勉強のスピードも速いということで、人民元とドルの為替レートは中国経済の成長を正しく反映しているわけではない。バブルの原因は通貨問題。多くの人民は、人民元は早く値上がりしてはいけないと考えている。アメリカの圧力に負けてはならないと考えている。もう1つは土地の供給量の問題もある。ITは一番開放されており、技術進歩も早い。しかし電子機器の価格は下がっている。業種によっては自由な供給環境に妨げがあり、異常な高騰を生み出す。たとえば土地の供給。中国では農民の土地は市場に出すことができないので、それにより土地の供給が人為的に制限され、価格の高騰がもたらされる。


安斎: 日本の状況に似ている。どうやって解決すべきか。日本ではお金を一番持っているのは中央銀行。


小林: 日本のバブルが崩壊したのは、89年の株価最高値で、異常な状況が出始めた頃。判断力がバブリーになる。当時の時価でカリフォルニア州全土よりも高い。このような状況では判断力がおかしくなる。当時は日本の企業が100万ドル単位でアメリカの大学に寄付をする。過去2週間の株価の推移、値上がり部分の総額が今のアメリカの7大銀行のマーケットキャピタルの総額よりも大きい状況だった。つまり、常識が大切。


周:  中国としてはバブルをコントロールできる範囲で抑えたいという考え。痛みを経験していない人々には理論の説得は困難。中国は都市化のスピードが速い。対外開放の割合は日本より大きいと思う。外国で仕事をして中国国内で家を買う人も多い。日本はこのようなケースは以前なかったはず。発生するものは発生するだろう。我々としてはそれを説明することしかできない。そこに無力感を感じる。


張:  今日の討論は本当にホットな議論となった。お互いの相互理解は深まった。これは大切なこと。お互いの考え方を報告してくださったパネリストに感謝したい。