第4回:相互理解に向けてメディアの果たす役割は大きい
劉北憲 中日両国の交流において、国民の感情の問題がありました。去年、中国の記者が日本で重要な人物に対して取材をしました。そのとき大変印象深い言葉を承りました。いつ中日両国は家族のように、お互いの顔色を見ずにできるだろうかとおっしゃいました。中日両国というのはほかの2国間よりも感情的な要因というのが大変深いと思います。このような感情的な要因がありますが、私たちはそのためにデータだけに頼って悲観的な判断をすべきではないと考えています。
私たちはこのような角度から中日関係を考え、さらに多くの感情的な要素を積み上げて、それによってともに両国関係をさらによい方向に進めていくことが必要だと思いますし、また、それがメディアの責任だと思います。
範士明 このフォーラムだけでなく、ほかの場所や、個人的にも聞いたさまざまな恨み、不満がありました。私たちメディアの役割がよくないとか、かえっていろいろな問題を引き起こしているというようなことを聞いています。先ほど劉先生も、張先生も、きょうの発言や調査の中から非常に重くそれを受けとめたとおっしゃいました。私自身は一つ、それは必要ないということを言いたいと思います。私たちメディアの人間はもっと心を大きく、リラックスしていいと思います。中日関係におけるメディアの役割については次の見方をしております。
1つの見方ですが、これは中日関係も含めてです。ニュースメディアの国際関係における役割について簡単に言いますと、ニュースメディアの報道というのはさらに多く国際関係、または二国間の変化の結果を報道すべきであり、国際関係や二国間関係が変化した原因を余りたくさん報道すべきではないと考えています。私が考えるに、中日関係における問題というのは、完全にメディアに責任を負わせることはできないと思います。また、主な原因がメディアにあるとは言えないと思います。
大衆のお互いに対する見方について、調査においては何度も証明されていることがあります。それはニュースメディアがお互いの国民が相手の国を理解するための手段となっているということです。しかしながら、だからといってお互いにマイナスのイメージを持たせるようなことをメディアが引き起こしているわけではありません。皆様ご存知のように1人の1つの見方、また、見方を形成するときに情報を知る手段の1つとしてメディアがあるわけです。あくまでも1つの手段にすぎません。ですから、情報源というのは重要ですが、決してそれだけに責任があるということではありません。これが1点目です。
そして、2点目は、新聞メディアは、両国関係において、決してマイナス面、消極的な役割ばかりではありません。メディアが果たすべき役割というものは非常に大きな責任を持っていますけれども、その中で自分たちの役割を発揮することができます。中日関係について言えば、徐々に、また瞬間的に、また間接的な意味で言えば、メディアは大きな影響力を持っています。ニュースメディアは、これまである情勢というものを強めたり弱めたりすることができます。しかしながら、それをつくったのはメディアではありません。ですから、もちろんある建設的な役割も発揮できます。メディアの役割として、積極的な役割を果たしていくことは重要です。
きょう趙啓正先生も熊先生からもお話がありましたが、中国においては多くの日本のテレビが放映されました。「おしん」のように、小さいころ見たテレビドラマもあります。「サインはV」などもありました。このような文化の交流において、趙先生がおっしゃったようにメディアというのは大変大きな役割を発揮できる余地、空間があります。
第3点ですが、新聞、テレビのメディアに対する評価です。これは区別をつけずに言いますと、私たちは中国メディアとか日本メディアとか、単純に言うことができないと思います。その役割を簡単に言うことはできません。メディアにはさまざまなメディアがあるからです。
メディアの役割については、メディア自身の運営ということを考えていかなければなりません。さまざまなメディアは機能を持っています。また、その効果というのもさまざまです。現在、メディアによる世論形成について言われていますが、それだけではないと思います。商業的な角度から見た場合、どのような報道が行われているのか、また、娯楽的な報道が行われている場合もあると思います。そういったさまざまな機能ということも考えていく必要があると思います。
もう一つ、忘れてはならないことは、メディアに対して圧力をかけているパワーがあるということです。それは決して軽視できません。メディア以外からかかってくる圧力、プレッシャーというものを決して見落としてはならないと思います。
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「第4回/相互理解に向けてメディアの果たす役割は大きい」の発言者
劉北憲(中国新聞社常務副社長兼副編集長、「中国新聞周刊」社長、高級編集者)リィウ・ベイシエン
1983年大学卒後中国新聞社入社以来、編集役、ジャーナリスト、社会の反響を呼んだ一部の報道記事を書き、編集。中国新聞社編集長室副主任、主任、報道部主任。90年代初任副編集長として、重要ニュースの企画、報道を担当。1997年香港に派遣を受け香港分社長兼任編集長。2000年本社に帰還、副社長兼任副編集長。2004年常務副社長兼任副編集長。2002年より『中国新聞周刊』社長、一度編集長を兼任。
範士明(北京大学国際関係学院准教授、博士)
ファン・シミン
1967年中国吉林長春に生まれ、主に国際関係の中のニュースの伝播、中米関係、公衆世論の問題などを研究することに従事していた。《中米の関係史》、《メディアと国際関係》などの課程を講義し、国内外の雑誌の上で著述した論文を発表した。範士明は北京大学で法律学の学士(1990)、法律学の修士(1993)、法律学博士(1999)の学位を取った。米国のハーバード大学の費正清東アジア研究センター(1998)を訪問、研究したことがある。そして日本新潟大学(2001-2002)、東アジア大学(2004)などでは、客員教授を担当したことがある。
日本と中国の間に相互認識のギャップが広がっていることが、言論NPOなどが行った日中共同世論調査で明らかになっています。その背景にメディアの報道のあり方の問題が指摘されています。
先の東京―北京フォーラムで話し合ったメディア対話の内容を公開します。
第14回:「両国とも互いの国の枠を超えた多元的な報道に努力すべき」
第13回:「文化の切り口にした報道こそ相互理解の深化に有効」
第12回:「流動する現実と相互の違いを認め合う報道こそ大切では」
第11回:「メディアが直面する政治、市場、大衆の3つのプレッシャー」
第10回:「反日デモでの両国メディアの対応はどうか」
第9回:「中国のメディアと言論の自由」
第8回:「中国のインターネットメディアの実態はどうか」
第7回:「日本の歴史認識の問題点は何か」
第6回:「相手国のイメージは現状より先行きの不安を反映する」
第5回:「両国民の認識に構造的に埋め込まれた誤解こそ問題」
第4回:「相互理解に向けてメディアの果たす役割は大きい」
第3回:「相手国について偏った報道をしていないか」
第2回:「お互いのことはまだ十分に知らない」
第1回:「メディアは相互誤解を増長しているのか」