第3部: 「メディア報道に感じた違和感」
山下 フォーラムの次の日にすぐ新聞記事が出てきて、それを読み比べたときに、同じことやっているのに、全く違う内容の記事が出てきて、こうやって違う認識が作られていくんだなと。鞘当てといった論調がありました。どうやったら正しく伝えることができるかを考えるきっかけになりました。
工藤 今のも大きい話ですね。つまり、自分たちが何かをやれば変わるゾーンがあるということです。専門家だけではなく、熱意をもってやれば学生だって誰だってできるんです。しかし、本当に良い議論をしても、メディアをはじめそれをちゃんと伝える人がいなければ、国民はそれを知らないわけです。これも一つの問題です。
それから、こういうこともありました。メディア分科会で清華大学の教授が、若い学生は中国でインターネットばかりで。メディアは多様化しているのだと言っていました。でも、範士明さんに聞いてみたんです。すると中国の学生はほとんど寮生活で、テレビが禁止されているから、インターネットを利用していると。一般国民と全く違う状況なわけです。こういうことがわかっていれば、認識の前提をもっともっと公開して、明らかになったはずでしょう。
メディアの問題について、小堤くんはどう思いました?
小堤 実際にあの安倍官房長官と王さんの発言を目の前で聞いて、自分としてはプラスの印象がありました。それが他の新聞記事では「対立」という表現を使っていて、自分が一次情報を得て感じた考えた認識と、全くかけ離れた報道がされていました。メディアの報道のあり方として「私たちはこういう立場でいくんだ」という形ならアリだとは思いますが、それが無いのならちょっと問題なのではないかと。
僕は今回一次情報にあたって記事を読んだから、「あ、僕の認識とはぜんぜん違う報道だ」とわかったのですが、今回フォーラムに参加していない人が「対立した」という報道を見ると、「対立した」と思ってしまうでしょう。逆にプラスの表現で報道したり、「友好だ」と打ち出した記事を読めば「友好」と認識してしまいますよね。実際に一次情報に当たってみないと、何らかの形で歪められて受け取ってしまうんじゃないかと思いました。
工藤 去年北京でやったときも同じことがあったんです。中国のメディアは経済関係などについて質問したんだけれども、日本の記者だけは靖国しか質問しないんですよ。「靖国どうでしたか?」ではなく、「靖国で反発あったんでしょ?」という質問がくる。シナリオがあって、そういうスタンスで来ているんです。こういう形で色んな認識がつくられてしまうというのは非常にまずいです。
是枝 フォーラムでは、目の前で実際に外交をしてる方や中国で働いている方を見ることができました。そういう人たちはそういう人たちで、議論し行動していると思っていたのですが、話を聞いていると、そういう人たちも普通の人たちがどう考えているか重視していました。だから自分がどう考えているかということを相手も見ているし、相手も同じように自分を見ているんだろうと。するとやはり他人事じゃないというか、一人一人がどう考えているかということがつながっていって、実際に外交やっている人にもつながっていくんだろうし、逆もあるんだろうし、そういうつながりを感じました。
渡辺 今のとは直接関係あるかわからないのですが、マニフェストの調べものをしていて、様々な大臣の記者会見をみていると、必ず靖国について大臣に質問があるんですね。ホットな話題というものをとる傾向がメディアにはあって、きっと「対立」報道に関しても彼らに言わせてみれば、報道の自由とか報道の多様性に当てはまると思うので、そこはたぶん微妙なところだなと思います。
工藤 情報が公開されるということが重要なんですね。GyaOとかで流していたでしょう。参加する人たちがそれなりの感じ方をすればいいんです。話をつくっちゃいけない。ある新聞をみると、発言の悪いところをつなげていますね。あれは良くない。
鈴木 私も情報公開が重要だと思います。記者会見の後、記者の方から資料を求められたときに名刺をもらった人のうち数人から、「ここはどういうことだ」と細かく尋ねられました。たとえば「靖国参拝について、戦犯を外せば参拝してもいいか」という設問で、「A級」がついているのか、ついていないのか、ということを質問しにいらした方がいて、本当に中国の認識を知ろうとしている人なんだなと感じました。色んな方にインタビューをしていて、次の日に、安倍さんと王さんの対話はネガティブなものではなく未来志向のものであると、一番鋭い記事を書いていたと思います。だから私は、記者がすべて悪いとは思いません。記者の中でもちろん自分勝手にストーリーを作ってしまう人もいますけれども。中には、野心なのかジャーナリストの魂なのかわからないけど、本当に真実を追究する人はいる戸思います。そういう人に対して正確な情報を伝えられるような情報公開はすべきだと思いました。
工藤 分科会を見ていて、非公開と公開がありましたね。全部見ていくと、第5分科会が一番良かったです。それはGyaOで放映されて、見られているという意識をもっているから。公開がいいですね。非公開を望んだのはむしろ日本側だった、望んだ人がいたのは。自分の発言が表にでると変な風に思われるという人がいたんですよ。普通は中国側が非公開を望むと思いますが。世論調査のも全部公開すればよかったかもしれない。メディアの問題で、最後に何かありますか?
小堤 問題ではないですけど、言論NPOが全体会議等を移して、YouTubeにアップしたのは革新的なことだと思いました。すごいですよ。生でどういうことが起こったのかと映して、みんなに発信する。こういった新しい技術を使うというのは、先進的なことだったのではないでしょうか。
工藤 そうですね。関心があったのは裏方でしたね。いっぱいアップされてあるから皆、民間の非営利組織が一体なんなんだと思ったんでしょう。メディアの問題はとにかく公開しなければならないということと、伝える側ということです。僕たちがちゃんとやればちゃんと伝わるというのではなく、色んな伝え方があるということを学んだ。だから、基本的には情報を公開して、判断材料を公平に提供するということが重要ですね。
コーディネーター
工藤泰志 言論NPO代表
学生
鈴木麻衣子 東京大学公共政策大学院
小堤音彦 慶應義塾大学総合政策学部
是枝宏幸 東京大学文学部英語英米文学科
渡辺佑樹 慶應義塾大学総合政策学部
山下泰静 東京大学公共政策大学院