「東京-北京フォーラム」開幕を目前に、武藤敏郎氏(株式会社大和総研理事長、前日本銀行副総裁)、小島明氏(公益社団法人日本経済研究センター研究顧問)、高原明生氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、白石隆氏(内閣府総合科学技術会議議員)、添谷芳秀氏(慶應義塾大学法学部教授、東アジア研究所所長)、の5名の日本側の参加者に「現在の日中関係において、この民間対話の意義を貴方はどう考えるか」、そして「今回のフォーラムに貴方自身はどのような姿勢で臨むのか」ということを尋ねました。
武藤 敏郎(副実行委員長 経済対話前半パネリスト 株式会社大和総研理事長、前日本銀行副総裁)
中国は、極めて順調な経済発展を遂げている。上海万博に象徴されるように、国威発揚の雰囲気が強い状況にある。中国のGDPは、4-6月の四半期ベースで見ると日本をすでに追い越しており、年単位で見ても今年には日本を抜いて世界第二位になる見通しだ。
中国当局のみならず、中国の一般国民も自国に対する自信を強めている。一方、日本は将来に対してやや疑問を抱かざるを得ないような話が多い状況である。
しかし、中国は日中関係の重要性をよく理解している。特に、為政者は先を走っている日本の経験を聞きたいという気持ちが強く、1人あたりGDPは、3000ドルは超えたものの、日本に比べると自分たちはまだまだだ、と思っている。
この様な状況下で今後の両国の関係を考えるとき、様々な局面・レベルでの意見交換が重要である。具体的には、政府間だけでなく、シンクタンクや学者といった人々による意見交換である。今現在そのような形の対話をもっているのは、この「東京-北京フォーラム」だけである。このような多くの分野やレベルでの意見交換が今ほど重要なことはない。そのような観点から、このフォーラムを活用してはどうかと私は考える。
この「東京-北京フォーラム」では、日中両国のパネリストは多岐にわたる。それが、このフォーラムの特色である。このフォーラムは、日中の将来に対して何らかの重要な役割を演じていかねばならない。お互いのこの舞台を利用して本当の議論をしていくことを私は望んでいる。
このフォーラムは2005年の反日デモの直後から始まった。当時は開催も危ぶまれるような状況であった。しかし、このフォーラムがここまで続いてきたのは、中国の国民が聞く耳を持ち、関心を示してくれたという手応えがあったからである。
現在、中国では情報化時代の流れが着実に広がっている。インターネットの普及が進むなど、近年メディアが多様化している。この流れの中で、民間対話の意味は非常に大きくなってきている。政府自体も、民間の声、国民の声を重視するようになってきた。民間レベルでの対話が、メディアを通じて中国国民全体に流れることが重要なのである。世論調査の結果にあるように、日本の中国に対する関心は、中国の日本経済に占めるウェイトから考えると消極的である。ここから言えることは、中国の日本社会へのメッセージが重要であるということだ。
現在アジア全体が勃興している。これは歴史的な転換点である。この局面においては、日中関係のあり方が世界全体に多大なインパクトを与えることになる。世界を誤った方向に導かないためにも、まずは日中関係が誤った方向に動かないようにすることが重要である。
このような状況下で開催される民間対話は、世論調査などをツールとして、日中間に横たわる様々な問題意識を拾い合う場であるべきだ。目先のことだけにとらわれず、10年、20年、30年大きな歴史流れの中で現在を位置づけながら、議論していくチャンスであると考える。
このフォーラムが、政府に対してだけではなく、国民に対してもメッセージを発信していくことを期待している。
現在、日中間の政治的な関係は、非常に良いといえる。お互いに率直にお互いに考えていることを言いやすい雰囲気になっている。
前回のこの「東京-北京フォーラム」でも深い話ができたが、今回はさらに一歩踏み込んで、本音の話し合いが出来ることを心から期待している。このフォーラムは、すでに何度も開催されており、参加者のお互いの気心も知れている。今回は、さらに踏み込んだ話し合いをすることが、大いに期待できるだろう。
20世紀前半、少なくとも2030年くらいにかけて、中国は豊かになり、ますます力をつけてくる。そういった中でどのようにして、混乱なく、うまくアジアの安定を維持するか。また、そのために中国がどうやって日本やアメリカと共に、大国としての役割を果たしていくのか。そのための協力をしていかなくてはならない。
このフォーラムは、そのための一種の相互学習のいい機会であると考える。
このような対話の機会は、相手が「なぜ」そういうこと言うのか、ということを突き詰めて考えるための非常に重要な機会だと考える。例えば、公式見解であっても、なぜそのような公式見解なのかという議論ができると良いと思う。また、正直な心の叫びであっても、我々からすれば非常にピント外れなことを言っていることが多い。しかし、そういった場合にも、なぜ本気でそういう風に思うのかを聞いてみることが重要なのである。そして、逆に中国側にもそういう姿勢で日本側に問いかけてほしいと思う。
日中間の厄介な問題に関してよく起こることがある。それは、「中国はこうだ」ということを中国人が説明したり、「日本人はこうだ」ということを日本人が説明したりする際に、お互いに、「いや違う、中国はこうだ」と日本人が言ったり、逆に中国人が日本側にそう言ったりするということだ。
しかし、そのようなことだけで終わるなら、その議論に意味はないのである。私自身も、このフォーラムに参加するのは今回で4回目となるが、そういったことで終わらない議論にするために貢献したいと思う。
「東京-北京フォーラム」開幕を目前に、武藤敏郎氏(株式会社大和総研理事長、前日本銀行副総裁)、小島明氏(公益社団法人日本経済研究センター研究顧問)、高原明生氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、白石隆氏(内閣府総合科学技術会議議員)、添谷芳秀氏(慶應義塾大学法学部教授、東アジア研究所所長)、の5名の日本側の参加者に「現在の日中関係において、この民間対話の意義を貴方はどう考えるか」、そして「今回のフォーラムに貴方自身はどのような姿勢で臨むのか」ということを尋ねました。