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徐 林 (国家発展・改革委員会財政金融司司長)
パネリスト:
劉光渓 (国家外国為替管理局総合司司長)
張 濤 (中国人民銀行国際司副司長)
杜亜軍 (中国建設銀行小売業務総監督)
黄 徽 (ヘッジファンドTeleos〈米〉投資マネージャー兼量化戦略責任者)
馮艾玲 (国務院法制弁公室財政金融法制司司長)
日本側司会:
小島明 (日本経済研究センター会長、日本経済新聞社顧問)
パネリスト:
五味廣文 (金融庁顧問、前金融庁長官)
平野英治 (トヨタファイナンシャルサービス株式会社取締役 前日本銀行国際担当理事)
河合正弘 (アジア開発銀行研究所所長、元副財務官)
清水寿二 (株式会社東京証券取引所グループ常務執行役)
分科会「経験の共有:中日の金融システムと通貨政策」においては、前半は中国と日本の当面の金融の問題点、そして後半は金融協力、共通通貨問題を含めた将来の課題について議論が行われました。
まず五味氏より、日本が金融システム問題からどのように脱却したかについての説明がなされました。同氏は、バブル崩壊後の教訓を踏まえ、①リスク管理の強化、②バッファーとしての自己資本の充実、③経営のガバナンスの充実の三つを柱として、政府が様々な政策を打ち出し、2004年以降、金融機関の経営安定化を求める行政から活力を求める行政へと転換をめざすようになったプロセスを概観され、その上で、「迅速かつ大胆に措置をとることが大切である」と述べました。
これを受けて徐氏は、中国の金融システムも現在似たような状況に直面しているとして、中国も今後金融再生が必要である旨の説明を行いました。また、張氏は、中国の場合、銀行システム改革の進め方は日本と良く似たものが多く、中国の銀行は現代的な金融市場に合った銀行経営への転換が必要とし、すでに危機から脱出し、発展の段階に入ったとの認識を示しました。さらに、今の中国経済のバブル的な状況はいつまで続くのか、今後不景気になったときにどう対処すると考えているのかとの平野氏からの問いかけに対し、張氏は、経済には循環サイクルがあり、マイナスサイクルの下で銀行の経営がしっかりしていれば改革の成功と言えるが、銀行はそれに備えておくことが必要だとしました。
そして小島氏、河合氏がそれぞれ、「プラザ合意後の1980年代以降、日本はそれまでの制度的枠組みが適合しないという経験をした」、「世界中のあらゆる国は金融自由化を進めれば、ほとんどの国が金融危機に直面するということを前提にものを考えなければならない。今の中国は経済の急速な発展に金融システムの枠組みが追いついていない。」と述べたのに対し、徐氏は日本側からの問題提起に賛成するとした上で、「今はマクロ経済も、企業経営も上昇サイクルにあるが、今の中国にはマクロコントロールが必要であり、中国人民銀行も日本の経験を重視している」としました。
次に会場からの、①過剰流動性に対するアドバイス、②今の中国での金利の妥当な水準についての質問に対し、平野氏は、流動性過剰でインフレ率が高いときは金利を上げて引締めを行い、経済を巡航速度に戻すことが行われるが、不動産価格の急上昇に対して中銀が何をすべきかについての答えはなく、資産価格を視野に置くことは必要であっても、これをターゲットにして金融政策を実施することは不可能であるとしました。また、長期的には名目成長率と金利はだいたいイコールであるため、今の中国では少なくとも10%以上の金利が普通であるが、その場合、金利上昇による国内経済へのショックと資本流入の増大という問題が生じるリスクがあるとしました。
また河合氏は、今の金融政策と為替政策は相反する状態であり、ブームを抑えて金融システムに溜まるストレスを軽減するにはもっと早いテンポでの切上げが必要だとしました。
そして張氏は、05年7月の為替システムの管理フロートへの移行にともなって市場に応じたクレキシブルな変化が生じることを期待しているとし、中国政府は成長パターンを消費がリードする形での内需主導型経済に転換させようとしており、こうした構造的な調整が重要だとしました。
サブプライム問題については、五味氏は、日本の金融機関はサブプラへの投資は限定的で、現在直ちにリスクが表面化する可能性は小さいが、国際的な広がりの大きさを見極めるにはもう少し時間が必要とし、米国経済にどの程度のインパクトを持つかによって日本の金融機関への影響も左右されると述べました。
今後の日本経済、物価への影響については、平野氏は、従来に比べて下ぶれリスクが増大しているように見える状況であり、景気回復のスピードは余り速くはならず、企業が値上げに慎重である中で、物価の上昇速度はきわめてマイルドなものとなることを踏まえれば、向こう何年かは低金利政策が続く可能性が高いと見ているとしました。
また、バブル崩壊後の株価下落の影響について、清水氏は「1980年代後半、サッチャーは株式市場の開放を要求したが、それが改革の方向ではなかった。バブル崩壊後の10年間で、手数料の自由化等制度変更が行われ、これが改革につながった。失われた10年の間の変化は大きかった」と述べました。
次に、議論のトピックは通貨問題へと移りました。小島氏は、「アジアにおいてモノの協力は進んでいるが、金融面での協力が不足している。金融危機が発生した後、アジアの諸国間で支え合う仕組みを構築する努力が始まっており、アジアの貯蓄をアジアに必要な資金として活用しようとしている。また、共通の通貨単位を考える方向も探られ始めている」と述べました。また、河合氏は、「中国は外準運用に注力中であり、1.3兆ドルは過剰。外準の50%は余剰と考えられ、その運用に当たっては、投資ファンドへの投資や、GICのように直接投資をする方法もある。しかし後者は外国から警戒される可能性が高く、前者のような間接的な方法が現実的であると思う。個人的にはアジアの経済発展に使って欲しいと考えており、たとえばチェンマイイニシアティブの多国化のためのプール用資金として提供するのが一つの方法である。アジアにおけるインフラ投資への運用については、今後10年間、年間で3000億ドルが必要といわれており、それに投資するインフラファンドを設けてここに投資する方法もあると思う」としました。
グローバルインバランスとアジアへの資本流入の問題については、河合氏は「今のサブプラ問題がドルの信認にどのような影響を及ぼすか、経常収支の不均衡に対して保護主義的な動きが高まるおそれがあるほか、ドルの下落リスクもある。これを回避するためには、アジアに投資してアジアの域内需要の拡大に貢献する方法がある。中国では環境改善、省エネ、ソーシャルセイフティーネット強化等への投資が求められている。すでに資本流入が始まっており、資本流入をとめるのは今後ますます難しくなっていく。こうした状況に対して、ドルに対して柔軟な為替レートをもつことが必要。アジアが一体となってドルに対して切り上げ、相互間では安定を保つ仕組みが必要であり、その際、どの通貨がアンカーになるかが重要な問題。やはり日本円か人民元であるが、円は国際化がなかなか進まないという問題がある。人民元には国際化する可能性があるが、現状では交換性が不十分。そこで通貨価値を多国のバスケット構成するアジア通貨単位を作ってひとつの指針とすることが必要であると思う」と述べました。
これを受けて張氏は、中国の外準急増は政策の本意ではなく、外準の使途を現在模索中であるが、これは国によって異なるとしました。さらに、アジアにおける通貨協力については河合氏の意見に基本的に賛成であると述べた上で、「アジアにおける証券市場の相互協力、通貨問題等に関する議論も進行中である。これらはアジアの金融の一体化を進めるもので、中国国内でももっと深まった議論をしていきたいと考えている」と述べました。
一方、平野氏は、河合氏の意見の大きな方向感には同意するが、現時点では総論賛成、各論反対が多く、具体的には税制、為替制度等について痛みを伴う改正が必要であり、それを覚悟してまで推進しようという動きは遅いため、政府がコミットすることが必要だとしました。また、アジア通貨単位に関しても河合氏の意見に疑念を述べ、「それを実施する意義がわからない。また、計算方法についてもわからない」としました。
共通通貨について徐氏は、「アジア通貨危機の教訓は、動揺が生じたときに関係国が一致協力すればリスクの抑制が可能であるということである。日本側でも二つに意見が分かれているように、共通通貨の形成は容易なことではない。まずは政治家が歩み寄らなければ実現は不可能である」としました。また、「中国の金融市場も制約が大きい。今、国際機関が中国で起債するにはどうするかを考えている段階である。外資企業の起債も検討する方向であり、相談に来てほしい」と述べました。
域内における金融協力については、馮氏から「各国の歴史的要因に左右されるのであり、アジアでは日本と中国が共通認識をもっていない中で、通貨協力はできるものではない。中国との金融協力の必要性について日本政府にも認識して欲しい。アメリカはアジア諸国がドル通貨圏に入って欲しいと思っているが、ドルの先行きはあまり期待できない。日本は通貨協力を議論するうえで不可欠の相手国であるが、共通認識をもつことができていないというのが現状である」とのシビアな意見も出されました。
それについては清水氏は、「マルチではなく、バイのつながりを多くの国が持つことで、ゆるやかで実効的な統合ができるのではないか」と述べました。
証券市場の統合化に関しては、馮氏が「中国の証券市場はまだ若く、発展のスピードは速いが、貨幣市場での日中の協力がないままに、証券市場の開放、協力をするのはまだ早い。一歩一歩進んでいかなければならない」とし、東京証券取引所に関しても上場の条件が保守的ではないかとの意見が出されました。これに対して清水氏は、「証券市場は信頼性が第一。質を低下させて、上場企業の数を競うということには決してならないが、一方で東証にはマザーズがあり、中国の新しい企業が上場しやすいのではないか」と述べました。
最後に日本のビッグバン政策について、五味氏は、「橋本内閣のビッグバン政策が行われているまさにそのとき、金融危機がおこった。日本のプレイヤーには余裕がなく、新たなリスクを取るということはできなかった。根源にあったのは日本の銀行の不良債権問題であって、制度の枠組みはできたが使うプレイヤーがいなかった。しかし、現在は貯蓄から投資へという流れの中にあり、今後はもっと市場性商品の方に投資を促す。これからに大いに期待して欲しい」と述べました。
議論の最後に、司会の徐氏が、「中日関係は、草の根レベルも政府レベルでも、良好な方向に向かっていると実感している。友好協力の土台をさらに積み上げていくべきだ。」と述べて、分科会は終了しました。