中国人は、今の日中関係をどう考えているのか

2011年1月26日

 放送第17回目の「工藤泰志 言論のNPO」は工藤が中国・北京を訪問!その際に、現地の人たちに直接インタビューを敢行。この間まで大学生だった女性や外交学会秘書長にお話を聞きました。
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「ON THE WAY ジャーナル
     工藤泰志 言論のNPO」
― 中国人は、今の日中関係をどう考えているのか

 
(2011年1月26日放送分 19分42秒)

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「中国人は、今の日中関係をどう考えているのか」

工藤: おはようございます、言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る「ON THE WAYジャーナル」。毎週水曜日は「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。
 
 僕は、1月の9日から3日間、北京に行ってきました。北京に行ってきた理由ですが、僕らは毎年日本と中国の間で、民間の対話をやっています。かなり大きな対話なのですが、その準備のための打ち合わせで行ってきました。ただ、今年はかなり深刻で、尖閣諸島事件以降、日中関係は非常に良くないのですね。なので、この民間の対話の役割が非常に大事だと思いながら、今回行ってきました。僕は、今回は中国の人たちと本音の話をしたかったのですね。その本音の話をこの「ON THE WAYジャーナル」のリスナーの皆さんにも聞いてもらおうと思って色々チャレンジをしていました。そうしたら、偶然本音で話をしていただける人を見つけましたので、今日はその時の話を皆さんに聞いてもらいながら、今の日中関係はどうなっているのか。「中国人は、今の日中関係をどう考えているのか」ということについて、今日は皆さんと一緒に考えてみたいと思っています。

 その内容を聞いてもらう前に、どんな状況だったかということを少しだけ説明しますと、たまたま中国のある学会の秘書長、日本で言うと総務部長のような役職の人ですが、その人はもともと日本の大使館にもいた人で、結構偉い人とお茶をしていました。そうしたら、たまたまその人の部下で、昨年まで北京の外国語大学にいて、卒業したばかりの若い女性が書類を持ってきたのですね。なので、彼女に話を聞かせてほしいと。それから、映像もとらせてほしいと伝えると、非常にびっくりしていましたが、その上司の了承も得てこの話が実現したのです。中国の人たちというのはカメラやテレビを向けると、あまり本音を喋らないのですが、今回はかなり本音で、今の日中関係、そして尖閣諸島問題以降、中国人は日本をどうみているかということを率直に話してくれました。それを早速聞いてほしいと思います。


中国の若者は日本に親近感を失っている

女性: 日本のことは、やはり中国の若者の中では日本に親近感を持っている人はかなり少ない。

工藤: 少ない?少なくなったの?元々少ないのですか?
女性: 元々少ないですが、最近はもっと大変になりました。
工藤: どうして大変になりました?
女性: やはり一連の事件で...特に釣魚島の事件で。
工藤: 釣魚島の事件で、何が一番印象を悪くしたのですか?
女性: みんなインターネットで見ているのですが、日本が日本の法律で
工藤: 粛々対応しますと

女性: やはり釣魚島は中国の領土で、日本の国内法にはならないと、みんなそう思っています。インターネットではかなり日本を批判しています。

工藤: 批判する声がすごく多いわけですね?
女性: はい。

工藤: つまりそれは領土問題として、中国の領土なのに日本にそういうことを言われたから「おかしい」ということを言っているわけですか?

女性: まぁそういう感じ...そういう感じはかなりあります。そう考えている人もかなりいます。


領土問題だけでなく、日本のやり方に反発

工藤: 日本は自分たちの領土だと思っているので、お互いその違いがあるじゃないですか。だったら、ただ領土意識だけで反発になっちゃうじゃないですか。

女性: 領土意識だけじゃなくて、日本のやり方も。やり方を批判する人もかなり多いです。

工藤: やり方ね。そのやり方はどういうところに?

女性: 昔はそのような事件が時々中国の漁船が臨海地域に入ることもありましたが、やはり今度の日本のやり方は、急に変わりました。

工藤: 変わったって言うのは...もしくは日本政府の対応が変わったのだとすれば、それは中国とちゃんと話していなければいけなかったけれども、そういう事がなかったということですかね、急に、ルールが変わったのではないか、そういうことがあるのですね。

女性: 日本の考え方も変えた...という
工藤: つまり、あそこには魚を捕る為に中国の漁船が結構いつもいるのですよね。

女性: すぐ近くで、盛々大々、魚を採ります。でも急に、そういうやり方で...。やはり、私は、学生の考え方でやはりインターネットでみんなの色々な思い...


日本人は中国のデモに違和感をもっているが...

工藤: やはりデモとか...日本側から見てね、中国の人がいろいろ騒いだじゃないですか。あそこまで騒ぐというのが日本側は違和感を覚えたんだけど、それはもう当たり前みたいな感じですか?

女性: デモ?...それほどの規模にはならない。

工藤: あれは散発的にちょこちょこあった感じが、メディアによって大きく報道されたっていう印象?

秘書長: それは日本の報道によって大規模になるのではないかという印象ですが、中国政府、が結構抑えた結果、そんな規模ではありませんでした。

工藤: そんなに大きな規模ではなかったけど、しかしそれが結構大きな...メディアに報道されているから...


メディア報道が印象を作り上げた?

秘書長: もし日本の右翼が中国の大使館を囲んで抗議とか、その場面をね、もしCCTVで、何回も何十回も繰り返して放送すれば、中国の国民も、日本はダメとか、右翼はこんなに中国に反対している、うちの大使館に迷惑をかけていてダメだとか、いう印象になってしまう。それと同じで日本のメディアが、学生のデモを繰り返し、繰り返し、その中のごく少数の人間がね、石を投げたりとか、そういう場面を何十回も、何百回も報道すれば、すぐ、中国人がみんなそういう風になっているという印象になってしまう。

工藤: 今回もやっぱりそういう印象でした?
秘書長: そうです、繰り返した。
工藤: 日本のテレビの報道って、中国でも見られるのですか?何か見ました?
女性: 日本語のテレビは見えない...でも日本の勉強をした人はかなりいます。

工藤: 領土問題の問題があったから...というよりもやり方の問題なんですかね。今解決できないんだったら将来っていう、外交の中ではそういう話にしたわけですよね?

秘書長: 今の日本の指導者がね、これが日本の固有領土だと。元々全然領土問題がないという言い方ね、説がちょっとおかしいですよ。中日国交正常化の時、実はそのとき毛沢東さんとか周恩来さんとかですね、みんな日本の友人と話し合うとき、日本の友人自らですね、中国の領土はどうすればいいかを聞いてくれたのですよ、その時は。周恩来総理は棚上げしたほうがいいんじゃないかと。

工藤: 将来の世代で考えようと。

秘書長: そうそう。鄧小平さんのときになれば、我々がこの問題を解決する知恵がまだないと。これからの人間は我々よりか知恵があるのではないかと。これはその人びとに任せた方がいいのではないかという事を言って、反対の意見も全然なかった。もちろんお互いのですね、実はこのことについてある意味での黙認とか。
でも、急にこれは自分の領土とか、固有の領土とか、誰も入っちゃいけないとか、今まではここで魚を採っていても今はダメだとか、それが今まで追い出すという形が急に逮捕するとか、急に変わっちゃった。一方的に変わったら「反応」があるんですよ。それで簡単なことが複雑化された。


政府間のコミュニケーションも不足しているのでは?

工藤: こんなに今日の日中関係が大事だと動いている割には、政治間の、政府間のコミュニケーションがかなり不足しているっていう風にみえますよね。だとすると、

秘書長: そうそう。そのチャンネルがもしなければ、その意欲がなければ、この問題が悪循環になってしまうわけですよ。

工藤: 今、日本語勉強しているわけでしょ。今、率直な感想としてどうですか?
女性: 私は一般の学生で、一般の若者にとってはやっぱり難しい、日中関係って。
工藤: 日中関係は難しい?
女性: はい。国民感情をどのようにすれば上手くいくことができるか。
工藤: どうしたらいいか分からないっていう状況ですか。
女性: 分かりません。
工藤: でも、良くしたいっていう気持ちはあります?
女性: みんなそういう気持ちがあると思いますが、一部の人がやはり悲観的になっている。
工藤: そうか、そんなにがっかりしましたか、今回は。
女性: びっくりしました。
工藤: びっくりしたのね。


日本の政治家の発言を中国人はどう思ったか

女性: 今回の日本のやりかた、また前原大臣の発言。中国のインターネットでも、その人は...

工藤: 前原さんの発言が。どんな発言ですか?中国が気にしているのは。
女性: 今回の漁船事件で、前原さんは色々と強硬な...強い発言をしました。

秘書長: 普通の庶民だったらまぁ何を言っても構いませんが、政治家の話は慎重に話したほうがいいのですよ。中国側は中国と日本で戦争したくはないですよ。だから冷静な考えを一旦持って、一旦何かあればアメリカは日本を保護するというのが、それは結構おかしいです。あれは戦争を前提として考えたんです。でしょ?つまり戦争を狙っているじゃないかという、お互いにあるのではないですか?

工藤: そこまで日本の国民は誰も考えてないよ、全然。考えてないのだけど...ただ中国の中にね、やっぱり経済的な大きな自信過剰の意識があってね、それで大国的にものを見るって言う意識が最近出てきているような感じはしませんか?


中国の大国意識に日本は戸惑っている

秘書長: 中国政府の政策が変わっていない。しかし、国民の一部分の人の中には、自分が元々ずっと苛められた弱い国だと、今度は自分が強くなったと豊かになったと。だから、まぁ自信を持っていると。だからもともとは苛められた状況を変えたほうがいいんじゃないかとそういう考えを持っている人が確かに居るんですよ。特に、若者の中にも確かにいるんですよ。ただし、それが、政府の政策にはなっていない。中国の判断としては、まず領土問題をもし弱めすぎると、すぐ反発を招く...。


世論の悪化が、政府の発言を強硬にする

工藤: 領土問題に関して、弱めると国民の反発が来るということですか?
秘書長: そういう感じがあるんじゃないかと思う。
工藤: それでやっぱり、強い発言をせざるを得なくなるっていう。
秘書長: そうです。それは仕方ないです。ただ領土問題...

工藤: 確かにそうですね、世論が騒いでしまうと、政府レベルの対応も引きずられますよね、それは中国も日本も同じだけど。

秘書長: 中国の言葉で、自分が欲しくないことは他人に与えない。
工藤: なるほど、自分が嫌なことは他人にするなってことでしょ?

秘書長: そうです。自分の嫌なことは他人にするな。しかし、日本がね、自分が嫌なことを、他の国がしてくださいと、いうようなことをしたんですよ。

工藤: だからやっぱり中国が大きくなっていくっていう事の中に、大国っていう意識ということが、やっぱり日本だけじゃなくて世界もね、感じている動きがあるんでしょう。

秘書長: あります。
工藤: ありますよね。そう考えてみる中国も、今回の問題って本当に困りましたよね、
秘書長:みんなマイナスです。
工藤: 今の状況はマイナスになっているでしょ?

秘書長: だからね、このマイナス状態について政治家もマスメディアもちゃんと反省しなくてはいけないんです。どうしてこうなったのか、自分の責任があるかどうか、ここまで中日関係を悪くしたのが、政治家として何をしたのか、メディアとして何をしたのか。
工藤: みんな困っているんだと。困っているんだから助け合うしかないじゃないですか。


この事態に日中ともに困っているのでは。

秘書長: そうそう、みんな困っているという感じがあれば、みんな方法を探す。
工藤: 探すよね。どっちかが正しいとかいう話になっちゃうとだめです。

秘書長: 全然。どっちが正しいとか、どっちが勝つとかですね、じゃなくて、このような状況、ここまで中日関係を悪くしたのは、全くどっちの責任とか言っても意味が無いんですよ。それが問題解決には何の役も立たない。だから、このようなことになったら、どうすればいいか、それこそ意義がある。


尖閣問題の背景にはお互いの相互理解の不足や中国の大国化に対する不安がある

工藤: かなり本音の発言になっています。僕も、単なるお茶飲み会が、こんなに本気の話になるとは思っていなかったのですが、ただ、この女性とその上司の2人の発言が、今の日中関係の中国側の状況を垣間見えるような感じがしたのですね。私は、実を言うと、今回の訪中で、この2人以外にも、中国のジャーナリストや政府の人たちともいっぱい話をしましたが、大体共通していました。ただ、この尖閣諸島問題で日中関係が非常に傷ついているということもあって、それを何とかしなければいけないという段階まできています。ただ、この何とかするということが、かなり大変です。なぜかというと、この尖閣諸島問題の背景には、領土問題以前に、政府間のコミュニケーション不足とか、国民の相互理解や交流が決定的に足りない、という問題があります。それから、日本側からみると、中国がかなり大国化してきている中で、中国がやっていることに関して非常に不安がある。一方で中国も、自分たちがどうなっていくかという将来のことを語っていない。つまり、色々な問題の中でのコミュニケーション不足がこういう風な状況を招いてしまうわけです。でも、その時に単にどっちが正しいかではなくて、ある程度相手が何を言っているかというところを聞くことから始めるしかないと思うのですね。それが相互理解を深めるということなのです。今回は中国の人はこういう風に考えているのか、ということを皆さんも「へぇ」と思ったのではないかと思います。ただ、日本側にも色々と意見があると思うので、ここの辺りから、大国化する巨大な中国とどう向き合って、僕たちは付き合っていけばいいのか、という議論を始めないといけないし、考えなければいけないという段階にきたのではないかと思っています。


率直な対話を始める時期

 今日はもう時間になってしまったので、これで終わりますが、私たちがやっているON THE WAYジャーナルの議論は、私たち言論NPOのWEBサイトでも映像で見ることができますので、ぜひそちらもご覧いただければと思います。
 ということで、時間になりました。また、来週、この続編をやりたいと思いますので、よろしくお願いいたします。今日はどうもありがとうございました。

(文章・動画は収録内容を一部編集したものです。)

【 前編 】

【 後編 】

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