第3回日中共同世論調査-日本編
認定NPO法人 言論NPO
日本の言論NPOと北京大学国際関係学院は日中の両国民を対象とした共同の世論調査をそれぞれ5月に実施した。この調査は05年から日中共同で毎年継続しており、今回が3回目となる。調査の目的は両国民の相互理解や相互の認識を継続的に把握することにある。これとは別に、世論調査を補完するものとして中国側は北京大学、清華大学など北京の5大学の学生アンケートと、日本では有識者アンケートを同時に実施した。今回、公開するのはこれらの世論調査などの4つの評価の結果である。
言論NPOと中国日報社、北京大学国際関係学院はこうした調査結果を毎年、継続的に公開するだけではなく、「北京―東京フォーラム」の議論に反映させることで、両国民間に存在するコミュニケーションや認識のギャップの解消や相互理解の促進に貢献することで合意している。
特に今回の調査は昨年10月の日中首脳会談の再開や両国首脳の相互訪問後の初めての世論調査であり、現時点では昨年の首脳会談再開後の両国民の相互理解や日中関係への意識の変化を知る唯一の手掛かりとも言える。
世論調査の設問は言論NPOと北京大学国際関係学院が協議を行い共同で作成したものである。
【調査概要】
ここでは日本側の調査結果を報告する。日本側は過去二回の調査と同様、今回も世論調査に加え、有識者アンケートを同時に行った。
世論調査は全国の18歳以上(高校生を除く)の男女に行ったもので、有効回収標本は1000人、訪問留置回収法で行われた。この1000人の内訳は、男性は48.5%、女性は51.5%、年齢別では20歳未満が2.2%、20~29歳が14.8%、30~39歳が17.0%、40~49歳が 15.0%、50~59歳が18.5%、60歳以上が32.5%である。
これに対して、有識者は言論NPOの議論や調査に参加していただいた有識者の中から2000人に質問状を郵送し、回答者の300人を集計した。学歴は大卒が74.0%、大学院卒が19.6%で合わせて93.6%となる。日本の社会で働くインテリ層の平均的な姿を示しており、これらの意見を加えることで、一般世論を補完しようと考えた。
中国の直接交流と中国に関する情報源
まず世論調査では中国との直接的な交流の程度と中国に対する認識の元となる情報源について聞いた。国民のレベルの中国との直接交流の程度と中国への理解や認識が何に依存しているかを確認するためである。
この設問は05年からの過去二回の調査と今回も同じ設問となっており、その解答の変化に注目した。その結果、中国訪問や中国人の知人の存在の有無についてはこの3年間でほとんど変化はなく、中国訪問の経験も中国人の知人の存在もごく少ない。
このため多くの日本人が日本のニュースメディアを中国に関する情報源とする構図は今回も変わっていない。国民が最も利用している日本のメディアはテレビで、有識者は新聞を利用する比率が高い。ただ、一般世論も有識者も日本のメディアの報道が日中関係に関して客観的だと考えているのはそれぞれ3割に過ぎない。
世論調査の回答者1000人のうち、中国訪問の経験があるのは1割強(13.5%)に過ぎず、この水準は過去二回の調査とほとんど変化はない。これに対して有識者調査の回答者300人の8割(81.9%)が中国訪問の経験があり、その比率は過去3年で毎年微増している。
中国訪問の理由で最も多いのは世論調査で6割強(65.9%)が「観光」だが、有識者は「仕事での出張」(65.2%)と答えている。
また世論調査では8割を超す人(84.3%)が「中国人に知り合いがいない」と回答しており、この状況はこれまでの2回の世論調査と比べても目立った改善はない。これに対して有識者は「親しい友人がいる」「多少話をする知人がいる」を合わせると7割となっている。
経済的な関係の発展に伴い交流を深める一部の有識者の比べ、一般国民のレベルでは直接の交流は極めて乏しいという構造は今回も変わっていない。
こうした状況下では一般国民の中国への認識は、間接的な経験、つまり自国のメディアの情報へ依存するしかない。世論調査では中国や日中関係を理解するための情報源は9割(91.3%)が「日本のニュースメディア」と答えている。有識者の情報源も世論よりは多様化しているが同様に日本のニュースメディア(84.7%)が最も多い。さらに、日本のニュースメディアの中で最も利用するのは一般世論はテレビが78.1%と最も多く、有識者は新聞が 55.9%と最も多い。インターネットを活用する人はいずれもまだ少ない。
ただ、世論調査ではこうした日本のニュースメディアが中国や日中関係で客観的な報道をしていると見ている人は3割(29.3%)に過ぎず、この傾向は昨年と比べて改善していない。日本側の立場に立った主観的な報道(18.3%)、日中間の対立を強調する報道(17.6%)など客観性に疑問を持つ見方は合計すると3割を超えている。こうした日本のニュースメディアの報道への客観性への疑問は有識者がさらに強く、「主観的」(22.0%)「対立を強調」(33.0%)を合わせると5割を超える。
一方で、日本国民の中国情報への関心度は、若干だが、関心の低下が進んでいる。中国情報への関心度は「日本の新聞,雑誌、テレビなどを見る程度」が64.4%と最も多いが、二年前の反日デモの発生した05年の調査と比べると10%程度低い。「ほとんど接触がない」「関心がない」も若干だが増えている。
中国や中国人への基本的な理解について
中国に対する日本人の基本的な理解だが、国民が今思い浮かべるもっとも多い中国の一般的な印象は、中華料理の61.6%で、続いて万里の長城の45.6%、さらに反日デモ,反日感情の24.9%である。また安価な日用品も21.7%と高い。
一般的な日本人の中国への理解は生活の視点からの興味や社会主義などの体制面に伴う基本的な理解に過ぎない。また05年に発生した反日デモなど日本でもマスコミで大きく取り上げられた身近な事件への印象が残っている。この3年間の世論調査でもその状況は変わっていない。これらは北京五輪の 17.8%よりも現段階で高い。
これに対して有識者がまず中国と聞いて思い浮かべるのは、「経済成長や経済の過熱」が52.3%で最も多い。将来のアジアの中核的大国も22.7%と多く、最近の中国の経済的な発展に関心を持つ傾向が見られる。
知っている中国の政治家について一般国民で最も回答が多いのは毛沢東の94%で、続いて江沢民の69.3%、胡錦涛の63.5%で、毛沢東氏の知名度は最近の中国の政治家を大きく上回って極めて高い。ただ有識者の回答ではこの3氏を含む選択肢に上げた政治家はほとんどが知っており、差はほとんどない。
また現在の中国に支配的な政治思潮について一般国民で最も多いのは社会主義、共産主義の75.2%で、続いて軍国主義35.5%、大国主義 33.3%、全体主義(一党独裁)の27.4%という理解である。これまでの3回の世論調査と大きな変化はない。平和主義や国際協調主義、民主主義といった理解はいずれも5%と少ない。
これに対して有識者で最も多いのは大国主義の65.3%、続いて全体主義(一党独裁)の51.0%で、社会主義・共産主義の45.7%を上回った。
一般世論は中国の体制に伴う理解が強いに対して、有識者は中国の大国としての台頭や体質面への理解が強調されているように思える
次に中国人の国民性について日本人が抱いているイメージを明らかにしたい。中国人は平和的か、あるいは勤勉かなど10項目で評価をしてもらった。大部分の項目で「中間」という評価が多いが、相対的に日本人が中国人の国民性として理解している傾向として目立ったのは、中国人は勤勉、好戦的、頑固、信用できない、不誠実、創造的ではない、非協調的、利己的との印象であり、そうでないという印象に比べてその回答率が高い。
中国への認識と日中関係
日中関係はこの一年間、昨年10月の安倍首相の訪中を契機に温家宝中国首相が今年4月に来日するなど首脳会談の再開、さらには相互訪問が開始されるなど、政府間の関係は改善に向けて動き出した。そのため今回の世論調査はこうした政府間の関係改善の動きが、世論の変化にどう影響を与えたのかが最大の関心事となる。
この影響を判断するために今回は現状の中国への印象と日中関係への認識を作年までの二回の調査結果と比較すると同時に、昨年と比べての意識の変化をみるために、この一年間にこの認識が改善したのか、悪化したのかを尋ねている。
結果は現在の「中国への印象」や「日中関係の評価」ともに改善傾向は見られるものの日本人の半数を超える人が現段階でもマイナスの印象を持っている。この一年で見ても日中関係への認識でも最も多いのは「特に変化していない」であり、昨年まで続いた悪化傾向に歯止めはなんとかかかったが、良い方向に転じるところまでには至っていない。
中国と交流が深い有識者はこの一年間で中国の印象だけではなく、特に日中関係に対する評価を大幅に好転させており、政府関係改善の動きが影響を与えたと判断できる。
ただ、世論調査で見る限り、中国への意識の改善と今回の首脳の相互訪問に関しては目立った影響は確認できず、両国首脳の相互訪問を知っている層でも6割近くの人は日中関係に「特に変化はない」と回答している。
中国に対する印象では日本国民の中にある最も多い印象は「どちらと言えば良くない印象」の57.6%である。これに「大変良くない印象」の 8.7%を加えると66.3%と、7割近い人が中国に対してマイナスの印象を持っている。これに対してプラスの印象は「良い印象」と「どちらかと言えば良い印象」を加えると33.1%である。
これに対して有識者は中国に対するプラスの印象が54.3%、マイナスの印象が45.6%とほぼ拮抗しており、見方は分かれている。
日本国民が中国に対して「良くない印象」を持っている理由で最も多いのは「歴史問題などで日本をよく批判するから」の61.7%で、次に3割程度の人が理由として挙げているのは「資源やエネルギー、食糧の確保で自己中心的に見える」(42.4%)、「考え方や文化が異なっているから」(38.0%)、「軍事力を増強しているから」(32.6%)、「中国の政治や経済の先行きが不透明だから」(29.1%)である。
また現在の日中関係についての評価でも、世論調査では「大変良い」(0.2%)、「まあ良い」(6.3%)と、良いと判断しているのは合わせて 6.5%に過ぎず、逆に悪いという判断は、「あまり良くない」(47.9%)と「全く良くない」(5.2%)を合わせると半数を超える。これまでの三カ年の世論調査の経緯で見ると、日中関係の評価に改善傾向は見られるが、依然、「悪い」層が「良い」と考える層を大きく上回っている。
この傾向は有識者ではより顕著で、日中関係を「あまり良くない」とみる層は昨年と比べ20ポイント程度も減少し改善傾向は見られたが、それでも「あまり良くない」とする層は41.3%と最も多い回答を集めている。
次に世論調査では、この一年間で中国に対する印象を改善させたか、悪化させたかを聞いたが、「やや良くなった」と回答した人が昨年の7.2%から 17.1%に10%程度増えるなど改善傾向は示されている。が、「非常に良くなった」の1.7%を加えても合わせて18.8%に過ぎない。逆にこの一年で印象が悪くなったと思う層は昨年よりは少なくなったが、それでも「やや悪くなった」(21.7%)と「非常に悪くなった」(5.4%)を合わせると 27.1%と、作年と同じく、意識が改善した層を大きく上まわっている。
しかし、有識者の改善傾向は顕著で、この一年で「印象」を改善させた層が24.3%(やや良くなったが23.3%、非常に良くなったが1%)で、悪化した層の15.0%(やや悪くなったが13.0%、非常に悪くなったが2.0%)を上回っている。
日中関係の評価がこの一年で変わったかについては、世論調査では「特に変化していない」と判断する層が61.6%で最も多い。「関係は良くなった」と判断する層は昨年よりは増えたが、「非常に」と「やや」を合わせても19.1%に過ぎず、悪くなったと判断する層は昨年よりは減少したが、それでも「やや」「非常に」を合わせると18.8%もいる。
これに対して有識者はこの一年で関係が「良くなったと判断する」層は合わせて64.3%と急増しており、世論と比べて好転ぶりが目立っている。
一方、殆どの人が作年同様、日中関係は重要だと判断しており、世論調査では「やや重要」を加えて73.8%が重要と考えており(昨年は72.6%)、有識者は98.7%が重要(作年は97%)と考えている。
日中関係が日米関係と同じくらい(23.4%)、あるいは日米関係に次ぐ(23.8%)重要性と判断する人は47.2%と半数近くおり、 有識者ではこの二つを加えると74.4%にもなる。
オリンピックの応援に見る中国への意識
こうした国民の中国に対する意識の変化を別の角度から把握するために、来年の北京オリンピックの決勝戦が①中国―アメリカ②中国―韓国③アメリカ ―韓国で争われた場合、あなたはどちらを応援しますか、と尋ねてみた。この設問は作年の世論調査でもサッカーのW杯での決勝戦という想定で聞いている。
いずれの設問も「国では判断しない」という回答が最も多いが、中国とアメリカの場合はアメリカを応援するのは26.3%、中国を応援するのは6.1%、韓国と中国の決勝戦でも韓国を応援するのは18.2%に対して、中国を応援するのは6.4%である。
日中首脳会談の再開について
ここでは昨年10月の安倍首相の中国訪問と今年4月の温家宝首相の訪日について、その事実を知っているか、首脳会談が今後の両国の関係改善や相互理解の促進に期待が持てるか、さらには今後の首脳会談で議論してほしい課題について聞いた。
まず世論調査では2首脳の相互訪問の事実をいずれも知っているのは65.1%で、さらに安倍氏の訪中だけを知っているのは17.6%、温家宝氏の訪日だけを知っているのが5.8%であり、日中首脳の相互訪問をその一方だけでも知っているは88.5%になる。知らないは11.3%である。
安倍氏の訪中を知っているのは、82.7%で、温家宝氏の訪日を知っているのは70.9%となる。これに対して有識者アンケートでは98%がどちらの訪問も知っている。
ただ、こうした首脳会談が日中の関係改善に期待できるかについて、期待できると回答する国民は「どちらかといえば期待できる」を加えても36.2%しかなく、逆に期待できないと回答する人は「どちらかといえば期待できない」を加えると32.9%もいる。
これに対して、有識者77.7%が期待できるとしており、対照的な結果となっている。
その理由に関して有識者にはアンケートで聞いているのでそれを紹介すると、最も多いのは「首脳会談は形式的なものだから」の36.4%で、続いて 29.5%が「領土、エネルギー問題では対立が起こるから」と「民間の理解やコミュニケーションが欠いているから」などが続いた。
また首脳会談で最も議論をしてほしい課題では 一般の国民の上位3項目は、核・拉致も含めた北朝鮮問題が35.1%と最も多く、省エネ・環境問題での協力強化が17.5%、さらに歴史問題が9.9%だった。
これに対して有識者は省エネ・環境問題での協力強化が最も多く38.7%、経済関係の強化が13.3%、核・拉致も含めた北朝鮮問題が11.0%である。
日中関係の様々な課題に対する認識
① 中国の今後の影響力と日中関係、資源、エネルギー問題
ここでは日本と中国をめぐる3つの課題の見方について現段階での国民の認識を明らかにする。
一つは「中国が今後も経済や政治面で影響力を拡大していくのか」である。これに対しては影響力を拡大していくという見方を取る人は57.4%となり、有識者では81%でいずれも昨年を上まわっている。
もう一つは「現在の日中の経済関係が、両者ともメリットのある良好な関係か、むしろお互いを脅威とする競争的な関係か」だが、これに対しては国民レベルと有識者の間で意見が分かれた。
世論調査では「お互いを脅威とする関係」という見方が43.2%と半数近くで、「両者ともメリットのある良好な関係」という見方を支持する層は28.9%に過ぎなかった。
これに対して有識者は「両者ともメリットのある良好な関係という見方」を持つ人は71.4%になる。
さらに中国が資源、エネルギーの確保を強烈に進めている問題について、「対話での解決で努力すべき」という見方を支持する人は国民レベルで 64.7%、有識者も80.7%と際立っていた。これに対して、「中国に対抗しても日本の国益を確保すべき」とい見方を選ぶ人は国民レベルで16.9%、有識者で16.6%に過ぎない。
② 常任理事国問題
日本の国連の常任理事国入りについては、「日本が中国とともに常任理事国に入るべき」とする国民は46.7%と半数近くおり、有識者でも77.3%と圧倒的だった。この結果は昨年の調査とほぼ同じ結果である。
③ 日中関係と歴史問題
日中関係と歴史問題との関係については、「日中関係が発展しても歴史問題を解決することは困難」が最も多い回答で33.2%である。これは過去二回の世論調査と同じである。
だが、今年は「日本と中国の関係が発展するにつれて徐々に解決する」が増加し、作年比で4.6ポイント増の30.2%となった。こうした楽観的な認識は有識者に顕著で「関係発展につれて徐々に解決する」が56.3%で、作年(52.3%)を上回った。
歴史問題で何を解決すべきかは、国民レベルでは作年同様、首相の靖国参拝問題が最も多く、中国の教育や教科書内容、日本の歴史教科書問題に続いた。有識者で最も多いのは中国の教育や教科書内容である。
日本の首相の靖国参拝問題については「公私ともに参拝すべきではない」が20.9%に過ぎず、総理大臣として参拝しても構わないが29.3%、私人の立場なら構わないが34.4%である。有識者は「公私ともに参拝すべきではない」は62.3%でと最も多く、対照的な結果となった。
④ 中国は軍事的な脅威か
国民が軍事的な脅威を感じる国は北朝鮮が81.4%と最も回答が多く、中国が35.4%と続いた。ただ、北朝鮮が昨年より増加したのに対して中国は7.4ポイント減少している。またロシアが16.9%と浮上し三位に入った。
中国を脅威と感じる理由は、「中国の軍事力は今後も増強を続け、近い将来脅威になる」の56.2%が最も多く、続いて「しばしば中国の領海を侵犯しているから」(46.0%)、「中国は核兵器を保有している」(44.9%)が続いている。
今後の日中関係とアジアの将来について
今後の日中関係については「良くなっていく」とする人は「どちらかと言えば」を加えると40.9%となり、「悪くなる」層を大幅に上まわった。日中関係の今後には楽観的な見方が強い。これは有識者も同様である。
では、どのような日中関係を目指すべきかでは、「アジアの経済的な発展のために協力し合う」の51.0%で最も多く、「共にアジアの代表として世界に貢献」(48.3%)「北朝鮮含め北東アジアの安全保障を日中で構築」(38.7%)が続いた。
日本がアジアに提唱すべき価値では、「非核・平和主義」が39.0%で、有識者も28.0%とそれぞれ最も多かった。
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