第7回北京-東京フォーラムで何が話されたか ―明石康氏と日中対話と現在の日中関係を語る

2011年9月21日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、第7回北京-東京フォーラムを受けて、日中関係はどうなっているのか、どうなるのかを、実行委員長の明石康さんへのインタビューを交えて議論しました。

(JFN系列「ON THE WAYジャーナル『言論のNPO』」で2011年9月21日に放送されたものです)ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。

第7回北京-東京フォーラムで何が話されたか ―明石康氏と日中対話と現在の日中関係を語る

工藤:おはようございます、言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る「ON THE WAY ジャーナル」。毎週水曜日は「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。

さて、もう9月も中旬ですが、ちょうど1カ月前の8月21、22日に、私は北京で7回目の「北京-東京フォーラム」という日中のハイレベルな民間対話を行ってきました。以前から、この対話を皆さんにも紹介したいと思っていたのですが、今日は、この対話を軸に、今の日中関係について考えてみたいと思っております。

この対話は、7年前の2005年、中国の各地で反日デモが広がり、日中関係が最も深刻な時に、言論NPOが、中国の北京で立ち上げました。どんなに政府関係がダメでも、両国関係を支える民間の新しい対話をつくろうということを呼びかけたところ、中国の大きなメディアと提携することになり、2つの団体がこの対話を共催するということになりました。今年で7回目の対話となり、今では政府の色々な外交をサポートする民間のトラック2としては、かなり大規模なものに発展しておりまして、今年も日中両国のハイレベルな有識者が100人近くが出席し、会場には1000人以上の人が参加しました。昨年の尖閣諸島問題を含めた安全保障の対話、両国の世論と報道のあり方を議論するメディア対話、それから、地方、経済、そして中国の若者と両国の政治家との対話である政治対話の5つの対話を行いました。

今日は、このフォーラムの日本側の実行委員長で元国連事務次長の明石康さんにインタビューをしてきましたので、明石さんの発言を踏まえて、今の日中関係を考えてみたいと思います。


この日中の民間対話はなぜユニークなのか

さて、この対話は2つの点で、ユニークな対話となっています。1つは、日本のNPOが主催をしていて、大がかりなトラック2の民間対話を日中間につくっているということです。しかも、私たちは、日中両国で共同世論調査を毎年やっています。以前にも説明した通り、中国で世論調査をやるということは、かなり困難なことなのですが、この調査で浮かび上がった両国民の相互理解を踏まえて議論することになっています。

この対話ももちろん、簡単に実現できたわけではありません。7年前、日中の政府関係がおかしいときに、中国では若者層を含めた大きなデモが起こり、政府関係は事実上ストップしてしまいました。それに伴い、色々な交流事業も全面停止になっていたわけです。その時、僕はこう思いました。政府関係がダメな時に、この状況を誰が打開するのだろうか、と。やはり、政府関係がどんな形であっても、両国を支える民間のチャネルはどうしても必要なのです。そして、そういう思いに多くの人が賛同してくれて、この対話が何とか実現したということなのです。


この対話はこの7年間かなり難易度が高まってきた

ただ、この7年間に、議論の内容は次第に難しくなってきています。昔は、歴史認識問題が大きなテーマで、交流の不足がそのまま相互理解の欠如に繋がっていました。が、中国が経済的にも大きくなってくるにしたがって、軍事的な問題、尖閣諸島などの問題などが話題になり始めました。なので、相手を知ることによって様々な課題が浮き彫りになってきた、そのために本気の対話をしなければいけない、という段階にきているわけです。その辺りを含めまして、明石さんに聞いてみたいと思っています。


工藤:明石さんは、フォーラム自体の参加は3回目でしたっけ。
明石:これで4回目ですね。

工藤:そうですか。それで今回実行委員長になられたと。状況としては、05年のときは靖国参拝で厳しく、相互理解を本当に深めないといけないということで、この対話が始まりました。その間にだんだん中国も力をつけて、昨年の尖閣問題などがあり、今年の世論調査では国民感情が悪化しているという結果の中での今回の対話でした。そのような点を踏まえて、対話にはそれを乗り越えていくような何かを感じましたか。

明石:そうですね。確かに尖閣は昨年の9月に我々の第6回目のフォーラムが終わった直後に起きました。工藤さんと一緒に北京に先遣隊として行って、3.11の大震災に対する中国側の国民的な同情が表明されました。また、日本人の災害に対する態度の沈着さとか、騒がずに動じずにいろいろ対処するそういう国民性のすばらしさとか、それから中国人の研修生が救われたこととかがありました。非常に日本のイメージが一時中国で向上したのですね。

工藤:4月頃ですよね。


日中関係では、積極的な側面を伸ばすことが課題

明石:そうです。しかし、福島原発があったため、そのプラスのイメージがその後、散々になったといえると思います。そういうプラス面、マイナス面があったわけで、全体としてはプラスイメージが多少残っていると思います。僕は楽観論と言われるかもしれませんが、日中関係はそういう地政学的な2つの大きな東アジアの大国の付け合いという、非常に微妙な難しい面があると同時に、そういうアジア人として一緒に行動しようというようなことも見えたと思います。そういうものを我々が忘れずに、しかも現実的な視点も保ちながら、これからのさじ加減をどのようにやって、より積極的な側面を大きくしていけるかという課題が我々の前に突きつけられているのではないかという気がしますね。

工藤:僕も実際に参加して、だんだんこの対話の難易度が上がってきたような感じがしています。05年のときは、圧倒的に相互理解がなくて、お互いのことを知らないし、そのことを交流の力で改善していこうということでした。本音で話し合うことも大事だという、そのようなストーリーが作れました。ただ、最近、中国が経済的に力をつけて、軍事的な問題も出てきました。中国をどのように見ていけばいいのか、日本の国民もまだつかみ切れない段階で、不安が高まっているために、お互い交流が足りないのではなく、結構相手が見えることによって、逆に不安が出てしまっていて、余計に難しくなっていますよね。


理性的、客観的で感情に走らない付き合いが必要

明石:工藤さんの言う通りだと思いますね。やっと対話の糸口が見えてきました。これから、これをますます太いものにして、テーマについても参加者についても、いろいろ考えを凝らして、同じことを繰り返すのではなく、何か新しいものをより具体性のあるものにしていくという課題が見えてきました。日中関係は難しくて、その難しさは他の国も感じている難しさと同時に、隣国であるがゆえの難しさの両方があると思うのですね。隣人同士の付き合いはどうしてもややこしいことが多いのですが、それは覚悟の上で、1つひとつ丹念に取り上げ、丁寧に誠実に解決していく。やたらに相手に対して絶叫するとか、ナショナリズムを振りかざすとかいうのは、愚の骨頂だと思います。こちらがナショナリズムでいったら、向こうもより強いナショナリズムで来るというのは明らかな事実ですから、そういう不毛なことにならないように、理性的な、客観的な感情に走らない付き合い、お互い独り言を言い合うのはやさしいことで、これを対話の形にしていくのは至難の業だと思うのですが、これはやらなければならないし、それ以外の道は、19世紀末から20世紀にかけてあったような戦争の道なので、それを選ぶことは決してしてはいけないわけですよね。

工藤:やはり対話の持つ意味は大きいですね。

明石:大きいですね。ところがご承知の通り我々日本人は対話に慣れていないし下手ですよね。本当の付き合いはあまり言葉にしない、以心伝心のものだという思い込みが日本にはあるし、中国とはちょっと違うので、その辺りがもう少し噛みあう対話をどうやってつくり上げるか、これが大きな課題だと思うのですね

工藤:政府間の外交という点でみると、なんとなく日本と中国の政府間関係が仮に悪くなっても民間ベースできちんと支える環境を作りたいということだったのですが、政府間外交とこの民間対話の役割をどのようにご覧になっていますか。


政府外交と民間対話は相互補足的な関係

明石:非常に相互補足的な関係だと思います。政府がやっていることを真似する必要も介入する必要もないわけです。私は、民間外交は政府間の外交を補足し、補強する大きな役割を担っていると思います。政府間の関係が悪くなっても民間外交のクッションで支える、良くするということもありうると思います。しかしその反面、民間外交が悪くなると政府外交が持っている歯止めがなくなる、激情的になる、感情的になる、そういう恐ろしさを持っていると思うのですね。そうならないように、啓蒙された合理性を持った世論というものはどうやったらつくり上げることができるか、ということを、民間の有識者の中で真剣に話しあうべきだし、その雰囲気は我々のフォーラムにできているのではないかと思います。

今回のフォーラムで非常に大事だったこと、さらにこれからも大事に育てなくてはならないのは、メディアの問題です。公式のメディアやコマーシャルなメディア以外に、インターネットを使った民衆、学生、知識人の間の新しいメディアが出てきています。中国にも多用な意見、政府にはおそらくコントロールできないような多用な意見も出てきているという現実を我々は見逃してはいけないし、それは喜ぶべき面も非常にあると思います。が、下手をすると劇場化になってしまい、激しく感情的になってしまう恐ろしさがあります。


両国メディアの認識に変化が見られた

工藤:確かに国として見れば、中国の大きさとか軍事的な拡大とかが目につきます。今回、私も、メディア対話を見ましたが、政府はあるのだけど、国民や住民の生命を守るということをメディアは一番大事に考えないといけないという声が、日本と中国の双方のメディアが言っているのですね。日本は震災の問題があり、中国でも新幹線の問題がありました。やはり、「命」とか「安全」ということを守らなければいけないし、メディアはどちらの立場に立つのだという議論がでました。

明石:それは凄いことですよ。

工藤:凄い議論ですよね。
最後に、こういう民間の対話をNPOがやっているということ、つまり、この会議は巨大メディアと言いますか、営利企業がやっているのではなく、NPOが、しかも、参加者のみなさんは手弁当で参加してくださり、みんなで協力し合ってこういう対話を発展させようとしています。しかも、かなりハイレベルな人たちが参加してくれています。僕自身はみなさんに非常に感謝しているのですが、こういう傾向は非常に珍しいと言いますか...

明石:初めてのことではないでしょうか。


NPOがこうした民間対話を担う意味

工藤:こういう現象というのは、なぜ起こってきたのか。どのようにお考えでしょうか。

明石:民主主義というのは、20世紀以来、世界中に広がりつつありますが、色々な形の民主主義があるし、政府の役割、民間の役割も色々と変貌しつつあります。我々は民間対話と言っていますが、政治家の人も入っていますし...。

工藤:政府の人も個人で参加していますよね。

明石:学者、研究者、言論人、評論家、ジャーナリスト、ありとあらゆる人が入っています。

工藤:しかも、協力してくれていますよね。

明石:はい。だから、非常にユニークな対話だし、「民間」ということを狭く捉えるのではなくて、広く捉えて、そういうNPOの社会的な役割というのも政府自身が認め始めているわけですから、外交問題についてその限界まで試してみるという大きな使命を担っているのではないかと思います。アメリカやヨーロッパは、こういう対話で進んでいることを示してきましたが、アジアでもこういうことが起こりつつある。日中の間で、ないしは日中韓の間で、時にはインドや東南アジア諸国も巻き込んだ形でやっていく、また広げていく、ということはいいことだと思うし、この20年の低迷から、日本が這い出して元気をつけるためにも、こういうことを、もっともっとやるべきだと思います。


工藤:今回の明石さんとの対話でも感じたのですが、確かに、日中関係はこの7年の間に確実に改善はしてはいます。私がこのフォーラムを始めた7年前は、日中関係がかなり冷え切った状態でした。それから見ると、今では政府関係も改善し,民間でも様々な交流が行われています。

ただ、今の日中関係が、市民層や民間層に本当に支えられた強いものになったのか、と問われると、まだそうではないわけです。何か事件があると、大きく騒ぎが広がってしまいます。しかも、去年のように尖閣諸島の問題が起こると、ナショナリズムの動きに火がついてしまうわけです。

そういう風な動きは、いつも私たちの対話に色濃く影響してくるのですね。ただ、それでも、私がこの対話を行う度に安心することは、この対話への参加者が年々増えていて、対話も本気の話し合いが当たり前になってきている。「継続は力なり」とよく言いますが、民間側がここまで自発的な対話を通じて、お互いの課題だけではなくて、両国だけではなくアジアの未来を考えようというのは、今まで無かった現象だと思います。私たちも、その前提に立って、この対話を考えていかなければいけないと思っています。


お互いの違いを理解した上で,共生の道をどう探るか

7年前というのは、お互いの対立とか、色々な感情的な状況をどのように改善していけばいいか、ということがこの対話の大きな目的だったのですが、さっきのインタビューでも明石さんが言っていたように、お互いに違いを認識した上で、色々な誤解や不安があると思うのですが、その中でお互いに共生できる道をどのように探り出すのか、そういう新しい、難しい段階に、私たちの対話が入っているのではないかと思っています。

政府間関係もそうだと思いますが、私たちにも、まだその展望は見えていません。しかし、この民間対話が必ず日本の未来だけではなくて、アジアの未来に対して大きな役割を果たしていくのだと思うし、私も何とかしてやり遂げたいと思っております。

ということで、お時間です。今日は、「日中の本気の対話で浮かび上がった日中関係の課題」について、「第7回 北京-東京フォーラム」の実行委員長の明石康さんのインタビューを交えながら考えてみました。ありがとうございまいした。


今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、第7回北京-東京フォーラムを受けて、日中関係はどうなっているのか、どうなるのかを、実行委員長の明石康さんへのインタビューを交えて議論しました。
(JFN系列「ON THE WAYジャーナル『言論のNPO』」で2011年9月21日に放送されたものです)ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。