国際社会から見た日本

2012年1月11日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、前ユネスコ事務局長の松浦晃一郎氏と政策研究大学院大学教授の黒川清氏にインタビュー。15年以上の海外滞在歴があるお二人と共に、国際社会における日本の立場などについて議論しました。

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年1月11日に放送されたものです)ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。

「国際社会から見た日本」

工藤:おはようございます、言論NPO代表の工藤泰志です。
毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る「ON THE WAY ジャーナル」。今日は、「言論のNPO」と題して、私・工藤泰志が担当します。

さて、新年も2週目ということですが、今日は先週に引き続いて、この日本という国が、新しい年に何が問われているのか、ということを、今度は国際社会で活躍している人の目を通して問題提起をしてもらい、私たちも一緒に考えてみたいと思っています。

昨年末から、言論NPOでは「日本人の留学生はなぜ減ったのか」など、世界と関わりについての議論をいろいろやってきました。

日本はもともと島国で、世界に市場を求めることで日本の経済活力を産み出してきました。今でも経済だけに止まらず、様々な分野で活躍している人が多いのですが、最近は、日本人の留学生がすごく減ってきました。行きたがらないとのことです。あと企業でも、海外転勤を嫌がる人が多くなってきたという話を聞きます。こういう状況をどういう風に考えていけばいいのか、というのが私の問題意識です。

と、いうことで、今日の ON THE WAY ジャーナル「言論のNPO」は、「国際社会から見た日本」と題して、私たちは、今後世界の中でどう生きていけばいいのか、を考えてみたいと思います。

さて、今日この議論に参加していただくのは、先日、私は2人の方と座談会を行ったのですが、お2人とも国際社会で15年以上も活躍している方です。
1人目は、前のユネスコの事務局長で、今は日仏会館の理事長でもある松浦晃一郎さん。松浦さんは、外交官から、選挙でユネスコのトップに就任し、単身で渡ってユネスコの改革をして日本に戻ってきた、という方です。
もうお一方は、黒川清さんです。元々は東大の医学部の方で、アメリカに留学してそのままアメリカの大学の医学部で教授になり、日本に戻って日本学術会議の会長になりました。今は政策研究大学院大学の教授です。

このお2人に、国際社会からこの国がどう見られているのか、という事をまずお聞きしてみました。
では、早速聞いてみましょう。


過去10年、日本の海外への発信力は下がっている

松浦:非常に残念ですけれども、最初、工藤さんが言われたように、日本の発信力は、この10年、いろいろな方のご努力にもかかわらず、下がってきています。

日本社会で今、大きな、いろいろな問題を抱えている。政治家も、経済界の人も、申し訳ないけれど学者のかなりの方も、そういう国内の問題をどう解決するかということに重点を置いています。もちろん、それぞれの国内の問題は外国の問題と関連があるわけですけれども、それを国際社会に発信する、それも単に日本が色々抱えている問題について発信するのではなくて、国際的な問題について日本がどう考えているかということをしっかり発信しなくてはいけない。それに加え、残念ながらこの10年、全体として発信力が下がっている。10年間、私はユネスコの事務局長として世界中を飛び回って、190カ国以上見ましたけれども、残念ながらこれが私の結論です。

私の感じは日本の戦後、時間をかけてエスタブリッシュして、一時は「21世紀は日本の世紀だ」といわれて、これはもちろん明らかに間違っていたのだけれども、1回良いイメージができると、結構長続きするのです、幸いに。悪いイメージも、それができると変えるのが大変ですけど。それが続いているけれども、いつまでもそれが続くかといわれれば、疑問があります。

いずれにせよ全体として日本は良いイメージがあるけれど、残念ながら下降線であるし、知識階級における日本の評価は残念ながらどんどん下がってきている。ですから、私がイメージしている一般人のイメージは良いけれども下降。それから知識階級の日本を見る目はどんどん厳しくなっている。

ところが実態はどんどん悪くなって、発信力も国際的意識も下がっている。イメージは幸いにして残っているのですけど、このイメージはそう長続きするとは思いません。ですから、国内の問題もしっかりと解決してほしいと申しました。ただ、一つひとつ大変ですから、全ては解決できないでしょうけど、そういう国内の問題に取り組みながら、やはり国際問題については、地域の重要な問題も含めてですけれども、日本が自分の考えをしっかり海外に発信していくことにもっと力を入れないといけないと思います。


エスタブリッシュメントは頼りにならないことが明らかに

黒川:私は今度の3・11で日本のいろいろなことが衰退していくような気がしています。この20年間GDPが増えていないのは日本だけで、リーマンの後は世界中がファイナンシャル・クライシスになって、エコノミー・グロウス(経済成長)が出てこない。それで、中国とか、BRICsの話があるにしても、例えば3年前、4年前に今の様なアメリカとEUのファイナンシャル・クライシスが来るなんて、だれも思っていなかったと思います。突然こうなったのは一体なぜかというのは、皆考えているとは思うのだけど。ただその時に、今日本が円高になったり、色々なことがあって、それも色々なことを評論家が言っていたのだけれど、実を言うとこの3・11ということで、世界が一気に日本のことをたくさん見たわけでしょう。

その時明らかに見えたのは、まず政府の対応のまずさ。何も決断できない。もう1つは、原発問題というのがあるのに、東京電力が記者会見をしても、言っていることが支離滅裂というか、何を言っているのか分からない、隠しているのではないか。最初の2週間は、テレビに専門家としてインタビューに出てくる人が言っていることは、日本語で言っていても、官房長官の言っている以上のことは出ていない。ということで、日本のエスタブリッシュメント、政治だけではなくて、財界のリーダーと言われる人が、東京電力について何かコメントしましたか。パブリックに向かって言わないでしょう。そういうことを皆見ています。ジャーナリズムが記者クラブだということも皆知っている。そこで学の世界もそうだけれど、皆、エスタブリッシュメントを何か「鉄のトライアングル」のままではないかと思う。

つまり、リーダーとなるようなポストの人が全く頼りないのだということがまず分かってしまった。それから2番目には、「現場の人は素晴らしい」と、そういうことですよ。それで日本の信頼は現場だ、現場は素晴らしいね、と。何の騒動も起こらない、と。すごいじゃないの、それは良いのだけど、全てのヒエラルキーの上の人は全部だめだね、ということがばれたということでしょうね。


忍耐強いだけでなく、行動で指導層を突き上げよ、との指摘も

松浦:今、黒川先生が言われた広い意味でのエスタブリッシュメントのリーダーたちの対応に外国の方々、外国のリーダーのみでなく一般の方が非常にがっかりした。これはその通りだと思う。私もこの3月11日以降、諸外国にずいぶん行きました。そして、いろいろな方とお話ししました。皆さんそこでは異口同音です。ただそこで注意しなければいけないのは、確かに諸外国のマスコミは日本国民、特に被災地の日本国民が非常に秩序正しく対応した、しかも忍耐強く対応したということを褒めてくれています。これは非常にいいことに思うのです。ただ、考えなくてはいけないのは、まさに忍耐強く対応するということは、本来はそういった人たちは、「アラブの春」みたいになれとは言わないけれども、もっと日本のエスタブリッシュメントを突き上げなくてはいけない、と。逆にそれが足りないのではないか、と。ですから、余りにも被災地の方々が秩序正しく忍耐強く対応するから、リーダーたちが安心してしまうわけです。外国からは批判されるけど、国内では批判されない、という格好です。

「アラブの春」みたいに、チュニジア、エジプト、ああいうふうに騒ぐ必要があるとは決して思わないけれども、もうちょっとエスタブリッシュメントに対して不満をぶつけていくべきではないかと思います。

そうしないとエスタブリッシュメント側は安心してしまって、しっかりした対応をしないのではないか。こういう不安を私は持ちます。


2012年、内向きな日本の状況をどのように変えていくか

工藤:お二方とも昔からよく知っているのですが、今の日本のエスタブリッシュメントを突き上げろという、かなり過激な話なのですが、でもこの2人は別に過激な人ではありません。国際社会でまさに活躍している人から見て、それほど日本の元気が無いという事を気にしているのです。スリ―イレブンとは何なのかと言いますと、3.11の東日本大震災のことです。ただ、国際社会の中で、日本の元気が無くなっている、存在感が薄れている、というのは今に始まったことではありません。

10年前、私が言論NPOを立ち上げた頃にも、全く同じことを言われていました。その頃は、ジャパンパッシングという言葉がありました。日本はパスされて、無視というか、もう素通りしようと。日本は自分たちのことも解決できないのだから、という話をアメリカの人に言われたりしました。そのころの外国の新聞にはレーダー網から日本の姿が見えなくなった、これは例えなのですが、そういう記事があったりしました。

私はそういう状況を、日本が世界に向けて主張したり、世界で活躍する人が増えることで、解決するしかないと思っていたのですが、今度、黒川さんは「ジャパンミッシング」と言っていました。つまり、声をかけても反応がないから、存在そのものが見えなくなった、そこまで来ているという感じを、おっしゃっているのですね。

この黒川さんは、アメリカのカリフォルニアのUCLAの医学部の教授にまでなった人で、教授は日本に来たら准教授からスタートしなれければいけない、という色々な状況がある中で、日本の学術界のトップになっていった方です。

やはり日本が内向きな状況にあるという事を、新年、この2012年こそは、考えなくてはならない段階に来ていると思います。TPPの議論も、確かにあの問題には、いろいろな議論が必要なのですが、日本の経済にどういう影響があるかという議論で、逆に世界の市場にどう攻めようか、という議論は出てこない。やはり、非常に内向きになっている状況なのですね。その中で、若い世代もどんどん世界で頑張らなければいけないのですが、そういう人たちの存在も見えなくなって来ている。この状況をどう立て直せばいいのか、ということです。さらに聞いてみました。


工藤:さて、どういう風にして、日本の存在感をさらに上げていくことができるか、ということをお聞かせください。


学部生のうちに海外に出て、世界を実体験せよ

黒川:多分3つぐらいあると思うのですが、今回、明らかに出てきたのは、そういう動きがあったのですが、やはり社会企業家と言われるような若い人が、NPOをつくりながら、それをサステイナブルにしていこう、ということが東北でもたくさん出ているし、さっき言ったクリントン財団でも若い人が随分出てきています。そういう人たちを、もっともっと支援する。パブリックが、偉いよね、という支援システムをつくっていく。言論NPOもそうなのだけど。2番目は、若い、大学にいる内に、半年でもいいから海外に出ること。これは、グローバルになってきているから、アメリカもイギリスも、元々、リーディングユニバーシティーということで、学部にいる間に海外に出そうということをしています。というのは、世界の問題を実体験として学ばせようということです。そうすると、突然、自分のことを外から見出すので、愛国心も出てくるわけです。この経験があまりにも少ないので、私は授業料を4年分払ったら、5年で自分のカリキュラムをつくろうという、休学の奨めというのをやっています。

新卒にこだわる大企業などはどうしようもないのですが、この間、東京大学が秋卒業を検討します、入試も見直しますというと突然、企業も焦り始める。僕は、東大総長機関説というのを言っているのだけど、言うことが大事なのであって、それだけで動き出すから。そうすると、会社も4月に採用した人と、9月に採用した人の給料をどうするのか、みんな考え出します。でも、それ自体が変革だと思います。もう1つ大事な事は女性です。日本は、あまりにもジェンダー・エンパワーメント・インデックスが、世界の100の国だと半分以下です。やはり、社内重役をつくるにしても、女性をもっと積極的に、意欲的に抜擢することが大事で、世界中はこの10年で猛烈に変わっています。日本は公務員、国会議員は12%ぐらいだと思いますが、明らかに相当遅れています。しかも、企業のボードなんて、ほとんどいません。やはり象徴的な人事をするべきですね。例えば、大学のトップに女性をもってくるとか。私は、東大はそれをやればいいと言っています。

工藤:それ、10年ぐらい前から言っていませんでしたか。

黒川:やれないの。だから、それが1つ。それから、もう1つ凄く大事なことは、こういうムーブメントはあるのですが、リーダーが言っているだけでエグセキュートしないのですよ。だから、企業にしろ、今までのルールだと言って、それが一番問題です。さっき松浦さんが言った通りで、今、これだけの色々なことがあるにもかかわらず、若い人達はもっと怒るべきです。

若い人達が怒ると言うと、インターネットやFacebookやツイッターというけど、なぜチュニジアやエジプトみたいなことが起こらないのか。今、ロンドンでもアメリカでも起こりました。起こらないのは日本だけですよ。このオキュパイ・ウォールストリートというのは10月17日から始まったのですが、これは意外に凄い広がりを持っています。非常にピースフルです。これから、オキュパイ・何とかというのがどんどん出てきて、いずれ「オキュパイ・霞ヶ関」とか、「オキュパイ・国会議事堂」みたいな運動になってくるかと言えば、みんな横並びで、回りを見てから行動するという癖がついてしまっているから多分ならないと思います。ただ、女性の方が早く動き始めるかもしれないな、ということを、私は楽しみにしています。


国際的な視野で考え、議論せよ、そして発信を

松浦:今、黒川さんがおっしゃられたことには、みんな賛成ですから、ダブらない形で申し上げれば、私は、日本の人々、特に若い人達がもっと国際的な視野を持つという努力をしなければいけないと思います。もちろん、教育は重要ですから、教育でもやっていただきたいけど、これから何年もかけて教育していく、というのでは間に合いません。ですから、既に社会で働いている人も含めて、もっと色々なことについて、国際的な視野で考える。そして、日本語でいいから、みんなで議論をする。どうも、日本の社会は、議論するという慣習が少ないと思います。特に、東大の法学部というのは、大学の先生が講義して、それを一方的に聞いてノートをとっていれば、いい点をとれます。ところが、それではダメなのです。日本の教育も昔に比べれば変わってきていますが、もっと先生と議論するのみならず、学生同士でもしっかりと議論するということが必要だと思います。

官庁もそうですが、大会社などはしっかりとしたヒエラルキーができているから、今度のオリンパス事件がいい例ですが、上が決めたことは、下は変だと思っても矯正しない。矯正したら、社長でもクビになってしまいます。ですから、ヒエラルキーに入ってしまうと、なかなかできないけど、自由に議論をする雰囲気をつくって、ハイランクの上の人たちも、そういうことを認めていく。私はユネスコ時代によく言ったのは、「私が言ったことに対して、反対でもいいから、どんどんチャレンジしてこい」と。ただ、私が最終的にみんなの意見を聞いて決めたら、それは実施して、不満のある人は去ってください、と。その代わり、私が決めたことが間違っていたら、私は責任をとりますということをはっきりと言っていました。そのプロセスでは、みんなで議論をする。だから、会社のトップにしろ、もっと議論をさせなければいけないのに、今度のオリンパス事件は典型的で、上の言ったことをその通り受け入れちゃうというのは、非常に残念です。

日本の国民は忍耐強く、秩序を重んじるという良い面があるのだけど、それが悪い形で出てしまった。それから、3番目は、今は、英語が国際用語になっています。よく言われるように、日本の人たちの英語力は世界でも最低です。しかし、国際的に発信するという時には、英語を使う。具体的に言えば、話して、ディスカッションをする。英語の能力は150カ国中、135番目。アジアでも、韓国は60番台ぐらいですが、中国、ベトナム、インドネシアよりも下です。私は、これは日本人が従順であるということを反映していると思うけど、英語教育の在り方、つまり、重箱の隅をつつくような文法を勉強するのではない。そんなことは、実際に社会に出ると役に立たないのですよ。英語というのはコミュニケーションの手段だから、自分の言いたいことをしっかりと言い、議論し、国際的にも発信するということをやっていかないといけないと思います。


日本が直面する課題は、有権者の力で解決するしかない

工藤:このお2人と話しましたが、とにかく本当に元気なのですね。黒川さんは、その後、国会の原発事故調査委員会の委員長になりました。とにかくなんでもやる。若い者がなんでもっと怒らないのだ、とか、何故世界に向わないのか、という意見を持っていらっしゃっていて、私も刺激されています。皆様はこの熱いメッセージをどう受け止めたでしょうか。

私は年末、テレビで「坂の上の雲」と、「南極大陸」のどっちを見るか悩んでいたのですが、「坂の上の雲」には本当に感動しました。あの時に、日本を守るために色々な人が、まさに命がけでがんばった。そして、この国の発展の基礎をつくったのですね。

先週もお送りしたように、今年も多くの課題があります。ただ、今までと違うのは、政治に任しても、全然解決できない可能性が強いということです。なので、私たちの力で解決するしかありません。そうするしか、日本はもう未来が見えない状況になっているのですね。

なので、みなさんで一緒にやりませんか、という事を、私も呼びかけさせていただいて、今日は、「国際社会からみた日本」ということで、先週とは違う視点から、この2012年に、この国に何が問われているか、ということを考えてみました。ありがとうございました。

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、前ユネスコ事務局長の松浦晃一郎氏と政策研究所大学院大学教授の黒川清氏にインタビュー。15年以上の海外滞在歴があるお二人と共に、国際社会における日本の立場などについて議論しました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年1月11日に放送されたものです)ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。