日本って本当に民主主義の国なの

2012年2月09日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、現在、イギリスのケンブリッジ大学客員教授をしている元衆議院議員の山中あき子氏をスタジオに迎えて、イギリスの選挙の方法などを聞きながら、民主主義国家である日本のあり方について議論しました。

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年2月8日に放送されたものです)
ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。


「日本って本当に民主主義の国なの」

工藤:おはようございます、言論NPO代表の工藤泰志です。今日は、「言論のNPO」と題して、私・工藤泰志が担当します。


イギリスの民主主義について聞く

さて、今回は日本の民主主義について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。前回の番組で、野田政権100日評価アンケートの結果では、「日本の代表民主制・代議制民主主義が機能していないのでないか」という声が、なんと7割もありました。私たちがいつも当たり前に考えていた「民主主義」という問題について、機能していないということをここまでの人が言うということになると、これは意外に深刻だな、と。しかも今年は、まさに日本の未来に向けて、この国が大きく変われるかどうかのスタートに立つべきだ、という年だと僕たちは思っていますので、どうしても民主主義を勉強したいと思っていました。私も民主主義の勉強をするために色々なことをやっていたのですが、そうしたら、私のイギリスにいる友人から、日本の方でイギリスのケンブリッジ大学の先生をやって、しかもイギリスの民主主義のことを本当に研究されている方がいると聞きました。調べてみたら、その方が今、日本にいるということが分かりました。3月にまたイギリスに帰国されるということで、これは是非参加していただきたいなと思いまして、今日はスタジオに来ていただきました。その方は、日本では政治家もやって、以前は、外務省の政務官もやられていました。お名前は、山中燁子さんです。今日は山中さんと一緒に、日本の民主主義について、イギリスの民主主義との比較をしていきながら、考えてみたいと思います。
山中さん、よろしくお願いいたします。

山中:よろしくお願いいたします。

工藤:今日は、山中さんをお迎えして、テーマは「日本って本当に民主主義の国なの」ということで議論をしていきたいと思っています。山中さんとは、この対談の前にも何回もお話ししたのですが、お話を聞いていると、日本って本当に民主主義かな、と本気で思いました。それを、いろいろな角度からお伺いしたいと思います。

まず、民主主義というのは、私たちの代表を選挙で選ぶ。選ばれた代表・政党が、ちゃんと日本の課題に対して答えを出す。ちゃんと仕事して、それが評価される、というサイクルがきちんと回っていないと民主主義は機能していないと思うのです。

まず、このスタートラインの選挙という問題がどうかということについて、イギリスと日本と何が違っているのか、というところをお話ししていただけたらと思います。


選挙は政党が仕切り、カネがかからない

山中:今の話を伺っていて思い出したのですが、私が初めて国会議員になった時に、イギリスの貴族院(House of Lords)のメンバーで、シェリー・ウィリアムズという大変有名な、今でも論客の女性がいらっしゃるのですが、彼女とはハーバードでお会いしました。貴族院の議員をやりながら、ハーバード大学の教授で年に一期だけ、国会の無いときに教えていたのです。彼女が、私に最初に言った言葉を思い出したのですよ。「燁子、あなたは、日本を本当の民主主義にするために国会議員になったのね。」と。

その時は私自身も、英国と日本の民主主義の違いがわかっていませんでした。国連大学時代には、オックスフォードで選挙戦や選挙の会場を見にいったり、当選の様子を見に行ったりしていたのですが、今回は、ちょうどケンブリッジ大学に呼んでいただいておりましたので、2010年の選挙の時に、実際に候補者と一緒に、どういう選挙戦をするか同行する機会があったので、それも含めて申し上げます。

まず、選挙というのは、政党が全部仕切ります。イギリスの場合は全て小選挙区ですから、支援者名簿は候補者個人に属すものではなくて、政党が持っています。ですから、その政党が候補者をどこに立てるか決めますので、強い候補者は自分たちの党として欲しい選挙区に行って戦ってもらう、とか、選挙区と候補者が個人的に繋がるということは非常に少ない、ということがまず一つあります。そして、お金がかからない、というのが一番大きな話なのです。約150万円で、選挙の日数は17日weekdayです。それに土日がプラスされるので、結果的に23日から年によっては25日です。その期間を150万円で行います。ポスターは無し、選挙カーも無し。じゃあどうやって選挙をやるの、と思われませんか?

工藤:顔が見えないじゃないですか。


小さい選挙区で、戸別訪問と立会演説会中心

山中:昼間、選挙事務所はありますから、支援者や話を聞きたい人はそこに来るのです。夕方6時ごろから、共働きの人もみんな家に帰るので、戸別訪問をします。この戸別訪問というのは、党から来ている人が名簿を持っていて、その日に、支援者の中で一緒に歩いてくれる人20人ぐらいを選んでおいて、それを4つか5つの班に分けて、今日はこの地区をやります、というローラー作戦をします。党の方で「この人は絶対自分の党に入れてくれる」「この人は絶対入れてくれない」という人は抜かして、もしかしたらこっちに向いてくれるかもしれない人のところをまわります。そうすると、顔と顔を合わせることになりますから、有権者は「私はこのことを考えているのだけれど、あなたはどう思います?」と、どんどん聞いてくるわけですね。それにきちんと対応できるか、誠実そうか、とか、そういうことで有権者の方は判断します。そして、「入れてくれますか」と聞いて、「考えておきます」とか「分かった、それでは入れます」という答えを聞いて、それを党の方に全部報告します。そうすると、この有権者は◎、これは○、これは△、この人は×ということが全部党の財産になっていくわけです。また、供託金が凡そ7万円で、日本は300万円という違いも大きいですね。日本では150万円では小選挙区の選挙はとても出来ないわけですけれど。それからイギリスの選挙区の平均の有権者の数が凡そ7万人です。

工藤:小選挙区の選挙区はそんなに小さいのですか。 

山中:はい。有権者の目標値は7万人。前後1万以内を目標にして、実際には10万人を超すような選挙区が出てくると、自動的に8年から12年の間で、1944年設置の第三者機関である選挙区確定委員会が全選挙区の区割りをし直します。ですから、国会で、するのしないのという話はしません。

工藤:日本は政治家が決めるから、なかなか決まらないのですよね。

山中:イギリスでは613人より大きく上回ってはいけない、という規定しかないのですよ。では、どうやって選挙をするのかといいますと、今言った戸別訪問が1つ。夕方8時から、この7万人の地区を20数日間かけて、毎日立会演説会をします。これが面白いのですよ。候補者全員が出てきます。「二大政党」といっても、イギリスも27ぐらいの政党がありますから、各選挙区に数人ずつは立候補しているのですね。で、2日、3日目ぐらいまでは、自分が受け売りのことで喋っていても何とかもちますが、それが1週間経ち、10日経ち、2週間経ち、こういう中で、本当に、この人は私と同じ考えだから入れよう、とか、この人は推している政党じゃないけど、この地域の代表になって欲しいとか「有権者が考えて選択する」という選挙なのです。選挙戦が終わると、全員、主な支持者と一緒に選管に集まって、そこで、それぞれ誰が何票獲得したか選管が発表するのです。そして、一番多い票を獲得した候補者が当選者となり、1分間だけ当選者としてスピーチをして、全部の候補者と握手して、「この地域のために頑張ります。国のために頑張ります。」ということを言って、終わりなのです。その様子は各地域のテレビで中継されます。ですから、日本のようにそれぞれの候補者が個人の事務所で「申し訳ありませんでした」とか「勝った!万歳!万歳!」ということはありません。

工藤:日本の選挙で見る、万歳がある光景ではないのですね。

山中:そうですね。選挙の制度そのものが。日本もお金のかからない選挙が出来れば、ずいぶん違うでしょう。

工藤:変わりますよね。選挙のところでも全然違うなと思ったんですが、その背景に、政党というもの自体が、この前も山中さんと話しましたが、かなり違うんですよね。日本の政党というのは、党内で反対し合ったり、足引っ張ったり、政党同士の駆け引きが仕事みたいになっちゃっているのですが、これは、何なのですかね。


二院制だが、上院(貴族院)は下院(庶民院)で成立した法律をよりよく"修正"する

山中:イギリスも、上院(貴族院:House of Lords)と下院(庶民院:House of Commons)で2院ありますが、その役割は全く違います。国政の中にいた人間ですからよく分かるのですが、日本では、総理を選ぶこと、予算の議決など以外はほとんど、衆議院と参議院の両方で議決されなければ法案が通らないので、衆議院と参議院でねじれが起こっています。イギリスではねじれがありません。また、イギリスの下院には、先ほども申した通り約650人の議員がいるのですが、この人たちの歳費というのが、日本と同じようにあるのですけれども、年間で6万5000ポンド、今のレートだと安いですが、800万円ほど。それに文書通信交通滞在費にあたる政治活動費、議員宿舎がないので、その補填もあわせて、2万4000ポンドが支給されますから、合わせても1千何百万円にもならないです。

工藤:1000万円ぐらいですね。

山中:これが歳費でありますが、上院は全く無報酬です。上院は、政党が、この人は是非入って欲しいと推薦する人、例えば総理の経験者とか、大臣の経験者などの政党所属の議員、それに加え、宗教の関係者、官僚、教育の関係者、ビジネスの関係者、NPOも含めて幅広い分野から任命委員会が推薦する議員で構成されています。こういう人たちはクロスベンチャーで政党に属さない。では、この人たちが何をするかと言うと、下院で採決されて、それが施行されることになる法律に対して、ここはこのように補正した方が良い、ここは削った方が良い、と、もっと良い形に直して、そして行政に渡す。つまり、立法府の役割と、行政の役割、その間を繋いでいる、すなわち修正の院と言われています。ですから、全く役割が違うので、両方の院があることの意味があるし、そこにいるメンバーも全く違うメンバーということになるわけです。

工藤:なるほど。今のお話を聞いていると、やっぱりイギリスはちゃんと仕事が出来る仕組みですよね。日本の場合はさっきの歳費や文書交通費を合わせると国会議員で大体、3200万円ぐらいで結構高いし、選挙にお金がかかるから、頭が選挙で一杯になっているのですよね。

山中:日本では、小選挙区と言いながら、有権者の数が30万人から50万人います。イギリスは本当の小選挙区ですから、戸別訪問や立会い演説会があって、ポスターもない。街宣車もない。でも日本では、選挙期間が12日間で、40万人、50万人抱えている選挙区がありますよね。そういうところで、どうやって自分を知ってもらうかというと、常在戦場と常に選挙のことを考えてあちこち動き回る。あるいは、パンフレットをたくさん作って配るとか、ポスターを出来るだけ貼ってとか、全部お金がかかるわけです。違反しなくてもお金がかかる。だから、そこのところを、本当に選挙というのがどういう形であるべきか、ということを考えないとダメですね。

工藤:そうですね。

山中:国会議員の人数だけ減らす、減らさないという話ではなくて、ちょうど今、日本は本当に次のステップでこの議会制民主主義をどうレベルアップするかという、チャンスですから、そこを本格的に議員の方たちにも議論してほしいなと思います。

工藤:山中さん、もう1つマニフェストなのですが、イギリス発祥と言われて、日本でもそれを導入しました。日本の政党もマニフェストを出したのですが、党内で反発してマニフェストの実現が全然できなくなってしまったり、全くいい加減なマニフェストを出して、それが使い物にならないので、別のことをやっている、とかですね、この状況を、イギリスから見てどう思いますか。


サッチャーがつくったマニフェストは公約を実現し、自己評価も

山中:まず、マニフェストってなんですか、と言うことから始まるのだと思うのですが、1979年、サッチャーさんが政権を奪回する時に、消費税を8%から15%に上げたのにもかかわらず、マギーのミラクルということで大勝利したのですが、情報公開法、これは日本でももっときちんと整備してほしいのですが、によって、ちょうど、30年が経過して殆どの資料がけ開示され、それが今、ケンブリッジ大学のチャーチルカレッジのアーカイブセンターにありますので、私はずいぶん調べてみました。面白いことに、このマニフェスト作りは1976年から始めています。78年までに総合マニフェストを作って、79年の選挙に臨んでいるのです。

一番日本と違うのは、当時野党であった保守党は、76年の時に30代から40代の若手の下院のメンバーが、消費税についての部会、経済についての部会などの各部会を作って、そこから毎週のようにレポートを出して、これを党首であるサッチャーさんは「全部自分が見ます」と約束して、そこに「?」や「不用」「有用」などのマークを付けて、戻して、そうしてまとめて、日数を掛けて、それを繰り返して、丁寧にマニフェストというものを作りました。そのマニフェストで選挙を戦っているわけです。サッチャーさんの指示は、マニフェストは5000字から5500字、つまり細かいことは書く必要がありません、方針だけ書いて下さい、詳細は影の大臣による口頭での説明のみでした。細かいことを文書にするには、後で詰めましょうと。今回のキャメロン首相の場合もそうですけれど、細かいことをつめながら、先ずマニフェストとして大きな方針を掲げて選挙に勝つ。政権について半年間でさらに詰めて、総合的な政策として法案にする。具体的に消費税は何については何%にするとか、軍事費は5年間で8%削減するとか、教育費を上げるとかという個々の法案を練り上げ、全体として一つの総合的な政策として提出し、国会で通す。これが通らないと政権運営ができないのでひっくり返っても止むを得ない、というくらいの覚悟でそこに繋がるように細かいことを選挙前から積み上げて党内議論をやって、政権についてから文書化している。だから、マニフェストというのは、本当に選挙公約で、それを実現して、しかも、自分たちのマニフェストをきちんと何年か毎に、自己評価もしています。

イギリスも実は平坦な道ではなくて、過去には大変な腐敗選挙もあったぐらいで、ここまで辿りついています。ですから、日本も、途中だと思って、良い方向に頑張らないと。ダメだ、ダメだと言ったら、本当にダメになってしまうと思うのですけれど。

工藤:ただ、今の話を聞いて決定的に違うのは、イギリスはマニフェストの作成に時間をかけていますよね。党内で、2年とか3年をかけて。党内でそれがきちんと一致するから、あとになって、それは違うとかいう話は出てこない。

山中:先ほど申し上げたように、1年半から2年かけて国会議員自身、特に若手が、部会での議論は勿論、議事録作成、意見具申などを全部やって、そしてそれから全体のまとめをして、周知徹底して、それで戦うわけですから。そして、どのようにメディアに話すかとか、色々な戦略を立てて、これで選挙を戦って、細かいことは当選してから6ヵ月かけてきちんとまとめて国会に提出する。そうすると、これがいわゆる政治主導、本当の政治主導になるわけです。

工藤:本当の政治主導ですよね。

山中:現在オックスフォード大学総長で上院議員のクリス・パッテンがどのような意見を出したか、とか、現在上院議員で閣外大臣のデイビット・ハウエルがどういう意見を出したとか、今、全部情報公開によって出てきています。1979年当時、彼ら30代、40代でしたから。その国会議員の力、これが、私は政治主導の1つの形だと思います。

工藤:なるほど。印象に残ったのは、イギリスではそういう若い政治家を支える仕組みもあるのですね。重鎮の人達はバックにいて、ちゃんと一緒にやってアドバイスをする。

山中:つまり、30年前に若手で大臣をやった重鎮が、現在のキャメロン首相や、オズボーン財務相を支えているのです。例えばロード・デイビット・ハウエル、30年前にサッチャーに意見を書いて運輸大臣も務めた人が、今、上院に居て、ヘイグ外務大臣を閣外大臣として支えているのですよ。ですから相当な批判があってもキャメロン政権は揺るがないですね。政権全体、党としては揺るがないのです。


「選挙があるから民主主義」ではない

工藤:もっといっぱい聞きたいのですが、時間が無いです。ただ、イギリスでは、本当の政治主導で、政治が課題に対して答えを出し、仕事をする、と。有権者が本当に代表を選ぶという仕組みが、色々な問題はありますが、少なくとも日本ではできていないことが、間違いなくイギリスではできている。私は、日本は、民主主義から見れば、まだすごく先が遠く感じて、民主主義じゃないのか、とまで思えます。

山中:御存知のように、チャーチルが「民主主義は完全な制度ではないけれど、今、これより良い制度が無いから、これを適用するのだ」と言っています。ということは、イコール、完全ではないのだから、常に努力して、不完全な所をどのように補完していくか、ということが、やはり国会に、国会議員に問われているのです。ですから、今「アラブの春」と世界中で「選挙をしたら民主主義」になっているような感じが蔓延していますけれど、選挙があるから民主主義か、と言ったら、本当の民主主義はそんなものではありません。努力しないとできませんよ。

工藤:みなさん、どうお考えになったでしょうか。これはやっぱり、私たちに問われているのは、「民主主義」という当たり前だと思われていたことに対しての問題です。この問題もきちっと考えて、良いものを作っていこうという動きをこれから始めたいと思います。山中さんは、3月にイギリスに帰ってしまうのですが、また日本に戻った時に、この議論作りに協力して下さい。

山中:はい。

工藤:今日はどうもありがとうございました。

山中:ありがとうございます。

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、現在、イギリスのケンブリッジ大学客員教授をしている元衆議院議員の山中あき子氏をスタジオに迎えて、イギリスの選挙の方法などを聞きながら、民主主義国家である日本のあり方について議論しました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年2月8日に放送されたものです)
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