日中の民間外交に問われている課題とは何か
―「第8回 東京-北京フォーラム」を日中関係の更なる成長点に
会議終了後の日本側参加者による座談会:
明石康(「第8回 東京-北京フォーラム」実行委員長、
財団法人国際文化会館理事長)
宮本雄二(同副実行委員長、前駐中国特命全権大使)
工藤泰志(同運営委員長、言論NPO代表)
今回の準備会合を振り返って
工藤:明石さん、宮本さん、お疲れさまでした。今日は北京で「第8回 東京-北京フォーラム」に向けた日中の準備会合が行われ、準備も本格的に始まりました。まず初めにお二人にお聞きしたいのですが、今年の日中の民間の対話に何が問われているのでしょうか。まず、実行委員長の明石さんからいかがでしょうか。
明石:世界各国で政治的な変わり目になっていますし、経済もヨーロッパの現状に表れているように、大きな変動の時期を迎えています。日本と中国もそこから無縁ということはあり得ません。中国はアメリカの最近の動向を非常に気にしていますし、日本にとっても中国が経済的に日本を追い抜く存在になるなど、双方の懸案が沢山あります。それが果たして解決されるのか。それとも相互信頼から益々遠のいていくのか。そういう危機感が募っている段階だと思います。
工藤:宮本さん、特に今年は、日中国交正常化40周年ということで、なおさらこの対話の意味が大きなものになってくると思うのですが、いかがでしょうか。
宮本:日中国交正常化40周年自体、大変重要なことで、今回の中国側の参加者が口を揃えて言っていました。しかし、それ以上に今回印象的だったのは、中国と日本は世界の第2位、第3位の経済大国なのですが、それを取り巻く国際環境、世界が大きな変革期にあることです。その中で、日本と中国が世界大国としてどのようにして振る舞うべきか、どういうことをやるべきか、という問題意識を強く感じました。
そういう大きな問題意識の中で、今年は国交正常化40周年という日中関係にとって特別大事な年なのですが、それを意義づけたい。これまで国交正常化30周年、35周年とやりましたけど、時代の大きな変わり目の中でのそういう節目の年、ということを私は強く感じました。
単なる議論だけではなく、未来志向のアクションを
工藤:私も議論に参加したのですが、そういう風な節目の年だし、しかも未来志向である。しかも、世界ということに対して日中がちゃんと議論をしようという気迫を今回の会議で感じました。これまで7回やってきたわけですが、単なる議論だけではなくて、今回の8回目に関しては、何か新しい日中関係とか、世界に対して私たちがどういうことを考えていけばいいか、という何かのアクションが求められているような感じがしています。
明石:私も、その新しい雰囲気をひしひしと感じました。中国側にも現状をどのように打破したらいいのか、日中関係も色々と懸案が山積していますし大変なのですが、それだけではなくて、中国は日本を追い抜いてアジアでの大国になったにもかかわらず、何か不安みたいなものを国内的にも、国際的にも感じている節があります。
日本にとってもこれからの国際関係をどうやっていくのか、また大震災の後の国づくりをどうしていくか、という事に関して色々な疑問があるわけですが、奇しくもこの2つの国が一致してある種の危機感を持っている、現状を打破したい。それについて、お互いに心を開いて、語り合おうじゃないか、解決策を探そうじゃないか、という風な意識が感じられました。
工藤:今までの僕たちの対話というのは、とにかく対話をすることによって相互理解を深めたいということでした。今度は、対話を通じて今の障害を乗り越えるとか、未来に向かって何かを切り拓くとか、かなり積極的な対話の感じになってきましたよね。
明石:明らかに具体的なことを中国が求めている感じだし、我々も今までのような議論の繰り返しではマンネリズムに陥るということで、解決はできないにしても、一歩一歩課題解決に向かう。そうして、両国間の信頼関係を深めないと両国だけではなくて、アジアや世界がガタガタするのではないか、という危機感をお互いに持っていると思います。
大局的な視野で日中関係を考えることが必要
工藤:宮本さん、40年経って未来に向かうための障害というのはどういう事だと感じていますか。
宮本:新しい行動に移さなければいけないと言ったときに、1つは大きく世界経済をどのようにすればいいのか。それから、中国もそこまでは考えが十分に至っていませんが、世界の安全とか平和とかいうものを、世界全体としてどうするのか。こういう課題にいずれ中国も入ってきますし、既に一部の人達は考え始めています。それに日本と中国の間には領土に関する問題、歴史認識の問題、最近は少し落ち着いてきましたけど、台湾を巡る問題という3つが、伝統的な日中間の問題であって、これは今でも折に触れて火を噴く。そこに経済的に中国が日本を追い越したということからくる、新たな感情的な摩擦の問題もあります。
日中関係にはしょっちゅう問題が起こるのですが、このままでは日本と中国の将来はうまくいかないだろう。大国同士だから両者の関係を安定させなければいけないのだ、そのためには何をするべきなのだろうか。そういうことを地球的な視野で考える段階に中国側もなってきた、ということを今回の協議を通じて感じました。
工藤:明石さん、中国の大国化に伴って、軍事的な問題でも不透明感が出てきましたよね。日本国民もどうなっているのかと不安になっている。私たちももっと説明を求めたり、そういう本音ベースの議論にしていかないと、なかなか中国の行動に対して国民の理解が広がらないと思うのですが、これについてはいかがですか。
「未来志向の日中関係」という意識が共有され始めた
明石:こういう難しい問題を避けたお互いの友好関係というのは、本物ではないと思います。それに、中国も気がついてきている節があるのは、せめてもの救いだと思います。ですから、両方がかみ合った形での真剣な議論、真剣な対話を交わす時期が近づいてくるという気がします。今回、北京に来る前に私が感じていたよりも、割とかみ合った問題意識みたいなものが両国の間にある、ということを感じました。ですから、7月のフォーラムは、より真剣な気持ちで準備に入れるという手応えみたいなものを感じました。
工藤:宮本さん、今度「東京コンセンサス」というのですが、フォーラムでの議論の結果、もっと大きなメッセージを社会なり、両国に伝えたいということについて合意されましたよね。
宮本:その背景でもあると思うのですが、先日、工藤さんがアメリカに行かれて協議をされましたよね。そこで、アメリカの中国を見る目が非常に厳しくなっているという風に感じられたという事でした。中国は我々以上に感じているわけです。したがって、先程明石さんがおっしゃった、安全保障の問題、そしてなおかつ日本が絡んだ形での安全保障の問題というのは、中国にとっても大変大事な問題になっています。したがって、日本との関係をこれまで通りダラダラと続けていって、果たしていいのだろうか。この会議を通じて、未来志向で日本と中国がどのような関係をつくるのか。そういう根本になるような新しい考え方を整理したいということは、今回の会議でも自ずから出てきました。だから、今回の協議の最大の成果は、そういう風に日中双方がなってきた。これまでのままではいけない、何か新しいことを、新しい時代環境の下でやらなければいけない、そういう風なことを関係者が思い始めてきたということは、大きな進展、進歩ではないかと思います。
工藤:そうですよね。皆さん、同じような議論をしても仕方がない。もう少し具体的に障害を乗り越えるような話をということになっています。そうなってくると、本当に「東京コンセンサス」ができるのかということはありますが、かなり重要なメッセージを出せるかどうかという、僕たちにも問われている試練になってきましたね。
明石:何でもいいから無理矢理コンセンサスをつくるというのではなくて、本当に噛み合った問題意識、危機意識というものに立つ。今のように、危機に遭うとその度にぐらぐらするような両国関係ではいけないのだ、という意識が中国側にも見えてきましたし、日本も震災から立ち直りつつある時期ですが、ここで立ち止まってはいけないので、毎年ありそうな課題、危機というものにおさらばするような、より高い段階の共通の彼我意識、安全意識というものがそろそろできないと嘘だと思います。極端な言い方をすれば、我々はそういう意味で突破口をつくれるかどうかという瀬戸際に立ちつつある、という気がします。
工藤:かなり大変な転換ですね。
今年のフォーラムを、日中関係にとっての新たな成長点に
宮本:これまでずっと続けてきた凄さというか、継続は力なりとよく言われますが、最初にこの「東京-北京フォーラム」を始めになったときは、やはり対話をすることに意味があったと思います。
工藤:そうです。対話で相互理解を深めるということでした。
宮本:ところが、回を重ねるごとにそれを越えて、どういう風に国と国との関係、国民と国民の関係を築いていけばいいのか。それを真剣に考えてみようという段階に入ったというのは、言論NPOのやってこられた「東京-北京フォーラム」の新たな成長点であると同時に、日中関係の成長点にしたいですね。
工藤:今回は、かなりの覚悟と、決意が高まった事前協議でした。
明石:日中共に、今まで自分の国の国益はこういうものであったという前提を、もう一度真剣に考え直してみる。より高いレベルの国益に持っていけるかどうか、という大変重要な曲がり角に来ていると思います。
工藤:「第8回 東京-北京フォーラム」は7月1日から3日間で開催します。もう100日を切っている状況ですが、私たちは4月に世論調査を開始すると同時に、現在パネリストの選定中です。6月には世論調査の結果と大会の概要を発表することになっています。本当に時間がない中で、今回は今までの対話とは違う形で、未来に向けて具体的な一歩を打ち出すような対話にしたいと思っています。
今日は、本当にありがとうございました、そしてお疲れさまでした。
(文章・動画は収録内容を一部編集したものです。)
第8回東京-北京フォーラムの日中両国の準備会合が19日、北京市の長安倶楽部で開かれ、日本側からは言論NPO代表の工藤のほか、明石康実行委員長と副委員長の宮本雄二前中国大使の3氏、中国側は趙啓正(全国政治協商会議外事委員会主任)、陳昊蘇(全国政治協商会議常務委員・外事委員会副主任)、李小林(中国人民対外友好協会会長)、楊毅(前国防大学戦略研究所所長、海軍少将)ら9氏が参加し、フォーラムの開催概要に関して、日中両国の実行委員会が初めて直接話し合った。