「第9回 東京-北京フォーラム」閉幕 ―民間の当事者意識に基づいた外交こそ「言論外交」

2013年10月27日

27日全体会議 「東アジアの平和・発展と日中両国の責任―日中平和友好条約の意義を再確認する」をメインテーマに26日から行われていた「第9回 東京-北京フォーラム」は27日に最終日を迎えました。最終日は講演と分科会報告からなる全体会議を行い、「日中両国は戦争に道を開く、どんな行動も選んではいけない」、「尖閣諸島を巡る対立に対処するために、両国政府は話し合いを開始することが急務である」とする不戦の誓いである「北京コンセンサス」を提唱して閉幕しました。

福田康夫氏(元内閣総理大臣) 全体会議の冒頭では、福田康夫氏(元内閣総理大臣)の特別講演が行われました。同氏は、松下電器(現パナソニック)創業者の故・松下幸之助氏などかつての日本の経営者は、自社の利益だけを追求していくのではなく、純粋に社会に貢献していく姿勢を持っていたことを紹介し、「この姿勢は国家を運営していく上でも必要なことである」と語りました。さらに、今後の日本外交のあり方について、歴史認識問題への真摯な取り組みや、世界に貢献していくための最低限の軍事力整備などの基盤を整えた上で、「世界の多極化を意識して、アメリカだけと関係を深めるのではなく、中国、韓国、ロシアなど近隣諸国と多角的に協調していくべき」と述べ、「そうしないと21世紀の日本の平和と繁栄は不可能」と断じました。また、これまで日本と中国の間で交わされた日中平和友好条約など4つの重要な政治文書で示された原則・精神は、日中関係のみならず「東アジアの安定や国際社会に貢献していくためにも不可欠」であるとし、「やる気さえ出せば、世界における様々な課題を解決していくことができる」と中国側に協調を呼びかけました。

魏建国氏(中国国際経済交流センター副理事長) 続いて、基調講演に移り魏建国氏(中国国際経済交流センター副理事長)は、本来、一衣帯水であるはずの中日両国は、歴史認識問題、尖閣諸島問題によって「不愉快な状況にある」と述べ、「その責任は日本の政治指導者にある」と日本側を強く牽制しました。一方で、「だからといって両国関係が冷え込んでいるとは思わない」との認識を示し、「この『東京-北京フォーラム』の参加者をはじめとして、両国の多くの国民が関係改善を目指して地道な努力を積み重ねている」と述べました。最後に、今後の日中関係改善の方向性として、「経済界が率先してこの困難な局面を打開すべき」とし、そこから国民感情の修復、さらには政府間関係の回復につなげていくべきだ、と主張しました。

武藤敏郎氏(大和総研理事長、元日本銀行副総裁) 武藤敏郎氏(大和総研理事長、元日本銀行副総裁)は、日中間の経済関係が、昨秋の日本政府による尖閣問題国有化以降、「貿易、直接投資、観光などいろいろな面で減少ないし停滞している」と現状を説明。GDP世界2、3位の経済大国である日中の経済関係の悪化は、両国の国民生活だけでなく、アジアや世界の経済に対して重大な影響を及ぼすと指摘しました。また、「経済合理性によって育まれてきた日中の経済関係は、現在の日中間の問題を冷静に考える糸口になる」と述べ、日中間の経済関係を再構築していくことは日中関係の大局的な改善にもつながっていくという認識を示しました。さらに、日中平和友好条約第3条「両国の経済関係の一層の発展」に触れ、「この原点に立ち返り、両国関係の正常化と経済関係の発展に努力していくべきである」と主張しました。

呉建民氏(国家改革発展戦略研究会常務副会長) 呉建民氏(国家改革発展戦略研究会常務副会長)は、「中日関係の将来には明確なビジョンがあるので、将来を悲観する理由はない」と述べました。その根拠として、福田氏も言及した日本と中国の間の4つの政治文書は、「両国が問題に直面した時に、それを打開するための指針になっている」とし、これらを拠りどころとすることで、関係改善は可能であるとの認識を示しました。さらに、東アジアは世界の経済の中心になったため、日中間で協力関係を構築できる局面が増えてくることや、「戦争と革命」の世紀は過ぎ去り、「平和と発展」が世界におけるトレンドとして定着していることも、両国が関係改善していくための好条件になっていると述べ、「将来を悲観せずに、両国でともに美しい未来を描いていきましょう」と日本側に呼びかけました。


小倉和夫氏(国際交流基金顧問) 最後に基調講演に臨んだ、小倉和夫氏(国際交流基金顧問)は、まず、「周辺諸国は中国に軍事的な脅威を感じているが、これまで帝国主義の犠牲になってきた歴史を考えると、中国は安全保障に敏感にならざるを得ないのではないか」との認識を示しました。それを踏まえた上で、「中国を安心させる必要がある」と話し、「日中平和友好条約の精神を、日中間のみならずアジア全体で共有すること」が必要であると主張しました。また、「世界に対して大きなインパクトを与えているアジアは、世界に対して大きな責任を負っている」とし、この「東京-北京フォーラム」も日中間だけで対話するのではなく、日中が共に並び、未来についての青写真を共有し、アジアから世界に向かい合って発信していくという構図にしていく必要がある、と今後のフォーラムのあり方について具体的な提言をしました。


 その後、前日の分科会で議論された内容について報告が行われました。

武藤敏郎氏(大和総研理事長、元日本銀行副総裁) まず、経済対話の日本側パネリストを代表して、武藤氏が発言しました。日本側が特に注目したのは政治と経済の関係で、中国側が政治と経済の強い関係性を主張する一方で、日本側は政治と経済は別であるという立場である、と述べました。また中国側は、日本のアベノミクスによるデフレ脱却の信憑性、円安誘導の疑惑について問いかけがあり、日本側は「アベノミクスの最終的な結果はまだ不透明だが、アベノミクスは周辺国にネガティブな影響を与える意図はない」という意見が述べられた、と報告しました。

江瑞平氏(外交学院副院長) 中国側パネリストでは、江瑞平氏(外交学院副院長)が日中経済の現状評価を行い、領土問題によって日中の経済は大きな損失を受けたものの、今年5月から日中経済に関して改善が見られ、経済は領土問題を克服できると指摘しました。次に東アジアの地域統合について言及し、政治問題による両国関係への悪影響が、地域統合のコンセンサス形成にネガティブな影響を与えていると指摘しました。そして日中経済の外部に対する影響についても言及し、アベノミクスやリコノミクスの国外への波及効果の大きさについて説明。相互依存度が高まるにつれて、国内経済が外部に大きな影響を与えることに両国は注意しなければいけない、と語りました。

李薇氏(中国社会科学院日本研究所所長) 安全保障対話については、李薇氏(中国社会科学院日本研究所所長)が、安倍内閣が掲げる積極的平和主義についての疑念が中国から出ていると話し、日本の政治家の歴史発言が中国人民の日本の外交政策への不信を煽っていると指摘しました。また日本側の参加者から中国の軍事費の増加についての疑念が出され、中国は中国の平和的台頭を信じてもらうために、より多くの努力をするべきだと述べました。尖閣問題については、日本政府は係争を認めるべきであると主張する一方で、武力に訴えることで事態の解決を図ってはいけないと強調し、中国海警と海上自衛隊の間で偶発的な紛争を回避するための海上緊急メカニズムの構築と、ホットラインの設置が急務であると表明。日米同盟が中国の疑念を駆り立てるものであってはならないと注意を喚起しました。

宮本雄二氏(元駐中国大使) 日本側パネリストの宮本雄二氏(元駐中国大使)は、両国民のメンタリティの相違について、中国人が全ての話し合いは相手に対する信頼が前提であるのに対し、日本人は小さな努力の積み重ねが信頼の醸成につながると指摘し、それが現状の安全保障における問題を生んでいると述べました。また東アジア情勢が厳しい中でも、人民解放軍と自衛隊は自分たちの役割を理解し、不測の事態を防ぐために慎重に行動していることを評価する一方で、早急に危機管理メカニズムを日中間で構築する必要性を強調。尖閣問題は解決の難しい問題だが、政治的決断を後押しする為には国民世論の理解が必要だと述べました。


呉小倉和夫氏(国際交流基金顧問) メディア対話では、小倉氏が尖閣問題など日中間の問題において、メディアが正確に現状を報道しているかどうか、という疑念が挙げられたことを報告。また、日中メディアの現状について、日本側から中国メディアへの政府規制の強さについての質問が多くあり、中国側からは日本メディアの記者クラブ制度の排他性を指摘する声が上がるなど、双方の不信感が明確になりました。その改善のために、メディア関係者同士の交流が必要であると述べました。今後の課題について、市民の日常生活に基づく物語を共有し、伝えることが両国のメディアに求められ、メディアには報道だけでなく文化交流にも力を入れるべき、と話しました。

里戈氏(チャイナデイリー米国支局総編集長) 中国側は、里戈氏(チャイナデイリー米国支局総編集長)が、両国関係を議論するにあたり釣魚島(尖閣)は切っても切れない問題であり、この問題に一度触れてしまった以上、議論を止めることはできないと指摘。メディアとナショナリズムのテーマでは、日本のメディアは反日デモを繰り返し報道することで反中感情を煽っており、中国側も日本に対するポジティブな報道が少ないと話し、双方のメディアもナショナリズムに引き込まることなく冷静な議論をすべきだ、と報告がありました。


楊伯江氏(中国社会科学院日本研究所副所長) 最後に政治対話に関して、中国側から楊伯江氏(中国社会科学院日本研究所副所長)が発言しました。まず日中両国にとって、一部の紛争が全体の交流を妨げるべきではない、という点において一致したものの、釣魚島(尖閣諸島)と歴史認識問題においてはコンセンサスに至らなかったと報告。尖閣問題においては、中国側は歴史的な立場から、日本側は国際法の立場からそれぞれの主権を主張した、と述べました。歴史問題については、安倍政権の歴史観に中国国民は不安を抱いていると説明し、政治家の責任の重さについて言及しました。そして日本の対中政策は一度失敗しており、日中は新しい関係性を模索しなくてはいけない、と話しました。

松本健一氏(麗澤大学教授、元内閣官房参与) 日本側の松本健一氏(麗澤大学教授、元内閣官房参与)は、政治家はイデオロギーのような頭の中のものではなく、現実に目の前に起こっている問題に対処すべきだという意見で一致したと報告。そしてアジアの問題はアジアで解決すべきだと主張し、そのためには中国の政治家の尖閣と歴史問題について頭で考えるだけではなく、実際に行動することが大切だと主張しました。そして尖閣諸島で不測の事態をさけるための緊急メカニズムの構築、PM2.5や放射線の問題等の直面する問題に政治家は対処すべきであると主張しました。また、古くから日中両国民が平和的に利用していた歴史を紹介し、国際法という西洋がわずか150年前に作った枠組みについて考え直す必要があるのではと意見が述べられました。

工藤泰志(言論NPO代表) 最後に代表の工藤は、政府間外交がストップしている状況での民間対話の重要性について、今回の「東京-北京フォーラム」のような民間の当事者意識に基づいた外交こそが公共外交であり、当事者意識が間違いなく東アジアのガバナンスを安定させると主張し、報告を締めくくりました。

「東アジアの平和・発展と日中両国の責任―日中平和友好条約の意義を再確認する」をメインテーマに26日から行われていた「第9回 東京-北京フォーラム」は27日に最終日を迎えました。最終日は講演と分科会報告からなる全体会議を行い、「日中両国は戦争に道を開く、どんな行動も選んではいけない」、「尖閣諸島を巡る対立に対処するために、両国政府は話し合いを開始することが急務である」とする不戦の誓いである「北京コンセンサス」を提唱して閉幕しました。