「新しい民間外交の可能性~東アジア地域の紛争回避と政府間外交の環境づくり~」日中韓マルチ有識者アンケート結果 調査比較分析結果

2014年3月29日

特定非営利活動法人言論NPO
<調査協力>東アジア研究院

調査の概要

本調査は、3月19日から3月25日にかけて日本、中国、韓国の三カ国で実施した。
日本の有識者調査は、言論NPOが、過去に言論NPOが行った議論活動や調査に参加していただいた国内の有識者などにメールで回答を依頼し、うち297人から回答をいただいた。中国の有識者調査も同様に、中国国内の有識者にメールで回答を依頼し、93人から回答を得た。韓国の有識者調査は、東アジア研究院が韓国内で有識者を抽出し、477人から回答を得た。これらの回答者は各国社会の平均的なインテリ層の姿を表していると考えられる。


日中韓マルチ有識者アンケートの概要※ここでの数値は小数点第二位を四捨五入しているため、合計が100.0%とならない場合がある。


1.軍事的衝突に関する認識


1-1.東アジアで軍事的衝突は起きるか

尖閣問題で対立を深める日本と中国の有識者はともに、軍事的な衝突を懸念している。紛争勃発の危険地域が「東シナ海」であることについて、各国の有識者の認識は一致している。


軍事的衝突は起きるか

 東アジアでの軍事的衝突の可能性について、日本人、中国人に高い危機意識があることが、調査から浮かび上がった。
 まず、日本人のうち、「軍事的衝突は起こると思う(『どちらかといえば、起こる可能性がある』を含む、以下同様)」と考えているのは、58.9%と6割近くにのぼっている。一方、「軍事的衝突は起こらないと思う(『どちらかといえば、起こらないと思う』を含む、以下同様)」という見方は21.9%にとどまっており、東アジアでの軍事衝突について日本の有識者が強い危機意識をもっている。
尖閣諸島をめぐって日本と対立している中国の調査でも、有識者は「軍事的衝突は起こると思う」との回答は43.0%と最多となっており、ここでも強い危機意識がみられる。
 一方、尖閣問題で直接の当事国ではない韓国の有識者で、「軍事的衝突は起こると思う」と考えているのは、29.0%にすぎず、「軍事的衝突は起こらないと思う」との回答が46.4%と半数近くに達しており、日中両国と比較するとやや危機意識が希薄であることがみられる。

【図表1 軍事的衝突は起きるか】

軍事的衝突は起こるか


東アジアのどの地域で衝突が起きるのか

 では、各国の有識者はどの地域で軍事的衝突が起こることを懸念しているのか。「軍事的衝突は起こると思う」と回答した有識者に、「どの地域での紛争を一番心配しているか」と質問したところ、いずれの国においても、「東シナ海」が最多となり(日本:45.5%、中国:44.6%、韓国:62.3%)、各国の有識者の認識は一致している。
 ただ、中国が積極的な海洋進出を進める「南シナ海」については、日本調査では軍事的衝突の発生を懸念している有識者が30.2%いたのに対し、中国調査は13.5%にとどまっており、ここではやや認識のギャップがみられる。

【図表2 軍事的衝突が起こる地域】

軍事的衝突が起こる地域


2.政府間外交に関する評価


2-1.政府間外交は機能しているのか

各国の有識者は、日本と中国、韓国の間で、「政府間外交が有効に機能していない」と考えている。 その要因としては、中国と韓国で「領土、歴史認識」が最多となっているのに対し、日本では「国内の政治事情」という回答が最多となり、認識の差がみられる。


政府間外交は紛争を止められるか

 東シナ海での紛争勃発を懸念する各国の有識者であるが、これを「政府間外交で止められるか」と質問したところ、いずれの国においても「止められると思う」という回答が最多であったが、5割を切っている(日本:42.1%、中国:44.1%、韓国:49.3%)。紛争抑止という重要な課題において、政府間外交に対する有識者の期待は薄い、ということが浮き彫りとなる結果になった。

【図表3 政府間外交は紛争を止められるか】

政府間外交は紛争を止められるか


政府間外交は有効に機能しているのか

 それでは、現在、この政府間外交は、日本と中国、韓国の間で「有効に機能しているか」と質問したところ、「機能していないと思う(『どちらかといえば機能していないと思う』を含む、以下同様)」と回答した日本の有識者は85.2%に達し、逆に、「機能していると思う(『どちらかといえば機能していると思う』を含む、以下同様)」は7.7%に過ぎなかった。
 「機能していないと思う」という回答は、中国調査でも59.2%、韓国調査でも67.7%にと高い割合を示しており、各国の有識者の政府間外交に関する評価は一致している。

【図表4 政府間外交は機能しているか】

政府間外交は機能しているか


なぜ政府間外交は機能していないのか

 それでは、なぜ日本と中国、韓国の政府間外交は機能していないのか。「機能していないと思う」と回答した各国の有識者にその理由を尋ねたところ、日本有識者では「各国の国内政治事情」が38.9%で最多となり、それぞれの国に原因があるとみている。
 中国と韓国の調査では「領土や歴史認識に関する対立」が最多となり(中国:32.9%、韓国:32.8%)、これに「各国の過熱するナショナリズムを背景にした世論」(中国:26.3%、韓国:27.6%)を合わせると、「過去」の問題が半数を超えている。
 中韓両国で批判を集めた「日本の首相の言動」は、中国調査では、二番目に多い回答となっているが、それでも3割を切っている。

【図表5 なぜ機能していないのか】

なぜ機能していないのかか


3.民間外交についての認識


3-1.民間外交をどう考えるのか

各国で「民間外交」に対する期待が高まっている。その「民間外交の担い手」としては、3カ国いずれにおいても「NPO・NGO」などの非営利組織への期待が集まっている。

民間外交への期待

 日中間、日韓間の政府間外交が行きづまりをみせる中、日中で「民間外交」の果たす役割への期待が高まっている。民間外交の役割への期待について尋ねたところ、「期待している(『どちらかといえば期待している』を含む、以下同様)」と回答した有識者は、日本で80.5%、中国でも79.6%と約8割にのぼり、「期待していない(『どちらかといえば期待していない』も含む、以下同様)」はそれぞれ1割程度にとどまっている。
 韓国でも日中両国ほどの高い数値は示していないものの、「期待している」は40.0%で最多となっており、各国で民間外交への期待の高まりがみられる。

【図表6 民間外交への期待】

なぜ機能していないのかか


民間外交の役割

 次に、「期待している」と回答した有識者に、具体的にどのような役割を民間外交に期待しているのか尋ねた。なお、本問のみ韓国調査を実施していない。
 日本と中国の有識者は同じ回答傾向を示している。それぞれ「民間同士の交流や国民間の相互理解の促進」に最も多く期待しており(日本:53.7%、中国:60.7%)、「政府間外交が動き出すための環境づくり」が続く(日本:26.4%、中国:22.6%)。一方で、「政府間外交の空白を埋める代替機能」は、日本(10.7%)、中国(8.3%)ともに1割程度であり、民間外交はあくまでも政府間外交を補完するものであるととらえている。

【図表7 民間外交の役割】

民間外交の役割


民間外交の担い手

 それでは、期待が高まりつつある民間外交を誰が担うのか。「民間外交の担い手」について尋ねたところ、日中韓3カ国ともに、「NPO・NGOなどの非営利組織」が最多となり(日本:70.4%、中国:58.1%、韓国:63.9%)。日本調査ではこれに「課題解決に対して当事者意識を持つ国民」という回答が47.5%と半数近くにのぼっていることが注目される。
 中国調査では、「NPO・NGOなどの非営利組織」に続き、「メディア」が55.9%となっており、「メディア」が34.3%にとどまった日本と対照的な結果になっている。また、韓国調査では、「NPO・NGOなどの非営利組織」に「有識者」(62.3%)がほぼ並び、「企業」が50.1%と続いている。

【図表8 民間外交の担い手】

民間外交の担い手


「パブリック・ディプロマシー」への期待

 各国政府は、「パブリック・ディプロマシー」として、自国の主張を相手国の国民に直接理解してもらう広報宣伝外交を推進している。調査ではこの「パブリック・ディプロマシー」への期待についても尋ねた。
 日中韓3カ国ともに、「期待している(『どちらかといえば期待している』を含む、以下同様)」との回答(日本:56.9%、中国77.4%、韓国:51.8%)が、「期待していない(『どちらかといえば期待していない』を含む、以下同様)」との回答(日本:26.2%、中国:9.7%、韓国:27.4%)を大きく上回っている。
 特に、中国の調査では、パブリック・ディプロマシーへの期待が8割近くにのぼり、日韓両国よりも突出する結果となった。世界各国のメディアに働きかけを強めるなど、中国政府が推し進める「公共外交」に対する中国有識者の強い期待がうかがえる。



4.マルチ対話について


4-1.多国間政府対話の必要性

東アジアの平和と安定のため、「多国間の政府間対話が必要である」と考える有識者の割合は、各国で9割を超えている。また、「トラック2外交」に対する期待も高まっている。

 東シナ海で領土をめぐる対立が先鋭化し、紛争勃発が懸念されるにもかかわらず、二国間の政府間対話がなかなか進んでいない。その状況の中で、東アジアの平和と安定のために、多国間の政府間対話は必要であるか尋ねた。
 日本調査では、「必要だと思う(『どちらかといえば必要だと思う』を含む、以下同様)」と回答した有識者が、96.3%にのぼり、「必要ないと思う(『どちらかといえば必要ないと思う』を含む、以下同様)」はわずか0.3%であった。
 中国調査でも、「必要だと思う」が90.3%に対し、「必要ないと思う」は7.6%、韓国調査でも、「必要だと思う」は93.0%に対し、「必要ないと思う」が2.1%という結果になり、多国間政府対話の必要性で各国の有識者の認識は一致している。

【図表9 多国間政府対話の必要性】

多国間政府対話の必要性


政府間の枠組み

 東シナ海での紛争を回避するため、有識者はどのような政府の枠組みに期待しているのか。この点、日本調査では、「日米中の協議」が32.0%で最多となった。これに「日中の二カ国間」が続いているが、15.8%にとどまり、有識者は日中関係の膠着状態を打開するためにはアメリカを引き込むことが必要であると考えている。
 一方、中国調査では、「日中の二カ国間」が29.0%で「日米中の協議」と並んで最多となっており、中国の有識者は日中間において、「マルチ」だけではなく「バイ」の政府間対話も重視していることがうかがえる。
 韓国調査では、「日米中の協議」が31.0%で最多で、「東アジア首脳会議」が25.4%で続いている。

【図表10 期待している政府間の枠組み】

多期待している政府間の枠組み


トラック2外交の重要性

 今回の有識者調査の最後に、東アジアにおける国境を越えた民間対話やトラック2外交について尋ねた。
 まず、このトラック2外交の重要性について、日本調査では、「重要な役割を果たすと思う(『どちらかといえば重要な役割を果たすと思う』を含む、以下同様)」と回答した有識者は78.5%と8割近くにのぼる一方で、「重要な役割を果たせないと思う(『どちらかといえば重要な役割を果たせないと思う』を含む、以下同様)」は5.4%にすぎず、トラック2外交に対する強い期待がみられる。
韓国調査でも、「重要な役割を果たすと思う」が69.4%となり、「重要な役割を果たせないと思う」(10.0%)との回答を大きく上回っている。
 中国調査でも、日韓両国と比較すると割合が低いものの、「重要な役割を果たすと思う」が44.1%で最多となっており、各国でトラック2外交への期待が高まってきている。

【図表10 トラック2外交の重要性】

トラック2外交の重要性


トラック2外交の枠組み

 それでは、そのトラック2外交の枠組みにどの国・地域が入ればいいのか。トラック2外交が「重要な役割を果たすと思う」と回答した有識者に尋ねたところ、日本調査では「日本」(91.6%)、「中国」(91.2%)、「韓国」(81.9%)、「米国」(70.2%)の順番になった。
 中国調査では、「中国」(79.7%)、「日本」(71.9%)、「米国」(60.9%)、「韓国」(57.8%)の順番に、韓国調査では、「中国」(96.4%)、「韓国」(95.7%)、「日本」(95.4%)、「米国」(73.6%)の順となった。
 順序の違いはあるものの、上位四カ国の顔ぶれは日中韓で共通している。ただ、これに続く五番目の国は、日本が「ASEAN諸国」(62.6%)、中国が「ロシア」(50.0%)、韓国が「北朝鮮」(57.8%)となるなど、傾向の違いがみられる。

【図表11 トラック2外交の枠組み】

トラック2外交の枠組み