「『言論外交』とは何か」

2014年4月01日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、番組が新たにはじまったことを受けて、改めて工藤・言論NPOが提唱する「言論外交」とはなにか?そして、言論外交の今後はどう展開されるのか?について議論しました。

JFN系列「サードプレイス TUESDAY 工藤泰志 言論のNPO」で2014年4月1日に放送されました)


「ON THE WAYジャーナル」改め、「サードプレイス」

工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。今日からこの時間は「ON THE WAYジャーナル」改め、「サードプレイス」と題してお送りします。引き続き、パーソナリティを務めますので、今後ともよろしくお願いします。
 さて、私たちは4月10日に『言論外交』という本を出すことになりました。耳慣れない言葉だと思いますが、私がつくった言葉です。そこで、今日のサードプレイス「言論のNPO」では、書籍『言論外交』について皆さんにお話ししたいと思います。


書籍『言論外交』の表紙に込められた思い

 実は、この番組が放送される頃には既に終わっていると思いますが、3月29日に私たちは、日本、アメリカ、中国、韓国、イギリス、シンガポールの世界でも著名なシンクタンクの関係者などを集めて、「新しい民間外交の可能性」というシンポジウムを東京で開催することになっています。このシンポジウムが、まさに私たちの「言論外交」のキックオフになるものです。私は、民間が外交という分野で何ができるのか、ということでいろいろとやってきたのですが、今度は世界の人たちと語り合って、実際にアクションを起こしたいと思っています。ですから、このシンポジウムを皮切りに、東シナ海の問題も含めて、とにかく平和をつくり出すための取り組みを始めなければいけないと思っています。そして、このシンポジウムに合わせる形で、『言論外交』という書籍を出版します。

 では、そもそもこの「言論外交」とは何なのか。まず、今回の書籍の表紙にはパリ講和会議の時の絵を使っています。私は、外交というものは市民や国民なりに支持されなければいけないと思います。しかし、一般の人たちが話を聞いてもなかなか理解できるものではないために、実際の外交というのは秘密外交になってしまう。パリ講和会議の時に、もっとオープンな形で外交を行おうとしたのですが、結果として秘密会合になってしまいました。私たちが、この会議時の絵を使った意味は、やはりオープンディプロマシーこそが大事ではないか、と改めて考えるべきではないかと考えたからです。しかし、開かれた外交を実現するためには、外交というものを受け止める私たち有権者、市民側にも問われていることがあるのではないか、と感じています。つまり、私たち側が自分の問題として、日本やアジアが直面している課題について多くの人が自分で考え、議論するような形になっていかないと、「あの国は嫌だ」というだけの話になってしまう。その結果、ナショナリズム的な感情ばかりになってしまい、政府間の外交が動かない状況になってしまいます。そういう状況を変えなければいけないのではか、というメッセージを書籍の表紙に込めました。


「言論外交」とは何か

 私はこの本の中で、政府間外交が動かないような状況を誰が立て直すのか、という問題意識を挙げています。私は中国との間で民間の対話をやっているのですが、何かが起こると必ず政府間外交が止まってしまいます。そして、メディアがその状況を報道すればするほど、国民感情を悪化させてしまう。その結果、より政府間が動けなくなるというジレンマに陥ります。現在の東シナ海では、尖閣諸島の周辺で、非常に緊迫した状況が続いていて、世界中がこの状況を心配しているのです。

 私は先日、オーストラリアを訪問しましたが、「日本と中国は戦争になるのか、これからどうなるのか」と質問攻めにあい、「我々にも何かできることはないのか」と多くの人から心配されました。しかし、日本に帰ってくると、そういった世界の声がなかなか届いていない。このような状況を立て直すには、民間の対話が大事ではないかと思っています。ただ、この対話は、専門家同士が秘密に議論するのではほとんど意味がないと思っています。有権者や国民、または海外の人たちに開かれた対話であり、現状を乗り越えようと思っている声を多くの人たちが共有していく。つまり、課題を解決しようという意思に基づく声、その声が世論になっていって、世界的な世論に支持されていく。そうした大きな環境をつくり出すことによって始めて、政府間外交が動き出す基盤をつくれるのではないか、と思っています。私は、多くの人たちが当事者としての意識を持って課題解決に臨んでいく、その取り組みが多くの人たちの支持を得ていく、そういうサイクルができることが非常に重要だと思います。では、このような民間外交をどう呼べばいいのか。「civil diplomacy」、「civic diplomacy」、「open diplomacy」、「stakeholder diplomacy」など、英語も含めていろいろと検討したのですが、どの言葉も何かが違いました。私たちは、市民なり有権者が、自分の問題として考えて、一つの大きな流れをつくっていくことを大事にしたかったのです。そうなってくると、「責任ある議論」、「責任ある世論」が必要になってきます。そこで、「言論」という言葉からスタートしようということで、私はこのような新しい民間外交の取り組みを、「言論外交」と呼ぶことを決め、提起することになりました。


誰もが納得する言葉、それは「平和」

 実をいうと、「世論」と「政府間外交」という問題は、昔から大きな問題として存在しました。基本的に政府の人たちは、一般の世論は政府が行うことを理解してくれない、ということでなるべく皆に知られないような形で外交を行う。そして、賛成派も反対派も納得できるような言葉づかいを条約や協定の中で実現することが外交のプロセスになっていました。ただ、情報化社会がここまで発展してくると、秘密でやって説明するという外交のチャネルでは通用しない状況になってくるわけです。私も、この番組で何度か言いましたが、日本のことをいまだに軍国主義や覇権主義だと思っている中国や韓国の国民がいるのです。中国はコントロールされていることがあるかもしれませんが、政府だけでつくられるようなものではなく、構造的に自分たちなりの手法で解釈しているという問題が出てきてしまっているわけです。開かれた対話を行い、軍国主義でも覇権主義でもないという現実を見せた上で、課題を解決しようという意思、流れをつくっていくことが東アジアにおいて必要なことではないかと思います。ただ、誰もがコンセンサスを得られる、納得できるような言葉を出さなければいけない。私は、それは「平和」ではないかと思いました。私も日本人ですから、外交上、日本の主張としてどうしても譲れないものがあります。しかし、衝突が起きて、戦争になることは誰も望んでいない。そこで、戦争は絶対にしない、平和な関係をつくりたいということが、私たちが目指すべき一つの大きな目的になるのではないかと考えました。3月29日のシンポジウムのアジェンダは、東アジアが非常に危険な状況にある中で、我々民間に何ができるのか。平和的な環境づくりを民間の対話、民間の知恵で実現するためには、世論を大きく変えることで何かができるのではないか、という問題意識が今回のシンポジウムの大きなテーマになっています。

 そうした私の呼びかけに、中国、韓国、アメリカ、イギリス、シンガポールの人たちが、この取り組みは面白い、東アジアにおける新しい外交のイノベーション、新しい変化に力を合わせようではないか、ということで合意してくれて、今回集まっていただきました。私は、これが一つの流れをつくるきっかけになるのではないかと思っています。


「言論外交」の主役は、私たち市民の当事者意識

 今、私たちが取り組んでいる民間の外交ですが、よく考えてみると外交以前に、国内の世論をどうつくるか、というアジェンダだと思います。「パブリック・ディプロマシー」という言葉がありますが、私が考えている方向とは全く逆のもので、政府が行う宣伝広報外交という意味です。アメリカのブッシュ政権時、9.11のテロがありました。そこで、イスラムの人たちにアメリカの価値を知ってもらいたいということで始めました。中国も韓国も世界中で様々なことをやっています。もちろん、日本も政府の立場を伝えようと、相手国の政府と協議するだけではなく、相手国の世論に直接呼びかけていくパブリック・ディプロマシーを展開していました。しかし、実をいうとあまりうまくいっていません。政府が働きかける宣伝というのは、世界から見ると、自分の言い分を世界に宣伝しているだけではないか、と見えてしまいます。私も世界の国際会議に出てそのことを感じました。だからこそ、政府が世論に働きかけるのではなくて、それぞれの国民が課題に向かい合う、自分たちの国が直面している問題を、自分たちの問題として考えよう、というサイクルつくっていく。場合によっては、外交問題だけではなく、自分たちの地域をどのように発展させていくのか、地域の安定的な環境をどうつくればいいか、社会保障の問題、財政の問題など何でもいいのですが、一人ひとりの市民が、自分の問題としてその国や地域に向かい合っていく。それが、ある時に国境を越えていく。地域だけで解決できる課題もあれば、地域を超えて国でなければ答えを出せない課題かもしれない。場合によっては、国を超えていくかもしれない。今、私たちが取り組んでいることは、国境を越えた平和な環境をつくる、というアプローチなわけです。私たち日本人が市民として、有権者として、将来どのような日本をつくっていくのか、アジアの環境づくりにどのような役割を果たしていけるのか、ということを考えなければならないと思っています。そうした人たちが、対話の舞台に出て、いろいろな形で対話に参加することで課題解決に向けて動き出すことができると思うのです。私は、これこそが新しい外交だと思います。政治もそうですが、外交も誰かにお任せするのではなくて、私たち自身が、自分のこととして考えていくべきであって、それが政治や外交に反映されるということが大事だと思っています。

 私は本の中で、「私たちが目指す新しい外交の主役は、私たち市民の当事者意識だ」と書きました。我々が自分の問題として考えるところから始めていこうではないか、と。もし、多くの人たちがそういう気持ちになったら、間違いなくこの国は未来に向けて大きく変わると思います。私たちは、それを「言論外交」という形で世に提起した、ということを知っていただければと思います。


書籍『言論外交』出版が、私たちの取り組みのスタートに

 今、東シナ海では非常に緊張した状態が続いており、世界も非常に気にしています。私は本の序章の中で、100年前、イェール大学の歴史学者だった朝河貫一の話を書きました。日本は国際社会の一員ですから、世界が日本のことをどう思っているのかは関係ないというわけにはいかず、世界の意見を客観的に理解していくという力を身につける必要があると思います。その中で、日本の考え方、自分たちの主張を世界に提案していくということができれば、日本の存在力が格段にアップしていくのではないでしょうか。

 今回発配する『言論外交』という本は、私たちの取り組みのスタートです。この本の出版を皮切りに、韓国と中国との対話をそれぞれ行います。加えて、東アジアの紛争を回避し、平和という環境づくりのために多国間の対話を行っていくことになります。加えて、そういった多国間の有識者、さまざまな課題に取り組んでいる人たちと手をつなぎ、そうした人たちに継続的なアンケートを行い、世論調査なども組み合わせながら、国民や有識者が課題解決に参加できる、意向を表明できるという仕組みをつくった上で、対話を行っていきたいと思っています。私たちは、日本の民主主義を機能させていく展開と、新しい外交に対する強いメッセージを出していきたいと思っています。

 ということで、今日は私たちが進めている「言論外交」ということについて、皆さんに説明させていただきました。私たちのこうしたチャレンジを、『言論外交』の書籍を通じてご覧いただければと思います。ありがとうございました。

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、番組が新たにはじまったことを受けて、改めて工藤・言論NPOが提唱する「言論外交」とはなにか?そして、言論外交の今後はどう展開されるのか?について議論しました。

(JFN系列「サードプレイス TUESDAY 工藤泰志 言論のNPO」で2014年4月1日に放送されました)