今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、いま日本が問われているのは何なのか?工藤が海外の人と話をしてきて最近感じたことを元に、市民である自分たちが課題解決するためにはどうすればいいのか?を議論しました。
(JFN系列「サードプレイス TUESDAY 工藤泰志 言論のNPO」で2014年5月6日に放送されました)
工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。
さて、サード・プレイス「言論のNPO」と題して、今日は2回目の放送となります。
前回は、私たちが4月10日に発売した『言論外交』という書籍について説明させていただきましたが、今回の書籍には自分たちが当事者として今の社会に向かい合おうというメッセージを込めました。政治や課題解決に向けた動きが人任せになってしまうと刺激的、感情的な世論が巻き起こり、課題解決からどんどん遠のいてしまいます。そういったことが今、日本の将来やアジア外交において表面化してきている、ということを感じています。そういった課題が今回の書籍に書かれています。ぜひ、皆さんもこの本をご一読いただければと思います。
今の政治状況を生み出しているのは、私たち有権者
さて、前回の放送から1カ月が経ちましたが、私たちは様々なことに取り組んでいます。まず、日本、アメリカ、中国、韓国、シンガポール、イギリスの6カ国の識者で、私たちが提案している民間対話についてのシンポジウムを3月末に開催し、私たちが東アジアで紛争を起こさないための取り組みについて議論しました。海外の皆さんは、私たちの取り組みに驚いていましたが、私たちと一緒に協力したいという声を挙げてもらいました。
シンポジウムの後、ドイツなど海外から取材が来るようになりましたが、海外の取材の目的に共通した傾向がありました。それは、「デモクラシー=民主主義」という問題です。世界は今、東アジアで非常にナショナリスティックな世論が高まっていると思っています。そういった状況の中で、紛争を起こさないために政治がうまく取り組んでいないのではないか。そして、そういったことに取り組めない政治を許している状況を、有権者はなぜ黙っているのか、ということが取材に来る皆さんの関心事でした。先進的な民主主義の国からすれば、政治は有権者が選んだ結果なのです。大変な事態が起こるかもしれない状況の中で、政治が事態を悪化させるような逆の行為をしたり、何も行動を起こさないということがなぜあり得るのか、という海外から日本に対する問いかけなのです。
先程述べたシンポジウムで、私たちが日中間で「不戦の誓い」を行ったと発言したら、アメリカのスコット・シュナイダー(外交問題評議会(CFR)朝鮮半島担当シニア・フェロー)さんから「アメリカでは市民が動き出すのは当たり前の話だ」と指摘されました。加えて、「日本でもようやく対等に話ができる仲間を見つけた」と言われました。本当にアメリカがそういう仕組みになっているのか、ということについては検証する必要がありますが、少なくとも、自分たちの問題だと思って取り組んでいくことは、民主主義としての当然の行為なのだ、と言われたことについては謙虚に受け止めました。そういう動きこそが普通のことだと思うし、日本の社会にとって必要なことなのだと思っています。
目標達成に向けて、何ら責任を取ろうとしない日本の政治
アベノミクスの第一の矢である日銀の異次元の金融緩和から1年が経ち、株価が上がり、何となく経済の雰囲気が変わってきました。そこで、この1年の時点で、アベノミクスについてどのように評価すればいいのかということを、私たちが行っているインターネット中継番組「言論スタジオ」でエコノミストなどの専門家を集めて議論しました。
その議論の中でも出てきたのですが、今、日本の社会ではいろいろな人たちが、様々な政策を打ち出し取り組んでいます。しかし、誰もその政策の責任を取ろうとしているようには見えないという指摘がありました。有権者が選んだ政府の仕事を評価するときに、どのような視点で経済対策を考えればいいのか、皆さんと議論をしながら悩みました。
アベノミクスの経済的な目標は、2020年に向けていろいろな数値目標が書かれています。例えば、「2020年の実質成長率が2%、名目成長率が3%」や「2020年度のプライマリー赤字の黒字化」などです。後者については、日本政府は国際公約として約束しています。では、この目標がどうなっているのかと議論したところ、全く展望が見えないということでした。加えて、内閣府が出している試算でも、例え消費税が10%に引き上げられたとしても2020年のプライマリー赤字の黒字化は達成できません。つまり、内閣府のシミュレーションで目標達成が無理だと認めておきながら、国際公約としては残っており、マーケットは国際公約に基づいて達成可能かどうかを見守っているわけです。そうであるなら、政府は目標達成について、国民やマーケットに対して、しっかりと説明をしなければならない。それが行われてこそ本来の民主主義だと思うのですが、そういう説明もなされていません。
様々な問題が表面化してくる今こそ、日本の将来を見つめ直すことが必要に
話が脱線しますが、私は青森出身です。先日、新聞報道で2030年の青森では、65歳以上の高齢者の比率が5割近くになると発表されていました。日本は今、急激に高齢化社会が進んでいて、私も時々青森に帰りますが、お年寄りの方ばかりが目に付きます。一方で、海外から東京に戻ってくると、東京はビルの建設ラッシュが続いていて、世界の中でも引けを取らない都市だと感じます。しかし、世界との競争の中での東京というよりも、地方が衰退する中で、様々な人やモノが東京に集まってきて大都市を形成しているような感じがしています。では、このようなあり方でいいのでしょうか。
先ほども述べましたが、6年後の2020年の財政再建の目標達成がどうなっているのか、という問題に直面します。加えて、高齢化が進む中で社会保障の仕組みをどうしていけばいいのか、地方の人口減少などによる自治体の統合、一方で、東京もこれから急速な高齢化に伴い介護施設、老人ホームの需要が間に合わなくなるなど、様々な問題が表面化してきます。しかし、そういった問題を、誰が国民に伝えているのでしょうか。確かに、将来日本が直面する問題について議論するために、経済財政諮問会議の中に研究会が発足しました。しかし、今のところ内輪の研究会でしかありません。国民から見ると、様々な問題が表面化する中で、自分たちのこれからの生活や生き方などをどうしていくのか、ということを決めるための材料を提供してほしいわけです。それは、外交などについても同じだと思います。安倍さんがどのような考えを持っていても、私はいいと思いますが、隣国との間で軍事紛争が起こるかもしれないという状況の中で、なぜ紛争回避に向けて取り組まないのかと思うわけです。今、私たちは自分たちの意思で、日本の将来を考えなければいけないタイミングにきているのではないか、という気がしています。
民主主義を機能させるために必要なのは有権者・市民の当事者意識
さて、ドイツの新聞の記者と話をしながら思ったのですが、日本もドイツも自分たちが戦争を仕掛け、戦争に負けた。その中で民主化し、経済的な発展をしてきたという道をたどるわけですが、ドイツの記者から民主主義という問題を一緒に考えませんかと打診され、非常にうれしかった。ただ、その記者も言っていましたが、ドイツは第一次世界大戦時、ワイマール憲法の下、共和性をとるなど民主主義の仕組みは整っていた。当時もヒトラーは様々なことを言ってはいたが、当時、ヒトラーは変な人だから権力は握らないだろうと思っていたそうです。しかし、社会的な不満や不安が続き、ドイツは民主主義という仕組みが整っていたけど、ヒトラーが力を持ち、いつの間にかファシズムをつくり出していったという歴史があります。そこで、そういう過去の反省から、ファシズムをつくり出さないような仕組みなどはあるのですかと聞いてみました。国家転覆をさせないような様々な仕組みをつくってはいるが、ドイツを始め、ヨーロッパでも右的な政党が選挙の度に勝ち始めているとのことでした。
民主主義、デモクラシーというのは個人の権利や平等、個人の基本的人権を守るということに対応した唯一の仕組みだと思います。しかし、民主主義の仕組みをしっかりと機能させていくことは非常に難しい。制度が実現したからといって機能するものではなく、ドイツのようにファシズムが出てくることもあるわけです。民主主義の仕組みを機能させるためには、制度だけではなく、有権者側の継続的な不断のチャレンジが必要なのです。政治にお任せしたり、何とかなるだろうと思ってチャレンジを一度やめてしまうと、ドイツのようなことが起こってしまうかもしれない。だからこそ、有権者、市民である僕たちが2020年はどんな日本になっているのか、ということを自分で考え、直面している課題をどのようにして乗り越えていけばいいのか絶えずチャレンジをしていかなければいけない。そうしたチャレンジが政治に対して大きなプレッシャーとなり、政治がしっかりと仕事をしていくというサイクルをつくっていく。そうしなければ、気が付いてみると日本の将来が見えない状態になってしまう。すごく酷な挑戦で、耐久レースみたいな状況ですが、絶えずやっていかなければならないといけないと思うのです。一方で、チャレンジしている人たちがかっこいいと思えるような社会の雰囲気をつくっていく必要もあると思います。政治に任せておけば何とかしてくれるだろうとか、何でそんな真面目なことをやっているの、という社会の雰囲気ではダメなのです。そういったことを、今、非常に痛感しています。
冒頭の話に戻りますが、私たちの新しい民間外交の取り組みを「言論外交」と名付けました。つまり、「言論」とは責任ある意見のことです。「世論」のように人任せの雰囲気ではなくて、自分たちで課題解決の意思を持つことです。日本で高齢化がどんどん進み、地域の格差が進んでいく中で、そういった課題をどのように改善していけばいいのか、ということを絶えず考える。政治や政府が解決しなければいけないこと、ビジネスの世界の中で解決しなければいけないこともあるかもしれません。また、私たちみたいなNPOや地域社会で解決していかなければならないことかもしれません。どのような分野であれ、自分たちが意思をもって課題解決に向けて動き、そういった動きの中で「輿論」が形成され、その「輿論」に基づいて民主主義に伴う政治が運営され、外交が動いていく。そういったことが機能すれば、本当に強い民主主義が実現するなと思っています。
「民間対話」と「民主主義」の議論が今後の活動の両輪に
私は、5月の連休明けからアメリカに行き、今、話をしてきたようなことを、アメリカの人たちと議論してこようと思っています。オバマさんもアジアを歴訪するなど、アジアにおける問題に世界が注目している中で、日本の社会では政府だけではなくて、民間レベルでも戦争を起こさず、平和的で安定的な東アジアの環境づくりのために、大きな動きが始まっているということを、世界の人に伝えたいと思っています。
私たちは3月末に日本・中国・韓国の有識者に実施したアンケート結果を公表したのですが、3カ国の有識者が同じような認識を持っていました。それは、東アジアで軍事衝突が起こる可能性が高いということを半数近くの人が懸念していて、政府外交というのはなかなか機能しないし期待できないということ。一方で、民間の取り組みに期待するという人が8割もいるという結果でした。そういうことを、中国の有識者も思っているということに、非常に驚きました。アジア外交の問題は、極端な例に聞こえますが、政府間外交が動きづらく、政治家同士の発言が今の状況を悪化させているということだけが、世界の世論に伝わっているわけです。しかし、アジアで政治の動きだけではなく民間が有識者の認識を背景に動き始めたということを、世界はどう考えてくれるのか、私にとっては大きなチャレンジです。私は、こういうアジアでの動きを、間違いなく一つの形に持っていきたい。多国間の民間レベルの対話のメカニズムを2、3年以内にアジアに実現したいと思っています。
同時に、日本の民主主義と、日本の将来に向けて皆さんと一緒に議論していかなければ、取り返しのつかないことになるのではないか、という気がしてきています。
今、話してきたことの主役は、まさに私たち、有権者や市民の当事者意識なのです。つまり、今後の日本をどうしていきたいのか、ということは僕たち自身が考えていかなければいけないのです。『言論外交』の書籍の中にも書いていますので、ぜひ連休前に皆さんに考えていただければと思っております。
ということで、時間になりました。今日は、私が今考えていることを紹介させていただきました。『言論外交』という書籍は、アマゾンや大手書店で発売していますので、ぜひご一読いただきたいと思います。そして、いろいろな声を、この番組にもお寄せいただければと思います。今日はありがとうございました。
今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、番組が新たにはじまったことを受けて、改めて工藤氏・言論NPOが提唱する「言論外交」とはなにか?そして、言論外交の今後はどう展開されるのか?について議論しました。
(JFN系列「サードプレイス TUESDAY 工藤泰志 言論のNPO」で2014年5月6日に放送されました)