アメリカで感じた世界で起こっている変化とは何か

2014年5月30日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、5月中旬にアメリカを訪問した工藤氏が感じたことを議論します。工藤氏の訪問は、アメリカ外交問題評議会主催の年次総会の参加が目的。世界23カ国のシンクタンクのトップが集う会議で、様々な人と話をし感じたこととはなにか?アメリカ滞在で考えた、日本とアジア、そして民間外交について議論しました。

JFN系列「サードプレイス TUESDAY 工藤泰志 言論のNPO」で2014年6月3日に放送されました)

工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。

 さて、私はGWの直後にアメリカのニューヨークとワシントンを10日にわたって訪問し、アメリカの人たちといろいろな形で議論してきました。以前、この番組でも紹介しましたが、私たちが東アジアで取り組んでいる新しい民間外交のスタイルである「言論外交」についてアメリカのトップシンクタンクの人たち、政府関係者と本気で議論してきました。結論から言うと、思っていた以上に「言論外交」という私たちのアプローチが通用しました。それだけではなく、共感を得て、一緒にやらないか、という話がアメリカの人たちから相次ぎました。

 そこで今回は、いったい今、アメリカで何が起こっているのか、私たちの主張がアメリカの社会の中でなぜ共感されたのか。10日間のアメリカ訪問を通じて、我々が提案している新しい民間外交について、そしてその中で提案しているデモクラシーの問題について話をしてみたいと思っています。

 ということで、「アメリカで感じた世界で起こっている変化とは何か」と題して、お送りしたいと思います。


地政学的な対立としてだけでは片付けられないグローバルな課題

 さて、私が今回アメリカを訪問した理由は、言論NPOの営業に行ったわけではなく、アメリカで「FOREIGN AFFAIRS」を出版している外交問題評議会(CFR)というシンクタンクが主催する会議に参加するためです。日本にいるとあまり実感できなかったのですが、アメリカを訪れ、日本の大使館の人たちと話をすると、外交問題評議会は本当にすごい組織で、限定された人たちが参加するフォーラムが毎日行われていて、聴衆にはビルゲイツさんなど、トップクラスの人が参加しているとのことでした。そのシンクタンクが3年前に、世界の課題を解決するために動き出そうということで、世界23カ国のシンクタンクのトップに呼びかけて「カウンシル・オブ・カウンシルズ(CoC)」という会議を立ち上げました。今回は、その年次総会に出席するための訪米でした。その会議で様々なテーマについて議論をしていて、世界が変化し始めているということを感じました。

 CoC自体は23カ国のシンクタンクのトップの人たちと議論するという舞台なのですが、いよいよ本格的に動き出そうとしています。どういうことかというと、世界の課題解決に向けて発言し始め、その中で国際的な輿論という問題に関して、いろいろとPRをしていく、という動きがこれから始まります。このやり方は、言論NPOが提案している「言論外交」の取り組みとかなり似ています。つまり、政府間外交がなかなか動けない中で輿論を動かして改善していくという方法です。やはり、CoCも同じようなことを考えているのだということを実感しました。

 今回、CoCで議論されている大きな焦点はウクライナの問題でした。今回の会議でももちろん取り上げられましたし、メンバーでもあるイギリスのチャタムハウスはその会議が終わった後、ニューヨークでかなり大きなシンポジウムを企画するなど、世界のシンクタンクはウクライナ問題で競い合っていることを感じました。ただ、ウクライナ問題を考える議論の仕方が2通りあるのだということも感じました。

 1つは、地政学的な対立が地球上にはまだあり、その問題を克服しなければならない、という議論の立て方です。これは、冷戦が終わった後、グローバルな課題についてはもっと世界が協力し合っていこう、という流れに水を差しているという議論です。一方で、地球全体がグローバルに繋がることで、地政学的な対立だけでは課題を解決できない状況だという議論があります。例えば、ウクライナという問題も、経済的には非常に大変な局面にきていて、この前アメリカが中心となって、IMFで支援することを決めました。支援をしなければウクライナは持たないわけですが、ウクライナが破たんするとロシアが厳しくなり、ロシアが厳しくなるとイギリスが厳しくなる、といったようにみんな繋がっているのです。

 そうなってくると、単なる地政学的な対立だけではなくて、それを乗り越えるための様々なアプローチが必要だ、という議論もあり得るわけです。我々が考えているのは後者の方に近いと思います。ただ、地政学的な対立だけを持ち込んでいく人たちの流れは、アジアも同じだとなり、ロシア、中国、日本の対立を挙げる。一方で、これを外交の力で乗り越えようという議論もあるわけです。そういった考え方の国際的なせめぎ合いが始まっているという感じがしました。その中で、我々が取り組んでいる「言論外交」はまさに、輿論を変えていって対立を乗り越えようというものです。地政学的に対立して紛争を拡大していくのではなくて、輿論をベースにして紛争を回避したり、当該国が何とかして窮地を脱出するような形を、国際的な輿論を通じてプレシャーをかけていって流れをつくっていく。そういうあり方が実現できないか、ということが私たちのPRですが、意外にアメリカでは通用しました。


「デモクラシー」の実現につながる「言論外交」

 私はアメリカの人たちに「言論外交」のことを伝えました。すると、「工藤さん、それはデモクラシーの問題ですね」と、みなさんから言われました。まさにその通りだと思います。つまり、外交の問題ではなくて、輿論という問題は民主主義の原点であり、民主主義の中で、一人ひとりの国民がその問題をきちんと考えることで、課題解決の意思を持った輿論になり、それが政府の行動を大きく変え、国境を越えていくことで他国の国民とも繋がっていく。そういう大きな流れをつくり出したい、ということが僕たちの提案でした。しかし、彼らから見ると、それはデモクラシー自体の議論になるのです。デモクラシーという問題が外交という課題にぶつかっただけであって、それぞれの国の課題解決にぶつかれば民主主義的なアプローチによって国を変えていくということになる。今回のアメリカ訪問で、米連邦議会議上院議員のダニエル・K・イノウエさんの夫人で、米日カウンシル会長のアイリーン・ヒラノ・イノウエさんとも話をしました。やはり、日本でそういった動きが始まっていることに対して、非常に驚かれていましたし、他にも会った人たちも同じ反応でした。

 今回の訪米で、僕たちが取り組んでいる動きは、デモクラシーの問題だということを痛感しました。アメリカの人たちとも議論になりましたが、私たちは単に民主主義という政治の仕組みを守ろうという話ではありません。政治体制の仕組みは民主主義の他にもたくさんありますが、基本的人権、個人の尊厳や平等ということに見合っている政治的な仕組みは、民主主義の仕組みだと思います。但し、仕組みとして存在するだけで解決するのではなくて、それが機能しなければダメなのです。民主主義がしっかり機能することによって政治が一人ひとりの国民が考える方向に近づいていくわけです。そのためには、多くの国民が自分で考え議論する。そして、自分でも政治に関心を持ち、今ある課題に対して、自分の問題として考える。そうすることで、政治を動かしていって、国際的な課題解決に繋がっていくのだと思います。そうなってくると、主役は私たちであり、私たち自身の問題、ということになるわけです。


まだまだ対話の余地のある日米関係

 アメリカの人たちの中でも、アジアや日本に対する意識が違います。私たち日本はアメリカとは同盟関係ですが、つまり一般の「世論」ではなく、アメリカの有識者の考えが「輿論」だとすれば、その「輿論」がどういうものか見えてきません。オバマさんがどうだ、安倍さんだどうだ、という1つの動きとしては見てきますが、アメリカの人たちの中にも、いろいろな考え方があります。

 今回、私がいろいろな人たちと話をしたときに、今、日本では歴史認識の問題で中国や韓国との間に対立が生まれ、ナショナリズムの高まりが大きな問題となっている。この問題をアメリカはどう考えるのか、ということを聞いてみました。そうしたら、アメリカの中でも戦後の日本の民主主義のプロセスの問題、戦後の総括も含めて、もう一度議論した方がいいのではないか、という議論がありました。また、トルーマンの子孫の方が、フロリダで日本に原爆を落としたことについて議論しているので覘いてみたら、とアドバイスも受けました。そういった議論がアメリカの中で行われていることについて、私は知りませんでした。また、「FOREIGN AFFAIRS」でスタンフォード大学の先生たちが、アジアの歴史認識問題は、日本と中国、日本と韓国だけの問題にして、アメリカが傍観者でいるのはダメなのではないか、しっかりと考えるべきではないか、という議論も出ていました。

 日本とアメリカは同盟関係であり、非常に重要な関係だと思いますが、同時に、まだまだいろいろな形での対話を行っていく必要があると感じました。そういった提案をみなさんにしてみると、非常に面白いと言われました。また、言論NPOがやっている日中、日韓の共同世論調査の結果についてワシントンで議論してみないか、と提案を受けました。そういった対話を重ね、いい流れになってきたと感じています。

 私たちが日本で取り組んでいるのは、東アジアで紛争が起きないように、政府間外交だけではなくて、国民や市民が平和を唱え、その実現に努力していく。それが大きな輿論になっていくという取り組みです。そういったことが、国際社会で支持してもらうことが不可欠だと思っていますが、今回の訪米を通じて、間違いなくそういう基盤、可能性があるのだと実感しました。

 訪米の最後に、リンカーン記念館のリンカーン像の前で動画を撮りましたが、その像のと壁には有名なリンカーンの言葉、「人民の人民による人民のための政治(government of the people, by the people, for the people)」と書かれていました。やはり、デモクラシーについて、重い流れが存在しているアメリカは、デモクラシー的な手法をとろうとしている動きに関して寛容であり、理解を示してくれるのだ、ということを感じました。


世界各国の有識者ネットワークづくりに向けた第一歩

 今回、ニューヨークに4日間、ワシントンに5日間という長期にわたって滞在しました。ワシントンに非常に知的な人がたくさんいて、意見を競い合わせ、そういったことを受け入れるという素地があることを感じました。言論NPOにとっても、アメリカとの対話が大事になってくるな、と感じています。

 私は、ワシントンのみなさんに知的なネットワークを日本側ともっとつくりませんか、と提案しました。言論NPOは既に日本の有識者のネットワークを持っていますし、中国、韓国にもあります。これをASEANにも広げようと水面下で進めているのですが、そういったネットワークがアメリカでも何百人クラスでできれば、何か問題が起こった時に、そうした人たちの意見や声が表に出てくる。そういったプロセス、作業が非常に重要だと考えています。特に、東アジアでは様々な動きがナショナリスティックになってしまい、国民感情に影響してきています。しかし、そういった見方とは別に、地域の課題解決に向けた冷静な見方が存在しているのだ、ということを日本の社会の中で出てくるような仕組みをつくりたいと考えています。そういった仕組みづくりをアメリカでも取り組んできました。まだ最終的な答えは出ていませんが、その手応えは感じました。加えて、ワシントンで知識層を巻き込んだワークショップの開催の目途が付き始めてきたわけです。これから、アメリカとの対話がこれから始まりそうだ、という段階に来ました。

 さらに、アメリカで驚いたことがもう1つありました。CSISという巨大なシンクタンクを訪れたら、みなさん同じことを考えていたのです。アジアのことを考えるために、自分たちのシンクタンクに関係のある10カ国の人たちにアンケートを行い、その結果を公表するということでした。これには、日本の新聞社も協力していて、一面で取り上げるようです。それを聞いていて、有識者がいろいろな形でアジアのことを語ることが、シントンでは一つのバリューだと思われているということが分かりました。私たちは、そういった有識者のネットワークを大きく動かそうと思っています。加えて、有識者の声として発表するだけではなくて、ワークショップを行い、いろいろな形で多くの人たちに伝えて、課題解決に取り組んでいくことが必要ではないかとも考えています。


世界で起こっている変化は、「デモクラシーを機能させよう」という動き

 私は今回、アメリカに抹茶クッキーと『言論外交』という書籍の2つをプレゼントとしてアメリカに持っていきました。オバマさんが来日した際に、抹茶アイスを食べて美味しかったと言ったことが伝わっているらしく、意外にも、抹茶クッキーが受けました。それから、『言論外交』も受けました。なぜかというと、表紙に秘密がありました。書籍の表紙の写真は、第一次世界大戦後、ウッドロー・ウィルソン大統領がパリ講和会議の時に、オープンディプロマシー、つまり開かれた外交を行いたいと言ったのですが、実現できず、結局、秘密外交になってしまいました。そのネックになったのが「世論」でした。今回の『言論外交』という書籍には、市民や国民が、政治や外交というものに参加し、関心を持っていくという流れが外交や政治を強くしていくのだ、という思いを込めました。この思いを、アメリカのみなさんは理解してくれました。こうした民主主義へのアプローチが、非常に大事なのだということを実感し、日本に帰ってきました。そして、いよいよそうした思いを実現するために様々な取り組みを行っていこうと思っています。

 私たちは7月に韓国との対話を行い、9月に中国との対話を行います。今、日中、日韓間に様々な問題が出てきていますが、そういう問題を解決するためのチャレンジをこれから始めます。その議論にアメリカの人たちにも入ってもらい、マルチの対話もつくっていこうと考えています。こうした私たちの決意を記した『言論外交』という書籍は全国の書店で発売しています。ぜひ、一度手に取っていただき、読んでいただければ、その取り組みがまさにデモクラシーそのものだということを、感じていただけるのではないかと思っています。

 ということで、冒頭に言った「アメリカで感じた世界で起こっている変化とは何か」との問いかけの答えは、「デモクラシーの大事さ」でした。

 ということで、時間になりました。今日は、私がアメリカを訪れた10日間で感じたことを紹介させていただきました。ありがとうございました。