第2回日韓未来対話-公開セッション(前半)
日韓は対立を乗り越えることができるか
言論NPOと韓国のシンクタンクである東アジア研究院(EAI)は、日韓関係の問題を市民目線で考える「第2回日韓未来対話」を、7月18日ソウル市内のホテルにて開催しました。今回の対話には、日本側から小倉和夫元駐韓大使を座長に、政界関係者、経済人、学者、マスコミ関係者、文化人など13氏、韓国側からは河英善EAI理事長を座長に、政府関係者、経済人、メディア関係者、学者など14氏の計27氏がパネリストとして出席しました。
公開セッションではまず「日韓は対立を乗り越えることができるか」をテーマに前半が行われました。ソウルで民間の対話が公開で行われるのはあまり例がなく、会場につめかけた多くの一般からの参加者が見守る中、緊張した雰囲気の中で議論が始まりました。
北東アジアのパワーシフトと、日韓両国民に求められていること
まず、冒頭のあいさつで登壇した韓国側座長の河英善氏は、北東アジアでパワーシフトが生じ、日韓両国を取り巻く環境が激変していることを指摘。その大きな構造転換の中でも政府間外交が停滞し、身動きの取れない日韓関係があることを指摘し、この状況を打開するためにも民間が大きな役割を果たすべきで、この「日韓未来対話」をそのために第一歩とすべきだ、と参加者に呼びかけました。
続いて日本側座長の小倉和夫氏も、北東アジアの戦略環境について河氏と同様の認識を示した上で、「マスメディアや政府の責任を追及するのではなく、一人ひとりの市民が自分の課題として、日韓間に横たわる様々な問題を考えてほしい」と呼びかけ、公開セッションがスタートしました。
その後、韓国側の問題提起者として延世大学校国際学大学院院長の孫洌氏は、中国が主導しようとしている東アジアの新秩序づくりに対して、日韓両国はどう向かい合うべきなのか、と問題提起しました。この中で孫氏は、日韓両国による歩調の合わせた対応が必要との認識を示し、そのためには、「国内における冷静な世論の基盤」が必要と語りました。孫氏は、この点について歴史認識問題と、安全保障や経済など他の分野を切り離して考えることや、市民自身によってナショナリズムが過度なものにならないようにコントロールすることの重要性を指摘しました。
日本側の問題提起者は慶應義塾大学法学部教授の添谷芳秀氏が務めました。添谷氏は世論調査で多くの国民が関係改善の必要性を認識していることが示された点を挙げて、日韓関係は「もはや後戻りできない関係」であり、関係悪化は両国ともに大きな利益を損なうことになると述べました。
添谷氏は、日韓関係改善のための条件としては、「信頼」よりもまずその前段階である「共感」が必要であると主張し、この共感をいかにして回復させるべきかと問題提起し、そのための交流と対話の拡大の必要性を指摘しました。また自衛隊60周年式典がマスコミ報道をきっかけとした一部の韓国市民による抗議によって、韓国ロッテホテルに会場使用を拒否された事件を例として、「一部の動きでも全体に対する『拒否力』を生み出す。その拒否力を生み出さないように互いに『民主主義を管理』すべきだし、メディアの役割も重要になってくる」と主張しました。
認識のズレを乗り越えるためには
その後、議論に入りましたが、出席者は初めての公開セッションのためか、なかなか手が上がらず、日本側の発言者から口火を切ることになりました。
日本側の衆議院議員、逢沢一郎氏は、中国が外交、安全保障と経済の両面から新秩序をつくろうという野心を持っていると指摘。この状況の中で、自由主義や、民主主義を掲げ、経済ルールで共通している日韓両国が良好な関係を構築することは、アジア地域の平和と繁栄のためには不可欠であると述べました。また、逢沢氏は、歴史認識問題については、日本は1965年以降、アジア女性基金など様々な努力をしてきたが、韓国には認められていないことに困惑していると日本側の見方を紹介しつつ、「日本側、特に若い世代は歴史問題における知識や認識が欠落している。しっかり向き合う必要がある」と日本側の課題についても言及しました。
小倉氏は世論調査で、双方の国民感情が悪化していることに対する懸念を表明した上で、日本人は「未来を語ることで過去も克服できる」、韓国人は「過去を克服することで未来を語れる」というように両国民の間で様々な認識のズレがあることを指摘。さらに、日本人は自由で民主的で平和な社会をつくったことが、過去を克服した証だと考えているが、それはまだ十分ではないので、その努力の姿勢をこれからも韓国にしっかりと見せていくことが必要であると述べました。小倉氏はさらに、過去の克服の過程に日韓が協力できる余地があるので、その点を意識しながら官民対話を進めていくべきと主張しました。
これに対して、韓国側から元外交通商省長官の柳明桓氏が発言。「日本は軍国主義」との認識が韓国側で多かった世論調査結果を踏まえて、「日韓間には誤解が多すぎる」と述べ、さらに、この誤解が東アジアのパワーシフトに直面している日韓両国が、国際的連帯を進める上での大きな障害になっていると指摘しました。その上で、柳氏は、日韓両国政府が連携を進めやすいように、冷静な世論で後押しすることが必要であり、有識者がその世論喚起において大きな役割を果たすべきであると主張しました。
また、日本の元外務大臣の川口順子氏は、日韓両国は、2国間でどう協力するべきか、という議論はしてきたが、両国が世界や地域の秩序づくりに共に手を携えてどう参画していくべきか、という議論をしてこなかった、と指摘。両国がこれからどのような世界や地域をつくっていくのかという夢を共有することで過去を乗り越えられると述べ、そのためには市民一人一人が自分の課題として未来に向かい合うことの重要性を説きました。
ナショナリズムによる相互不信の連鎖から共通利益の拡大再生産へ
松本健一氏(麗澤大学経済学部教授)はナショナリズムに基づく対立は戦争につながるということを、歴史的事例を基に論証し、東アジアでもその危機があると警鐘を鳴らしました。松本氏は、日韓両国の文化的共通性を指摘した上で、「この共通性を掘り下げていくことで、ナショナリズムを解いていくことができる」との認識を示すとともに、この作業には長いスパンが必要となるため、市民レベルでも常設的なフォーラムをつくり、日常的に両国民間で共感と信頼の再構築をしていくことが必要であると主張しました。この松本氏の発言を受けて河英善氏は、「一国主義的なナショナリズムが、互いに国内で相手への不信を拡大再生産していく」と指摘。この悪循環を断ち切るためには対話が不可欠であり、「今度は共通利益を拡大再生産することにつなげていくべきである」と主張しました。河氏は、先日行われた米中戦略対話で145項目もの合意事項があったことに触れ、「米中にできて日韓にできないわけはない」と重ねて日本側に対話を呼びかけました。
最後に登壇した工藤は、日韓間に横たわる課題を解決していくためには、「輿論」が重要であると述べる一方で、「有識者は冷静に日韓関係を見ているが、まだ課題解決のために声をあげたり行動に出たりしているわけではない」と指摘。この日韓未来対話をそのための場として、そこから新しい輿論をつくっていくと意気込みを語り、公開対話の第1セッションは終了しました。