世論の中に芽生え始めた脱ナショナリスティックな傾向を引き出していくべき
聞き手:工藤泰志(「第3回日韓未来対話」日本側主催者)
[日本側パネリスト] 阪田恭代
(神田外語大学国際コミュニケーション学科 教授)
工藤:今回、日韓未来対話に初めて参加していただいたのですが、どのような感想をお持ちでしょうか。
阪田:今回はこのフォーラムに参加させていただき、ありがとうございました。これまで主に有識者だけの対話に参加してきたのですが、このフォーラムのように市民向けに議論をしようという対話は新鮮で、非常に有意義なフォーラムだったと思います。
工藤:私たちは中国とも対話をしていますが、そこでも同じ考え方でやっています。市民が自ら考えないと何も変わらないと思っているからです。こうした対話を韓国とは3年前にようやく始めましたが、今までなかなかうまく機能していませんでした。今回、「未来」、また「市民」という視点を打ち出したのですが、こういう対話が日韓間にあることは意味があるのでしょうか。
阪田:大変意味があると思います。両国とも民主主義国家である以上、特に、政治家はどうしても世論を見て動きます。政治家個人にも信念はありますが、ある意味で世論に制約されたり押されたりします。そうなると、世論の幅を広げていくためにも、政治と市民をつなげるこうした対話は非常に大事だと思います。
工藤:今回、私たちが対話をオープンにしているのは、まさに世論というものを非常に重要視しているからです。世論がナショナリスティックになってしまって、政府と市民が同じ側に立って議論し始めると、対立ばかりになってしまいます。そうではなくて、私たちの議論の立場は国境を越えなければいけないのですね。そういう意味で、「課題を共有する」ということからこの対話を設計したのですが、何か手応えは感じましたか。
阪田:未来に向けていろんな課題を出していったというのは成果ですが、どうしても安保や経済などハイレベルな話が多くなっていました。市民がもう少し直接参加できるような課題も、今後もっと出していければいいと思います。
工藤:そうですね。阪田先生の専門分野が、実は私たちの最大の問題意識なのです。つまり、北東アジアのパワーバランスが大きく変化する中で、中国に対する認識に温度差があり、そして、お互いの将来についても温度差がある状況の中で、平和のための環境づくりをしなければいけないという作業です。その一つの舞台づくり、基礎工事を市民ができるかというチャレンジをしているのですが、どう思われますか。
阪田:ポテンシャルはかなりありますが、開拓者的な精神でやっていかなければいけないと思います。日韓の民間レベルで世論を意識した対話は他にないので、こういう取り組みは大事なのではないかと思います。
工藤:そのように言っていただくと、非常に嬉しいです。私たちは、民間外交の中でも特にこのやり方を「言論外交」と名付けています。韓国では「言論」は「メディア」と同意語なので「メディア外交」になってしまうのですが、ここでの意味は「オピニオン」であり「健全な輿論」です。知的な人たちがきちんと議論し、それを聞いている市民も考えるというサイクルをつくることで、きちんとした世論を形成しながら政府間外交の環境を課題解決型に整えていくというアプローチをしていて、世界からも新しい民間外交のモデルとして注目されています。こういうアプローチは、北東アジアにとって必要なのでしょうか。
阪田:ますます必要だと思います。世論調査結果を見ていると、ナショナリスティックな傾向と同時に脱ナショナリスティックな傾向も出てきていると思いますので、それをいかにもっと引き出していくかが大事です。そういう意味で、このような対話は大事だと思います。歴史と未来についても、「未来志向のための歴史認識」というものがあると思いますので、歴史の論議を回避せずに取り組んでいかなければいけないと思います。
工藤:この対話は来年も再来年もやりますし、私たちの最終的なゴールは北東アジアの平和的な秩序の基礎固めを民間ベースで実現することです。これからもまたご協力いただければと思います。今日はお疲れ様でした。
- 申珏秀 (シン・ガクス)氏(韓国国立外交院国際法研究所所長、元駐日大使)
- 李淑鍾(東アジア研究院(EAI)院長))
- 李源宰(希望製作所ディレクター)
- 小松 浩(毎日新聞社論説委員長)
- 山本 和彦(森ビル特別顧問、森ビル都市企画代表取締役社長)
- 深川 由起子(早稲田大学政治経済学部国際政治経済学科 教授)
- 西野 純也(慶應義塾大学法学部 准教授)
- 阪田 恭代(神田外語大学国際コミュニケーション学科 教授)
- 添谷 芳秀(慶應義塾大学法学部教授)
- 吉岡 利代(ヒューマン・ライツ・ウォッチ シニア・プログラム・オフィサー)