- 申珏秀(韓国国立外交院国際法研究所所長、元駐日大使)
- 李淑鍾(東アジア研究院(EAI)院長))
- 李源宰(希望製作所ディレクター)
- 小松 浩(毎日新聞社論説委員長)
- 山本 和彦(森ビル特別顧問、森ビル都市企画代表取締役社長)
- 深川 由起子(早稲田大学政治経済学部国際政治経済学科 教授)
- 西野 純也(慶應義塾大学法学部 准教授)
- 阪田 恭代(神田外語大学国際コミュニケーション学科 教授)
- 添谷 芳秀(慶應義塾大学法学部教授)
- 吉岡 利代(ヒューマン・ライツ・ウォッチ シニア・プログラム・オフィサー)
両国が共有する価値を、アジアの次元で広げていくべき
聞き手:工藤泰志(「第3回日韓未来対話」日本側主催者)
[韓国側パネリスト] 申珏秀 (シン・ガクス)
(韓国国立外交院国際法研究所所長、元駐日大使)
工藤:申珏秀さんは今回3回目の参加となりますが、今年の日韓未来対話の意義をどのようにお考えでしょうか。
申珏秀:今年は特に韓日国交正常化50周年ですから、その意味で、韓国と日本との未来に向けての対話を本格化させる大事な機会になると思います。 韓国と日本との間で今一番問題なのは、対話と意思疎通が薄くなったことです。ですから、この対話には、韓国と日本の知識人たちがもっと対話の幅と深さを増進させていく役割があるのではないかと思います。
工藤:私もそう思います。今回の世論調査でも感じたことなのですが、確かに、本当は知識層も含めて、もっと積極的にアジアの平和や未来に向けてどのように両国で協力し合うのかとか、いろんな対話が必要なのです。しかし、そういう対話があまりなかったために、相手国への認識にすれ違いが生じてきているような傾向もあると感じています。どうお考えでしょうか。
申珏秀:ここ3年間、韓日関係が悪化している中で、両国国民の認識のずれがだんだんひどくなり、どちらかといえば過去を見ることが中心になっています。未来に向けてのいろんなビジョンづくりは、両国ともに行ってきた感じがしません。しかし、これからは、過去のことを整理しつつ、未来のことをもっとお互いに話し合って、協力できるものはだんだん実行に移す。それが大事だと思います。
工藤:確かに、「過去に対する未来」ではなくて、本当に未来を考えることが、日韓関係の重要性をどう考えるかということにもつながるので、必要だと思います。ただ、そこで一つだけ聞きたいのですが、韓国は日本よりも地理的に中国に近いので、日本の社会の中で「韓国は日本よりも中国との関係を重要視しているのではないか」という見方があります。どのように考えればよろしいのでしょうか。
申珏秀:確かに、最近、中国が浮上してくるにしたがって、韓国内で中国についての関心が高まっているのは事実です。しかし、だからといって、「韓国は中国に傾斜する」といった日本での認識は問題だと思います。というのは、中国は韓国に対して非常に積極的な政策を講じているのですが、日本は、関係が悪化してからあまり韓国に関心を払っていません。英語で言えば「チャイナ・プル」と「ジャパン・プッシュ」という正反対のことが起こって、本来韓日関係のあるべき姿になっていません。だから、韓国としては、中国と日本の両方との関係を良くして、均衡のとれた政策を取りたいのですが、韓日関係が悪化した今の状態でそれがなかなかできない。そういう事情があるということだけだと思います。
工藤:最後の質問になります。日本の中で、「韓国は同じ側に立つ仲間だ」という認識が、国民間で対立があったとしても非常に強いです。そのようなとらえ方でよろしいのでしょうか。
申珏秀:私はそう思っています。日本では最近、外務省のホームページや外交青書で韓国についての記述が変わりましたが、だからといって、韓国と日本がアジアでただ二つのOECDメンバーであることに変わりはありません。もちろん、韓国と日本が揉め合っていることはあるし、文化によって解釈の違いは少しあると思いますが、民主主義や市場経済、法の支配といった基本的な価値については共有していると思いますし、実際にそうだと思います。客観的に第三者が韓国と日本をどのように見ているか、韓国も日本もよく認識して、共有する価値をアジアの次元でどのように広げていくか、それにもっと注意を払うべきだと思います。
工藤:私たちもようやく「日韓未来対話」という名前の重要性を改めて感じました。未来に向かうための議論を深めていきますので、今後ともよろしくお願いします。今日は本当にありがとうございました。