スーパースターを待ち望むのはやめて、一人ひとりが課題解決のために立ち上がろう
宮本:歴史の評価は何のためにするのか、それは間違いなく未来を作るためにあるわけです。最近読んだ本に、アメリカで活躍している中国人のZheng Wangさんが書いた「Never Forget National Humiliation」というものがあります。そこで彼は「歴史」と「歴史の記憶」という言葉を使い分けている。「歴史」は事実として客観的に存在しているものですが、そこから特定の事実が選び取られて、そこに物語性が付け加わり、国民の「歴史の記憶」になっていく。それが非常に大きな影響力を持っている、ということです。
私たちは、歴史の大きな転換点にあっては、歴史の事実を選択し直さなければなりません。そして、これまでの歴史の物語から、新しい歴史の物語を作る必要があります。今年は戦後70年ですが、この70周年という節目を積極的に活かして、より良い未来をつくっていこうとするのであれば、そのような意識的な行動を私たちはしていくべきです。そのためには、日中韓や、アジアの人々と、どういうビジョンを追求するべきなのか、語り合い、この地域における方向性を作っていく。それを作ることで今、何をするべきか、どういうふうに対応するべきか、ということもおのずから決まってくる。そのようにして未来に進むために必要な新しい歴史を作る必要があると思います。
私たちは今、道なき道を進んでいます。あらゆることが試行錯誤で、世界中で新しい状況が出てきている。デモクラシーという言葉を一つとっても、アメリカでもイギリスでもデモクラシーで悪戦苦闘しています。あらゆる領域があらゆる挑戦を受けて、どのように対応するかを模索している。北東アジアの平和的な秩序も例外ではありません。こういう状況では、もうスーパースターの登場を待ち望むことはやめませんか。スーパースターはもしかしたらアドルフ・ヒトラーかもしれないわけです。そうではなくて、私たち自身が一生懸命に考え抜く。考え抜いた多くの人に課題解決に参加してもらうことで、この閉塞した状況を克服する、突破する道が見えてくるのだと思います。言論外交とはまさにそういう動きなのです。
工藤:確かに、私たちは日本やアジアの未来に対して、きちんとした議論を始める必要があると思います。そして、その建設的な議論が新しい未来と時代に対する基礎工事になる、その工事を今から始める、というのが私の決意です。この対話を財産にして明日からの本当の戦いにもっと強い気持ちで臨んでいきたいと思います。皆さん、ありがとうございました。