日中韓の3か国シンポジウムにおける 言論NPO工藤の発言の内容

2015年9月01日

 言論NPOの工藤です。今日は、日中韓三国の対話の舞台に招待していただきありがとうございます。

 日中韓の3国の政府外交は、今ようやく、改善に向かって動き始めました。が、それを安定的に動かすために、民間が主導して対話を行うことが不可欠な局面だと、私も考えております。

 私たちの言論NPOは、日本の非営利のシンクタンクで有り、この10年間、日本と中国との対話を一回も休むことなく行ってきました。韓国とも3年前に対話を開始しました。
 この時期は皆さんもご存じのように元も厳しい時期でしたが、最も大きな障害だったのが、国民間の世論の悪化でした。相手国に対する攻撃的な世論が大きくなり、政府外交自体が、動けなくなった。

 これを、私は、政府外交の「ジレンマ」と呼び、こうした状況を立て直すために、民間の役割が不可欠だと考えたのです。
 こうした、私たちの取り組みは、民間を主体とした新しい公共外交、ニューパブリックデプロマシーの、北東アジアにおける本格的な展開、と理解していただけたら、と思います。
 その際に私たちが重視したのは、悪化した北東アジアの世論をどう、改善していくのか、ということです。
 今日はこの点に絞って、少しお話ししたいと考えます。

 私たちは、現在、日本と中国、日本と韓国との間で毎年、世論調査を行っています。三国間の世論の基本的な構造はほとんど変わりません。
 相手国を直接訪問したり、知人がいる人はごくわずかであり、相手国に対する認識の大部分を間接情報、つまり、自国のメディア報道に大きく依存している。
 そのため、悪化する世論の改善は相手国との直接交流を増やし、それぞれの国民が多様な情報源を得ることが、基本となるべきです。

 しかし、ここで私たちが考えなくてはならないのが、メディアの役割です。

 相手国に対する国民の認識にメディアの報道が、大きな影響も持っているということは、メディアの責任がそれだけ重いという、ことです。

 こうした状況をどのように改善すべきか、ということなのです。
 この点で私は皆さんに二つの材料を提供します。

 まず、この間の加熱したメディア報道はそれぞれの国民の支持を得ているのか、ということです。
 私たちが行っている世論調査では、自国のメディ報道に対する評価は、3国間でかなり差が出ています。
 日中間のメディア報道を、「客観的で公平な報道」をだと思う中国の人は6割から7割と高いが、日本では2割程度に過ぎません。
 これに対して、日韓間の報道を「客観的で公平な報道」だと思うのは日本人、韓国人は共にわずかに2割台しかなく、特に韓国では51.7%と半数を超える国民が、韓国メディアの報道は「客観的で公平だとは思わない」と、回答しているのです。

 この結果を皆さんはどのようにお考えでしょうか。
 私たちが求める北東アジアにおける報道のあり方は何なのか、それは皆さんに考えていただきたい。

 もう一つの興味深いデーターがあります。この間の世論の悪化を、日本と中国との間では日本人の8割、中国人の7割が、「望ましくなく、改善する必要がある」と考えており、日本と韓国の間では、それぞれ約7割は、「望ましくなく、改善する必要がある」と考えている、ことです。

 つまり、日本と中国と韓国の3か国間では、国民の7割以上もが、この三国間の世論の悪化を、克服すべき課題として認識し、その改善を願っている。
 これを私は「静かな多数派」の声だと、考えています。
 だが、残念なことにこうした声は、なかなかメディアは注目されず、むしろ勇ましい声だけが、目立つ傾向にある。
 私たちはこうした多数派の声こそを大切にすべきで、そうした声に誠実に向かい合い、その実現に向けて努力する、のもジャーナリスト、メディアの責任だと、いうことをここではお申し上げおきたい。

 世論の問題でもう一つ、問題提起しておきたいことがあります。
 私たちは、毎年、この世論調査を三カ国間で行うときに、同時に同じ設問を有識者にもアンケートで聞いています。
 私たちが、有識者のアンケートを行うのは、有識者は、一般の世論とは異なり、メディア報道にあまり依存しておらず、多様な情報源を持っている、からです。
 だから、一般の世論と比べると、有識者の見方は冷静になる傾向があり、2010年ごろまでは、過熱する世論の動向に対して、有識者の意識は緩和剤としてクッション役として機能していました。

 ところが、その後、有識者層の意識にある変化が起こってきたのです。それは、相手国に対する認識が、一般世論よりもより厳しいものとなり始めた、のです。
 背景には中国の台頭があり、北東アジアのパワーバランスの変化があります。その中で、この北東アジアの未来に向けて不透明感が高まり、有識者の中でその問題点を深く認識し、相手国に厳しい姿勢を取る傾向も高まっていたのです。もちろん、加熱する、世論の影響もあるでしょう。
 これは、この地域の新しい将来に向けて、より積極的な議論が必要になってきた、ということを意味しています。

 私たち、言論NPOが手掛ける北東アジアでの様々な対話が、この数年、より未来志向になってきたのはそのためです。
 メディアは国境を越えられず、政府と一緒になって相手国に対する国民の感情をさらに過熱させる、傾向もあります。しかし、政府間の対話に先駆けてこの地域の平和的な環境づくりに取り組む、局面に私たちは今、立っている、と思うのです。

 つまり、私たちは国境を越えた、課題に真剣に向かい合わなくてはならない。

 私たち、言論NPOは、新しい公共外交として、「言論外交」を提唱しています。
 この言論、という言葉は、韓国においてはメディアと訳されるため、メディアの外交、という形で誤解もされましたが、私がここで提案したのは、世論に影響力を持つ外交という意味です。
 ここで私が使う、世論とは、感情的になりやすい国民間の雰囲気や感情的な声をいうのではなく、課題解決の意思を持つ、健全で建設的な声である。
 そうした世論を喚起するためには、多くの国民や市民も当事者として課題解決に向かい合わないとならない。
 そうした健全な世論を喚起しながら、北東アジアの平和的で安定的に発展できる環境をつくるために、私たちは新しい民間外交に取り組んでいるのです。

 この「言論外交」という言葉を、世に提起したのは、一昨年前のことである。

 日中関係は、尖閣諸島の問題で政府外交は停止しましたが、その最中に、私たちは、「不戦の誓い」を、北京で中国側と合意し、世界のそれを発信した、のです。
 それが、私たちの言論外交の挑戦の始まりでした。
 その「不戦の誓い」を北京で発表した、まさにその日に公表された中国の習近平主席の重要演説で指摘されたのが、「民間外交」の重要性なのです。
 そして、日本では、安倍首相が安倍談話や国連演説でこの不戦の誓いを、話しています。
 私は官邸に行き、私たちの不戦の誓いを安倍首相に説明したことがあります。
 私たちの合意を読んでいただいた、安倍さんは、これは素晴らしい、ありがとう、と一言言われたことを思い出します。
 私たち、言論NPOが、目指しているのは、北東アジアに平和的で安定的な秩序を作り上げることです。
 私たちが、取り組んでいるのは、そのための基礎工事なのです。
 今日の会議が、日中韓の3か国で、そのための歴史を動かす、そのスタートになることを希望して、私の発言を終わります。

⇒ 「第2回日中韓人文交流フォーラム」報告