制度や仕組みの違いを乗り越えて戦略的互恵に向けた建設的な対話を / 小林陽太郎氏の発言

2015年9月08日

第3回 北京-東京フォーラム 8月28日全体会議 挨拶

小林陽太郎(富士ゼロックス株式会社相談役最高顧問)
1933年ロンドン生まれ。56年慶應義塾大学経済学部卒業、58年ペンシルベニア大学ウォートンスクール修了、同年富士写真フィルムに入社。63年富士ゼロックスに転じ78年代表取締役社長、92年代表取締役会長、2006年4月相談役最高顧問に就任。社団法人経済同友会前代表幹事。三極委員会アジア太平洋委員会委員長、新日中友好21 世紀委員会日本側座長なども兼任。

※役職・肩書は2010年の発言当時のものです

 「北京-東京フォーラム」は、今回で3回目を迎えました。その果たした意義については、もう既に何人もの方がお話をされましたが、私ども関係者として、主催者の1人として、そのことを誇りに思うとともに、ご協力をいただいた多くの方に、心より御礼を申し上げたいと思います。

 第1回のフォーラムのテーマは「アジアの未来の構築」、そしてその中に「中日関係、明と暗」ということがございました。アンケート調査をベースにして、ちょうどまさに「政冷経熱」といわれている時期における、中国と日本両国間における一般世論あるいは有識者の意識が、どのようなところにあるのか、将来に向かって希望の持てる点、非常に大きな問題を含む点、それぞれについての事実認識というのが、まず第1回の大きなテーマであったと思います。

 第2回、東京で行われたフォーラムでは、「アジアの未来に向けて」という大きなテーマのもとで、新たな日中関係の確立ということで議論が行われました。そこでは、現在の安倍総理、当時の安倍官房長官が大変重要なスピーチをされた。このことは、ご参加の方々の記憶に新しいことかと思います。そこで総理の電撃的訪中が、総理就任直後に実現をいたしまして、戦略的互恵という方向が中日双方の首脳の間で合意されたわけです。

 今回の第3回は、まさにそれを受けて、「日中の戦略的互恵関係とアジアの未来」というのが基本テーマになっております。
 
 お気付きのように、第1回から共通して出てきているキーワードはアジアということであります。非常に限られた中国と日本という関係だけではなくて、常にアジアの現在、アジアの将来というものを視野に入れながら、両国のありかたを考えていくということです。

 これは大変に重要なことですし、ご紹介いただいたように私が日本側座長を務めております「新日中友好21世紀委員会」の基本的なテーマも、まさにこのことと一致いたします。中国と日本の関係を、長期的に、戦略的に、そして大局的に見据えて何をなすべきかということを両国政府に進言をする。まさにそれは、戦略的互恵ということと全く同じでありますし、当然、アジア、あるいはアジアだけでなく世界も視野に入れたうえでの両国の関係を、議論しなければいけないということになると思います。

 また、この第3回の一番新しいアンケート調査を見ておりますと、一般的に、昨年以来両国関係は非常によくなったということは事実ですが、一般国民のレベルでは、現状について、あるいは将来について、またお互いそれぞれに対しての信頼関係についても、われわれが目指そうとしている関係からは、まだまだほど遠いということが如実に反映されていると思います。また一方で、一般世論と有識者のそういった点での意識のギャップについても、われわれがやらなければいけないことが、たくさんあるように思います。

 今日はもちろん有識者の皆さんが主ですが、ここで議論されることは、当然両国の一般国民の皆さんに反映されて、最終的に一般国民の皆さんのレベルで、その成果というものが具体的に評価され、またできれば、それが両国およびアジアの前向きの評価に向かっていかないと意味がないわけです。

 ひとつご紹介したいことがあります。新日中友好21世紀委員会では、1年ほど前の会合で、具体的に中国が将来どういう国になりたいのか、日本はどういう国になりたいのかということで、いろいろ議論をしましたときに、私が尊敬しております、中国側の座長を務めておられる鄭必堅さんから、中国が目指す将来はこういうことです、というお話がありました。それは、「平和の大国」であるということがひとつ。「文明の大国」であるということが2つ目。そして、「親しまれる大国」であるということが3つ目。平和、文明、親しまれる――これが、中国が目指している将来のビジョンなのです、と。

 そのお話を伺いながら、私が考えたことは、日本は特に戦後、平和憲法ということで、いろいろな議論はありますが、平和を大切にしながら戦後の60余年を生き抜いてきた。また世界の他の国でも、日本のありかたを、いろいろな形で手本にしようと考えていただいているところもあります。我が国も誇りにする文明をもっておりますし、その文明については、中国からも非常に多くのものを、過去長い間に学んでまいりました。

 「親しまれる」ということについては、かつてあるヨーロッパの大国の某首相から、非常に厳しい日本に対する忠告を受けました。彼は、日本は経済的に大きな発展を遂げたが、アジアを見ても、日本には友人がいないのではないかと言ったのです。そのことについて、日本はどう考えているのか。親しまれる国になるというのはどういうことなのか、これは日本にとっても重要なテーマであります。

 そういうことを考えていきますと、中国も日本も、長い目で見て、目指すところに違いはないのではないかと思います。ただ問題は、国の歴史、発展形態、現状に照らしてその将来の理念・ビジョンを実現するための制度や仕組み、これは当然違います。違うのが当たり前です。その制度や仕組みの違いを取り上げて、それが即、理念が違う、価値観が違う、そういう論理の飛躍をするということは非常に危険でありますし、慎まなければいけない。これは、戦略的互恵とは、まさに対極関係にある考え方だと思います。

 残念ながら、日本の中には一部、そういう考え方で日中関係を見ている人たちもいます。われわれは、その点については冷静に、特にアンケートの面で出てくる世論や有識者の見方、そういった面での事実を冷静冷徹に見極めながら、お互い率直に、遠慮をしない、しかし相手を立てて建設的な対話を続けていく。やはりこのことを、これからきちんと進めていくことが、結果的にまさに戦略的な互恵関係に向かっての土台というものを、ひとつひとつ強めていくことになるのだと思います。

 第3回のフォーラムが、そういう点で、第1回、第2回に負けない、あるいはそれ以上の大きな成果を挙げることを、皆さんとご一緒に期待をいたしまして、私の挨拶にいたします。ありがとうございました。