第4回 東京‐北京フォーラム 9月16日全体会議 挨拶
小林陽太郎(新日中友好21世紀委員会日本側座長)
1956年慶應義塾大学経済学部卒業。58年ペンシルベニア大学ウォートンスクール修了、同年富士写真フイルム入社。その後富士ゼロックスに転じ、78年代表取締役社長、92年代表取締役会長を経て2006年より現職。ソニー取締役、日本電信電話取締役、国際大学理事長、経済同友会終身幹事、新日中友好21世紀委員会日本側座長などを務める。
非常に大きくふろしきを広げるようでありますけれども、アジアの未来、あるいは新しい日中関係、ともに現在急速に動きつつある21世紀のグローバル時代と不可分の関係にあります。あえて21世紀のグローバル時代を特徴づけるとすれば、1つは、既に多くの識者が指摘をしております圧倒的なアメリカ優位の変化ということであります。依然としてアメリカが1つの国として非常に大きな政治力、経済力、軍事力、またソフトパワーの持ち主であることはだれも否定をいたしませんけれども、20世紀の後半に比べれば相対的にその力が下がってきている。それは、アメリカの力が絶対的に下がったということよりは、実は中国、インドを含め新しい国々の力がこのところ急速に伸びてきているということであります。
シンガポールのリー・クアンユー前シニア・ミニスターは、米国と中国の関係が21世紀の少なくとも前半の世界の秩序に絡んで決定的な役割を果たすことになるだろうと言っておられます。私の限られた経験からいきますと、もちろん中国、インド、その他の国々の将来の可能性についての世界の期待は大変に大きなものがあります。今までの長い歴史を振り返っても、1つの国が永遠に発展を続けるということはないわけでありますから、どこかでアメリカ主導の相対的な勢いが変わるのは当たり前であります。また、アジアにおいて圧倒的な存在感と将来に向けての可能性を示している日本が、これもいつまでも同じポジションを占めるということはあり得ない。新しいプレーヤーが出現することは世界にとって好ましいことではありますが、しかし、我々人間のさがとして、ナンバーワンからナンバーツーに、あるいはナンバースリーに下がることについては、いろいろ複雑な心境が出てくる。これもやむを得ぬことかと思います。
先ほど挙げましたリー・クアンユー氏は、中国と米国が決定的な役割を果たすということを強く言われると同時に、しかし、その決定的役割がアジアにとっても、また世界にとってもいい形で果たされるために、実は日本が非常に重要な役割を果たさなければいけないということに触れておられます。
先週、私はイタリーのあるところで国際会議がございました。話題の中心は、もちろん世界の今の経済問題、サブプライム以降の経済の見通し等々でありますが、あわせて、やはり中国、インド、特に将来については、今世界経済が非常に難しい中で、一口で言えば中国の国内消費がどのような傾向を示すか、これが最大のキーだと言い切る人までおられました。しかし、一方で、ちょうど福田総理が退任を表明された直後でもありましたけれども、やはり日本の民主主義がどのような形でこれから発展していくのか、また、これは重要なことでありますが、日本の経済が中国を初めアジアの国々とどのような形で連携しながら、長い非常に強力な日米関係をこれからどのような新しい形で発展させながら、まさに新しい日本の役割を果たそうとしているのか。これは決してパッシングとかナッシングではなくて、非常に真剣な関心を持っている方が多いというのが私の印象であります。
明らかに日本は変わらなければいけない。中国との関係、アジアの国々との関係、さらには欧米の国々との新しい関係を我々自身で模索しながらつくっていく。その新しい道については非常に大きな注目が依然としてあるというのが私の率直な感じであります。
中国と日本の間について大切な役割を果たしております多くの友好団体があります中で、このフォーラムの非常に大きな特徴は、中国側がチャイナデイリー、日本側が言論NPO、それぞれ非常に多くの人たち、あえて言いますとマス、国民、民衆、人民、こういった人たちの情報とか思いとかをベースにした組織が主催者になっている。しかも、この会合の直前には必ず大規模な世論調査をして、それをベースに議論する。これは非常に大きな特徴でありますし、グローバル時代のもう1つの特徴は、まさにインターネットに代表されるIT化が急速に進んで、治める側と治められる側、あるいは持つ人と持たない人の間の情報ギャップは量的にも質的にも非常に縮まりました。場合によると逆転をしているようなところもあります。そういうグローバル時代の1つの新しい潮流の中で、いわゆる世論というものを吟味しながら議論する場として、このフォーラムほど極めて適性の高い内容の濃いものはないと私どもは自負しております。
特に今回は、今までの調査と違って、必ずしも日中関係について一方的な解釈を許さないかなり難しい調査結果がアンケートから出てきております。それぞれの分科会の中で、日中両国の将来について、アジアの将来について、高い志と非常に高い専門性を持った方々が集まって、ぜひこの辺は率直に胸を開いて、なぜこういう結果になったのか、何がその背後にあるのか、この辺についてひとつ深い議論をしていただきたい。その中からまた、まさに新しい日中関係のあり方について、展開の仕方について、よりレベルの高い理解と展望を生み出していただくことを強く期待しております。