言論NPOフォーラム「アメリカ人の日本観、アジア観」報告 ~アメリカ人と日本人の相手国に対する認識が明らかに~

2015年9月19日

第1部:「アメリカ人は日本人、日本、アジアをどう見ているのか」

 工藤:皆さん、こんにちは。今日は、お集まりいただき、ありがとうございました。

 今日はアメリカ人が、日本という国、そしてアジアをどう考えているのか。これを議論してみたいと思っています。では、今回このような議論をなぜ行ったのか。日本とアメリカは同盟国であり、自由と民主主義という同じ価値観を共有する国でありながら、国民レベルでは果たして、お互いのことを知っているのだろうか。相互理解というものが十分なのだろうか、という疑問があったからです。


アジアの中で日米が果たす役割と、国民目線での日米協力をどう進めていくか

 10年前に私が中国で世論調査を始めた時、初回の世論調査結果をみて衝撃を受けたことは、中国の国民の6割を超す人が「日本は軍国主義で報道の自由もない」と考えているということでした。その時、国民間の相互理解、基本的な認識をいろいろな形で深めていかないと、両国関係は十分に発展していかないのだ、ということを痛感しました。

 アメリカとの関係では、安全保障に関する議論はあるのですが、私たち言論NPOが行っている市民社会の動きや、デモクラシーの動きについて、アメリカの中でどのような変化があり、課題があるのか。そして、そうした変化や課題を、日本とアメリカの人たちが十分に議論しているということをあまり聞いたことがありません。だからこそ、私たち日本とアメリカは、多面的な交流を行い、それを軸にしてアジアの未来に関して日本とアメリカが協力していくようなサイクルを作れないかと考えています。

 今日はそうした議論を行っていく上で、最適なゲストをお招きしました。アメリカを代表する調査機関で、世界50カ国以上で毎年、世論調査を行っているブルース・ストークスさんです。私もホームページを見て驚いたのですが、世界を網羅する形で世論調査を実施しています。そのブルース・ストークスさんと日本と中国、韓国で世論調査を毎年行っている言論NPOが対話をすることで、アジアの世論ということに関して、面白い議論ができるのではないかと考えたわけです。

 そこで、まず、ブルース・ストークスさんの意見を覗い、私と対話をした後に、言論NPOのメンバーであるグレン・S・フクシマさん(米国先端政策研究所上級研究員)と、藤崎一郎さん(上智大学国際関係研究所代表、前駐米大使)にも加わっていただき、今後、アジアの中で日米がどのような役割を果たしていき、国民の目線で日米間の協力をどのように進めていけばいいか、ということに議論を発展させていきたいと思います。


確かな情報に基づいた政策決定への貢献と、
国民の意見に耳を傾けることの重要性

 ブルース・ストークス(以下ストークス):今回は招待いただきましてありがとうございました。今日は、私たちが行った最近の調査結果を発表させていただき、議論ができればと思っています。今回の調査は、アメリカ人の日本あるいは世界に対する視点を明らかにしたものです。工藤さんがおっしゃったように、国民の意見を基に、両国間でもっと協力していくということは、私も非常に重要なことだと同意します。我々ピューリサーチセンターはワシントンを拠点していますが、創設者であるミスター・ピューは、ふたつのことに注力していました。1つは確かな情報に基づいた政策決定への貢献、もう1つが国民の意見を捉えそれに耳を傾けるということです。彼はこうした信念を持って調査を始めました。政策に国民の意見を反映させるというのが彼の考えでありました。そうした考えに立って今回の世論調査も実施しています。

 さて、今回の世論調査の対象は有識者ではなく、一般の方々です。情報をしっかりと得た上での意見ではありません。むしろ偏見や感情的なものもあります。しかし、民主主義はさまざまな意見を持つ自由を認めています。感情的な意見であっても、それがどのようなものかということを理解することは重要です。そこで今日は、アメリカ人の日本についての世論調査結果について、議論ができればと思います。

 なお、私たちはさまざまな世論調査を行っています。もし他の世論調査の結果に関心がある方がいるようでしたら、Web上で無料公開しているのでそちらもご覧ください。


日本に対して好意的なイメージを持っているアメリカ人

 今回の調査でアメリカ人に「同盟国として日本人を信頼できるか」という質問をしたところ、3分の2が「信頼できる」と回答しています。また「日本人に対してよく思っているか、悪く思っているか」という質問には74%の人が「よく思っている」と回答しています。全体としてアメリカ人の対日イメージはよいと言えます。

 一方で中国人に対する信頼度については、日本人よりもアメリカ人のほうが中国人を信頼している人々は多いのですが、それでも低いとい言える水準です。この傾向は米日双方に言えます。これは記録的なことで、ここ3年間で50%以上の人が、不信感を持つに至っています。

 続いて、「軍事的役割を今後アジアで日本が積極的に果たすべきか」という質問には、47%のアメリカ人が「果たすべきだ」と回答しています。アフガニスタン、イラクと2つの戦争で疲弊した国民が多いこともあり、もっと貢献してほしいという意見が多いだろうと予測していたのですが、47%にとどまった結果に、非常に驚きました。

 世代・男女差などに関しては、男性の方が女性より対日イメージはいいという結果です。また白人の方が非白人よりも日本はよいという意見を持っています。若い人々もいいイメージを持っていますが、若者は全体として他国にいいイメージを持っています。

 また、アメリカは二大政党制で、支持者間で意見が異なることが普通です。しかし、日本に対する信頼は民主党(66%)・共和党(69%)ともほぼ共通した数値になっています。両党の支持者間でなんらかの合意が得られることは非常に珍しいことだと言えます。

 こうした結果について、一般の人々はステレオタイプを持っているという仮説がよく聞かれます。必ずしも事実でなくともイメージが根付いてしまっていると。「ステレオタイプ」と聞くと、英語ではいい意味ではなく偏見・差別観を持っているという感じなのですが、アメリカ人はいいイメージを持っています。ほとんどの人が勤勉だと答えています。正直・発明的であるという答えも多く見受けられました。
 

「第二次世界大戦」と「津波」の間の歴史に対する認識は薄い

 「日本という言葉を聞いて何を最初に思い浮かべるか」という質問では、「寿司」という答えが最多となりました。みなさん笑ってしまうかもしれません。しかし私が小さいころは誰もお寿司なんて知りませんでした。生の魚を食べること自体、私が小さなころは「変なこと」として受けとめられていました。今、アメリカの普通の食品店では、お寿司が売られています。このあたりにも日本のソフトパワーの力強さが感じられます。

 また、51%が「第二次世界大戦」と言っているのも興味深い点です。この調査を行った理由のひとつとして、米国内で日本に対する第二次世界大戦の記憶というものが、どれだけ強いのかを知りたかった、ということがあります。興味深いのは、大戦後70年経っているわけですが、70年を振り返ってどうですかと聞くと「第二次世界大戦」と「(東日本大震災時の)津波」という言葉しか出てこない。それは、つまり、「第二次世界大戦」と「津波」の間の歴史に注意が払われていないということなのです。

 私は「貿易戦争」ということが思いつきますが、アメリカの一般の方の間では忘れられてしまっているようです。1989年の調査では、アメリカ人63%が「日本はフェアトレーダーではない」と答えていましたが、今回の調査では55%のアメリカ人が日本はフェアな相手だと回答しています。

 こうした認識は中国の台頭によるものだと私は考えています。貿易赤字で日本が占める割合は下がり、中国は上がっています。アメリカ人はこうしてことを非常に心配している。つまり、アメリカ人の間で敵というか悪役は1人しかおらず、今は中国で、昔は日本だったということです。


世論調査の矛盾したメッセージをどのように読み解くかが重要

 アメリカ人に対して「中国が台頭してくる中で日本の重要性は上がったのか、下がったのか」と質問をすると、「中国の台頭によって日本との関係性が重要になった」と60%の人が回答しています。一般の人たちの間では、中国という課題があるからこそ同盟国と近しい関係になる必要がある、と考えているわけです。その結果、TPPの締結を実現しようという機運があり、中国というより大きな課題があるため、日本とは仲良くしたいと考えているのです。

 しかしこれを過剰評価すべきではありません。「中国がアメリカに追いついてスーパーパワーになると思うか」という質問には過半数の人が「将来的にはそうなるだろう」と答えていますし、「日本と中国、どちらとより経済関係を強化すればよいのか」という質問には、「中国」と答える人の方が多く、非常に現実的な見方もしているわけです。将来の経済大国であるから、中国との経済関係を犠牲にしたくないと考えています。一方で貿易赤字や雇用を中国にもっていかれることを懸念してもいるのです。一般人の世論調査で難しい点として、矛盾した意見が出てくることが出てきますが、そこを無視してはなりません。人間は矛盾した感情を抱えた生き物です。アメリカ人は日本と仲良くしたい一方で、中国と仲良くしたいとも考えている。政策決定者はこの矛盾したメッセージに対応しなければなりません。だからこそ、こうした矛盾したメッセージをいかに解釈するかが大事なのです。


世論の方が、議会よりも意見が分かれている現状

 日本の軍事的役割についてもアメリカ人に質問したところ、意見が分かれています。ドイツについても聞いています。「ドイツがヨーロッパで積極的に軍事的役割を果たすべきか」との問いには、アメリカ人の53%という比較的少ない数の人が「果たすべきだ」と回答しています。アメリカばかりが負担をしていると米国人は嘆くかもしれませんが、こうした具体的な質問のかたちになると「それはよくわからない」と返ってくるわけです。ここでも矛盾があります。

 アメリカが防衛力をアジアに注力することに関して、58%の日本人と71%のフィリピン人が「いいアイディアだ」と答えています。韓国は少し低く50%の人しか賛成していません。全体としては、米国のアジア回帰は歓迎されていると言っていいと思います。しかしアメリカでは47%の人しか支持しておらず、支持率は低いのです。

 こうした話からぜひご理解いただきたいのは、議会やワシントンの討論というものは意見が分かれていると思うかもしれませんが、世論の方が議会よりも意見が分かれているということです。非常に興味深いのは、「日本が中国と衝突したら助けるべきか」と尋ねると、共和党支持者の3分の2が「賛成」と答えるのに対して、民主党支持者は半分しか賛成しない。「より多くの軍事的資源をアジアに注入することについてどう思うか」との問いには、58%の共和党支持者が「いいと思う」と回答していますが、民主党支持者は42%しか「いい」と思っていない。しかし、この政策は民主党の大統領が提唱しているものです。TPPは全体では49%の支持を集めていますが、共和党支持者では51%、民主党支持者では43%という数値です。民主党支持者は今の貿易体制をよいと考えているということでしょう。ここでも、議会の討論が必ずしも民意を反映しているのではないということがわかります。こうした調査の全ての結果はウェブサイトにありますので、興味のある方は是非ご覧ください。


現在進行形の課題やトピックスに関する、アメリカ人の日本に対する認識とは

工藤:ありがとうございました。私もこの調査を分析して、少なくとも日本と中国、日本と韓国と比べると、圧倒的にアメリカとの交流の度合いが成熟していることを感じました。例えば、日本と聞いて、42人の人が一番初めに思い浮かべることは「友達の姿」と答え、98人の人が「寿司」を思い浮かべるなど、生活レベルで日本のことを考える人たちが存在しているわけです。

 一方、韓国国民が、日本と聞いて一番初めに思い浮かべるものは「竹島」で、2番目は「従軍慰安婦」という結果に、中国国民が日本と聞いて一番初めに思い浮かべるものは「釣魚島(尖閣諸島)」で、二番目が「南京大虐殺」とうい結果になります。つまり、中国や韓国では、今ある政治的な対立や歴史認識が、日本に対する印象の中に必ず出てしまうわけです。

 では、アメリカと日本の間で、トピック的なことに関する認識は出てこないのでしょうか。例えば、日本では昨日まで安保法制の議論が国会でなされていました。そうした中で、安倍さんの意見が世界でどのように伝わっているのか。また、米軍基地の問題、TPPの問題などをアメリカ人はどのように考えているのか。そうした視点でこの調査結果を見てみると、日本と聞いて「同盟国」と思い浮かべる人は10人と、多くはありません。アメリカの中で、日本に関して今あるトピックスや課題はあまり知られていないのか、それともそのような設問がないからなのか。また、そうした傾向は時系列的に見てもかわらないのか、いかがでしょうか。

ストークス:それを裏付けるデータはありませんが、アメリカ人は日米問題をそこまで注視していないのだと思います。東京にアメリカからいろいろな新聞社から特派員が来ていますが、日本についてのニュースは減ってきていると思います。一方で中国に対する報道は増えています。ですから、一般の人たちが日本のことについて注視しているとはいえません。なぜなら、一般の人は普段は仕事があり忙しく、毎日、日本のことを勉強し、新聞の細かいところを探しているような人はなかなかいないのです。読み取ろうと頑張っている人でも、中国の問題、テロの問題、それらに加えてロシアがウクライナへ侵攻したという記事を読むと、日本についての記事に注意するということは現実的に難しいと思います。

 それから、先程も述べましたが、一般のアメリカ人は日本のことを脅威だと思っていません。1980年代であれば、「アメリカ人はこれから日本企業の下で働かなければならないのではないか」という脅威があり、日本人が競争相手であるという恐怖がありました。そういった恐怖心に対して、一般の人は関心を示すわけです。ただ、その後、日本経済自体が失速し、デフレに陥り、失われた20年といった問題があった一方で、中国が台頭してきたこともあり、日本に注目しきれてないといわざるを得ないのだと思います。

工藤:続いては、アメリカの人たちが日本人のことについてどのように考えているのか、といったことについてお聞きしたいと思います。

 ピューリサーチの調査では、日本人は「勤勉だ」との回答が94%、「正直だ」との回答は71%、「攻撃的ではない」が64%、つまり平和的だということですね。それから、「創造的だ」との回答が75%ありました。これらを繋ぎ合わせると、アメリカ人の描く日本人は、「勤勉で創造的で、正直で平和的で、利他主義で」とあまりにも褒め殺しのような日本人像ができあがります。本当にアメリカの人たちは、日本人のことをそのように思い描いているのでしょうか。


今回の調査結果も、表面的な印象であるということを忘れてはいけない

ストークス:サービスではなく、好意的な印象を持っているということは言えると思います。1980年代に調査してないのでわかりませんが、その時代に調査をしていれば、おそらく今回のような結果にはならなかったと思います。当時は、日本人が現実にどうかというより、恐怖心がまさっていたのだと思います。ステレオタイプを伴った意見ですから、どういう風に情報を得て、このような意見を持つに至ったかは不明なわけです。そもそも、日本人に会ったことのないアメリカ人はたくさんいるわけです。一方で、間接的に日本人はハードワーカーでアグレッシブ、勤勉と聞いて、日本を解釈している人が多いと思います。ここにいる皆さんの方がアメリカ人のことをよっぽど知っていると思います。「よっぽど」というのは、平均的なアメリカ人が持っている日本についての知識より、皆さんのアメリカ人に対する知識の方が多いということです。

 悪い意味でのステレオタイプも十分にあり得ますが、いい意味でのステレオタイプは満足して喜んでいただいてもいいのではないかと思います。ただ、過剰解釈はすべきではないと思いますし、今回の調査も表面的な印象である、ということを忘れてはいけません。そうした解釈をし過ぎてしまうと、アメリカ人は日本人のことが大好きなのだから、何をしても大丈夫だ、と思ってしまいがちですが、そういうわけではないのです。いい意味のステレオタイプだとしても、悪い意味でのステレオタイプに変化し得る、ということは肝に銘じるべきだと思います。


日本の有識者が思い描くアメリカ人像

工藤:今回の対話に先駆けて、日本人がアメリカ人をどうみているのか、ということで有識者のアンケート調査を3日間で行いました。そして、日本人の有識者が中国人と韓国人をどのようにみているのか、と比較してみると、日本の有識者が思い描くアメリカ人像が見えてきました。

 まず、日本の有識者の5割を超える人が、「アメリカ人が優しいのか、思いやりがあるのかよくわからない」と回答しています。次に、49.8%の日本の有識者がアメリカ人は「勤勉だ」と答えているものの、アメリカ人よりも韓国人の方が「勤勉だ」と考えています。但し、中国人よりもアメリカ人の方が「勤勉だ」と見ています。こうした思われ方は納得できるのでしょうか。それから、日本の有識者の半数近くがアメリカ人を「好戦的」だと見ていて、中国人に対する見方よりも強いという結果になりました。

 一方で、日本の有識者はアメリカ人を「信用できる」、「誠実だ」と思っている人が7割以上となりました。一方、中国人に対して「信頼できる」との回答は16%しかいないので、圧倒的にアメリカ人を信用しているし、誠実だと考えています。特に、日本の有識者の9割がアメリカ人は「創造的だ」と思っています。一方、中国人と韓国人に対しては、半数を超える人たちが「模倣的だ」と回答しています。

 ただ、日本人の有識者が、アメリカ人と中国人に対して抱いている印象で、同じような傾向も読み取ることができました。それは、アメリカ人も中国人も「個人主義的だ」と思っている人が半数ぐらい存在していました。こうした結果に関して、ブルース・ストークスさんは、どのようにお考えですか。


世論調査と有識者調査を比較することの重要性

ストークス:信頼してもらえるのはうれしいですね。信頼関係がないと同盟国としては機能しないわけですから、アメリカの一般人、日本の有識者が相手を信頼しているというのは、リレーションシップとしては大きな一歩です。1980年代に日本人に会った時に、こんなに勤勉な人はいないなと思いました。韓国も勤勉だと思いますが、中国はあまり行ったことないので個人的コメントはすべき立場にはありません。

 日本の有識者がアメリカ人を勤勉だと思っているのは意外でした。アメリカの場合、自分は勤勉だけど、あなたは勤勉じゃないという意見が多いので、アメリカ人に「アメリカ人は勤勉かどうか」を尋ねると、どのような結果になるか興味はあります。

 それから、アメリカ人を「創造的だ」と感じているという指摘は、科学的領域だけではなく、最新のクリエイティブなアート、カルチャーというのがアメリカから発信されているのが大きいのではないか、と思います。

 アメリカ人の日本に対する意見は好ましい意見が多くありましたが、一方で、一般の人と有識者の間の意見の違いもあると思います。アメリカ人の有識者が日本に対して、そして中国に対してどう思っているかという調査も実施していますが、結果は全く違います。有識者調査では、中国の軍事サイバー関連を一番気にしています。一般の人は経済というのが一番の懸念ポイントだと考えており、有識者と一般の人の意見があまりにも乖離しています。しかし、一般のアメリカ人も中国からのサイバー攻撃への恐怖が非常に高まってきています。そこには、最近のハッキング事件などが中国主導で行われているのではないか、という情報が多く出ているからだと思います。ピューリサーチとしては、ここまで一般の人の意識が変わったということに驚きました。5年前であれば、中国の軍事サイバーのことについて、一般の人はそこまで気にしていなかった。そういった意味でも、言論NPOの有識者と一般の人の比較は非常に重要だと思います。

 民主主義であれば、一般の人と有識者の意見もある程度同じになると想定しがちです。しかし、皆さんが一生懸命勉強しているときは一般の人はゴルフなどで、楽しんでいる人たちも多いわけです。したがって、有識者と一般人の意見があまりに乖離してくると、民主主義の課題になってきてしまいます。有識者にありがちなのは、一般人の理解は低いといって、そこで議論をやめてしまうことも数多くいると思います。しかし、一般人の理解の方が有識者より高いと考えるべきです。有識者は仕事を中国に取られようが気にしませんが、一般人は職を実際に中国に奪われれば、気にするのは当然です。ですから、有識者としても一般人の意見は聴くべきだと思います。

工藤:フクシマさんはアメリカにずっといらっしゃるのですが、アメリカ人の日本や日本人に対する見方について、ご自身の考えや見方と一致しているのでしょうか。


理想的な日米関係を作っていくための努力が必要

フクシマ:項目によっても違うのですが、全体からいうと今のアメリカの日本観というのは非常に好意的だと思います。最近の安倍総理の訪米を見ても、有識者レベルでも、マスレベルでも歓迎されていました。先ほど、ストークスさんも触れましたが、1980年代の日米貿易摩擦の時と比べて、日本に対して経済面でも摩擦はありませんし、日本経済が驚異的な存在だという感覚もありません。むしろ今は、お寿司やいい性能の車を提供しているとか、日本のいい面がかなり強調されていると思います。

 もう1つは、中国の安全保障上、あるいは経済的な問題、サイバー問題、環境問題など、20年前、30年前に比べて中国との関係が問題視されています。そうしたことから、アジアの中で日本が最も信頼できる同盟国だという認識が高まっているのだと思います。

 全体的に見れば、世論調査の結果は、私の今のアメリカの日本観を反映していると思います。ただ、ストークスさんも言われたように、世論調査というのはその時々の状況によって相当結果が変わる可能性があります。例えば、何かの事件があって、日本の政治家が、アメリカに対する批判的な発言をして新聞の一面に出ると、世論は一変してしまいます。特に、ストークスさんが言われたように、一般的なアメリカ人は、日本に対する知識や経験がなく、かなり浅い理解ので、かなり表層的というか、しっかりとした地盤の上に立った意見ではありません。ですから、2、3の事件によってガラッと変わる可能性もあるために、安定的に5年先、10年先でもこうした見方が続くという保証はないと思います。日本に対して好意的だということはいいことなのですが、これを見て安心してはいけないのであって、日米の関係を理想的にするためには、お互いに努力しないといけない、というのが私の印象です。

ストークス:日本の製品、投資というのは、20、30年前に比べてアメリカの経済に深く根付いています。個人的な話になりますが、1980年代、私と妻は意識的に日本の車を使わず、アメリカの経済を支援するためにアメリカ車を運転していました。しかし、今日は日本の車を運転しています。こうした行為に、アメリカ人は罪悪感を感じません。アメリカ人はHONDAがアメリカの企業だと思っている、という話を聞いたことがあります。詳しいデータはありませんが、今、何万人ものアメリカ人が日系企業で働いています。アメリカの労働者と日本の経営陣の衝突の時期は過ぎ去りました。日本の企業で働かずとも、友人が働いていたり、日本の車はアメリカで製造されているという記事を読んだりして、日本に肯定的なイメージをもつようになっています。

 先程、世論というのは脆弱であるという話がありましたが、ブラックスワンというものがあるように、ちょっとしたことですぐ変化することもあります。東日本大震災時の津波は悲劇でしだが、アメリカ人が心を揺り動かされ、ある意味でポジティブな衝撃を与えました。アメリカ人が助けに来てくれたというプラスの印象が日本側にもあるわけです。これはいい意味で一つの物事が見方を変えるという例です。しかし、マイナスの出来事が相手国へのイメージをマイナスに変えることもあるわけです。1つの関係性が永続するわけではありません。外交官や政治家、そして一般人も果たすべき役割があると思っています。

工藤:藤崎さんにも一言お伺いしたいと思います。こうした好意的な見方というのは、ある意味で、日本のパブリックディプロマシーが非常に効果を出しているということだと思いますが、アメリカ人の認識は、今回の調査結果を同じようなものなのでしょうか。


震災時の秩序だった日本人の対応が、世界にプラスの影響を与えた

藤崎:世論調査というのは、ある程度の期間、長期的に見る必要があり、それは縦の関係です。もう1つは他の国との比較、アメリカ人が韓国やインド、イギリス、オーストラリアをどう見ているのか、という横の関係も加えた比較が必要です。

 私は、日本とアメリカの関係が政治的にぎくしゃくしたと思われた2009年から2011年頃、沖縄問題などがあった時でも、実はアメリカ人の8割が日本を信用していると言っていました。また、日本のアメリカへの信頼感も大体8割ぐらいで、ずっと同じぐらいの数字が続いていました。先ほどストークスさんがおっしゃったように、一般大衆、特にアメリカ人は、それほど政治的なことをフォローしていません。アニメや寿司など、文化の力が長年蓄積された結果は、相当強くなっているのではないかと思います。その意味では、1つの事件で変わることがあるかもしれませんが、かなり根っこも強くなっているという認識はあります。

 それから、ピューリサーチが行った調査結果を見て、アメリカの地域によってどの程度の差があるのか、西の方はアジアに近いのでこういう意識があるとか、東の方、あるいは南部や中西部はそれほどの関心がないとか、そういう点も今後、分析すると面白いのではないかと思いました。

 それから、先程の東日本大震災での津波の被害については、日本において最も不幸な出来事ではありました。しかし、日米関係上はプラスの要素がありました。震災時、世界中の多くの国々が助けてくれましたが、そのトップにあったのはアメリカで、アメリカ人からの寄付が一番多くあったなど、日本にとってはアメリカが横にいる、ということは物凄い安心感を与えました。他方、他の地震があった国と比べても、日本人の秩序だった対応が、際立っていたことで、「きちんとした人だ」というイメージが、アメリカを含めて、世界中に知れ渡った。そういう意味で、震災は非常に不幸な出来事で、それがよかったといっているわけではありませんが、日本のイメージを、ある意味で高めるのに役立ったのもまた事実だと思います。


世論調査において重要なのは、設問と調査方法

ブルース:非常に興味深いことが2点あります。1つは、消費者の意見というのはある意味で移り変わりやすいもので、例えば、昨日聞いたことも明後日聞けば違う答えが返ってくることもあります。なので、長期的なトレンドを見る必要があるのはご指摘の通りです。我々は10年以上調査を行っているので、傾向を捉えられるのも1つの特徴です。

 それから、世論というのは完璧なものではありません。ほかの世論調査の結果を見てしゃべる人がいるし、設問の仕方でもバイアスをかけることは可能です。例えば、パールハーバーを攻撃した日本をどう思うかという質問なら答えは明らかです。だから設問が重要だと思います。また調査方法も重要です。オンラインの調査ならば高齢者や貧しい人は含まれなくなってしまいます。オンラインか電話か、郵送か対面かなどの調査方法が考えられます。2012年の世論調査では、ロムニー氏が大統領選に勝つという結果が出ました。その時は携帯電話での調査でしたが、当時は、40%の人しか携帯電話をもっていなかった時期でした。そして、貧しい人たちはオバマ大統領に投票したわけです。

 また、アメリカ人は一般的に日本人を信用している。しかし、中西部であるとか西部に分けると、ほかの地域に比べて南東部がもっとも信頼性が低いわけですね。南東部で最も日本企業は雇用を創出していますが、信頼性が低いという結果が出ているわけです。でもどちらかというと南東部の人は内向的ということもあるので、そういった意味では市民レベルの外交というのが非常に重要だということが分かるのではないでしょうか。

工藤:ありがとうございました。ここでひとまず休憩を挟んで、次のセッションに移りたいと思います。

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