中国の経済成長を支えるための、様々なエンジン
経済対話の後半部分は、張氏の基調報告から始まり、中国の経済成長を6.5%~7.0%で維持するためのエンジンとして、量から質へと転換するイノベーションドライブ、一帯一路(海と陸のシルクロード構想)といった国際化ドライブ、法整備やルールの順守といった改革ドライブ、環境保護といった生態ドライブ、社会保障等の公平な分配を確立する民生ドライブがあげられました。また、中国と対外経済との関わりとして、輸出が減少しているのは世界的な傾向であり、経済の成熟化に伴い貿易ドライブは徐々に減少していくことや、直接投資の対象が製造業からサービス業へと転換していること、といった特徴があるとの指摘がありました。
日中双方の経済の持続可能性を高めるための日中協力の必要性
次に日本側の基調報告者である槍田氏は、日中双方の経済の持続可能性を高めるために、日中協力の必要性を強調し、具体的には、環境や新エネルギー、病院・介護施設等の社会福祉サービスといった新しいセクターでの協力の必要性を提起しました。また、同氏からは、この10月にTPPが概ね合意に至った一方で、日中韓FTAやRCEP(東アジア地域包括的経済連携)に関しては進展があまり見られない中、TPPへの中国の参加の可能性について質問が出されました。
基調報告をもとに、中国側より生態ドライブに関して、環境保護投資の重要性について指摘がありました。特に、生態ドライブの効果を発揮するために資金的なサポートが必要との前提のもと、自社の環境産業ファンドの立ち上げについて触れるとともに、政府に対し、環境保護関連企業の信用評価制度や融資制度の整備を推進してほしいとの要望があげられました。
次に、日本側からは、車谷氏より介護といった社会保障サービスの提供が成長のテーマとして注目されており、日本の銀行も融資等を通じてサポートすることが可能との指摘がありました。また、両国経済のWin-Win関係を構築するために、今後自動車産業を上回る規模になると予想されているロボット産業について、協力する余地があるのではないかと提言がありました。
日中両国は、RCEP合意前にFTAを結ぶ必要性がある
張氏より、日本経済に関して、アベノミクスはデフレから脱却しているものの、成長の牽引役を見いだせていない中で、国内市場のみに注目するのではなく、アジア地域の市場の一体化に日本がさらに積極的になるべき、との意見が出されました。特に、日本の中国向けの輸出額が韓国の中国向けの輸出額よりも少ない状況の中で、中韓FTA合意が日中FTA合意へのよきプレッシャーになることを期待しており、アジアの二大大国である日中がRCEPよりも前にFTAを結ぶ必要性があると強調しました。
これに対し、中曽氏より日本から中国への輸出が減少している背景として、中国経済のサービス産業化が進展している中で、日本の貿易構造がサービス業向けではなく、資本財の輸出に比較優位を有していることも影響しているとの見解が示されました。
日本は自国の財政政策、人民元のSDR構成入りをどう考えているか
王氏からは、日本の公的債務残高が対GDP比で240%程度あると聞いているがどのように考えているか、日本は中国人民元のSDR(IMFの特別引出権)構成通貨入りに賛成するか、という諸点について日本側の意見を聞きたいとの話がありました。
王氏の質問に対して、山崎氏はSDRに関しては順番やスピードは十分に考慮する必要はあるものの、中国当局の資本規制の自由化の推進のプロセスを見ていきたいとの回答がありました。合わせて、人民元の利便性を高める必要性に関しても提起し、人民元クリアリングバンクやRQFII(中国域外で保有されている人民元を中国の金融・証券市場に投資する域外の機関投資家)等に関して政府関係者内で議論が行われていることも付け加えました。公的債務に関してはアベノミクスの第二の矢として短期的には財政政策を活用するものの、中長期的には財政健全化計画に基づいて、2020年のプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化に向けて努力することを強調しました。
このほかにも、日本側からの中国のTPPへの参加可能性に関する質問がなされ、中国側からはTPPの関税率の低さや知的財産権の保護規定は、新興国にとってハードルが高いことから、加入後の影響等も鑑み慎重に検討していくとの回答がありました。また、フロアとパネリストとの質疑応答では、中国の一人っ子政策の変更可能性や地方経済の発展段階の違いに関しても議論がなされました。
日中両国の経済協力の方向感が示されたが、
この方向感をより具体的にどのように実施していくかが今後の課題
後半部分の総括として、魏氏より日中経済の問題の所在が明確に示されたことや率直な意見交換がなされたことに満足するとともに、今後は、①両国政府に対する提案を出すようにすること、②日中間で国民や企業の持つ疑問点わだかまりを解くこと、③企業のために、どこにビジネスの連携や協力の可能性があるのかを示すことが課題であることが示されました。
続いて、山口氏より後半部分はミクロ経済に着目し、ビジネスに結実するように議論を取りまとめたいと考えていた中で、環境や医療介護、ロボットなどの日中両国の経済協力の方向感が示されたことを評価したいとの見解が示されました。一方で、昨年も同様の議論はあったことから、今後はより具体的にどのように実施していくかについて、フォーラムに参加している日中の企業関係者が考えるとともに、政府のサポートが必要であるとの認識を示し、経済分科会の討論を締めくくりました。