日韓両国の国民感情が改善に向かい始めた背景に何があるのか ~「第4回日韓共同世論調査結果」から読み解く~

2016年7月18日

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言論NPO代表 工藤泰志

 今年の日韓の共同世論調査は日韓で今年の6月中旬から7月初めにかけて行われた。調査は2013年から毎年行っており、今回は4回目の調査となる。今回の調査結果の最大の特徴は、これまで悪化していた両国民間の相手国に対する国民感情に歯止めがかかり、改善に向かい始めたということである。こうした改善傾向はほとんどの設問でも見られるが、台頭する中国に対する見方や安全保障に対して、両国民に異なる見方があり、今後の日韓関係がどのように発展するのか、多くの国民が確信を持てないでいることも調査では浮き彫りになっている。一体、日韓の世論の状況にこの一年間でどんな変化が始まっているのか、簡単に説明したい。


この数年の行き過ぎた国民感情の悪化が改善に向かっている

 まず、調査結果で言えるのは、両国民ともにこの数年の行き過ぎた悪感情の改善が始まっているということである。これは、相手国に対する「印象」や現状の「日韓関係」の評価に対する国民の意識に典型的に見られる。まず、今回の調査では、日本人で韓国に「良くない」という印象を持っている人は、「どちらかといえば良くない」を含めると44.6%だが、昨年の52.4%と比べると7.8ポイントも改善している。韓国人で日本に「良くない印象」を持っているのは、同じく「どちらかといえば良くない」、を加えて61%と6割を越えているが、昨年の72.5%からは11ポイント以上の大幅な改善となっている。

 また、日本人で現状の日韓関係を「悪い」と見ているのは、「非常に悪い」「どちらかといえば悪い」を合わせて50.9%で昨年の65.4%からは15ポイント近くも改善している。韓国人も同様であり、現在の日韓関係を「悪い」と見ているのは、62.3%で依然、6割と高水準だが、昨年の78.3%と比べると16ポイントも改善になっている。

 さらに、この中から、「非常に悪い」だけを抜き出すと、日本人は6.8%(昨年は13.9%)、韓国人で13.3%(同34.3%)とそれぞれ昨年から大きく減少し、今年は一割程度しかない。

 この関係を過去4回の調査結果で比較すると、日本人は、韓国に対する印象も日韓関係に対する意識も2年前の2014年をピークにその後、改善に向かっているが、韓国では2015年の調査が最も日韓関係に対する意識が悪く、今年の調査で改善に大きく向かい始めたことが分かる。

 こうした改善に向けた変化は、今回の調査のほとんどの設問にも見られている。

 象徴的なのは、歴史認識に対する設問で、両国民間で「両国関係が発展するにつれ、歴史認識問題は徐々に解決する」という楽観的な見方がそれぞれ10ポイント以上増加していることだ。韓国では「歴史認識問題が解決しなければ両国関係は発展しない」という歴史認識の解決を前提とする見方が根強く、今回の調査でも最も多いが、今年は昨年よりも10ポイント減少し、逆に「両国関係に発展につれて、歴史認識問題も徐々に解決する」がこの4年間の調査で初めて3割を超えた。


なぜ、日韓両国で国民感情の改善が始まったのか

 ここで私たちがより深く観察すべきなのは、こうした国民感情の改善はなぜ起こったのかであり、もう一つは、こうした改善は本物なのかということである。この点を考えるためには、両国の世論の基本的な構造を理解することが必要である。

 これまでの4回の世論調査から浮かびあがった両国の世論の構造は、両国民共にお互いの直接交流が乏しく、相手国に対する認識は自国のメディア報道、とりわけテレビ報道に大きく依存しているということである。これは言論NPOがこの10年間、同時に行ってきた中国の世論調査でも見られる構造である。

 ここで明らかになるのは、渡航経験がある、あるいは相手国に知人がいる人、つまり直接交流のチャネルを持っている人の相手国に対する認識は、そうでない人よりもプラスの傾向を強く持っていることである。今年の調査でもこうした傾向が顕著に確認され、相手国に訪問経験がある人や親しい知人がいる人は、そうでない人に比べて相手国に良い印象を強く持ち、両国関係に対する評価も高くなっている。

 こうした世論構造を考慮すれば、国民感情の変化は、基本的には直接交流の度合いと両国のメディア報道の動向やその評価に依存することになるはずである。

 それではまずこの一年間で両国間にニュースになるべきどのような動きがあったのか。日韓国交正常化の50周年の年になった2015年は、6回の外相会談が行われ、日本の安倍政権になって初めての首脳会談も11月のソウルでの日中韓サミットの場で行われている。こうした政府間の関係改善に向けた動きは、昨年の私たちの世論調査の実施(5月)以降の年後半に集中しており、年末には慰安婦問題での政府合意も成され、また2015年度で見ると12月以降は3回の首脳間の電話会談が行われている。

 つまり、国民感情が悪化した2015年夏までのようなバッドニュースが両国間になく、政府首脳間の関係改善を巡る行動が多くのメディアで伝えられた。それが、そのまま両国関係に現状に関する意識の改善に繋がっている。今回の世論調査では、「良くない印象」の理由で両国民ともに、「政治指導者の言動に好感を持てない」が、両国民共に10ポイント近く減少したのは、こうした政府首脳の改善に向けた行動が反映している。

 また、2015年には訪日する韓国人が前年から125万人増加している。日本人の訪韓者は2012年から減少が続いているが、こうした渡航者の動きも世論の動向を改善している。これは世論調査にも反映されており、韓国だけは日本への渡航経験がある人は29.4%と昨年の26%から増加し、設問間のクロス調査では各項目の印象の改善を押し上げている。


政府間関係は動き出したが、国民はまだその改善に確信を持てていない

 今回の世論調査の大部分の設問で見られる国民の意識の改善の背景には、こうした政府間の関係改善に向かう行動や国民間の直接交流の動きがある。

 こうした変化は、これからの日韓関係を期待する傾向にも一部繋がっているが、この結果は行き過ぎたこれまでの国民感情の悪化の修正だと私たちは判断している。大部分の設問結果が、お互いの相互理解や印象を大きく好転させるまでには至っていないからだ。

 現状の日韓関係の評価に対しては、両国民意識に改善は見られたが、今後の日韓関係の見通しに関しては、これ以上悪化すると考える日本人や韓国人は減少しているが、「良くなっていく」とみるのは両国民共に2割程度である。最も多いのは「変わらない」と見ている人が、日本人で49%(昨年は41.4%)、韓国人は52.1%(昨年は45.9%)で、昨年よりもそれぞれ増加している。これらは多くの国民が、両国関係の改善に十分に確信を持てていないことを明らかにしている。

 また、政府間のこの一年間の行動に対しても国民間の評価が分かれており、印象や評価を大きく変えているわけではない。

 例えば、昨年12月の日韓の慰安婦合意に関しても、日本では「評価する」(「非常に」と「一定程度」の合計)は47.9%と半数近くあり、「評価しない」(「あまり」と「全く」の合計)の20.9%を大きく上回っているが、韓国では「評価しない」が37.6%で、「評価する」の28.1%を上回り、日本とは逆の結果となっている。

 また、日本人の韓国の朴槿恵大統領に対する印象は昨年最も多かった「悪い印象」(「大変」と「どちらかといえば」の合計)が今年は36.6%と昨年の48.3%から大きく改善されたが、「良い」(「大変」と「どちらかといえば」の合計)は6.7%(昨年5.2%)で1割にも至っていない。これに対して、韓国人の安倍首相に対する評価では、「大変悪い」は若干減少したが、「どちらかといえば悪い」を合わせると依然、79.4%(昨年は80.5%)と8割近くが「悪い」印象である。

 ここでもう一つ日本側が注目したのは、韓国国民のメディア報道に関する意識である。

 メディア報道に対するこれまで4年間のクロス分析では、相手国の情報源としてテレビを揚げる韓国人の間に、日本に対するマイナスイメージが強いが、今年の調査ではその割合が減少している。

 自国の既存のメディアが、客観的で公平な報道をしていないと見る人は、日本人は昨年と比べて大きな変化はない(今年は27%、昨年は28.2%)が、韓国では58.9%と、昨年の51.7%を大きく上回っている。自国のメディア報道に対する見方の変化も、悪化する国民感情の調整に寄与していると思われる。


台頭する中国を巡る韓国国民と日本国民に見られる温度差

 今回の世論調査で日本側が次に注目しているのは、台頭する中国に対する認識や、安全保障に関する考え方で、両国民の間の考えの違いや温度差があるということである。

 日本と韓国は、自由と民主主義を共通の価値観に持ち、米国とお互いが同盟関係を持つ同じ側に立つ関係だと日本の多くの国民は考えている。ところが、韓国の国民の間には依然、中国との関係をより重視する傾向がある。今後の日韓関係を考える場合、こうした傾向をどう考えていくのかは大きな論点となる。ただ、韓国ではこうした中国重視の見方が今年は、これまでの調査よりもやや後退していることには留意する必要がある。

 日韓関係が「重要」だと考える日本人と韓国人は、今回の世論調査でも依然高い水準にある。日本では、韓国を「重要」だと考える国民は、「どちらかといえば重要」も含めると今年も62.7%(昨年は65.3%)と6割を超え、韓国では日本を「重要」だと考える見方は、同じく86.9%(同87.4%)と、昨年同様8割を超えている。

 お互いを「重要」だと考える、こうした両国民間の見方は、今後の日韓関係の土台となるべきものであるが、この重要性の意識には温度差があることも理解する必要がある。

 この重要性の設問では昨年同様に対中関係との比較を加えている。今年も日本人、韓国人ともに対日、あるいは対韓と、対中関係「どちらも同程度に重要」が最も多い(日本人45.6%、韓国人56.8%)が、韓国では「対中関係がより重要」が35.1%と、日本の「対中関係がより重要」の21.2%を上回っている。ただし、「対中関係がより重要」とする韓国人は昨年の44.8%から9ポイント減少している。

 また、親近感では日本人は「韓国により親近感を覚える」が38.2%と最も多いが、韓国人は「中国により親近感を覚えるが」が34.2%で最も多い。「日本により親近感を覚える」は12.8%にすぎない。

 さらに今回の調査では世界の中でどの国との関係が最も重要かも聞いている。選ぶのは一か国のみで、日本人はアメリカが65.9%で最も多いが、韓国人で最も多いのは、同盟関係にあるアメリカ(39.8%)ではなく、中国の47.1%だった。

 こうした中国重視の韓国の国民意識は、最大の貿易国ですでに貿易量の25%を占める対中国との交流関係に大きく依存しているように思われる。韓国人は経済的に重要な国でも貿易構造の序列のままに、中国が81.1%と最も多く、アメリカの68.3%、日本の36.9%の順であり、日本では、韓国は、アメリカ、中国、ASEANに次ぎ、EUと並んで4番手である。

 また、アメリカの不参加要請にもかかわらず中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加を決めた韓国政府の判断を韓国の国民は64.8%が支持している。

 中国に対するこうした意識は、安全保障面でも日本国民とは異なった意識構造を見せている。例えば、自国に存在する米軍基地の役割に関して、自国の防衛(日本人は51.9%、韓国人は50.8%)以外に、日本人は、東アジア全体の平和維持(35.5%)、中国に対する対抗(29.3%)が多いが、韓国では「朝鮮半島安定への貢献」が64.5%で最も多く、「中国への対抗」は16.9%である。


北東アジアの安全保障で見られる日韓両国の国民意識の差

 安全保障に関する設問でもこれまでの調査よりは落ち着いたが、それでも日本人と韓国人の間に意識の差が存在する。

 例えば、軍事的な脅威を感じる国は、日本人と韓国人共に8割が「北朝鮮」と感じているが、日本では「中国」に脅威を感じる人も72.8%と昨年の64.3%を大きく上回っている。

 これに対して、韓国人が2番目に脅威を感じる国は、昨年調査よりは20ポイントも大幅に減少したものの、依然「日本」が37.7%で続いている。日本人で「韓国」に脅威を感じている人は16.9%しかない。韓国人にその理由を聞いてみると、「日本が独島の領有権を主張しているから」が60.1%で最も多い。

 また、日韓間の軍事紛争の可能性だが、日本人は「数年以内」と「将来的に」起こると見ている人は、わずかに8.1%(昨年は9.3%)に過ぎないが、韓国人は今年の調査でも37.7%(同37.8%)と4割近く存在する。

 ただ、領土問題の解決では、日本人は「国際司法裁判所に提訴して判断を仰ぐ」が31.4%で最も多く、「2か国間の対話で平和的な解決を目指す」が21.5%で続いているが、韓国人は「2か国間の対話で平和的な解決を目指す」が39.6%で最も多く、「国際司法裁判所に提訴して判断を仰ぐ」は、昨年から6ポイント減少し、19%である。この他、「実効支配を強め、他国の介入を阻止する」が16%存在する。

 さらに、米国の大統領選挙で話題となった核武装への賛否では、日本人は日本と韓国の核武装をそれぞれ8割が反対しているが、韓国人は日本の核武装は82.2%が反対しているが、韓国の核武装は59%が賛成している。


共通の土壌の上にどのような日韓関係を構築していくのか

 こうした日韓の国民の意識の違いは、今後の両国関係を考える上でも乗り越えるべき大きな障害となる可能性はあるが、こうした違いを認めつつも、両国関係を今後、発展させるための手がかりは、この調査結果にいくつも表れている。

 例えば、両国の国民感情の問題を、「問題であり改善する必要がある」、あるいは「望ましくなく心配している」と感じている人は、日本人で63.1%、韓国人で58.8%と6割程度存在している。

 日本人で韓国を訪問したい人は42.2%(昨年は40.7%)、韓国人で日本を訪問したいと、思っている人は63.8%(同59.2%)と、それぞれ昨年を上回っている。

 また、それぞれに「良い印象」を持っている理由では、日本では「韓国の文化等に興味がある」が51.2%、韓国では「日本人は真面目で親切」が69.8%でそれぞれ最も多いが、日本ではそれに「同じ民主主義の国だから」が25.8%で続き、韓国でも、この「同じ民主主義の国」を理由とする人が17.7%と昨年の8.9%から約9ポイントも増加している。

 また、経済ではお互いの発展がメリットで利益と考える人は日本では52.4%、韓国人は44.6%存在し、それぞれ最も多い。

 両国間には、歴史認識を巡る解決すべき課題も存在するが、それだけではない。今回の調査結果の核心は、両国が同じ発展した資本主義国で民主主義の国という共通の土壌にいること、そして両国民が国民意識の改善という課題を共有しているということを明らかにしたことだ。こうした土壌の上に、どのような両国関係を構築していくかは両国に問われたこれからの課題となる。

 政府間の関係改善の動きの背景には北朝鮮との緊張が続く中で、日米韓の結束強化の動きもある。こうした政府間関係の改善の動きの中で、政府間に期待されることは、合意された従軍慰安婦問題など歴史問題の解決を着実に進めると同時に、北朝鮮の核問題での協力や協力発展を進めることである。これは、今回の設問でも、日中韓サミットで議論すべき議題として、日韓の国民が合意した課題でもある。

 2015年末には、両国政府間で従軍慰安婦問題の合意がなされている。この評価に対しては韓国人の間でも意見が分かれおり、それを評価できない韓国人は37.6%と最も多いが、それでも28.1%と3割近い韓国人が、政府間の合意を評価している。

 しかし、今回の世論調査の結果はそうした政府間の努力だけでは足りないことも示唆している。今回の世論調査では国民感情の改善は見られたが、民主主義や自由主義の共通の基盤を持ちながら2国間の将来に国民間がここまで確信も持てないのは、未来に向けた議論の空白があまりにも大きいからだ。そこに台頭する中国の影響が複雑に絡み合っている。

未来に向かう空白を埋め、半歩進める努力こそ、民間側に問われている

 この空白を埋める努力がなければ、日韓の2国間や北東アジアの未来を描くこともできないだろう。その空白を埋め、それを半歩進める努力こそが、私たち民間側に問われているのである。私たちが、両国の間で未来に向かう、公開された対話が必要だと考えるのはそのためである。

 言論NPOとEAIは9月2日、ソウルで第4回目の日韓未来対話を行う。私たちはこの場で、両国の未来に向けた本格的な議論を公開の形で行う予定である。

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