7月19日、アメリカのヘンリー・ルース財団一行が言論NPO茅場町スタジオを訪問しました。
ヘンリー・ルース財団は、米タイム誌の共同創立者ヘンリー・ルースによって設立された財団で、東アジアにおける教育や相互理解の促進、青年交流に力を入れており、アメリカの次世代リーダーのアジアに関する理解の促進を目的に様々な分野の大学生・院生、若手研究者を日中韓、インドネシア、フィリピン、シンガポールなどの東南アジアに派遣しています。
本年、日本で総括報告会を行うにあたり、マーガレット・フィッツジェラルド理事長、マイケル・ギリガン所長ならびにヘンリー・ルース・スカラー・プログラムのスカラー約30名が言論NPOと意見交換会を行いました。
意見交換会には、言論NPO側から、アドバイザリーボード・メンバーを務める長谷川閑史氏(武田薬品工業取締役会長)及び藤崎一郎氏(上智大学国際関係研究所所長、前駐米大使)、ワールド・アジェンダ・カウンシル委員の杉田弘毅氏(共同通信論説委員長)が参加し、言論NPO理事の田中弥生氏(大学改革支援・学位授与機構教授)が司会を務めました。
前半では、長谷川氏が日本経済の現状とこれからの世界への貢献、藤崎氏が日本の防衛・安全保障政策と対外関係、杉田氏が日本の参議院選挙の結果と日本国憲法改正についてと、奇しくも三人とも日本が直面する変化について発言しました。
長谷川氏は、第二次大戦後、日本が高度経済成長を実現した原因を紹介しました。そして、現在のアベノミクスの内容、目標及び現状に言及した上で、更なる構造改革を通じて、労働力縮小を補う、日本を魅力的な市場にする、生産性を向上させることが日本経済の成長には不可欠であると述べました。
藤崎氏は、昨年の安保法制によって日本の安全保障政策が変容し、歴史修正主義的な安倍政権によって日本と韓国、中国との関係が悪化しているという一部の見解について、2014年にオバマ大統領が日本政府の集団的自衛権の見直し検討を「歓迎し、支持する」と発言したこと、日本が尖閣諸島をめぐり中国による現状変更の動きに対して現状維持のための行動をとっていること、日本と韓国が対北朝鮮で連携を進めていることなどを例に現在の日本の安全保障政策について説明しました。
杉田氏は、参議院選挙の結果、衆参両院で戦後初めて、憲法改正を支持する勢力が憲法改正の発議に必要な3分の2を超える議席を占めたこと、改正に際しては、国会による改正案の発議後、国民投票で半数の賛成を必要とすることを紹介しました。そして、国際及び周辺環境が変化するなか、今後、憲法改正の争点の一つが第二次大戦の反省に基づいた平和主義の象徴である憲法9条となるだろうと指摘しました。
その後、ルース・スカラーから質問を受ける形で人口減少社会におけるAI活用の功罪、パリ合意と地球温暖化対策などについて、意見交換が行われました。
後半は、ルース・スカラーが、それぞれのアジアでの研修や日本での広島、岩手などでの研修の様子を紹介しながら、TPPをめぐる日本の農業とメディア報道の課題、日本のエネルギー政策の将来などについて言論NPO側の参加者に質問する形で活発な議論が行われました。
意見交換会に引き続き昼食会が行われました。冒頭、言論NPO代表の工藤泰志による講演が行われ、言論NPO設立の経緯や掲げているミッションの意義、さらに「東京-北京フォーラム」などこれまでの主な取り組みとその成果について紹介がなされました。講演の最後に工藤は、アジアとの民間対話だけでなく、アメリカとの新しい対話にも関心が向かっていると述べた上で「世界の様々な課題や民主主義の問題について、日本とアメリカが率直に語り合う、そうした厚みのある日米関係が両国の将来にとって重要だと思う」と語りかけると、居並ぶ参加者は熱心に聞き入っていました。
その後、ルース・スカラーからは日本における竹島問題の位置付けや、中国での活動の難しさ、さらには資金調達の方法から日本の厳しい受験競争に関する問題に至るまで多岐に渡る質問が寄せられるなど、活発な質疑応答が行われました。そして、和やかなムードの中、昼食会は終了しました。
続けて、ヘンリー・ルース財団関係者及びルース・スカラーは、工藤の案内のもと外務省にて岸田文雄外務大臣を表敬訪問しました。
冒頭で、岸田大臣は、日米同盟が東アジアの平和と安定に大きく寄与してきたこと、またその日米同盟を支える人的交流を今後も推進していくことの重要性について言及し、一行の訪問を歓迎しました。その後ルース・スカラー4名が、新しい大統領の下での日米二国間関係について、また日中、日韓関係について岸田大臣に質問を行い、意見交換の後、表敬訪問が終了しました。